【連載】

ネット時代の商品企画~「最大多数の最大幸福」への挑戦
第2回 ニッチな希望を叶える“御用聞き”サイト~「たのみこむ」

【編集部から】
 新製品の商品開発やマーケティングリサーチにインターネットを活用する企業が増えている。商品開発の段階からユーザーの意見を取り入れることで消費者の潜在ニーズを拾い上げる手法は、はたして成功しているのだろうか?実際にユーザーの意見を元に商品開発に取り組んでいる企業の動向とその実情をレポートする。

http://www.tanomi.com/

●目指したのは“ないものを売る”ショッピングサイト



「たのみこむ」のWebサイト

 「愛用のマイカーのミニカーが欲しいのだけど、市販されていないので作って欲しい」「大好きだったあのテレビ番組、ぜひDVD化してもう一度見たい」…そんなワガママをかなえてくれるサイトが「たのみこむ」だ。

 サービス開始は1999年12月。テレビ番組の制作を手がける企画会社・株式会社エンジンの一事業部として開始された。以来、サイトを訪れるユーザーの数はクチコミで年々増え、サイトのトップページのページビューは実に450万/月を誇る人気サイトに成長した。「うちはもともとアイディアを売っている会社ですからね。インターネットを活用して何かおもしろいプロダクトを産み出すことはできないかなと考えていたんです」と、たのみこむ事業部統括の折原信明氏はいたずらっぽく笑う。

 「たのみこむ」のサービスは大きく分けて4つあるが、一番メインとなっているのは、たのみこむ側からユーザーに対して商品を提案する「たのみこむ本店」だ。商品の写真と説明文を掲載し、一定の申し込み者があれば限定受注生産に踏みきる仕組みで、商品の横に表示される現在の購入予定者の数と「あと何人申し込めば商品化されるか」という数字にハラハラドキドキさせられる。「なにしろ、一定の人数が集まるまでは作らなくていいのですから、ローリスクですよね」(折原氏)。

 「衣」「食」「住」「装(アクセサリー・時計など)」「遊(玩具・趣味グッズなど)」「機(コンピューター・車など)」にカテゴライズされた商品数は、約180品目(11/15現在)。アニメキャラクターのTシャツや、トロン配列のキーボードなどマニアというかコアというか、確かに大量生産するには向かないような品物が並ぶ。しかし、欲しい人にとっては喉から手が出るほど欲しいモノばかり。欲しいモノが手に入るならいくら高くてもいい…という消費者のニッチなニーズを満たしてくれるシステムだ。「数量的には限定10個、なんてのもありますよ。でもトロン配列のキーボードは金型から起こすため価格も約12万と高かったのですが、限定200個完売しましたね」と折原氏。

 この「本店」への掲載をめざして、ユーザーたちが日夜熱い思いをぶつけているのが「たのむ!作ってくれ!」だ。ユーザーは、会員登録後(無料)、自分が「こんなものが欲しい」というアイディアを投稿する。その発案に多くの賛同者が集まれば商品化も夢ではないのだ。「特に賛同者数が何人集まれば商品化に向けて動きます…という基準は設けてないんですよ。物によって生産できるロット数とコストは違いますからね。投票が少なくても、スタッフがおもしろいと判断すれば動くこともありますよ」(折原氏)。

 自分が欲しい品物をなんとか商品化しようと、その発案に集まってきたユーザー同士に連帯感が生まれ、コミュニケーションが広がっていく。「映画などの版権があるものは実現が難しいのですが、車関係はメーカー側も比較的好意的で実現しているものが多いですね」(折原氏)。これまでに商品化されたものは111点を数えるが、不気味さがカワイイと評判を呼んだカンブリア紀の生物「アノマノカリス」のぬいぐるみや、「クレクレタコラ」のヘルメット、「マツダ ランティス」のぬいぐるみ!など、「一体誰がこんなもの買うんだ?」と首をかしげるような不思議なものも多数ある。

 しかし、そこには確実にその商品を欲しがっている「絶対購入する」消費者がいて、受注を請けた上で作るのだから、ロスはない。「メーカーさんにかけ合うのは結構大変ですし、時間も手間もかかりますが、おかげさまで最近は『たのみこむ』の知名度もあがって、交渉が楽になりました。サイトのオープン当初は、名乗ってもうさんくさがられていましたからね」と折原氏は笑う。15人のスタッフがフル稼働で、夢の実現に向けてがんばっている。

●欲しい商品に対しては活発なアイディアを出すユーザー



「アノマノカリス」の
ぬいぐるみ

 コンビニで販売が展開されるほどの商品も産まれた。捨てる場所がなかなかなく外出時に処理に困りがちな、女性の生理用ナプキンを使用後持ち運べる「ぷく袋」がそれだ。ちなみにネーミングは最初の発案者「ぷく」さんにちなんだとか。同じように悩んでいる女性たちからのアイディアが集まり、商品化にこぎつけた。不織布で作られたインナー袋は使い捨て、ポーチには消臭効果の高いトルマリンをコーティングするなど、実体験に基づくきめ細やかなアイディアが盛り込まれている。

 「作ってくれ!」の掲示板には、最初のアイディアに対してただ賛同するだけでなく、「こうしたほうがいい」という意見も書き込める。同じ商品を欲しいと思うユーザーが意見交換し、一つの商品を作り上げていく過程で、優れたアイディアが精製されてくるわけだ。

 このユーザーたちの商品開発への意欲を活用したのが「考えてくれ!」だ。商品開発だけでなく、新製品のプロモーションやテレビCMのアイディアなど企業が出す“お題”に対して、まさに「形のない物」を作り上げていくシステムだ。企業側としても、素人の目線・斬新なアイディアベースの発案を求める場として活用するケースが多く、1ヶ月あたり2、3個のプロジェクトが進行している。

 「大手企業でも、アンケートを実施したりモニターを活用したりと、消費者のアイディアを収集していく傾向はあるのでしょうけど、単にイベントとしてアンケート企画をやられているところも多いようですね。その点、『たのみこむ』はノウハウをすでにしっかり持っていますから」と、ユーザーによる商品開発のスキームについて自信を持っている折原氏。

 なかなか鋭いアイディアを出してくるユーザーもいるが、いかんせんアイディアはよくてもそれを実現するための実践力まで兼ね備えているというわけもなく、所詮は素人の域を脱してはいない。折原氏は、「図書券等の報酬を用意してブレインスタッフ(専業スタッフ)を募集したこともあるのですが、うまく機能しなかったですね」と語る。

 実際にモニタースタッフとして意見を吸い上げるには、やはりネット上でのやりとりだけではなく実際に集まってもらう必要が高いのだが、大勢の人間に時間を調整してもらおうとなると手間もかかる。その割に、集まってもらってもめぼしい意見が出ず、雑談に終始したりということもざらだ。労力を考えるとあまり効率のよいやり方とも思えない。目立つ意見を出してきたユーザーを社員に登用しようと面接し、実際に採用したこともあったが、現在はそれも見合わせているそうだ。やはりユーザーレベルでアイディアが光っていたからといって、それはたまたま偶然にすぎず、コンスタントにハイレベルなアイディアを輩出できる人材となると、なかなかいないものなのかもしれない。

●「たのみこむ」の行方


 大量生産による万人ウケする商品は大手企業がやればいいことで、ニッチなニーズから、広く流通する物の掘り起こしをやりたいというのが「たのみこむ」の姿勢だ。「本当に欲しいのに叶えられない人に向けて結果を出してあげたいんですよね」(折原氏)。企画会社だからこそ、おもしろいアイディアを「そんなの商売にならないよ」と見捨てず拾い上げることができる。「ただし、正直に言うとうちはたのみこむ単体では収支はとんとんで儲かってないです。なにしろ手間がかかっていますから」と折原氏は苦笑する。

 しかしニッチなマーケットには、確実にそこに「買ってくれる」層がいるという強みがある。不況不況と言われる中でも、趣味に関する消費は好調という傾向がある中ニッチなニーズへの訴えかけこそ、この時代を勝ちのこる秘策なのかもしれない。

いちば ゆみ
携帯電話・PDA・インターネット関係をメインに執筆するフリーライター。
 主な執筆先として「できるインターネット」(インプレス)、Asahiパソコン (朝日新聞社)、iモードスタイル(ソフトバンク)等。
 著作に 出会い系サイトを安全に利用するためのネット恋愛マニュアル本「オ オカミなんかコワくない!」等
http://you.can.ne.jp/

(2001/11/20)

[Reported by いちば ゆみ]

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