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電子出版アワード2015、大賞は「Vivliostyle」、紙の本も電子書籍もワンソースで制作できるCSS組版ツール

一般社団法人日本電子出版協会(JEPA)は18日、「電子出版アワード 2015」の各部門賞および大賞を発表した。

(左から)日本電子出版協会広報委員長の生駒大壱氏、株式会社文藝春秋電子書籍編集部部長の吉永龍太氏、株式会社インプレスR&D取締役の福浦一広氏、日本電子出版協会会長の関戸雅男氏、株式会社ビブリオスタイル代表取締役社長の村上真雄氏、株式会社山と渓谷社の神谷浩之氏、株式会社ブランジスタ代表取締役社長の岩本恵了氏

同アワードは、日本の電子出版の育成・普及を目的にJEPAが2007年より実施しているもので、今年で9回目となる。選考委員会があらかじめノミネートした5部門/33作品の中から、一般およびJEPA会員企業によるウェブ投票で、各部門賞が選出された。また、アワードの表彰式にて、会員社および選考委員による投票で大賞が決定した。

賞名サービス/作品企業
デジタル・インフラ賞POD流通サービス株式会社インプレスR&D
スーパー・コンテンツ賞火花株式会社文藝春秋
エクセレント・サービス賞ヤマタイム株式会社山と渓谷社
チャレンジ・マインド賞旅色など株式会社ブランジスタ
エキサイティング・ツール賞Vivliostyle株式会社ビブリオスタイル
大賞Vivliostyle株式会社ビブリオスタイル

デジタル・インフラ賞は、電子出版のインフラとして大いに期待されるサービスを表彰する。「POD流通サービス」は、デジタルコンテンツを1部単位で印刷・製本するPOD出版の流通業務を代行するもので、Amazonや三省堂書店などのPODストアを通して、紙の本として購入することができる。表彰式に登壇した株式会社インプレスR&D取締役の福浦一広氏は、「PODは、紙と思われがちだが電子出版の1つの形」とし、出版社から始まったPODの取り扱いも、オンラインストアやリアル書店に波及しているという。今後は、出版社も読者も使えるハイブリッドタイプのPODサービスを目指すと述べた。

 スーパー・コンテンツ賞は、2015年に配信されたコンテンツの中から最も評価の高いものを表彰する。「火花」は又吉直樹氏による純文学小説で、2015年の芥川賞を受賞。紙は229万部、電子書籍では13万ダウンロードを記録した。登壇した株式会社文藝春秋電子書籍編集部部長の吉永龍太氏は、「文藝春秋でも初めてのダウンロード数で、電子書店では新たな読者層の獲得や過去最高の売上など、電子書籍にとっても意味のあるものになった」とした。一方で、紙の書籍の販売数からすると電子は6~7%と、文藝春秋でも一般的な数字であり、「納得はしていない」と言葉を引き締めた。

 エクセレント・サービス賞は、ユニークなアイデアを形にしたサービスを表彰する。「ヤマタイム」は、登山地図の閲覧や登山行程表の作成が行えるウェブサービス。コースタイムもユーザーごとにカスタマイズできる。株式会社山と渓谷社の神谷浩之氏によると、40年にわたって出版している「アルペンガイド」の電子化がサービス開発のきっかけだという。同社では、これまでに登山地図のスマートフォンアプリをリリースしており、そこでの知見と登山者目線からヤマタイムが生まれたとした。

 チャレンジ・マインド賞は、新しい試みを行う企業やサービスなどを表彰する。「旅色」は、女性をターゲットにした電子旅雑誌で、月間80万人以上の読者を抱えている。発行元の株式会社ブランジスタでは、旅色以外にも11誌(総読者数200万人)を電子のみで展開している。同社代表取締役社長の岩本恵了氏によると、iPadやKindleがまだ存在しない2007年にサービスをスタート。誌面のクオリティの高さから、普段電子書籍には出たがらない、日本を代表する女優や俳優など100名以上が誌面に登場しているという。岩本氏は、「来年もこういった賞をいただけるように尽力していきたい」と述べた。

 エキサイティング・ツール賞は、電子出版において注目すべきツールを表彰する。「Vivliostyle」は、ウェブのテクノロジーであるHTMLとCSSで組版を行い、紙用コンテンツと電子コンテンツを同時に作成できるCSS組版ツール。株式会社ビブリオスタイル代表取締役社長の村上真雄氏は、「世界中の人々が同じフォーマットで文章を読むことができるのがHTMLの良さだが、本を読む人が求める組版は綺麗に再現できない」とした上で、「電子書籍はHTMLとCSSの技術だが、それをベースに紙の本も制作できるなら、真のワンソースマルチユースが可能になる」と、CSS組版ツールの可能性を述べた。

(山川 晶之)