特集

2021年、ニューノーマル時代の記者会見の在り方とは?

【2021年度版 オンライン会見の手引き 前編】午前10時の会見はもはや定番

 ワクチン接種の広がりや、3回目の緊急事態宣言の解除などにより、世の中の動きは少しずつではあるが、かつての日常に向かいつつある。

 しかし、企業の広報活動やPR会社による広報支援活動は、オンライン会見を中心とした状況が、しばらく続きそうだ。

 コロナ禍における新たな形での広報活動に突入してから1年以上を経過し、広報部門やPR会社も、かつては皆無だったオンライン会見の開催にも慣れてきたところだが、やはり対面で発信したり、実際に製品を見てもらいたいという気持ちが強く、この1年間は常にリアルの会見の実施を模索した。

 パナソニックは、5月10日に開催した2020年度決算会見を、ぎりぎりまで、リアルとオンラインのハイブリッドで実施しようと考えた。6月に会長に就く津賀一宏氏にとっては、社長として最後の会見。9年間というパナソニックの社長在任期間は、創業家を除くと歴代最長だ。社長としての最後の会見は、広報や記者も、対面で行いたいという気持ちは強かったが、結果としては、4月25日に東京都などに緊急事態宣言が発令されたことで、完全オンラインで開催した。こうした事例は、この1年間で多くの企業で見られている。

パナソニックの決算会見はオンラインだけで行われた。右は津賀一宏社長

 2021年5月の1カ月間を振り返ると、IT・エレクトロニクス業界においては、地方都市での会見など、一部はリアルで行われることもあったが、都内で行われるものは、ほぼ100%がオンラインでの開催であった。

 そのせいもあってか、広報担当者やPR会社から、メールや電話で、オンライン会見に関する意見を求められることが改めて増えた。この背景には、すべての会見がオンラインにならざるを得ない状況が6月20日までは続いたこと、そして、今後もオンライン会見が発信の中心となる状況が続くと想定されること、また、オンライン会見での発信が1年以上続き、その手法を改めて棚卸ししたいという意味もあったようだ。

 本誌では、昨年2月27日『新型コロナウイルス対策、各社の「記者会見」はどう対応しているのか?』、3月13日『「新型コロナのある社会」に適応しつつある「記者会見」の現場事情、「増えるオンライン会見」で変わるものとは?』、そして4月7日『定着してきた「オンライン記者会見」、新型コロナ禍1ヵ月で見えてきた工夫と課題』 と、早い段階で、IT・エレクトロニクス業界におけるオンライン会見の状況についてレポートした。今回は、それから1年以上を経過したいま、2021年度版として、最新のオンライン会見事情を改めてレポートすることにした。その内容は、今回と次回の渡ってお伝えする。主に企業広報やPR会社の担当者向けの内容だと思ってもらいたい。また、これは筆者の置かれた立場での状況や、それをもとにした見解であり、それぞれの記者や編集部は、異なる状況にあることも先に述べておきたい。

オンライン会見は前年の1.5倍に

 最近、編集部や記者同士の会話でよく聞かれるのが、「会見の数が増えすぎている」というものだ。筆者自身もそれは強く感じている。

 そこで手元の手帳をひっくり返してみてびっくりした。

 2021年5月に行われたIT・エレクトロニクス業界の記者会見やイベントの数は、なんと110件にも達した。5月は、決算発表があったり、海外企業のイベントが集中する時期でもあるが、この数は、例年に比べても多い。

 実際、1回目の緊急事態宣言が発令された2020年5月は月間71件。IT・エレクトロニクス業界は、オンライン会見への移行が早く、その時点でも多くの企業がオンライン会見を行っていたが、それと比べても、いまは1.5倍の数になっている。

 念のために、リアルだけで会見が行われていた2019年5月を集計したところ、1カ月で89件の記者会見およびイベントが開催されていた。これと比べても、いまは1.2倍を超える件数になっている。

 このように記者会見の数は、明らかに増えているのだ。

 5月はゴールデンウイークがあるため、通常月よりも稼働日数が少ない。2021年5月の場合は、18日間が稼働日だったが、1日に平均すると6.1件。これも、2020年5月の4.2件、2019年5月の4.7件よりも遥かに多い。

 しかも、今年に入ってから、1日に10件を超える会見が集中することが相次いでいる。水曜日や木曜日にこの傾向が高いのだが、振り返ってみると、2月25日(木曜日)には13件、4月21日にも13件もの会見が集中した。

 もちろん、すべての会見に出席できるわけではない。また、会見に参加するだけで仕事が完結するわけではなく、当然、記事を執筆する時間も取らなくてはならない。そして、単独取材も加わり、会見後の補足取材を行う場合もある。さらに、筆者が「情報収集」と称しているオンライン飲み会を含めると、なんだかんだと平均して1日に1件はこうした個別取材が入ることになる。また、会見の数以上のニュースリリースがメールで届いており、それに目を通す必要もある。

 それでも、なるべく多くの会見に参加しようと考えている。移動時間がなくなった分、効率的に参加できるため、以前よりも多くの会見には参加できるようになっているのはオンライン会見による恩恵だといえる。

 だが、これが意外な課題を生んでいる。

 先日、複数のIT系ライターとオンライン飲み会を行った際、異口同音に聞かれたのが、「参加する会見は増えているが、同時に、参加しながらも記事を書かない会見が増えている」ということだった。

 参加しても、記事を書かない会見が増えているのには、2つの理由がある。ひとつは、ライター側の仕事が追いつかないという点だ。いくら会見への参加がオンラインによって効率化されているとはいえ、書ける量には限界がある。会見の数が1.5倍に増えているからといって、書ける量が1.5倍になるとはいえないのだ。むしろ、その分、「書けない会見」が増えているという構図だ。

 もうひとつは、会見の内容の問題だ。ある媒体の編集長は、「会見をするほどの内容ではないものが増加している」と指摘する。これは筆者も同感だ。

 新製品としての魅力が薄いものを取り上げたり、特筆できるトピックがないまま、単なる製品説明に終始したり、勉強会と称して、過去の製品の説明を繰り返したりといった内容も増えている。こうした勉強会形式のオンライン会見は、広報も開催しやすい。なかには3回連続といったシリーズ企画を用意する場合もある。これが会見の増加の一因になっている。

 だが、こうした会見の繰り返しは、記者と広報の信頼関係を壊すことにもつながる。実際、編集部とのやりとりでは、「〇〇社の会見は、あまり記事にならないから、今回の会見はパスしましょう」ということが結構あるのだ。これは複数の編集部で発生しているやりとりだ。

 増加する会見に対して、なるべく多くをカバーするというやり方だったものが、ニュース性があるトピックス、読者に伝えたいトピックスをこれまで以上に厳しく吟味するという状況が編集部側に生まれている。

 オンライン化したことで、会見が開催される数は増加し、記者が参加できる会見の数も増加しているが、記事化される記事の数は、それに比例しているわけではなく、そのギャップが大きくなっているというのが現状だといっていい。企業側も会見の「乱発」という傾向を、一度見直してみる必要があるのではないか。

オンライン会見での定番ツールは?

 2021年5月の会見状況を集計してみたついでに、オンライン会見でどんなツールが利用されているのかを調べてみた。

コミュニケーションツール別シェア

 110件の会見のうち、イベント取材や、出席の返事をしなかったため、使われているツールが不明だった分などを除いた85件の会見を対象に集計して見ると、最も多かったのがZoomで43件。シェアは50.5%に達した。オンライン会見のツールとしては、定番ともいえる状況になっている。会見に参加する記者も慣れており、会見の発言者のキャプチャーが撮りやすいという点でも好評だ。

 2位となったのがMicrosoft Teamsで20件。シェアは23.5%となった。これも、よく使われているツールという印象がある。

 3位は大きく離れてYouTubeの6件。画像をきれいに見せたい会見などで多用されており、質疑応答の時間帯は別のツールを使って行うケースもみられている。

 4位はWebexの5件。開発元のシスコシステムズのほか、日本IBMやアップルなど、自社のインフラとしてこれを利用している企業が会見や説明会で利用している。

 5位以下は、Amazon ChimeやGoogle Meet、LINC Biz(シャープ)などが続くが、いずれも開発元が、それぞれの会見で利用しているという状況だ。また、アドビがBlueJeans、パナソニックがコクリポを利用しており、これらの企業の会見の回数が増えれば、それらのツールの利用シェアが増加する。ちなみに、パナソニックは、本社広報部門が開催する会見はコクリポだが、各カンパニーが主催する会見では、ZoomやTeamsも利用されている。

オンライン会見で増えた開催時間は?

 オンライン会見が主流になったことは、まさに、ニューノーマル時代の会見スタイルが定着した証だが、そのなかでオンライン会見だからこそ、実現されている新たな会見のスタイルがいくつかある。

 ひとつめは、記者会見の開催時間の変化だ。

 リアルの記者会見だけだったときには、午前中に実施される場合は、午前11時スタートがほとんどだった。たまにイベントの基調講演の取材などでは午前10時になったり、午前10時30分になったりということはあっても、それは月に数回だった。

 だが、オンライン会見では、状況が一変している。

 110件のなかから、海外イベントのため、日本時間の深夜0時や午後10時にスタートしたものなどを除いた105件の会見のうち、午前中に開催された会見は51件。半分近くを占めた。

 そして、午前開催の51件の内訳をみると、リアルの会見では圧倒的だった午前11時スタートが25件と約半分に留まり、午前10時スタートがそれに迫る21件となっているのだ。午後1時開始の20件を上回り、いまや一日に開催される会見全体の2割が午前10時スタートになっている。これはこの1年での大きな変化であり、もはや午前10時スタートは定番の時間帯となっている。移動時間がないため、記者が参加できる時間帯として、新たに定着したわけだ。

2021年5月開始時間帯別会見数

 実は、午前9時開始の会見も月に数回ある。まさにこれは、以前は皆無だった時間帯だ。これを実施しているのは、主に外資系IT企業である。5月も午前9時スタートの会見が4本、そして、午前8時30分スタートの会見も1件あった。

 というのも、日本時間の午前9時は、米国西海岸であれば、いまのサマータイムでも前日の午後5時。サマータイム期間でなければ午後4時である。シリコンバレーに本社を置く企業にとっては、通常の勤務時間帯であり、本社のCEOやCIOを、オンラインで参加させることができるのだ。これは記者側にもメリットがある。本社のトップに直接質問ができる機会が得られるからだ。オンライン会見以前にはなかったことが実現されている事例のひとつだ。

 これは逆の使い道もある。ソニーグループは、5月26日午前9時から、吉田憲一郎会長兼社長兼CEOによる2021年度経営方針説明会を開催した。前年度の経営方針説明会は午後4時から行われていたのだが、今年は開始時間を大きく変更した。

 同社によると、この説明会を、午前9時から開始したのは、日本のメディアやアナリストに加えて、米国の投資家やメディアがリアルタイムで参加できることを想定したからだという。グローバル企業のソニーらしい対応だ。

 午前9時の記者会見スタートは、オンライン会見によって始まった新たなスタイルだといえる。

ソニーグループの2021年度経営方針説明会は午前9時から開催された

決算発表以外の夕方の会見は激減

 ちなみに、5月の場合は、東証の株取引が終了した午後3時以降に設定されることが多い「決算会見」が何件も含まれていたため、いつもの月よりは、午後の会見比率が高かった。実際、3月、4月を振り返ってみると、午前中への集中傾向が高く、午後3時以降に設定される会見は、週に1、2件しかなかった。ここにもニューノーマルの働き方が作用している。

 ある電機大手の広報担当者は、「日刊紙や通信社も、社内での働き方改革について口うるさく言われているようで、記事を執筆する時間を考えると、午後3時以降の会見はやめてほしいという非公式な申し入れがあった」と明かす。また、オンライン配信向けの原稿の締め切り時間が夕方に設定されているため、それにあわせて午前中に会見が増加している点も見逃せない。

 もちろん、緊急会見などでは午後6時スタートもあるし、6月10日に行われた東芝の株主総会に関する弁護士調査報告書の会見は、午後7時にスタートし、午後9時近くにまで及んだ。また、日刊紙の経済部記者は、夜討ち朝駆けは、いまでも実行している。だが、これまでにはなかった夕方近くの会見時間の設定を控えてほしいという要望が出ていることは、時代の変化ともいえる。

 少し余談になるが、ある大手企業の役員とオンライン飲み会を行っていたときのこと。日刊紙の記者が夜回りにやってきて、役員はインターホン越しに対応することになった。PCを置いてある部屋に、夜回り対応用のインターホンがあったため、しばし中断とはなったものの、その役員が、PCのマイクをオフにしなかったことで、夜回りの記者とのやりとりは、オンライン飲み会に参加していた記者全員に筒抜け。夜回りの記者も、そのやり取りが他紙の記者に聞かれていたとは思いもしなかっただろう。こんなところにも、オンライン時代の新たな注意点がある。

50分開催はオンライン時代の新常識になるか?

 2つめは、記者会見を50分間で行う企業が増加している点だ。

 会見通知では、パナソニック、日本IBM、富士通、デル・テクノロジーズ、SAPジャパン、サイボウズ、オートデスク、エクイニクス、Arm、パロアルトネットワークスなどが、質疑応答を含めて50~55分間で会見を設定。5月に行われたアクセンチュアと資生堂の共同会見、ソニーと川崎重工の共同会見も50分間の設定で行われた。2021年6月からは、日本マイクロソフトも、50分間で会見を行うことにしている。

 過去には50分間で記者会見時間を設定している企業は1社もなかった。これも、まさにニューノーマル時代の会見スタイルだといえる。

 これまでは多くの企業が1時間での会見を設定していたが、それは、リアルの会見に最適化した時間設定であった。

 先にも触れたように、会見の数は大幅に増加している。そして、物理的な移動がない分、効率的に会見に参加できるようになっている。

 たとえば、午後1時、午後2時、午後3時と続けて会見が設定されていたとしよう。

リアルの会見であれば、午後1時の会見に出席した場合には、午後2時の会見への出席は諦めて、午後3時の会見に出席することになる。午後1時の会見が午後2時に終わったあと、しばらく囲み取材(ぶら下がり)に時間を取ったとしても、都内であれば、移動しても、間違いなく午後3時の会見には出席できた。1時間という時間設定で、問題なく次の目的の会見には参加できたのだ。

 ただ、午後2時の会見を諦めたり、逆に午後2時の会見が重要であれば、午後1時と午後3時の会見への出席は、残念ながら諦めていたという状況だったのだ。

 しかし、オンライン会見になった場合、記者の立場からすれば状況は一変する。

 1カ所からオンラインで接続するだけなので、午後1時の会見のあとに、午後2時の会見に出席し、さらに、午後3時の会見にも出席できるからだ。

 その際に記者にとってありがたいのが、50分間の会見時間となる。隙間の10分間が、次の会見への移動や、コーヒーの補充、トイレタイムにもなる。

 一日平均で6.1件の会見があり、なかには一日13件も集中する日がある。会見は、どんな時間に設定しても、他社の会見時間とつながっていると想定した方がいいし、実際、そうなっている。また、会見だけでなく、個別取材や打ち合わせなども、だいたい毎時00分のスタートで設定されることが多い。50分で終わると、それらのスケジュールをこなすにも有効だ。

 ニューノーマル時代になって、50分間という時間設定で会見を行っている企業は、新たな時代の記者会見の姿を理解しているともいえ、過去の会見のやり方を単に踏襲することだけを考えずに工夫を凝らしている企業だといえるだろう。

 ちなみに、マイクロソフトが4月に発表した研究結果によると、1日4回、30分間ずつの会議の合間に10分間の休憩を入れると、連続して2時間会議を4回行った場合に比べて、ストレスの蓄積が抑制され、会議への集中力とエンゲージメント力が高まることがわかったという。

 また同社では、「会議が終わりに近づくと、すぐに次の会議が始まることがわかっているため、ギアを入れ替えて、別のことを必死で考えることに頭を使うようになる。そして、休憩がなく、新しい会議に入った時に、ストレスが急上昇していることがわかった」と報告している。

 記者のウェルビーイングと効率化を考えるのであれば、ぜひ50分間での会見時間の設定を検討してほしい。

マイクロソフトの研究結果。合間に10分間の休憩を入れるとストレスの蓄積が抑制される

オンライン会見の増加とともに増えたものとは?

 そして、3つめの変化は、オンライン会見の広がりとともに、会見への参加申し込み手続きが徹底されてきたという変化だ。

 リアルの会見のときには、会見通知が来ても、それにはほとんど出欠の返事をせずに、当日、参加するというスタイルだった。企業の広報部門からも、PR会社からも、約30年間に渡って、それで文句を言われたことは一度もなかったので、筆者だけの不良行為ではなく、むしろそれが普通だったと理解している。

 だが、オンライン会見になって大きく変わった。

 オンライン会見に出席するためには、事前に申し込みを行い、その手続きをした記者にだけ、参加用のURLが送られてくるからだ。

 そこで新たに発生するのが、事前登録の作業だ。これも各社様々だ。

 日本IBMやNEC、ソフトバンクやKDDIでは、最初の会見通知の時点で、参加用URLが表示されており、参加申し込みも不要だが、それはむしろ少数派だ。

 申し込み方法は、メールで返信するもの、フォームに記入するものに分かれ、記入項目も各社で異なる。名前、メールアドレス、メールアドレスの再確認、会社名、部署名、媒体名、役職、郵便番号、住所、携帯電話番号、固定電話番号、そして、オンライン会見の際にいったい何に利用するのかと思うようなFAX番号(日刊紙ではまだFAXを重用していると背景もあるようだが)まで、記入させる企業もある。フォームに書き込む方が若干楽であり、すぐに受付が完了した旨の返信が自動で届くから安心だ。いずれにしろ、登録に伴う入力は、結構な手間だ。

会見の登録にこれだけの項目が必要なのか
会見への登録画面例。Googleフォームで作られたもので入力はしやすいが項目が多い

 だがその一方で、最低限の項目だけで済ませる企業もある。

 潔いのはパナソニックである。フォームに記入するのはメールアドレスと名前だけ。会社名や媒体名すら書かなくていい。しかも一度登録したあとには、次回会見の際にも、フォームには履歴が残っているので、マウスをクリックするだけで登録作業が完了する。これは、製品発表だけでなく、4月にCEOに就任した楠見雄規氏の初のオンライン会見ですら、この2項目だけの入力だけで済んだ。

パナソニックの登録画面は2項目だけ。履歴があるクリックだけで済む

 筆者の場合、5月を例にすれば、稼働した18日間のために申し込んだ会見は85件。参加できなくても、資料をもらうために登録手続きを行うものもある。1日平均4.7件の計算だ。オフィスで毎日4.7件の会議があり、それぞれの会議に参加するために、すべてに細かい登録手続きをしているのと一緒の作業量だ。これがずっと続くことを考えると、1年間では、かなりの手間になる。計算すれば年間1000件以上の登録をしなくてはならないことになるからだ。この作業を何とか減らしたいというのが本音だ。

 一方で、筆者が登録時に気をつけていることがある。それは、通知が来たら、なるべく早く登録することだ。広報担当者からは、「今回の登録は一番でした!」といったお礼のメールが来ることもあるが、これは1番を狙ってやっているものではない。

 広報担当者と話してみると、会見通知を出したものの、設定した申し込みフォームがしっかりと稼働しているのかが、割と不安になっていることがわかった。また、会見通知にどれぐらいの人が反応してくれるのかといった不安もあるようだ。「早めに返事をしてくれた方が安心だ」という広報担当者の声を聞き、どうせ申し込むのならば、早めに申し込もうと決めたのだ。ただ、その分、申し込んでおいたのに、ほかの会見と重なり、結果として当日参加できなくなるということも発生しやすいのは事実だ。

 また、すぐに申し込みをするという作業を心掛けていても、原稿執筆や取材に追いまくられていると、登録を忘れてしまうことも結構ある。会見当日の朝になって、URLが届いていないことに焦りながら、「すみません、登録し忘れていました」とメールを送り、すぐに対応してもらったということは、いまでも月に1、2度はあるというのが実情だ。

 正直なところ、これだけの数の登録をしていると、どの会見の登録が完了していて、どの会見に登録していなかったのかといったことの管理ができない。すぐに参加URLが送られてくる場合もあれば、2週間後の会見当日になってようやく送られてくるものもある。そのため、会見通知が再送されてきた場合も、すぐに登録することにしている。再送メールを送る側も、未登録の記者にだけ送信するということは少なく、全員に再送していることが多いようで、結果として二重登録になっていたりするのだが、当日朝にバタバタして、迷惑をかけるよりはいいと思っている。

秘密保持契約書もお手軽に!

 新製品発表前の事前説明会では、NDA(秘密保持契約)を結ぶ場合もある。ここにもいくつかの企業はニューノーマル時代ならではの新たな手法を用いている。
 もともと秘密保持契約書のやりとりは、手書きで名前や住所、媒体名、責任者名などを記入し、押印したものをメールに添付して事前に送ったり、事前説明会を行う現場でサインをしたりといったことが普通だった。いまでもこの手法を踏襲し、企業側がPDFの秘密保持契約書をメールで送り、そこに記入させ、押印したものをPDF化して、それを返送させるという企業が多い。契約書の内容が長く2枚に及ぶ場合もあり、プリントアウトやスキャンなど、その作業はかなり手間である。

 だが、一部企業では、事前説明会への参加申し込み項目とともに、秘密保持契約書を画面に表示し、それを最後までスクロールすれば、「秘密保持契約に同意する」という文字が有効になり、そこをクリックするだけで完了するという仕組みを用いている。

 これは、Windows 10を初めて利用する際に、画面上に、「Windows 10使用許諾契約」が表示され、それをスクロールしたあとに「同意」というボタンを押したり、iPhoneでiOSのアップデート時に表示される「利用規約」を読み、あとは「同意する」というボタンを押したりすればいいのと同じだ。

 これはかなり作業が効率化される。ニューノーマル時代のNDAの手続きの仕方として、定着してもらいたいもののひとつだ。

秘密保持契約に同意するだけをクリックすればいい

最適な資料配布のタイミングはいつ?

 ニュースリリースや資料の配布時間も、新たな形に移行しつつある。

 リアルの会見では、製品発表などの場合は、会見場に入った時点で資料が手渡されたり、記者席に置かれたりしており、開始10分前に着席すれば、そこで資料を確認できるようになっていた。そのため、開始15分前には、早めに内容を確認しておきたいと考える「いつもの」記者たちの顔が会見場受付に揃うことが多かった。

 また、緊急会見や決算会見などは、定刻に資料が配布される。時間になったことを確認して、広報担当者が、資料が入った封筒を順番に配布したり、少しでも早い資料の配布が求められるような会見の場合には、記者席の端に座った人が、自分の分を取って残りを隣の人に手渡して、すべての記者に短時間に渡すといったことも行われる。この場合、司会者が全員に資料が渡ったことを確認してから会見がスタートすることになる。

 では、オンライン会見になって、ニュースリリースの配布方法はどう変わったのだろうか。

 これはいくつかの方法に分かれている。

 記者の立場から一番ありがたいのが、定刻での発表という縛りがなければ、会見30分前から1時間前に資料がダウンロードできる状態になっていることだ。これは、かなり多くの企業が採用しており、現在の定番となっている。

 会見が開始される前に資料を入手することは、リアルの会見の時に、机の上に置かれた資料を事前に確認するのと同じ状況が生まれ、会見のポイントもあらかじめ確認できる。

 筆者の場合、会見に参加するPCと、資料を表示し、原稿を書くPCを別にしている。資料を表示できる体制を整えた上で、会見に参加できる準備の時間が確保できるという点でもありがたい。

 ただ、これだけ記者会見の数が増えている状況だけに、午前9時ぐらいの段階で、その日の午前中の会見資料ぐらいは全部揃っているとありがたいのが本音だ。午前10時の会見に参加しているときに、午前11時から始まる会見の資料はダウンロードしにくいといったことが起こるからだ。

 ちなみに、筆者の場合、毎日、午前8時過ぎぐらいには、その日のオンライン会見のURLをPCに全て設定する。この時点で、URLがないと、申し込みし忘れたと大慌てで、広報やPR会社にメールをするのだが、なかには、会見開始10分ぐらい前になって、ようやく参加用のURLを送信してくる企業もあり、それを忘れて朝から慌てたり、ほかの会見に出ている最中に、次の会見に出るための設定作業を行わざるを得なくなる。

 ニュースリリースの配布のタイミングで一番困るのは、半日後や1日後に送られてくるという場合だ。オンライン会見が増えてから、そうしたことが意外にも増えている。紙で資料を配布していたリアルの会見場ではまったくなかったことだ。一般的なウェブセミナーと同じような感覚で、後日送りますという発想が、広報活動に慣れていない一部の企業にはあるようで、これはなんとかやめてもらいたいもののひとつだといえる。

 会見から半日後にニュースリリースが送られてきても、すでに原稿が書きあがっている場合も多く、その時点では役に立たないことが多い。

 もし、製品発表などで、会見場に資料が用意されていなかったら、多くの記者がクレームを入れるだろう。それと同じで、ここは、従来のやり方を踏襲してほしい部分だ。

 会見終了直後に、ニュースリリースや資料を配布するのも、記者の立場からしてみれば、できれば止めてもらいたいタイミングのひとつだ。

 これは個人的に感じていることだが、新たな製品名や技術、方針を打ち出す際には、耳慣れない言葉も多く、会見が始まる時点で資料が手元にあった方が記者も理解しやすく、結果として、質問も出やすいようだ。実際、「なんとかテクノロジーといっていましたが…」と、手元に資料がないために正しい固有名詞がわからず、記者の質問があやふやになっていたケースは、この1年で何度となくあった。

 また、リアルの会見では、サプライズを演出するために、ネタバレしてしまうような資料は、会見終了後に配布するというものもあったが、その意図が、もし記者の驚きの反応を見るものだとすれば、オンライン会見では、画像、音声もオフにすることが基本のため、反応を見られずに意味がない。サプライズ演出を目的に、資料を後から配布するというのは、オンライン会見ではやらない方がいいだろう。

記者が困る資料配布のタイミングとは?

 もうひとつ困るタイミングがある。それは、会見開始時にあわせた資料配布だ。

 目立つのが会見開始とともに、「チャット欄に掲載したURLから資料をダウンロードしてください」というアナウンスがあったり、開始時間にあわせて、「いま、みなさんのメールに、資料ダウンロード用のURLを送信しました」といったケースだ。この通知を受けて、記者たちはダウンロードの作業を開始するわけだが、その最中も、当然ながら会見は止まることなく、着々と進行している。会見場では資料の配布が終わるまでスタートを待ってくれたのに、オンライン会見ではダウンロードが終わるまでは待ってはくれないのだ。

 とくに、ハイブリッド会見の場合には、向こう(会見場)の記者には資料があるのに、こっち(オンライン会見)には資料がないという差も生まれることにもなる。

 会見開始時に資料を配布すれば、オンライン参加している記者側ではどんなことが起こっているかは容易に想像がつくはずだ。

 会見の冒頭には社長だったり、事業専任を持つ役員らがコメントすることが多い。そこではその製品が企業にとってどんな意味があるのか、事業戦略にとってどれぐらいの重みがあるのか、そして、市場に対するインパクトはどれぐらいなのかといったことが示される。つまり、経営層からの重要なコメントが発信されるタイミングである。

 それにも関わらず、オンラインの向こうにいる記者たちは、必死になって資料のダウンロード作業をしていることになる。しかも、そうした場合に限って、資料が複数のフォルダーに分散して保存されていて、作業が煩雑だったりするから厄介だ。ましてや、それぞれのフォルダーにパスワードがかかっていたりしたら最悪だ。その作業が終わったときには、経営トップの発言時間は終わっていることにもなりかねない。

 これをリアルの会場に置き換えてみると、冒頭の社長発言の最中に、広報担当者がワサワサと資料を配布し、記者は、社長の発言そっちのけで配布された資料に目をやっているという状況と同じだ。

 もし、広報部門の担当者が、経営トップのコメントをしっかりと聞いてもらいたいと思うのならば、会見開始時間にあわせた資料配布だけは避けるべきである。

 前編は、オンライン会見の現状などについてお伝えした。後編では、オンライン会見の成功事例や失敗事例のほか、記者の立場から見たオンライン会見への要望、成功するオンライン会見のヒントなどをまとめてみたい。