【連載】
小形克宏の「文字の海、ビットの舟」
――文字コードが私たちに問いかけるもの
特別編11
表外漢字字体表は、JIS漢字コードをどう変えるのか?(2)
その基本的な内容をまとめてみよう
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●審議にかかった9年という時間
さて、第19期第1回総会が開かれた翌年、1992年6月18日、第5回総会がひらかれ、中間報告として『現代の国語をめぐる諸問題について(審議経過)』という文書が採択された。この文書には、JIS漢字コードについて以下のような問題点が指摘されている。
2 情報化への対応に関すること
(1) ワープロにおける漢字(特に「常用漢字表」にない字)の用いられ方やその字体の問題について混乱が見られるので、適切な方途を講ずることが必要ではないか。
○新聞社でもワープロを使うようになったが、我々が普通に使っているのと違う字体が出てきて不便である。原因はJIS(日本工業規格)の漢字規格にあるようだが、今のうちに手を打たないと、国語のシステムに二つの系列が生じるおそれがある。
○字体の問題は雑誌関係でも非常に大きな問題になってきているので、ぜひ統一してきちっとしてもらいたい。国語審議会で定める字体でやってもらう方がいいと思う。
○通産省(JIS)や法務省(人名漢字)との連絡を十分にとって、字体の問題が不統一にならないようにすべきである。
○略字だけの問題ではなく、JISのコードには辞書にない字や異体字も相当入っており、新旧の字体の扱いも整合性を欠いている面がある。記者用のワープロを別に作らないとやっていけないという状況で、これが新聞界としても大きな問題である。
○JISは元来情報交換のために漢字に番号を付けることに主眼があったので、字体を定めるとか、字種の使用範囲を決めるとかいう性質のものではなかった。
○コンピューターやワープロで多様な漢字が必要になっているが、メーカーとしても各種の書体等の需要に応じ得るよう供給体制を整えてきた。字体の変更等はかなり慎重にやらないと、コストの問題が生じる。社会一般での普及を考慮に入れたルールの採用と尊重が大切である。
(国語審議会報告書No.19 1993年 文化庁 p.280~281)
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これが国語審議会がJIS漢字コードについて、なにか提言らしいことを言った最初だった。ここで言う情報機器での“混乱”と、それについての対応策は、以下のようにまとめられるだろう。
(A) JIS漢字コードには略字体ばかりが入っていて、我々が普通に使っている字体=伝統的な字体が使えない。
(B) 辞書にない字や異体字も入っていて整合性を欠いている。
(C) したがって、字体は正しいものに統一しなければならない。
もちろん、上記は“審議経過報告”にすぎない。総会での討議のなかで委員から出された意見を、テーマごとに分類したものの一項目であり、“○”がつけられているのは、参考のために関連する委員の発言を要約してならべたものだ。だからこの経過報告を、この時の国語審議会の正式な結論と考えてはいけない。しかし、それにもかかわらず、上記(A)~(C)にまとめた3項目の認識は、7年後の表外漢字字体表にある認識と非常に似通っており、なるほど表外漢字字体表は、これらの発言を出発点としてつくられていたのだと思える。
しかし、この3項目の認識は、(A)については正しいものの、(B)と(C)については、前回も触れたように文字コードというものの性質を誤解・曲解しているとしか言えないものだ。
特に、〈JISは元来情報交換のために漢字に番号を付けることに主眼があったので、字体を定めるとか、字種の使用範囲を決めるとかいう性質のものではなかった。〉という認識と、(B)(C)の認識の、規範性をめぐる大きなギャップは、以降の審議でもついに埋められることはなかったのが残念だ。しかしこれについては、次回以降に述べることにして、今は先を急ぎたい。
翌1993年11月、文部大臣(現・文部科学大臣)は、第19期の審議を受け、つぎに発足した第20期国語審議会に対し、〈新しい時代に応じた国語施策の在り方について〉という諮問をした。これは正式な文書番号を『庁文国第44号』といい、冊子版『表外漢字字体表』巻末に収録されている。
この文書では、その検討テーマのひとつとして〈情報化への対応に関すること〉を挙げている。同じ言葉をつかっていることからも明らかなとおり、これは第19期国語審議会のJIS漢字コードへの提言を、現実化しようという意図なのだろう。
以来、国語審議会は第20期から第22期まで3期7年のあいだ検討を続けてきた。第21期の試案発表、第22期のパブリックコメントをへて、2000年もおしせまった12月8日、最終答申として『表外漢字字体表』が発表される。つまりこれは7年にもわたる検討の末につくられたものなのだ。
この7年もの歳月、いや、第19期の発足にさかのぼるなら9年もの年月を、練りに練るための必要不可欠なものとみる向きもあるかもしれない。しかし世に大混乱をもたらした83JISは、その名のとおり1983年の改訂で、1991年といえば8年も後のこと。当時すでに混乱の原因がJISの文字コードであることは、すこし詳しい人間なら1と1をたせば2になる以上に自明の事実だった。
私は編集者として本をつくりながら、ずっと83JISの非互換な変更に翻弄されてきた。伝統的な字体で入稿したつもりが、すべて略字体になって校正紙が出てしまい、1字ずつ直すのだが、ザル編集者の悲しさ、本が刷りあがってから直しもれを見つけて、著者に申し訳なく思う。そんなことが、しばしばあった。
ただし1991年といえば、あらかじめプリントアウトに問題の出そうな文字をマークして入稿するなど、そろそろ83JISに対応するノウハウが確立しはじめた頃だった。
一般ユーザーの目からも、1993年のWindows3.1、1995年のWindows95をへて、徐々に78JISを実装したパソコンは見かけなくなっていった。78JIS当時の伝統的な字体を使うことができないという問題は相変わらずだったが、10年あまりの歳月のなかで略字体に馴れていったというのが本音のところだろう。むしろJIS漢字コードで問題なのは丸付き数字やハートマークが使えないといった非漢字部分ではなかったか。
そこへこの表外漢字字体表の答申だ。寝た子を起こしたというのが私の第一印象。伝統的な字体が選べないという欠陥は、JIS X 0213によって解消されたはずではなかったか。また83JISの混乱が再来するのではと本気で恐れるし、その一方でどうせ決めるなら、なぜもっと早く決めてくれなかったのかと、ため息をついてしまう。
そもそも表外漢字字体表が制定されただけでは、83JISがもたらした混乱は解決しない。これを反映してJIS X 0208をはじめとするJIS漢字コードが改訂され、実際に以前の実装にすべて置き換えられなければ、字体の混乱はおさまらないはず。つまり、本当にこの表外漢字字体表で文字コードの混乱がおさまるとしても、現在はまだまだ道半ばでしかなく、ゴールまであと何年もかかるのだ。最初期の国語審議会の段階で9年をついやした意味は大きいと言わざるをえない。
●基本は常用漢字表――表内漢字と表外漢字
そもそも“表外”の“表”とはなんだろう? これは国語政策の背骨をなす『常用漢字表』のことだ。常用漢字表は“一般の社会生活における漢字使用の目安”として1,945字を規定しているのだが、それだけではたりない、常用漢字表に補遺を追加してもよいのではという意見があった[*1]。つまり表外漢字字体表には、常用漢字表を中心とする国語政策の見直しという側面もあるようだ。
より正確にいえば、“表外漢字”とは、常用漢字1,945文字と、それに準じて普及している人名用漢字の285文字をふくめた合計2,230文字を“表内漢字”として、これ以外の漢字をさした言葉なのだ。
したがって、よくJIS漢字コードで出ないと話題になる“ハシゴ高”や、「士」ではなく「土」の“ツチ吉”、門構えに「月」をつくる内田百ケンの字など(図1)は、常用漢字の異体字であり、一般の社会生活では常用漢字を使うべきという立場から、検討の対象になっていない[*2]。
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▲図1 |
では、その表外漢字字体表とは、どのような内容なのだろうか。前述したように、表外漢字字体表そのものは文部科学省の“JIS漢字コード対策”と考えるとわかりやすいものだ。それは荒っぽく単純化して言ってしまえば、83JIS字体に代表されるような新字体、前回も挙げた「鴎」や「涜」以外で挙げれば「躯、填、頬、祷、掴」などといった新しい略文字を、78JIS制定当時のような伝統的な字体にもどすことを意図したものと考えてよいだろう(図2)。
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▲図2 それぞれ上段が83JIS字体、下段が78JIS字体 |
表外漢字字体表がさだめた標準的な字体を見ると、結果的に78JISの字体と同じものが圧倒的に多い。もちろん、なかには「澗」「柵」のように、78JISから変更された83JISの方の字体が標準的な字体とされたものもあるが、これらはあくまで少数派だ。このことからも表外漢字字体表は略字体ではなく伝統的な字体を使おうというメッセージを持っていることがわかるだろう。これが最大のポイントだ。
●“世の中を混乱させないこと”を最優先に考えられた
さて、その標準字体、表外漢字字体表では“印刷標準字体”とよんでいるが、これを決めるにあたっては、“世の中を混乱させないこと”を最優先として考えられた(これが本当に有効かどうかは、次回以降に考えたい)。まず基本方針としては、明治から現代まで使われている、昔ながらの字体を基本とする。これを表外漢字字体表では、清代の代表的な漢和辞典『康煕字典』(“こうきじてん”とよむ)の名をとり“いわゆる康煕字典体”とよんでいるのだが、結果的に78JIS字体と同じものが多いのは前述したとおり。
この“いわゆる康煕字典体”を標準とする理由は、実際に社会ではどのような字体が使われているのかという調査を繰り返した結果、全体としてはこれが優勢であったことによる(この調査の有効性についても、次回以降に考えたい)。
しかしその一方で、調査によりわずかながら俗字・略字の方がひろく使われている文字もあることも判明した。これらは基本方針とは逆に、実態を優先させて俗字・略字の方を印刷標準字体とした。
また、俗字・略字が世の中に定着していると考えられる文字も浮かびあがった。これらについては、とくに俗字・略字の方を“簡易慣用字体”として、印刷標準字体と別に、こちらも使ってよいことにした。
印刷標準字体では、しんにょう、しょくへん、しめすへんについては、いずれも昔ながらの“いわゆる康煕字典体”にすることになっている(図3)。ところが、これが初めて試案として表明された段階で、つよい不満をあらわしたのが日本新聞協会だった。
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▲図3 |
同協会で加盟各社が使っている字体を調査した結果、表外漢字については各社バラバラの方針だったにもかかわらず、この3部首についてだけは、全国紙である朝日、毎日、読売、日経、東京、産経が共通して新しい方の字体を使用し、地方紙でも同じ方針をとる会社があったのだ。そこで、この3部首を使ってもよいことにしてほしいことなどを意見書として国語審議会に提出した( http://www.pressnet.or.jp/info/iken19990610.htm )。
試案のつぎに発表されたパブリックレビュー案からは、日本新聞協会の意見を入れるかたちで、現在3部首を使っているところは、あえて変える必要はないということに変更している。これは「謎」「榊」など部分字体に3部首がある文字もふくまれる。
これらの“妥協”ともとれる柔軟な方針は、あくまでも現状を混乱させないことを優先させたものだ。
●手書きは適用範囲外/広場のことば/制限するものではない
さて、もうひとつ表外漢字字体表の性格として重要なのは、ここでは手書きの文字は規定していないということだ。つまり、手書きでもここにある字体のとおりに書かなければならないというのは間違いだ。「作成目的、及び適用範囲」として、つぎのように書かれている。
表外漢字字体表は、法令、公用文書、新聞、雑誌、放送等、一般の社会生活において表外漢字を使用する場合の字体選択のよりどころを、印刷文字(情報機器の画面上で使用される文字や字幕で使用される文字などのうち、印刷文字に準じて考えることのできる文字を含む。)を対象として示すものである。
(表外漢字字体表 p.5)
印刷文字を対象とするからこそ、標準字体の名に“印刷”がつき“印刷標準字体”になるわけだ。もちろんこれにはディスプレイやプリンターに使われるデジタルフォントもふくまれる。しかし手書きの文字はふくまれない。
それから、表外漢字字体表は学問、芸術、技術などの専門分野で使われる漢字や、人名、地名などの固有名詞を規定しようとするものではない。あくまでも多くの人がごく普通に使う漢字、国語審議会が言う“広場のことば”として考えられたものだ。
例を挙げて説明しよう。83JIS改正で字体変更されたのは全部で257文字[*3]だ。この変更が、字体の混乱原因のひとつとなったのは前述したとおり。ところで、この257文字のうち表外漢字字体表には152文字が入っているが、残り105文字は収録されずにおわっている。105文字のうち40文字は常用漢字か人名漢字そのものであり、14文字は常用・人名漢字や表外漢字字体表にあるものの異体字だ。したがって字体変更された文字のうち、表外字であるにもかかわらず『字体表』1,022文字に入っていないのは以下の51文字となる[*4]。
廠、鱈、凋、塘、鴇、噸、冉、冕、唹、唳、堋、媾、悗、捩、搆、枦、枴、梛、梍、湮、爨、甄、甍、硼、箙、粐、綛、綮、綟、芍、苒、茣、荵、蔗、螂、蟒、褊、覯、諞、跚、踉、輓、遘、扈、釁、霤、靠、頤、鬮、鮗、鯲
この51文字を見ると、めったに使わない漢字が多い。混乱の原因になったのにもかかわらず、これら51文字が入っていないのは、結果的に“広場のことば”として考えられた表外漢字字体表の性格をよくあらわしていると言えないだろうか。
もっとも、「鱒」はあるのにどうして「鱈」は入ってない、「捩」(ねじる)はどうなのだ、というような疑問もなくはないのだが。
そして、表外漢字字体表は、常用漢字・人名漢字とこの1,022文字以外は使うなというような“制限”ではない。これは〈一般の社会生活において、表外漢字を使用する場合の「字体選択のよりどころ」〉(表外漢字字体表 p.1)なのだ。ここには、人々の使う文字を制限しようという匂いは感じられない。
この姿勢は、常用漢字表の〈一般の社会生活において、現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安〉(同前書き)というのと共通したものなのだが、ここに常用漢字表をおぎなうものとして作られた表外漢字字体表の性格が、よくあらわれているようにも思える。
●表外漢字字体表は1,022文字だけのものではない
ところで、実際に表外漢字字体表を読むと、これが3つの部分から成り立っていることがわかる。
(1) 『前文』……基本的な考え方や、これがどうして必要なのか、どういう目的で作られたのかといったことを解説。
(2) 『字体表』……1,022文字を選んで、その標準的な字体をしめしたもの。うち22文字について、比較的普及していると考えられる略字体も掲げている。
(3) 『参考』……『字体表』を実際に運用する上で、どういった違いまでを同じ字体と考えるか(これを“デザインの違い”とよぶ)といったルールを解説した、『表外漢字における字体の違いとデザインの違い』を中心とした付録部分。
前節までの文章は、このうち(1)を中心に私なりに解説したものだが、読者の中にはひょっとして“表外漢字字体表とは、つまり1,022文字の表なのだ”と考える人がいるかもしれない。しかしこれは、はっきり言って誤解なのだ。『前文』のなかに、以下のような部分がある。
なお、表外漢字字体表に示されていない表外漢字の字体については、基本的に印刷文字としては、従来、漢和辞典等で正字体としてきた字体によることを原則とする。(p.6 2-2 対象とする表外漢字の選定について)[*5]
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日本で使われている漢字が、全部で何文字かというのは難問中の難問だが、仮に『大漢和辞典』(全15巻 大修館書店)の親字約50,000文字とすれば、表内漢字2,230文字を差し引き、表外漢字は約48,000文字にもなる。表外漢字字体表はこの約48,000文字全部について〈漢和辞典等で正字体としてきた字体〉、つまり“いわゆる康煕字典体”とすることが原則であると規定しているのだ。
では、どうして1,022文字を挙げたのだろうか? 『前文』には以下のようにある。
この字体表では、常用漢字とともに使われることが比較的多いと考えられる表外漢字(1,022字)を特定し、その範囲に限って、印刷標準字体を示した。また、そのうちの22字については、簡易慣用字体を併せて示した。(p.5 2-1 表外漢字字体表の作成目的及び適用範囲)
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つまり約48,000文字にものぼる表外漢字の大半は、専門家ではない普通の人なら一生かかっても目にすることのない、むずかしい漢字だ。この48,000文字すべてについて印刷標準字体をしめすのは、“広場のことば”を対象とする表外漢字字体表の趣旨からあわない。それに、約48,000文字の調査をしようとするのは、時間的にも経済的にも並大抵のことではない。
そこで“広場のことば”にふさわしい、世間でよく使われる表外漢字を1,022文字選びだし、これに限って標準的な字体、それに一部について略字体をしめす。これが(2)の『字体表』の内容なのだ。
(3)の『表外漢字における字体の違いとデザインの違い』は、JIS X 0208などに包摂規準があるように、ある文字表をベースにフォントデザインをする際には必ず必要になる運用ルール集だ。しかしこれは、純粋に(2)の1,022文字にだけ対応するものであり、(1)にある表外漢字約48,000文字すべてについての原則には、とても適用不可能なルールだ。
この部分、我ながら書いていてはっきりせずに居心地が悪い。私の説明能力のなさもあるかもしれないが、しかしこの“わかりづらさ”こそが、実は表外漢字字体表の本質的な問題点ではないかとも思う。
●さて、次号は?
以上、2回にわたってJIS漢字コードの混乱と、それに対応する表外漢字字体表歴史と背景、そして表外漢字字体表の基本的な解説をまとめてみた。次回は私が感じた疑問点を文化庁の担当者に直接ぶつけてみることにしよう。
[*1]……第19期国語審議会の第7回総会で、村松剛(筑波大学名誉教授)委員が、つぎのような発言をしている。
(※引用者註:蝟集の“蝟”は常用漢字にないので、「い集」と交ぜ書きしてる現状を指摘し)
そういう何十年かの漢字制限にもかかわらず、生き残ってきた漢字表現がたくさんある。そういうものに対して漢字の対応ができていないでいるというのは、非常に奇妙な事態だと思う。これにどうやって対応し直すかというのは、根本的には「常用漢字表」だろうけれども、「常用漢字表」をまたいじくるのが大変であるというのならば、補遺を付けることが具体的に可能かどうかをちょっと御検討いただきたいと思う次第である。
もっとも前文には、以下のように表外漢字字体表が“第2常用漢字”であると受け取られないように明記されている。
(前略)ただし、この表は、常用漢字表を拡張しようとするものではなく、この表にない表外漢字の使用を制限するものではない。(p.5 2-1 表外漢字字体表の作成目的及び適用範囲)
[*2]……常用漢字表では固有名詞などは適用範囲外としている。つまり本文で例に挙げたような“人名異体字”の問題は、最初から検討の範囲外だと考えた方がよい。
[*3]……97JIS規格票「附属書6(規定)漢字の分類及び配列」にリストアップされた文字のうち、83JISで改変されたものをしめす“78”、“78/4-”のマークがつけられた文字を数えた結果。
[*4]……この51文字は、表外漢字字体表が考える“いわゆる康煕字典体”との間で、デザインの違いが見てとれる文字が多いことがわかる。表外漢字字体表の方針を、JIS X 0208の6,879文字、あるいはその拡張版JIS X 0213をふくめた11,223文字に適用しようとすれば、これら51文字の対応には真っ先に頭を悩まされることになるはずだ。
[*5]……どうしてこんなに重要であるはずの規定が、たとえば「表外漢字字体表の作成目的及び適用範囲」などではなく、「対象とする表外漢字の選定について」という項目の、しかも「なお」で始まるような、とってつけられたような語られ方をしているのか? とてもわかりづらい書き方だと言わざるを得ない。これについても、次回以降に考察してみたいと思う。
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(2001/6/20)
[Reported by 小形克宏]
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