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【連載】

小形克宏の「文字の海、ビットの舟」
――文字コードが私たちに問いかけるもの  

速報2
これが次期JIS漢字コードの改正ポイントだ!
一目でわかる対応表を公開[訂正2]

       
Illustation:青木光恵

●まず、データにもとづいた論争を

 今回は、今年度末の改正にむけて動き出したJIS漢字コードが、どのように変わるのかを、表外漢字字体表の1,022文字について1文字ずつ検討したリストを公開する。

 前回おつたえしたように、JIS漢字コード見直しのための今年度JCS委員会の作業目標は、きわめてシンプルだ。つまり表外漢字字体表の1,022文字に、JIS漢字コードの例示字体をどの程度まであわせるかということのみ。
 とすれば、私がよほど大きな勘違いをしていない限り、6月12日に開催されるJCS委員会でもこのリストと同じような資料は配布され、それによって討議はすすめられるはずだ。つまりこの表を検討することで、わたしたちはJCS委員会とまったく同じ課題を共有することが可能になる。

 リストのダウンロードは下記URLから[改定]

■表外漢字字体表とJIS文字コードの対応表(Excel版)[訂正3]
http://internet.watch.impress.co.jp/www/column/ogata/news2/taiohyo7.xls

■表外漢字字体表とJIS文字コードの対応表(CSV版ファイル)[追加1][訂正3]
http://internet.watch.impress.co.jp/www/column/ogata/news2/taiohyo7.csv

■表外漢字字体表とJIS文字コードの対応表(PDF版)[訂正1][訂正3]
http://internet.watch.impress.co.jp/www/column/ogata/news2/taiohyo7.pdf

■表外漢字字体表とJIS文字コードの対応表(L欄を規準にソートした結果、PDF版)
http://internet.watch.impress.co.jp/www/column/ogata/news2/sortl.pdf

■表外漢字字体表とJIS文字コードの対応表 凡例[追加2]
http://internet.watch.impress.co.jp/www/column/ogata/news2/hanrei6.htm(HTMLファイル)
http://internet.watch.impress.co.jp/www/column/ogata/news2/hanrei6.txt(テキストファイル)

 それにしても、と私は思う。どうして文字をめぐる論争は、こんなにも感情的になってしまうのだろう? 私が今思い出しているのは、1997年から翌々年にかけ、日本文藝家協会の人々を中心として展開された反Unicodeキャンペーンのことなのだが、これに対する私の感想は、ここで書かない。それというのも、私自身が熱くなってしまい、あっという間に長文になってしまうからだ(実は、今50行ほどを一気に書き、ハッと我に返ったところだ)。

 もしかしたら、それは漢字の数が多すぎて、正確で客観的なデータを把握できないからなのではないだろうか。
 JIS X 0208は全部で6,879もの多くの文字を収録する。JIS X 0213ではこれに4,344文字を追加して合計11,223文字。日中韓、およびベトナムの漢字を収録したISO/IEC 10646にいたっては、Extension-A領域の追加で全27,484文字もの数にのぼる。
 ごく普通の漢和辞典ですら収録親字数は10,000字弱でしかない。となればこれらの文字コードを、1字ずつ見て全体を把握しようとするのは、素人にはまず無理な話となる。実はこれこそが、そこにつけこみ不実なプロパガンダを繰り広げる者がでてしまう余地なのではないか。

 声の大きい者がごく上っ面だけの安易な検討の結果、「漢字を救え!」などと訴えると、文字コード全体の把握が困難だから、はたして本当のことなのか問い直せずに信じこんでてしまう。いや、信じざるを得ない。結果として民族感情に火がつき、感情的な論議の応酬がつづく。
 数年前のあのキャンペーンの異常な過熱と唐突な収束は、文字(とくに漢字)を語るときは、いつも具体的に、範囲を限って話されなければならないことを物語っている。私が今回このような資料を作成し、公開しようと考えたのも、そのような反省のうえに立っている。

 実をいうと、今回の表外漢字字体表にある1,022文字という文字数は、素人でも扱える数の上限ではないだろうか。経験的にいって6,879文字をすべて見ていこうとすれば丸一日をつぶす覚悟が必要だが、1,022文字なら2時間くらい集中すれば可能だ。さすがに誰でもとは言わないが、やる気のある人間には道が開かれている、そんな手頃(?)な文字数なのだ。

 さて、今回の漢字コードの見直しは、いささかタイミングを逃した感もなくはないが、それでも文字コードの混乱をおさめるための第一歩として前向きに考えたいと思う。その意味でも、今回の見直しはなるべくひろい立場の人々が知恵を出し合う必要がある。長年のJIS功労者にリーダーをゆずってもらってまで文化庁と連携をとろうというJCS委員会の人事も、そのような思いが込められているはずだ。

 今秋には、JCS委員会のまとめた案について公開レビューも予定されている。私たちの発言の場も用意されているのだ。広くさまざまな立場から今回の見直しについて考えよう。そのためにも、今なにが問題となっているのか、今回公開するリストを見ながら考えていただきたい。

●このリストでわかること

 「平成明朝」というフォントがある。MacOSには標準でインストールされ、Windowsでもいくつかの有力なアプリケーションに添付されている、わりあいにポピュラーなフォントだ。一般にも市販されている。
 実はこのフォント、もともとはJIS X 0208の第3次規格、つまり1990年の改正にあたって作られたもの。フォント会社はその権利を買って販売しているのだ。
 その結果、このフォントがインストールされていさえすれば、JIS文字コード規格票の例示字体とまったく同じものを、自分のパソコンの画面に表示させることが可能となる。そして表外漢字字体表でも、基本的にはこの平成明朝がつかわれている。今回のリストは、ここに注目して作成された。

 もしもあなたのマシンに平成明朝がインストールされ、なおかつExcelが使えるならば、あなたは表外漢字字体表の1,022文字を、意のままに操作・抽出できるだろう。
 たとえば表外漢字字体表は、ほとんどといってよいくらいの数の字体が、実はJIS X 0208の字体と寸分違わず同一であることがわかる。具体的にいえば823文字、じつに全体の80.5パーセントにものぼる。
 では、変更しなければいけない文字はいくつあるのだろう。もちろんこれは方針によって数は異なる(それこそがJCS委員会の課題だ)。しかし、まず問答無用で大きな差があり、変更されるだろう文字は70文字しかない。ではどんな文字が? それは皆さんの目でたしかめて欲しい。
 JIS X 0213の方に収録されている印刷標準字体は何文字? JIS X 0208の最初の版、いわゆる78JIS字体を印刷標準字体にした文字は何文字? 78JIS字体なのに簡易慣用字体になった文字は? すべてワンクリックで表示可能だ。

 もしも平成明朝がなくてもがっかりしないで欲しい。フォントを埋め込んだPDFファイルを用意した。無償のAcrobat Readerをつかえば平成明朝が再現できる。ただし、もちろんデータベース的な操作はできない。しかし目で見て確認することは可能だ。

 もっとも、平成明朝がなく、たとえばMS明朝でExcelのファイルを開いても、そんなに大きく結果が変わることはないと思われる。1文字ずつ検鏡したわけではないから保証はできないが、おそらく筆押さえの有無、部分字形“牙”など細かなデザインの違いしか変わらないのではないか。厳密な検討ではなく、おおまかに知りたいだけなら、平成明朝がなくてもExcelファイルをダウンロードする価値はあるだろう。ただし、必ず明朝体で表示させてほしい。ゴシック体では比較はむずかしい。

 さらに、あなたがMacintosh版の「Illustrator ver.5.5」以降か、DTPソフト「InDesign」を持っているなら、“字体切り換え”という機能を使ってさまざまな字体を表示させることが可能になる。これによって、数文字をのぞく、ほとんどの表外漢字字体表の字体を確認できるだろう。ただし、表外漢字字体表ではオリジナルの平成明朝から筆押さえをすべて取り払っている。こうした微細なデザイン差までは、再現はできない。こういった細かい違いも、リストにすべて明記した。

 いずれにしても、根本資料は表外漢字字体表だ。このリストだけで何かを判断しないで欲しい。表外漢字字体表はウェブ上でも公開されているが(http://www.sta.go.jp/b_menu/houdou/12/12/001218.htm#top)、非常に再現がわるいので、できれば冊子版を入手されることをすすめたい。

 最後に重要な点。この表は去年、表外漢字字体表がパブリックコメントを募集した際、友人である直井靖さんが作成したものが元になっている。これに私が各種の改良をくわえ、Excelのファイルに仕立てた。直井さんに感謝したい。

 もう一つ、公開にあたってなるべくチェックはしたつもりだが(間違いを指摘してくださった友人の皆さん、ありがとうございます)、もしかしたらまだ間違いが潜んでいるかもしれない。見つけた方は、ぜひ編集部までご連絡いただきたい。皆さんの指摘をうけながら、このリストを完全なものにしていきたいと考えている。

 今回公開したデータを踏まえながら、では表外漢字字体表にはどんな問題点があるのか、それにはどのような背景があるのか、そういったことについては次週から4回程度のシリーズを掲載する予定だ。現在のところ次週から開始しようと考えているが、例によってちょっとずれるかもしれない。そんな場合でも、できれば温かい目で見てください。

 今回は文章が短かったので、おまけとして表外漢字字体表を理解するための参考文献、URLのリストも公開しよう。では、皆さんごきげんよう。

■参考文献一覧

(“◎”はウェブページ、“○”は新聞・書籍、“※”は筆者のコメント)

◆国語審議会関連

○国語審議会報告書 19(1993年9月30日 文化庁)
○国語審議会報告書 20(1996年4月22日 文化庁)
○国語審議会報告書 21(1998年11月20日 文化庁)
※これらの報告書は、国語審議会の活動を知るうえで不可欠な根本資料。21巻には表外漢字字体表の最初の案である『試案』が掲載されている。

○表外漢字字体表(2000年12月8日)
※冊子版。参考として『庁文国第44号』、そして第20~22期の委員名簿が掲載されている。

◎表外漢字字体表試案
http://www.bunka.go.jp/7/5/VII-5-C.html
※第21期国語審議会が作成した最初の試案。1.2MBの巨大なJPEGファイルを貼り付けるというめずらしい構成。

◎表外漢字字体表(案)(第2委員会試案)
http://www.monbu.go.jp/pcomment/00000104/kokugo.htm
※表外漢字字体表の最終案。これについてパブリックコメントを募集し、それを反映させて最終決定された。それにしても機種依存文字はなんとかならないのか。

◎表外漢字字体表
http://www.sta.go.jp/b_menu/houdou/12/12/001218.htm#top
※最終案をへて出された最終答申。字体の表現は画像を使用。ただし冊子版からスキャニングした画像は、お世辞にも綺麗とは言えない。字体を検討したいなら冊子版を入手すべき。それにしても機種依存文字はなんとかならないのか。

◎審議会情報
http://www.monbu.go.jp/singi/kokugo/
※現時点でまだ報告書が刊行されていない第22期国語審議会の議事要旨を公開している。第21期の審議経過も読める。

◆案段階での各方面の意見書

◎「表外漢字字体表」の情報交換上の意義(豊島正之)
http://jcs.aa.tufs.ac.jp/mtoyo/on-JCS/98bun-ma.pdf
※1998年9月の国語施策懇談会でパネラーとして出席した際の講演草稿。試案から答申への検討作業にも大きな影響を与えたと思われる。文字表一般の評価方法を考える時、教科書的な読まれ方をされてよい文書ではないか。

◎要望書(社団法人日本文藝家協会)
http://www.bungeika.or.jp/statements/19971013.html
※まだ試案も出ていない1997年10月13日に出されたもの。私はある官僚がこの文書を“江藤先生の遺言”と表現するのを聞いたことがある。霞ヶ関方面には大きな影響を与えたのだろう。

◎「表外漢字字体表試案」に関する意見書(社団法人日本新聞協会)
http://www.pressnet.or.jp/info/iken19990610.htm
※常用漢字にもとづく字体を採用するよう要望している。

◎第22期国語審議会第2委員会試案「表外漢字字体表(案)」に対する意見書(社団法人日本書籍出版協会)
http://www.jbpa.or.jp/kokugo.htm
※新聞協会とは反対に、簡易慣用字体は最終的に印刷標準字体へ収斂させていくための“経過措置”であることを明記するよう要望している。

◎国語審議会への意見書(社団法人日本文藝家協会)
http://www.bungeika.or.jp/statements/20001110.html
※最終答申には「過度な表外漢字使用は避けよ」というような文言は盛り込まないよう主張している。

◎拝啓 国語審議会の皆さん(小形克宏)
http://internet.watch.impress.co.jp/www/column/ogata/letter.pdf
※筆者がパブリックコメントに提出した文書を、見やすく修整したPDFファイル。

◆その他の反響

○朝日新聞記事 定着した略字、併用認めよ 表外字の国語審議会試案
1998年07月22日 オピニオン面

◎表外漢字字体表試案に関するコメント(山本太郎)
http://www.kt.rim.or.jp/~tyamamot/charcode/kokugo.html

◎国語審議会中間報告と78JIS再評価(加藤弘一)
http://www.horagai.com/www/moji/kokugo.htm

◎毎日新聞記事「表外漢字字体:国語審議会案まとまる 略字体広がりに歯止め」
http://www.mainichi.co.jp/news/selection/archive/199806/24/0625m154-400.html

◎毎日新聞社説「国語審議会答申 豊かな日本語を次世代に」
http://www.mainichi.co.jp/eye/shasetsu/200012/09-1.html

◎日本語カラーワープロ「あざやか書院」<WD-CP1>を新発売
http://www.sharp.co.jp/sc/gaiyou/news/990302.html

◎樫の木Vol.267
http://raq02.kanken.or.jp/kashi/267/main.html

◎ねじれの漢字
(池田証寿・上野千沙・高田智和・樋口由香・増田有香・松浦舞・森田哲平)
http://member.nifty.ne.jp/shikeda/nejire.html

◆書籍・雑誌など

○国語国字の根本問題(渡部晋太郎 1995年2月 新風書房)
※明治から現代までの国語施策を一望できる労作。一次資料を豊富に掲載。

○漢字問題と文字コード(1999年10月 太田出版)
※複数の論者による共著。直井靖が試案段階の表外漢字字体表の問題点を指摘した「表外漢字字体表試案の読み方試論」を収録。

○bit別冊 インターネット時代の文字コード(2001年3月 共立出版)
※各方面の第一人者が寄稿。文字とコンピュータを考えるうえで必読の一冊。

○SCIENCE of HUMANITY 第31号(2001年4月 勉誠出版)
※表外漢字字体表の策定者である国語審議会メンバーが多数寄稿。その意図を知るうえで、現時点で一番まとまった資料。

(2001/6/6)

◆追加/訂正履歴

[訂正1]……「表外漢字字体表とJIS文字コードの対応表」について

・表外漢字字体表、268番[牽]にはJIS X 0208規格票の平成明朝との間に字体差のあることがわかった。

・「83JIS字体」欄の「Ext」、「Ext'」の記号が、よく似た他の文字セットの名称と混乱するおそれがないかという指摘をいただいた。そこでそれぞれ「Exp」「Exp'」に変更した。

・こちらの手違いで、フォントを埋め込まないでPDFファイルを作成してしまった。

以上、お詫びして訂正済みのファイルを公開しました。 (2001年6月13日)

[追加1]……「表外漢字字体表とJIS文字コードの対応表」のファイルについて

・PDF版、Excel版にくわえて、CSV版を用意した。(2001年6月13日)

[訂正2]……本原稿において、不適切な文言がありました

 タイトルをはじめ、この中ではJIS X 0208が改正されるかのような表現があります。しかし、新JCS委員会のテーマはあくまでも“JIS漢字コードの見直し”です。この“JIS漢字コード”とはJIS X 0208だけではなく、JIS X 0213、さらにはJIS X 0212も範囲に入ります。また、“見直し”とは必ずしも改正を意味しません。工業標準化法によれば、JISの見直しは改正、確認、廃止の3つの選択肢が示されており、今回の見直しは必ずしも改正を意味するものではありません。

◎原稿中、JIS X 0208と書かれた部分のうち、JIS見直しにかかわる規格については、すべて『JIS漢字コード』に訂正します。

◎タイトルについて、以下のように訂正します。

 訂正前「これが次期JIS X 0208の改正ポイントだ!」

 訂正後「これが次期JIS漢字コードの見直しポイントだ!」

ご迷惑をおかけした関係者の皆さんにお詫びして訂正いたします。 (2001年6月14日)

[改定]……『表外漢字字体表とJIS文字コードの対応表』を全面的に改定

 6月6日に公開した『表外漢字字体表とJIS文字コードの対応表』を全面的に改定したものを、新たに公開する。このなかでは見落としていた平成明朝の改刻を追加し、さらに項目全体を見直した。これによって、前バージョンは公開を中止する。
 時間がなく、まだ凡例や表の見方も書けていないが、簡単に説明すると、表外漢字字体表1,022文字について、JIS X 0208にある一番近い字体を選び平成明朝で表示させたのがB欄、これに字体表番号をつけたのがA欄、そしてC~Eは表外漢字字体表の反映、F~H欄は83JISでの改変を反映させたもの、J、K欄は表外漢字字体表からJISを対応付けた結果、逆にL欄はJISの方から表外漢字字体表に対応づけた場合の問題点だ。もちろん、最終的に一番気になるのはL欄の結果だ。この問題点に、具体的に新JCS委員会がどのような解決策をしめすのかが焦点になろう。(2001年6月20日)

[追加2]……『表外漢字字体表とJIS文字コードの対応表』について

 凡例を追加した(2001年6月21日)

[訂正3]……『表外漢字字体表とJIS文字コードの対応表』について

JIS外字を使った箇所がありました。134番「葛」の「印標/例示の相違点」欄を、以下のように訂正します。

 訂正後 「ヒ」ではなく「L」と「人」

以上、お詫びして訂正済みのファイルを公開しました。 (2001年7月6日)

[Reported by 小形克宏]

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