============================================================================
特集 CATVを使ったインターネット接続サービスの現状
CATVはインターネットユーザーを夢の未来へ導いてくれるのか?
============================================================================

 「CATVを使えば個人でも安く高速な専用線接続ができるのではないか?」---そう
いう期待も混じった話が流れはじめたのがここ1~2年である。実際、多くのCATV業者
がインターネット接続やビデオオンデマンドの実験を開始している。しかし、本当に
そんな夢のようなことが実現できるのであろうか?既に、「施設が古いため多くのマ
ンションではインターネット接続は無理」といった報道もされはじめている。そこで、
以下のCATVのインターネット接続に対する4つの期待に関して問題点をレポートする。

1.CATVのエリア内にいれば
2.高速で
3.安価な
4.専用線接続が可能

 なお、今回提起した問題に対して各社はさまざまな方法で対処するようだ。各CATV
局の対処方法と現状に関しては、別の機会にお届けしたい。

●CATVが入っていれば将来インターネットに接続可能なのか?
----------------------------------------------------------------------------
 結論から言えば難しい。実際には、CATVに使われている施設や各家庭で使われてい
る機材によって、インターネットでの接続が可能かどうか決まってしまうことが多い。
 まず、CATV局によってはそもそも双方向通信を考えていない機材を使っている場合
がある。CATVは多くの場合TVの電波を再送するだけなので、各家庭から局へデータが
流れることはないので双方向を考えていない局も多い。この場合は、機材を入れ替え
ない限りインターネット接続は使えない。また、機材といっても局の中の機材だけで
なく各家庭に配線されているケーブルや配線機具も含まれる。そのため、急に双方向
対応にしたくても簡単にはできないのが現状である。
 また、双方向に対応していたとしても現在の機材に問題がある場合もある。これら
の問題は基本的に上り方向(各家庭からCATV局方向)に信号を送る場合に発生するノ
イズである。ノイズは2個所で発生する可能性がある。
 一つは、屋内の配線機具からのノイズである。どこかの家庭のCATV端子に何も機材
が接続されていない場合そこからノイズを拾って全体に影響を与えてしまう。また、
CATV端子を接続するための壁面ユニット内の同軸ケーブルが、シールドをはずしてネ
ジ止めされている場合もある。ここからもノイズを拾ってしまう。これらに対しては、
ターミネーター(終端装置)を付けたり、最新式の壁面ユニットに交換することが本
当は望ましい。
 また、もう一つのノイズはCATV網の途中に入るアンプで起こる「流合雑音」である。
CATV網の途中にアンプが入るというのは初耳の方も多いだろう。いくら伝播効率がよ
いケーブルをつかっても何百キロも単一のケーブルで伝えることはできない。途中で
信号が減衰して消えてしまうのである。このため、ケーブルの途中で信号を大きくす
る増幅器(アンプ)を入れるのである。このアンプの段階で「流合雑音」と呼ばれる
ノイズが入りやすい。双方向を実現するには、アンプに関しても十分なノイズ対策を
施す必要がある。
 こういったことがクリアされてようやく双方向のデジタル通信が可能になるのであ
る。果たしてあなたが加入できるCATV局はどうなっているだろうか?

●CATVはイーサネット並みの高速接続が可能なのか?
----------------------------------------------------------------------------
 答えは「理論的には可能だが、ユーザーが多くなれば難しい」である。CATVの双方
向通信には2つの方式がある。「対称型」と「非対称型」である。対称型は読んで字
のごとく、上り(家庭から局)と下り(局から家庭)の通信速度が同じ接続方式で、
既にケーブルモデムが存在しCATV局での実験が始まっている。対称型の場合、上り下
りとも10Mbpsを予定しており、確かにイーサネット並みのスピードを実現できるが、
まだケーブルモデムが高価である。また、非対称型とは、上りと下りの通信速度が違
う接続方式である。これは、上りより下りが帯域を大きくとれることと、WWWの閲覧
などでは上りより下り方向のデータ量が多いことを反映したものだ。10社程が開発し
ており、上りは64Kbps~4Mbps、下りは8Mbps~30Mbpsのスピードになっている。こち
らの方式のケーブルモデルは現在実験段階で、これから実証されていくところだが、
将来的には安価に製造できそうである。
 こうして、ケーブルモデムはいろいろ出てきている訳だが、CATVに関してはさらに
別の問題が存在する。それは、CATV局にデータが集中するという問題である。CATVの
ケーブルモデムから先は、実はCATVの線が電話線の役割をするに過ぎない。データは、
CATV網を使って各家庭から局へ、局から各家庭へと伝わる。隣同士で通信しても一度
局を介してしまうのだ。つまり、全家庭の通信が局へ集中してしまうことになるのだ。
このため、CATV局の入り口がボトルネックとなり、結果的に遅くなることが予想され
る。
 つまり、どんなに理想的なケーブルモデムが登場しても、同時に多くの人に高速な
データ通信を提供できない可能性があるのだ。

●プロバイダーと比べて料金が安くなるのか?
----------------------------------------------------------------------------
 答えは「現状は安くはない。将来的には不明」である。もちろん、これには速度と
の兼ね合いがあるから、単純にノーとは言えない。たとえば、CATVの接続を512Kbps
の専用線と考えれば安くなるが、実際には後で述べるように専用線にはならないし、
512Kbpsのパフォーマンスが出るかも不明である。また、CATVのインターネット接続
サービス自身は安くなったとしても、実際にはCATVに加入するために数万円、高けれ
ば十万円を超す加入費や工事費が必要であったり、CATVの利用料金としてインターネ
ットとは別に月額数千円必要である。また、ケーブルモデムはCATV局が貸してくれる
がこれに接続するイーサカードは自分で用意する必要がある。
 こう考えると、来年開始されるOCNや安いプロバイダーと比較して格段に安いかと
いうのは疑問になる。
 加入金や工事費も考慮すると、安価に高速専用線接続とはいかないようだ。ただし、
将来的にどうなるかは不明である。競合商品が明らかになれば値下げされることも考
えられる。

●CATV端子につなぐだけで専用線接続が可能か?
----------------------------------------------------------------------------
 答えは「現状はできない場合が多い。将来は不明」である。現在一般家庭を含む大
規模な実験を行っている業者では、各家庭の端末にグローバルなIPアドレスを割り当
てず、プライベートIPアドレスを割り当てている。つまり、常時接続であるが外のイ
ンターネットからは各家庭の端末にIPアドレスで直接アクセスすることはできない。
つまり、CATVでつないでWWWサーバーを立ちあげたりすることはできないのだ。
 CATV局によっては、IPアドレスを割り当てるサービスを行っているところもあるが、
料金が非常に高額である。つまり、現在のCATV局では専用線接続をすることをあまり
考慮していない。このため、CATV経由でWWWサーバーを立ち上げるのは、現在のとこ
ろ実現できないようである。

●まだまだ夢には遠いCATV。現在各局が問題解決を模索
----------------------------------------------------------------------------
 ここで示したように、現在ケーブルモデムを使ったインターネット接続はいろいろ
解決すべき問題が多い。特に、コストとバンド幅の問題から本命と見られる「非対称
型」のケーブルモデムがまだ製品化していないことから、ケーブルモデムによるイン
ターネット接続を見合わせて、TSTB(Telephony Set Top Box、CATV網を電話線に変
換する装置)を使ってCATVを電話線ように使ったサービスを先行させるところも出て
きている。これを使うと現在利用中の普通のモデムがそのまま使える点で、現状のダ
イアルアップユーザーとの親和性が高いが、当然モデムの速度(28.8Kbps)しか出な
い。この場合、電話代はかからないことになる。この裏には、CATV業者のNTTと接続
して電話事業を展開しようという目論見がある。
 CATVによるインターネット接続も、夢を語る段階から次第に現実が見えるにつれ、
問題点も多いことが分かってきた。今後も、ウォッチ編集部では取材を続け各CATV局
の方向性などをレポートして行く予定だ。
[Reported by ken@impress.co.jp / uesugi@impress.co.jp / Watchers]

(96年6月10日)