【連載】
●西新宿『スターバックス』/小形氏の怠惰がまねいた若干の災厄
●芝公園前、機械振興会館3階、電子協/東條参事の第一印象
●機械振興会館4階、電子協会議室/要望書が工技院に出されるまで
●西新宿『スターバックス』/Sが驚いた顔は、けっこう美しい
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8140xのシフトJIS,中国のGBK及び韓国のUHCのアドレス空間を基本に,1バイト仮名の領域は避けた領域とする。従って,現行各社の独自文字が割り当てられている領域は含む。これで最大5000字程度(第3水準及び第4水準)とする。 |
既述のとおり、この文言は冒頭の〈8140xの〉が公開版で削除されている点を除けば全く同一である。すなわち、現在の東條参事の認識はともかくとして、シフトJISの外字領域に新しい文字を割り当てるということは、はっきりと0213開発当初から謳われていたと考えられる。では、『意見集』で東條参事はどのように述べているのだろう。実際に読めば分かるとおり、ここでは細かい字句についての疑問を述べているだけで、上記の部分へは言及していない(ちなみにこの彼の疑問は『開発意向表明』には反映されずに終わっている)。
「そうだったんですか……。つまり、自分が『意見集』で書いたことを、東條さんは私たちに隠していた……と?」
「いやいや、それはないでしょう。実はあのインタビューの後、東條さんに電話で問い合わせて分かったんだけど、彼がJCS委員になったのは、'96年5月からなんですよ。それも前任者の退職による急な着任だった。つまり、この 『意見集』の時点というのは、ちょうど引き継いだ……すぐ後なんですね」
「あ、そうだったんですか!?」
「だから、あの『意見集』のなかでの東條さんの回答は、恐らくしっかりとした考えに基づくものではなかったのではないか。回答が内容に踏み込まず、表面的な字句の訂正に留まっていることからもそう言えると思うんです。もう一点、東條さんに同情すべき点があるんです。この『JIS漢字の拡張計画』 の審議は“郵送審議”だった。つまり書類が送られてきて、どう思うか書いて返送しろっていうことですよね。おそらくは十分な説明もなかったのではないかな。実際、書類に目を通してまじめに返送した東條さんのような人は、ごく少数派だった」
『意見集』に収録されている親委員からのレスポンスは、全21人(規格票所載の名簿による)のうち、東條参事をふくめわずか4人からにとどまっている。つまり残り17人は無回答。しかも、回答者のうち1人はWG2幹事で親委員も兼ねていた豊島正之委員のもの。そして内容まで踏み込んた回答を書いているのは、NECオフィスシステムの伊藤英俊委員のみだ。
これを見るかぎり、私には親委員会で審議を尽くしたとは言いがたいように思える。もしもそうだとすれば、東條参事が“そういう話があったかどうか、私はよく覚えていないし、他の委員もそうではないか”という趣旨の“印象”は、意外にある一面の真実を物語っているのかもしれない。
私は従来『開発意向表明』がJCS委員会全体の総意であるという前提で一連の経緯をとらえてきたが、考えを変える必要があるのかもしれない。もしかしたら、きちんとした審議と合意がおこなわれたとしても、それはWG2内部のレベルを越えるものではなかったのではないか。
どういう事情があったのか現時点の私には分からないが、この開発方針の親委員会での審議は、もう少し慎重かつ丁寧にやるべきではなかったか。もしかしたら、これが後の軋轢を生み出した一つの要因になっているのではないか。『意見集』を読む限り、そのような強い疑問が浮きあがってくるのだ。
「なるほどぉ、“躓きの石”って感じですね」
「ええと……そういう書けない難しい字を話さないでくださいよ。しかし、東條さんの“印象”がすべて正しいかと言うと、そうでもなさそうなんですね」
――親委員会から見ると、最初の議論はどこの領域をつかって拡張するのかよりも、具体的にどういう字を入れるべきかというものだったと?
「そうそう、私の頭には非常にそれが強く残っているんですね。で、WG2の皆さんが苦労されて、それこそ徹夜されたりですね、長時間にわたっていろんな文献を調べられたと、いう話が非常に頭に残っているわけでね。だけども、従来フリーだったところに新しい文字を当て込むというのは、私自身は全然認識していなかった」
――ということは、開発が大詰めになったところで、「えっ」っていうような?
「そうそう。それでメーカーの人たちは、いろいろ発言しはじめて、IBM外字だとかNEC外字だとか、メーカー外字の話が盛んに出るもんですからね、おや、これはなんだか様子が違うぞと」
――その、認識があらたまり始めたのは、いつぐらいだったんですか。
「うーん、そうですね、やはり親委員会とWG2が別々に開催されていた時はあまり感じていなかったんですね。それが一緒になってやりはじめて、なんかちょっと」
――合同委員会っていうのは、たしか公開審議('99年3月26、27日)のあたりからですね。
「いや、その前からけっこうあったな」
――ということは'98年頃からあったと。
「WG2と一緒になるということは、人数も多くなるんですね。で、当然WG2の方が話が多いわけですよ。内容としては、まあほとんど専門的な話になってくる。だからね、なんかこれはちょっと委員会のやり方自身もおかしいなあと、いうような感じは持ちましたね。最初はいいですよ、2回目あたりからそう思うようになったんですね」
――なるほど、親委員会の人達は必ずしも文字コードの専門家ばかりではないわけですから、確かにそういう議論になるとスポイルされるかもしれませんね。
「合同になる前、親委員会だけの時に、メーカー側の方から外字について色々話がでてきていたんですが、WG2と一緒にやるようになってから、今度はそういう人もあんまり出てこなくなっちゃうし。そうなると当然、実際に親委員会に出てきている人たちそのものは、そんなに内容そのものに知識があるわけじゃないですからね」
――合同になってから、親委員会そのものの出席率が悪くなったんですか?
「ありますね、それは。後の方の議事録を見ていただければ分かると思いますけど」
――それは、どうしてでしょう。
「やっぱり、委員会での審議内容が親委員会とWG2では違うんじゃないかというふうに思われたんじゃないかと思いますけどね。私自身もだんだん出ていかなくなりましたね」
――しかし、議事の運営について“これはおかしい”というふうに思ったら、むしろ“こういう理由だからおかしい”というふうに声に出さないと直らないですよね。
「そうですね、それは委員会の席上では話しませんでしたけども、事務局の方には言ったと思うんですけどね」
――規格協会の事務方に言ったのは、東條さんがですか?
「うーん、いや、それは私自身がきちんと言ったかどうかっていうのは、話しをしたことはありますけども、それは話しただけに留まっておったかもしれない。あんまり、強い口調でもってそういう話しを言ってません」
――つまり、事務局の人をふくめて何人かで雑談した機会に、「あれはちょっと問題だね」みたいな感じで話が出たということですか。
「うん、そうそう」
――でもそれは結果的には改まらなかったと。
「そうそう」
話がその段におよぶと、Sはすこし語気をつよめて言った。
「なんか私は、税金つかってやってるんだから、本当にマズイと思ったんなら正々堂々と会議の席で言ってちょうだいよって思っちゃったんですけど」
「まあそれは正論ではありますね。反対はしない。ちょっと同情的に推測すると、もしや言い出しにくい雰囲気があったのではないかとは思いますけど。もちろん、だからよいというわけでもない。それより……」私はここでタバコを吸おうとポケットに手を伸ばしかけてやめた。そうか、この店は禁煙だったんだ。
「……東條さんは親委員会とWG2の合同委員会が増えてから、親委員の集まりが悪くなって、そこからおかしくなったって言っていたけど、でもね、どうもこれは彼の記憶違いではないかと思うんですよ」
「記憶違い?」(以下、公開予定の『3.電子協の根回し・中』『同・下』につづく)
※別記
JIS X 0213にある附属書1『Shift_JISX0213』を使って、その文字を使うことができる、フリーのTrueTypeフォント(Windows95、Windows98、Unix、Macintoshに対応)が以下のURLで公開されている。
http://www11.freeweb.ne.jp/computer/wakaba/
ただし、今までの拙稿でも触れているように、Shift_JISX0213じたいは規定ではなく参考だ。従来のシフトJISフォントで表示させようとすれば文字は化けるし、近い将来出るであろうJIS X 0213の文字をサポートするUnicode対応OSの間で、正常に文字が変換される保証も現在のところはない。そのためこのフォントの使用には十分に注意されたい。
また、『青空文庫』の手によって、上記のフォントの紹介や使用方法、あるいはShift_JISX0213を使って従来の外字の穴を埋めたデータや、その作成のノウハウ等が解説されている。
・『新JIS漢字時代の扉を開こう!』
http://aozora.gr.jp/newJIS-Kanji/newJIS1.html
・『青空文庫 明日の本棚』(Shift_JISX0213を使って入力した文学作品のテキストファイル)
http://www.sumomo.sakura.ne.jp/~aozora/jisx0213/
青空文庫では、これらを公開する意図として、私の質問に答え〈新JIS漢字が使えるようになることで将来の青空文庫にはどのような変化が生じるのかを見せる「窓」のような存在として、「明日の本棚」を設けました。〉と説明している。すなわち将来に向けた限定的な“実験”として、これらを考えているようだ。
(2000/9/6)
[Reported by 小形克宏]
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