東京証券取引所は29日、11月11日から施行される新取引市場「マザーズ」の説明会を行なった。新興企業向け市場を意味する「Market of the high-growth and emerging stocks」の頭文字をとり、「Mothers」とネーミングしている。
説明会冒頭に挨拶した山口光秀東証理事長は、マザーズについて「既成概念に捕われない新市場で、既存の1部、2部市場と並立する東証の基幹市場のひとつと位置付けている」と語った。これまでのような、2部や1部市場へのステップアップのための市場とは位置付けていないというわけだ。
マザーズの目的は、高い成長性が見込まれる新興市場の資金調達を円滑にし、新しい産業の育成を支援すること。そして、迅速性、流動性、新規性、透明性で4つの特徴を有しているという。
迅速性では、過去の実勢を問うような基準はなくし、会社設立からの経過年数は問わず赤字企業でも上場が可能になった。上場審査期間も従来の約3ヶ月から約1ヶ月に短縮。審査のポイントは、企業内容とリスク情報の適切開示に重点をおく。流動性では、1,000単位以上の公募(例えば5万円額面で単位制をとっていなければ1000株以上発行)、株主数300人以上、上場時の時価総額5億円以上と定め、流動性を確保するかまえ。新規性では、次世代を担う高い成長の可能性を有する企業として、幹事証券がこの旨を記載した書面を提出させる。また、これまで関西企業だと東証と大証に同時上場しなければならないテリトリー制があったがこれをなくし、どこの企業でも単独上場が可能とした。透明性では、四半期決算の公表、年2回以上の投資者向け会社説明会を定めた。説明会は、東証の旧立会場を活用する。
このほか、売買・決済制度はすでに整備されている既存市場と同様。上場審査料は既存市場の半額の100万円、新規上場手数料は資金調達額に応じて徴収(100万円+万分の9で上限2,000万円、例えば10億円調達の場合190万円)、年賦課金は上場後3年間半額。一方、上場廃止基準は、株主数が150人に満たない場合において、1年以内に150人に達しないとき、最近1年の月間平均売買高が10株未満もしくは3ヶ月間売買がないとき、3年間債務超過であるとき(上場後2年は猶予する)となっている。
マザーズの広報活動としては、インターネットを中心に展開する。Mothers Information Service(仮称)を創設し、ここから情報を上場企業や機関投資家、アナリスト、一般投資家、上場希望会社に発信する。11月末を目処にMothers専門のWebサイトを立ち上げ、電子メールマガジンも発行する。内容は、投資家向け、発行会社向けに分け、説明会の開催、企業紹介などを配信する予定。
ナスダック・ジャパン、店頭市場のグリーンシート、大証の新市場、そのほかの市場など、取引市場間の競争は激しくなっている。白橋弘安東証上場部課長はナスダック・ジャパンとの比較について「あちらはまだ取引市場のインフラが整っていないのでなんともいえないが、東証はこれまで培ってきたインフラがすでに整備されておりいつでも使える」と先行する点を強調している。
市場間の競争は、今後熾烈になっていくことは間違いない。ただ、どの新市場も口をそろえて言うのが、米国NASDAQ市場の成功を持ち出し理想市場的に扱う。そこで、疑問を持つ向きが多いのが、なぜMicrosoftやIntelがNY証券取引所(NYSE)に上場しないかということ。日本では、ナスダック・ジャパンなどといっても所詮は店頭公開企業で、上場企業とされるMothersとは格が違うのでは、といった声も聞かれる。
MicrosoftやIntelがNYSEへ移らないのは、公正で円滑な株の取引が行なわれるなら何も困ることがないからだ。かえってNASDAQで取引されているほうがメリットがある。日本の場合、店頭企業と上場企業とでは銀行(日本ではこれまで銀行融資による資金調達がほとんど)の対応がかなり違う。米国ではそんなことはほとんどないし、資金調達の方法も株式公開やそのほかさまざまあって銀行の顔色をうかがわなくてもよい。資金調達の面でNASDAQだからといって不便はない。
また、NASDAQでは代表的に扱われ出来高や売買代金などいつも上位にあり名前も売れるが、NYへ移ると同様のイメージで扱われない可能性もあり、これまでの成長性がはがれたかたちで受け止められる恐れもある。
実際にはNYSEとNASDAQはこの2社の争奪戦を、もう5年以上も展開している。NY理事長は「2社を上場させるのが使命」とも述べ、ティッカーシンボル「M」と「I」は永久欠番の状態にある。他の企業が使いたくても使わせてくれない。しかし、Bill GatesはNYSEの上場の誘いに対し最近でも明快に断っている。NASDAQの幹部が元Microsoftの財務担当責任者だったからNYへ行かない、NY取引所はこの2社を上場させるためDowと組んで銘柄入れ替えを行なったなど、ここにきてはうがった見方も多い。
ただ、NASDAQでは上場企業数が多いので埋もれてしまい、目立たなくなる可能性もある。そこで、NYSEに移る企業もまったくないわけではない。例えば、AOLはNASDAQからNYSEに移り、かえって成功した企業と呼べるかもしれない。
いずれにしても、MicrosoftやIntelのような、影響力の大きい企業を日本の新市場らが生み出せるかどうか見守っていきたい。
('99/10/29)
[Reported by betsui@impress.co.jp]