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【連載】

シアトル発インターネットビジネス最前線 第15回(最終回)

Mコマースプラットフォーム開発企業:Action Engine
─ユーザーの嗜好性を学ぶモバイルアシスタント「e-sistant」─

http://www.actionengine.com/

 米国では、“シリコンバレー”や“シリコンアレー”だけではなく、インターネット企業が集積したハイテク地区が次々と登場しています。IntelやFujitsuなどの工場があるオレゴン州北部のポートランド周辺と、MicrosoftやAmazon.comが本社を構えるワシントン州西部のシアトルやレドモンド周辺もまた“シリコンフォレスト”と呼ばれ、インターネット企業の集積地になりつつあります。
 この連載では、シリコンフォレストから登場する注目の企業を紹介してきましたが、今回をもちまして連載を終了させていただくことになりました。ご愛読ありがとうございました。(記事一覧はこちら


Craig Eisler
Action EngineのCraig Eisler CEO
 米国ではPalmPilotなどの携帯情報端末(PDA)がここ数年大ブームとなっているが、こうしたハンドヘルド機器やモバイル機器が今後、ネットにアクセスするための主流デバイスになることが予測されている。調査会社のeTForecastsが2000年6月に発表した調査によると、米国市場でウェブ対応の携帯電話やハンドヘルド機器といったネットアプライアンスのユーザー数は、2000年末の320万人から2005年末には1億1,540万人へと飛躍的に伸び、2005年末までにはネットユーザーの55.4%がネットアプライアンスを通じてウェブにアクセスするという予測がなされている。

 また、世界市場でも2000年末の2,150万人から2005年末には5億9,600万人へと伸び、2005年末までにはネットユーザーの71%までがネットアプライアンスを通じてウェブにアクセスするという予測が出ている。

 これらの背景には、ウェブ対応の携帯電話やPDAが急速に普及していることが挙げられる。現在、PDAなどのハンドヘルド機器で使用されている機能の多くは、アドレス帳やスケジュール帳など比較的シンプルなものだが、この小さくて持ち運びが便利なデバイスで、ウェブサーフィンや“Mコマース”を行なうユーザーが爆発的に増えることは間違いない。

 こうしたモバイル機器向けにコンテンツ配信やMコマース機能を提供するプラットフォームを開発している企業が、レドモンドに本社を構えるAction Engineである。1999年11月に設立された同社は、Microsoft在籍中にDirectXを開発した技術者として有名なCraig Eisler氏がCEOを務めており、設立からわずか半年後に、優れた技術を開発しているベンチャー企業に贈られる「ComputerWorld Smithsonian」賞を授賞した。また、新たな技術を披露するための「DEMO 2001」でも、同社がシアトル代表の4社のうちの1社として選ばれている。

 DirectX開発の奮闘記を描いた本(注)も出版されたという同社のCraig Eisler CEOに、同社のビジネスモデル、また、米国のワイヤレスウェブ市場の現状や今後の戦略について尋ねてみた。

注)「Renegades of the Empire: How Three Software Warriors started a Revolution Behind the Walls of Fortress Microsoft」(Michael Drummond)



●リクエストを一つにまとめる「e-sistant」

e-sistant
PDAを使ったデモが見られる( http://www.actionengine.com/demo.htm
 Action Engineは、モバイル機器向けにコンテンツ配信やMコマース機能を提供するプラットフォームを開発している。ワイヤレス機器向けのソフトウェアを開発している企業は、AvantGoをはじめ他にも存在するが、同社が他社と大きく異なる点は、単にコンテンツをPDAや携帯電話向けに加工して提供するのではなく、検索や決済プロセス自体をワイヤレスウェブ向けに変更して最適化している点にある。

 Craig Eisler CEOは「PDAからウェブにアクセスする場合、時間のかかるペン入力でウェブアドレスを入力しなくてはならない。また、ウェブページが表われたら、ふたたびペン入力を使って画面をスクロールさせたり、ページを替えたりする必要がある。しかし、Action Engineのシステム『e-sistant』を使えば、ユーザーが航空券や映画チケットを購入したい場合、ウェブサイトに実際にアクセスする前に、行きたい場所や日時などの必要事項をすべて尋ねられる。そして、ウェブにアクセスするのは、条件に見合ったチケットを探し出すという最後の段階になるので、ユーザーはウェブへのアクセスを極力抑え、時間の短縮とコストの削減を実現できる」と語る。

 たとえば、モバイル機器を使って航空券を購入するとしよう。e-sistantを起動させると、PDAや携帯電話のスクリーン上に「何か御用でしょうか?」というメッセージが表われ、いくつかの選択肢が表示される。そこで「旅行をする」という項目を選択すると、さらに航空券、レンタカー、またはホテルのどれかを選択するように尋ねられるので、航空券を予約したいという項目を選択する。すると、e-sistantが「どこに行きますか?」「いつ行かれますか?」「何人ですか?」と尋ねるので、ユーザーはそれに答えるだけでいい。最後に、ユーザーのリクエストフォームが一つにまとめられるので、それを確認してから「OK」ボタンを押すと、リクエストがワイヤレスで送られる。

 他社のワイヤレスサービスだと、ウェブページのダウンロードに時間がかかるので、e-sistantの何倍もの時間がかかってしまうという。また、PDA向けのワイヤレスウェブ接続は値段も高いし、よく接続が切れるので、ウェブアクセスの回数を最小限にするこのサービスは、時間とコストの大幅な短縮につながるのだ。

 携帯電話でウェブサーフィンを簡単に行なうことのできるボイスポータルのBeVocalやTellme Networksなども、類似したサービスを提供しているが、これらの企業もユーザーがサイトのナビゲーションを行なうという点においては、従来型のウェブサーフィンの域を出ていない。同氏は「ユーザーはウェブサーフィンをしたいのではなく、答えを欲しいのだ。我々は、これらのナビゲーションをバックエンドで行ない、答えだけをユーザーに提供する」と語る。



●インターフェイス開発からシステム統合まで提供

Kevin Morris
Kevin Morrisマーケティング副社長
 Action Engineはまた、ウェブにアクセスしている間に、ユーザーの好みのニュース情報を提供する「Action News」サービスも提供している。ニュースは天気予報から株価、交通渋滞データ、自分の住んでいる地域のニュースまで多岐にわたる。ニュースを読んでいる間にリクエストの検索が終わったという表示が出てくるので、検索結果を見てみる。もし、気に入ったフライトがあれば、その場で航空券を購入できる。また、航空券を購入したら、その予定が自動的にスケジュール帳に記載され、自分のパソコンに同期される。

 同社は、Maritz TravelやWorldRes.comなどの旅行関連会社や、ReutersやWestwood Oneといったコンテンツサイト、その他のECサイトと提携することで、航空券やホテルの予約などのサービスを提供している。Maritz Travelは全米で6番目に大きな旅行会社であり、ホテルからレンタカー、航空券など旅行に関するものはすべてサービスを提供できる。現在、それ以外ではオンライン花屋のFlower Outlet、レストラン予約サイトのRestaurant.com、RouteMap IMS、FlightView、AccuWeatherなど、合計9社の企業と提携している。

 これらのECサイトやコンテンツサイトは、すでにユーザーとの信頼関係を築いているので、小さなベンチャー企業にとっては、これらの企業をどれだけ多く集められるかが、成功を握るカギになる。同社はそのために、提携企業に開発コストや時間の負担をかけないようなシステムの開発に力を入れている。

 同社のKevin Morrisマーケティング副社長は「e-sistantのプラットフォームはXMLベースであり、ユーザーが見るインターフェイス部分から、提携パートナー企業のサーバーに接続するバックエンドシステムまでを自社開発している。これにより、提携企業はユーザーに対する一連の質問をあらかじめ設定したり、システム統合を行なうのが短期間で実現可能となる」と語る。

 提携企業に対しては、ライセンス料金はまったく請求しておらず、同社がインターフェイス開発からシステム統合までを行なう。1社をサービスに加えるのにかかる期間は、エンジニア2人で4~6週間程度である。Action Engineの社員50人中、6割はエンジニアであり、同社がすべての開発を行なうので、クライアント企業は何もする必要がない。売上は、実際にECの取引が成立したら、コミッションを得るようにしているという。e-sistantは昨年11月からベータプログラムを開始したばかりであり、コミッションの割合に関してはまだ確定していないとのこと。提携企業の数も増えており、公式バージョンは今年6月になる予定。



●企業の情報管理システムのモバイル部分として入り込む

Action Engine HomePage
Action Engineのホームページ
 また、e-sistantは、ユーザーの嗜好性を学ぶ独自のインテリジェンス技術も備えており、使えば使うほど便利になる。たとえば、航空券を購入する際に窓際か通路側がいいかなどの情報は、一度入力すれば覚えているので、わざわざ入力し直さなくてもよい。また、今まで旅行したことのある都市名や空港名も記録され、次からはドロップダウン式メニューとして表示される。同社によると、こうした機能は競合企業にはないとのこと。

 さらに、同社はモバイル向けのインスタントメッセージングサービス「Action Messaging Service」も独自に開発している。これは、旅行の日程が決まれば、そのスケジュールを会社の同僚や友人などに自動的に知らせることができるという機能。セキュリティ面でも、クレジットカード番号などはAction Engineのサーバーに保存され、モバイルデバイス上のアプリケーションには保存しないなど、安全性を高める努力をしている。同社は、これらのe-sistantプラットフォーム技術に関して5種類の技術特許を申請している。

 Morris氏は「本格的な開発を始めたのが2000年2月であり、当時は私も含めて5人しかいなかった。1年足らずの間に、特許申請をいくつか行なう技術を開発したのは、驚くべきことだ。また、このプラットフォームは簡単に真似されるような技術ではない」と語る。

 同社は、ユーザーから毎月のサービス料金として14.95~19.95ドルを請求することを考えている。e-sistantを使用したいユーザーは、ウェブサイト( http://www.e-sistant.com/ )や提携サイトからダウンロードできるが、同社のターゲットはあくまでビジネスユーザーであり、企業の情報管理システムのモバイル部分として入り込むことを狙っている。

 同氏は「現在は交渉中だが、たとえば企業と交渉して、その企業がユーザーに対して無料サービスを提供し、企業が我々にライセンス料金を支払うというモデルも考えられる。我々はもちろんユーザーに役に立つサービスを提供することを目標にしているが、それと同時に企業が料金を払っても使いたいと思わせるようなサービスを提供するよう努めている。我々は、単に売上を上げるだけではなく、利益を上げることを念頭に置いている」と語る。

 この分野では、AvantGoがすでに企業向けに営業管理ソフトや顧客支援システム、社員ディレクトリなどの業務システムをハンドヘルド機器で配信するシステムを開発しているが、同社もまた、ビジネスソリューションを提供しなくてはならないと考えている。しかし、自社開発ではなく、たとえばOracleとの提携などによるビジネスソリューション提供を考えているという。



●ワイヤレスタウンとして生まれ変わるシアトル

Office Building
レドモンドに位置するAction Engineのオフィスビル
 同社は2000年初頭にシードマネーとして100万ドルを獲得、同年5月にOlympic Venture PartnersやNorthwest Venture Associatesなどから初回投資ラウンドとして770万ドルの資金調達を行なった。初回投資ラウンドを率いたOlympicによると、シアトルではワイヤレス技術の開発企業が急激に増えており、同社が受け取るビジネスプランのうち、なんと5社につき1社がワイヤレス関連であるという。Sprint PCSが全米規模でワイヤレスウェブサービスを展開する前、1年間トライアルを行なった場所もシアトルであり、シアトルはワイヤレス業界をリードする都市としても有名になりつつある。

 シアトルがワイヤレスタウンとして急浮上している背景には、米国のモバイル市場を開拓した携帯電話会社であるMcCaw Cellular Communications、優秀なエンジニアを多数抱えるMicrosoftという2社の影響が大きい。McCaw Cellularは1994年にAT&Tに売却されたが、その後は設立者のCraig McCaw氏を含め、同社で働いていた幹部やエンジニアの多くがワイヤレスベンチャーを始めている。たとえば、同社出身者であるJohn Stanton氏により設立されたVoiceStream Wirelessは、Deutsche Telekomに507億ドルで売却されている。

 また、こうしたワイヤレスベンチャー企業を技術的に支えているのが、Microsoft出身の技術者である。たとえば、Action EngineのCraig Eisler CEO、Infospaceの設立者であるNaveen Jain氏など多数のMicrosoft出身者がワイヤレスベンチャーで働いている。さらに、McCaw CellularとMicrosoftの出身者が中心となり設立された、ワイヤレス企業にターゲットを絞ったベンチャー機関も存在する。Ignitionは、1億4,000万ドルの資本を持ち、Seven、etrieve、UIEvolutionなどの企業に投資を行なっている。

 シアトルの数多いワイヤレスベンチャーの中でも、Action Engineのビジネスモデルと技術は、非常に高い評価を受けている。同社は2000年5月、優れた技術を開発しているベンチャー企業に贈られる「ComputerWorld Smithsonian」賞を授賞した。122社の企業の中から6社が選ばれるこの賞に、同社は選ばれた。ちなみに、他の5社はeBay、General Magic、Level3 Communications、Net Perceptions、RealNames。

 また、2月下旬にアリゾナ州フェニックスで行なわれた会議「DEMO 2001」では、同社がシアトル代表として選ばれた。この会議は、新たな技術を披露するためのものであり、多数のVC投資家、大手企業の幹部、報道陣が集まり、900社の中から選ばれた76社のデモを見る。シアトルから選ばれたのはAction Engine、Microsoft、OpenDesign、XpenseWiseの4社であり、同社はライブデモステージを行なうことのできる35社にも選ばれている。



●16歳でコンピュータゲームを開発

Eisler's Rizard
Eisler氏がオフィスで飼っているとかげ。開発者の中には蛇をオフィスで飼っている人も
 Eisler氏は、15年以上の経験を持つ技術者であり、30種類以上ものソフトウェア製品をこれまで出荷してきた。同氏の名前で行なった技術特許の申請は11種類であり、これまでに5種類が許可されている。

 もともとカナダ出身で、大学に行くまではサンダーベイという小さな町で育った。小さな頃からコンピュータが大好きで、11歳の時にはじめてコンピュータを購入、16歳の時には自分でコンピュータゲームをプログラムし、それを100ドルで販売したこともあるという。大学はカナダのオンタリオにあるワーテルロー大学で、応用数理学とコンピュータサイエンスを専攻、トップで卒業した。その後、大学院に進んだが、その理由は「いい就職ができなかったので、そのくらいだったら大学院に行った方がマシ」と思ったからだという。

 同氏は「大学院では、COBOLベースのオンラインバンキングソフトなどを開発した。また、大学で数学物理学者として働いた時期もあったが、学内の官僚的で政治的な雰囲気には馴染めなかった。そこで、そこを辞めて小さなソフトウェア企業に就職し、多数のソフトウェアの制作に携わった」と語る。1993年にMicrosoftに入社、幸運にもオンラインでビデオゲームをリアルタイムプレイできるプラットフォームの開発に携わり、Alex St. John氏、Eric Engstrom氏とともに、DirectX開発の中心者として活躍した。その後は、ストリーミングメディア部門のWindows Media Platform Groupのゼネラルマネージャーを務め、Windows Media Player 6.2、Windows Media Technologies 4.0、Windows Media Audioなどの開発を担当したが、そのうちMicrosoftで働くことが面白くなくなってきたという。

 同氏は「Microsoftではいろんな経験を積むことができて非常にためになったが、同社が成長するにつれて、大企業という感覚がまん延するようになった。1999年12月、これ以上耐えられなくなり辞めた。大量のストックオプションを積まれたが、IBMのような企業にはいたくなかった」と語る。

 同社を辞めた後、新たに就職する企業を調べていたが、Action Engineの設立者のビジネスモデルを聞いた時、このサービスが非常に大きくなると直感したという。同氏は「Action Engineのワイヤレスプラットフォームは、ワイヤレスウェブの今までのあり方を大きく変えるものになると直感した。その後も、さまざまな企業をリサーチしたが、ワイヤレスウェブ市場が最も未開拓の市場であり、しかも成長が最も期待される市場だと確信した」と語る。



●ワイヤレスウェブ市場は各国で驚くほど類似

Scooter
広々としたオフィスを移動するためにスクーターが数台置かれている
 同社は、今後さらに一層サービスの種類を広げていくことを目標にしており、3月半ばには、タクシーやリムジンサービス、同僚とスケジュールを自動的に合わせて会議を設定することができるコラボレーション機能なども新たに追加する予定である。

 また、現在はPalm OSとWindows OS環境でしかサービスを提供していないが、これから対応プラットフォームも増やしていき、4月にはPocket PCベースのハンドヘルド機器や、Internet Explorer 4.0以上、Netscape 4.0以上のブラウザー搭載ならどのマシンでもサービスを使えるようにするという。

 世界市場に関しては、同製品を開発する際にグローバルな観点を組み込むために、日本、英国、スウェーデンやフランスなどでアンケートをとったりマーケティングテストを行なった結果、ワイヤレスウェブに求めるものは各国で驚くほど似通っていたため、最初からグローバルサービスを提供することを念頭に置いているという。現在、オフィスをレドモンドとサンフランシスコに構えており、早くて今年中に国際市場への進出を目指している。同氏は「ワイヤレス技術は、海外市場で米国より早く動いている。ワイヤレスウェブ市場で成功するためには、国際的に考えなければならない」と語る。

(2000/2/22)

[Reported by HIROKO NAGANO, Seattle]


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