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【連載】

シアトル発インターネットビジネス最前線 第13回

e-金融プラットフォーム企業:CapitalStream
─リースやローンの金融プランを数分でオンライン決済─

http://www.capitalstream.com/

 米国では、“シリコンバレー”や“シリコンアレー”だけではなく、インターネット企業が集積したハイテク地区が次々と登場しています。IntelやFujitsuなどの工場があるオレゴン州北部のポートランド周辺と、MicrosoftやAmazon.comが本社を構えるワシントン州西部のシアトルやレドモンド周辺もまた、“シリコンフォレスト”と呼ばれ、インターネット企業の集積地になりつつあります。この連載では、シリコンフォレストから登場する注目の企業を紹介していきます。(本連載は隔週木曜日に掲載します。記事一覧はこちら


Stephen A. Campbell
CapitalStreamのStephen A. Campbell社長兼CEO
 e-マーケットプレイスの急成長にともない、これまで取引をしたことのない企業間の取引が増えているが、オンライン決済に必要なリースやローンなどの金融サービスは米国でもネット進出が著しく遅れている。B2Bの高額取引に使われる決済方法は、クレジットカード決済ではなく、売り手自身や金融機関が提供しているリースやローンであるため、買い手がネット上で商品購入を決定したとしても、リース契約の信用照会の段階で電話やファックスに戻るのが現状である。しかも、信用照会のプロセスは時には数日以上かかることがあるので、ビジネスチャンスを失う可能性が高くなる。

 この理由として、銀行やリース会社などの金融サービス機関は、独自に開発した顧客データベースや業務アプリケーションを持っており、他社とのデータ統合には膨大な時間とコストがかかるという技術的なハードルが挙げられる。一方、e-マーケットプレイスやECサイトの多くは、1、2社の金融機関と提携しているか、クレジットカード以外のオンライン決済方法には対応していない。このため、B2B取引の決済手段はクレジットカードだけになってしまい、多くの企業は新たな企業と取引したいものの、すでに取引関係のある企業とビジネスを続けている状態である。

 こうした状況を大きく変革するため、商業ファイナンスのオンライン決済サービスを金融機関やECサイト向けに提供している企業が、シアトルに本社を構えるCapitalStreamである。1995年に設立された同社は、金融機関が提供する金融プランのカスタマイズからリース申込書の作成、信用照会、与信、契約に至るまで一連の決済プロセスを自動化するシステムを開発、2000年4月から同技術を低コストで貸し出すASPサービス「CapitalStream.com」を提供している。

 ハイテク業界誌『Software Magazine』から世界の注目ソフトウェア企業の500社に、またDeloitte & Toucheにより急成長中のテクノロジー企業50社の1社に選ばれた同社は、現在50社以上の顧客を抱えており、毎日平均で4,000万ドル規模の取引を扱っている。同社のStephen A. Campbell社長兼CEOに、同社のビジネスモデルと、米国の金融サービス市場の現状や今後の戦略について尋ねてみた。



●柔軟なカスタマイズで全プロセスを自動化

Program Management Tool
「Program Management Tool」。リース申込書や見積書などの細かな設定が行なえる
 Campbell氏は「我々は、金融機関やその再販業者がネット上でリアルタイムにサービスを提供できるように、金融プランの作成からリスクデータベースの提供、オンライン申込書の作成から決済まで、すべてのプロセスをウェブブラウザーを通して提供している」と語る。

 同社のASPサービス「CapitalStream.com」は、金融機関がオンライン決済サービスを短期間に展開できるようにする包括的なパッケージで、金融プランマネジメント、リスクマネジメント、オンライン申込書や契約書マネジメントの3種類のコンポーネントに大きく分かれている。

 まず、金融プラン向け「Program Management Tool」は、銀行やリース機関が金融プランを作成するためのツールで、金融プランの種類や、提供する地域や貨幣、リース申込書や見積書などに必要な項目などの細かな設定が行なえる。また、既存の顧客に対しては金融プランの内容を変更したり、一部データにアクセス権を与えたりと、特定の顧客ごとに設定を変えられる柔軟な仕組みになっている。

 リスクマネジメントの「Risk Management Tool」では、信用照会に関する設定を行なえる。銀行やリース機関は、Dun & Bradstreet、Experian、Equifax、Trans Unionなどの信用照会機関から好きな企業を選ぶだけで自動的にサービスを受けることができる。従来は、これらの機関に対して信用照会のリクエストを行なうためには、個別の依頼書を書く必要があり、多大な時間と業務コストがかかっていた。このサービスにより情報を一括して受けることができる。最後の「Transaction Network」は、リースやローンの申込書/契約書の作成、信用照会後の顧客への電子メール通知などのサービスを提供する。

 これらのASPサービスの導入には、大型の開発コストや期間は必要なく、ほとんどの企業は1カ月以内で導入ができるという。また、価格はサービスの規模により異なるので公表されていない。大手顧客では数百万ドルになるが、ほとんどの企業が月々5,000~7万5,000ドルあたりを支払っているという。

 同氏は「我々の強みは、企業が柔軟にCapitalStream.comのサービスをカスタマイズできることであり、しかも我々は“プライベートレーベル”なので、ウェブサイトからは一切見えない。したがって、ある金融機関がCapitalStream.comを使用しているとは一般には知られないのだ」と語る。



●コスト削減とリース申込25%増を達成

FinanceItNow
「FinanceItNow」。ユーザーが商品を購入する際に、ショッピングカートに「購入する」と「ファイナンス」という2種類のボタンを設置することができる
 CapitalStream.comにより、金融機関は時間やコストを大幅に削減して、競争力を高めることができる。例えば、商業機器メーカー向けの金融リース機関であるFisher-Andersonは、小型のリース契約に対して申込書をファックスしてもらい、顧客データをコンピュータに入力しなおすといった非効率なプロセスを行なっていた。同ASPサービスの導入に踏み切ったところ、処理コストを10%ほど削減した上、リース申込の25%増加を達成したという。

 Campbell氏は「リースやローンなどの商業ファイナンス市場は、規制がほとんどない上に、4兆ドルの巨大市場であり、大きく将来性が期待されている。しかし、この市場は現在オンライン化が最も遅れている分野であり、効率化はほとんど達成されていない。20年前とほとんど変わらない電話とファックスで業務が行なわれているのが現状だ。我々のサービスが画期的なのは、こうした状況を一気に変革し、従来は数日かかった決済業務を数分に短縮した点だ」と語る。

 また、金融関係のみではなく、B2BのECサイトや製造業者も、同サービスにより商品を販売するための選択肢を増やせるので、恩恵を受ける。CapitalStream.comでは、メーカーやECサイトに対しては、ユーザーが商品を購入する際に、ショッピングカートに「購入する」と「ファイナンス」という2種類のボタンを設置することができるサービス「FinanceItNow」を提供している。

 ユーザーが「ファイナンス」ボタンを押せば、自動的にオンライン信用照会サービスへと導かれ、リースやローン期間および支払い金額などの条件を提示される。ユーザーは、自分の好きな金融プランを選択し、オンライン申込書に必要事項を書き込んでクリックするだけでよく、その後は、サイトにアクセスして信用照会の状態をチェックしたり、過去の契約ヒストリーなどを閲覧することができる。

 さらに、CapitalStream.comでは、200万~2,500万ドル規模の金融プランを求めている金融ブローカーやECサイトが、金融機関に対して希望条件を提示し、入札で最適な金融プランを選ぶといった逆オークションサービス「Bid Management」も提供している。

 Campbell氏は「金融機関は、既存のシステムやデータを使用しながら、多様な金融プランを短時間で作成できるようになる。また、信用照会も短時間で行なえるので、より多くの契約を受けるようになる。さらに、買い手と売り手、金融機関を結びつけることにより、さらに多くの契約が成立する可能性が広まる。リスクとコストを削減しながら、クレジットラインを広げることができるのだ」と語る。



●金融サービス市場を大きく変革?

Office
オフィス風景。真新しいビルに社員130名弱が働いている
 Campbell氏は、同社のサービスを通して金融サービス市場を大きく変革することを狙っている。同氏は「ほとんどの金融機関はウェブサイトを開設しているが、現在のところ、ネット上ですべての決済機能を備えるサイトはまだ少ない。それぞれの金融機関では独自開発によるデータベースや業務ソフトを持っているために、共通のシステム構築には時間とコストがかかるためだ。現在、CapitalStream.comにより、この状況が変わりつつある。金融機関が多くの企業にサービスを提供できるようになっただけではなく、それと同時に、企業も多くの金融機関にアクセスできるようになり、“ネットワーク効果”を生み出している」と語る。

 これにより、いったん断られた申込であっても、他の金融機関で受け入れられる可能性が高くなり、金融サービス市場が大きく変化するという。最初の段階で断られる申込は、全体の50~70%にも及ぶと言われているが、その理由は、信用に問題があるというよりは、金融プランの種類やサービス地域と申込書の条件が当てはまらなかったためである。こうした問題も、複数の金融機関にリアルタイムにアクセスできるようになれば解消される。

 同氏は「従来はいったん断られたら終わりだった申込も、複数の金融機関にアクセスすることで、与信率が高くなった。銀行は『承認はできませんでしたが、この金融機関でサービスを提供しています』という形で、提携企業のサービスを提供することができる。これは、金融機関にとっては非常に魅力的なサービスである」と語る。

 また、同社はあくまで技術インフラを提供する企業であり、e-マーケットプレイスでもなく、金融ブローカーなどの仲介者を省く企業でもないと強調する。同社は、フロントエンドではECサイトやe-マーケットプレイスを通して売り手/買い手の金融プランへのアクセスを実現し、バックエンドでは銀行やリース機関への接続と信用照会を提供する。むしろ、同社は金融ブローカーなどにサービスを提供することで、商業ファイナンス市場全体を短期間でネット化することを狙っている。

 CapitalStreamは、このソリューションとして、Microsoftの「BizTalk」フレームワークを使用し、顧客データベース、金融データ、会計ソフトなどを統合するXMLスキーマを開発した。これにより、同社は銀行や金融ブローカー、メーカーやECサイト、さらにはe-マーケットプレイスやその他の金融サイトとのシームレスなデータ統合を可能にした。



●競合企業との異なる位置付け

Jennifer Fox広報担当
Jennifer Fox広報担当
 商業ファイナンスのオンライン決済サービス分野には、同社の他にもいくつかの競合企業が存在する。まず、この分野のパイオニア的存在であるeCredit.comは、商業ファイナンス向けe-マーケットプレイス「Global Financing Network」を1999年11月から提供している。Campbell氏は「eCredit.comは主にソフトウェアを販売しており、その一環としてASPサービスを提供している。したがって、あらかじめネット用に設計された我々のサービスの方がセキュリティなどの面で優れている」と語る。

 また、Dun & Bradstreetは、2000年3月に「D&B DecisionMaker」を開設した。これは、小さなB2B企業向けに設計された信用決定プロセスを自動化するサービスだ。同時期にPrudentialから6,000万ドルの投資を受けたInPurchaseもまた、商業ファイナンスのオンライン決済サービスを提供している。同社は、デパートでクレジットカードを顧客に提供するのと類似したサービスで、ECサイトが顧客に対してアカウントを提供できる。

 同氏は「これらの企業とCapitalStream.comの大きな違いは、我々は商業ファイナンスの決済プロセスの全体を提供しているが、他社の多くはプロセスの一部しか提供していない。例えば、eCredit.comはその名の通りに企業の信用分析サービスに特化している。一方、我々は信用分析のほかにも、オンライン申込書の作成から、信用照会、マーケティングなども提携パートナーを通して提供している。現在、この分野で我々と同様に包括的なサービスを提供している企業はほとんどいない」と語る。

 また、iFrontは金融機関向けにオンライン決済ソフトを開発している企業だが、金融機関の多くはASPモデルを求めているという。「顧客のほとんどはテクノロジー企業ではないので、ソフトウェアを購入して自社で設定・運営するには多大な時間とコストがかかる。ASPモデルだと、質の高いサービスが短期間で低コストで得られるので有利である。我々は、Level Three Communicationsのデータセンターを使い、洗練されたデータの運営管理を行なっている。停電に備えてディーゼルバッテリーも用意している」。



●ドットコム企業の勝敗はすでに決まった

Lobby
同社ビルのロビー。シアトルのAdobe Systemsビルも手掛けたGLY Constructionが設計デザイン
 Campbell氏は、ボストン生まれのボストン育ちで、メリマック・カレッジを卒業後、ウェストバージニア大学でマスターを取得。ビジネスとファイナンスを勉強する中で、金融市場のアプリケーション技術に興味を持つようになったという。しかし、当時は現在のような洗練されたコンピュータ技術はなく、「1970年半ばにコンピュータサイエンスを勉強したが、当時はパンチカードとメインフレームが最先端の技術だった。この分野は急速な変化を遂げた」と語る。

 その後、20年間にわたり、Chase Manhattan BankやFidelity Investmentsを始めとする金融機関で働き、主にヨーロッパと米国で金融サービス市場のマネジメントを務めた。また、マネーマネジメント機関向けインベストメントソフト開発企業であるDevonshire Technologyを設立し、1997年にはFidelity Investmentsに売却。その後はスタンフォード大学のエグゼクティブプログラムに参加して1998年にはMBAを取得するなど、多忙なスケジュールの中、1998年8月からCapitalStreamの社長に就任する。

 CapitalStreamを選んだ理由は「私は商業ファイナンス市場の急成長を目の当たりにしてきた。この市場が凄いのは、巨大で、しかも規制がほとんどないということだ。こうした背景から、この分野の企業はeビジネス戦略をうまく展開して、効率化とサービスの質の向上を図ることで、大きく成功する可能性があると思った」と語る。

 その予測が当たったかどうかに関しては「米国では昨年、ドットコム企業の勝敗がおおまかに決まった。多くの企業が消え去っていく中で、我々は大手企業との契約を取り付けており、金融プランのオンライン申込件数は毎月200%の増加を見せている。CapitalStream.comの開設後、売上は毎月28%増加し、サービス利用企業数は35%増加した。我々は、明らかにこの時期を勝ち抜いた企業であると言える」と語る。



●ネットバブル崩壊後にも投資獲得

Building
同社ビル。シアトルのフリーモントに位置している
 CapitalStreamは2000年2月、Merrill LynchやSpectrum Equity Investorsなどから1,800万ドルの投資を受け、合計で2,800万ドルの投資を集めている。また、ネットバブル崩壊後も第3ラウンドの投資獲得に成功し、早ければ来月には資金調達の発表をする予定だ。

 同社は今後も、多種多様なサービスを提供することで、他社との差別化を図っていく。今年1月16日には、同社はPitney Bowesのエスクローサービス「PitneyEscrow」をサービスに組み込むことを発表した。エスクローは、買い手の手許に実際に商品が届いてから売り手に対して支払いを開始するサービスであり、特にECでは商品を実際に手に取って見れないので、こうしたサービスが重要になってくる。

 また、国際市場への進出に関しては、Campbell氏は「現在のところはまだ国内市場にターゲットを絞っているが、今年末か来年には日本およびヨーロッパ市場に進出したいと考えている。日系企業からはまだコンタクトはないが、非常に重要な市場なので顧客やパートナー提携を求めている」と語る。

 IPOに関しては、市場を見ながら考えるが、来年あたりを狙っているという。また、現在のところ、利益は計上していないが、今年末には黒字になることを予測している。最後に同氏は「金融サービス機関は、ネット戦略をいかに上手く展開して効率化とサービスの質の向上を図るかで、これからの勝敗を大きく分けることになる。我々は、金融サービス分野に関わるすべての企業にサービスを提供する。我々は、この分野ではリーダーだと言っていいだろう」と語った。

(2000/1/25)

[Reported by HIROKO NAGANO, Seattle]


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