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【インタビュー】

「近々大手家電メーカーとの提携を発表」
Liquid Audio社副社長に戦略を聞く

■URL
http://www.liquidaudio.com/

Robert Flynn  メジャーレコード会社の参入も相次ぎ、ますます脚光を浴びているインターネット上の音楽配信。本誌でも取り上げる機会は多いが、数ある関連企業の中でも最近もっとも活発な動きを見せ注目を浴びているのが米Liquid Audio社だ。

 Liquid Audioは、'96年にインターネット上での音楽配信を目的に設立された会社。'99年7月には株式を公開し、その後も成長を続けている。現在、米国本社では約140名が在籍しているほか、日本法人(リキッドオーディオ・ジャパン)も設立している。

 Liquid Audioでは、Dolby Digital圧縮方式を採用した「Liquid Audioフォーマット」やAAC、MP3によりCD並みの音楽を配信する。RSA暗号鍵による音楽データの暗号化、電子透かしによる著作権侵害防止策といった特徴により、大手レコード会社が音楽配信システムとしての採用を表明している。また、音楽配信システムとホスティングサービスを組み合わせた「Liquid Audio Music Network」では、オンラインミュージックの「流通」を提供している。

 今回は、Senior Vice President of Business DevelopmentであるRobert Flynn氏にLiquid Audioの今後の戦略について聞いてみた。


ウォッチ編集部(以下:Q): まず、Liquid Audioのサービス、ビジネスモデルについて教えてください。

Robert Flynn氏(以下:RF):現在のサービスは3つに分かれます。コンテンツ提供者に対して、音楽を配信するための準備を提供すること。2つめは、ネットワーク上で音楽を配信する技術を各Webサイトに提供すること。3つ目は一般消費者を対象に音楽を提供すること。この3つがサービスの柱です。我々は流通に関する料金(fee)を集めることができるビジネスモデルを持っている。例えば、サービスの料金、ホスティングの料金など、それぞれの分野でひとまとめにして流通の料金としてチャージすることができます。

 今、28,000のトラックがLiquid Music Networkに登録されていて、今年のクリスマスシーズンまでに60,000トラックになる予定です。すでに契約は済んでおり現在エンコーディングを進めている最中です。Liquid Music Networkには約250の関連Webサイトがあって、そのサイトからもLiquid Music Networkに登録されている音楽を聴くことができます。また、「RIFF(Remort Inventry Fullfilment System)」というシステムにより、Amazon.com、CDnowなど提携小売店がLiquid Music Networkに登録されている音楽を販売することもできます。ほかにはIBMのシステムやAT&Tの「a2b」などがありますが、テクノロジーの一部、コンポーネントを提供しているに過ぎません。またMP3.comは単なるポータルサイトで完璧なシステムとは言えません。我々はこの分野で先をいっています。Liquidは完璧なシステムを提供している唯一の会社だと思います。

 Liquid Audioは、設立以来、音楽関係のECを発展させるということを使命として持っています。しかし、今の段階になってビジネスモデルがマーケットの環境に合わせて変わりつつあります。今までだとクライアント/サーバーの提供という位置づけでビジネスを始めてきましたが、これからはソフトウェアの会社というよりも、音楽を流通させるビジネスといった方向に動いていっています。

Q:各レコード会社との関係は現状でどうなっているのでしょう。また、今後はどうなるのでしょうか。

RFEMIレコードとは、コンテンツについて世界規模でエンコードする契約に至っています。EMIとの提携の内容は、第一期はコンテンツをすべてエンコードすることで、それ以降は配信に進む可能性があります。ほかには、Warner Bros.、Atlantic、Captalとも提携しています。先日も話題になりましたが、David Bowieのフルアルバムをダウンロードするのはこの市場で初めてです。また、先日行なったTori Amosのダウンロードサービスについては、Warner Brosから数字を出さないでくれと言われているので数は言えませんが、Warnerは非常にハッピーだと言っているので結果は非常によかったはずです。

 現在エンコードしている内容は米国市場向けものですが、これから同じような形で日本やヨーロッパでも提供するはずです。国別の配信条件については、コンテンツの所有者のリクエストによって埋め込むことができます。例えば、この国ではダウンロードできないようにと設定したりとか。これはストリーミングにも設定できます。

Q:家電メーカーとの提携について

RF:新しい提携先はどんどん増えています。最近では、三洋電気が携帯端末でLiquidを使うことを表明しています。

 大手の家電メーカーは非常に積極的で、これからほかにも新たな発表があると思います。日本の大手の家電メーカーのほとんどがLiquidに積極的にアプローチしてきているので、近い将来、詳しくは言えませんが、そういった会社との共同声明を大々的に出せると思います。

Q:SDMIに関してはどういった取り組みをされているのでしょう

RF:SDMIの使命は、1つの会社やフォーマット選ぶというものではなく、いろいろなフォーマットが出てきます。まず、SDMIの仕様に基づいた最初のものを発表したのは当社であるし、MP3やRealなど違う形態のフォーマットもサポートしています。今後いろんなフォーマットが出てこようと我々はサポートします。なお、現在、WMAのフォーマットファイルはMicrosoft社以外には公開されていないためサポートしていませんが、今年中には公開されると思うのでそのときには対応する予定です。Microsoftの意向しだいということで、特に採用しないという姿勢ではありません。

 Liquid Audioの技術に配信された音楽を携帯機器に移動させるためのプロトコル「SP3」というのがありますが、これも、SDMIの仕様とコンパチブルです。SDMIの仕様が発表される1年前から開発を進めていました。その時点で8、9割方終わっていたので、SDMIが発表した直後にSanDisk、Texas Instrumentsと共同開発の発表を即座にすることができました。

 先日、SDMIがARIS社の電子透かしを採用すると発表しましたが、ARIS社の電子透かしは我々のものと比べ非常にシンプルです。それは、携帯機器にファイルを移す場合に、トリガーとして、「YES」か「NO」を判断するだけの機能ですが、我々の技術は、それ以上にコンテンツの所有者情報やトランザクションの記録が残ったり、コンテンツ購入者のプロフィールなどコンテンツ所有者の希望によってさまざまな情報を埋め込むことができます。ARIS社の技術は、SDMIの「Phase 1」に対応したもので、今後、第2期、3期と進めばそれぞれに必要な仕様というものがでてくると思います。

Q:日本市場についてはどう捉えていますか? 現在インターネット上の音楽配信に関する著作権使用料も確定していない状況なんですが。

RF:JASRACや日本レコード協会などがはっきりしていないということは把握しています。しかし、レコード会社やコンテンツ所有者が積極的ということもあるので今年中には動きがとれる状況にあると思います。市場としてはひょっとして米国より魅力的かもしれない。日本の方が米国より速い動きで市場が立ち上がってしまうのではないかと思ってます。というのも日本のビジネスというのは、いったん足並みが揃えば、非常な勢いで市場を作ってしまいます。流行という訳ではありませんがすごい勢いで進んでいくのではないかと思っています。

Q:将来、デジタルダウンロードと既存のCDセールスの割合がひっくり返ることがあると思いますか。

RF:デジタルダウンロード販売が通常のCD販売に取って代わるという時期はこないと思います。とにかく両方のフォーマットが平行していくと思います。

Q:デジタルダウンロードがメインになると言われると思っていたのですが。理由は何ですか。

RF:消費者というのは実際手に持ってショッピングするという楽しみがある訳で、このビジネスをやってるからすべてがデジタル配信になれば喜ばしい事なんだけれども、個人として考えた場合、ショッピングの楽しみがなくなるということは非常に寂しいです。1人の人間としてはそうなって欲しくない。そういう人間がたくさんいると思うのでデジタル配信がすべてになるとは思わない。特にビジネスに携わってきた人間として25%か、それ以上がデジタル配信に変わってしまうというのは早い時期には来ないと思う。

Q:ありがとうございました。


まとめ

 Robert Flynn氏は、「多くの大手企業が参入声明を出しているが、それらの企業と違うのは、Liquid Audioの設立者のほとんどが音楽分野の出身という点」と語っている。また「音質的なクオリティや、音楽を配信する際に、音だけでなくイメージや歌詞など音楽家が必要とするものの大切さなど、ミュージシャンの見地に立ったものを大切にしている」としている。その将来性から、多くの企業の参入が予測される市場だが、設立3年あまりのこの会社がどこまで成長するか注目だ。

('99/9/3)

[Reported by okiyama@impress.co.jp / kokubu@impress.co.jp]


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ウォッチ編集部INTERNET Watch担当internet-watch-info@impress.co.jp