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【特集】

ADSLについての素朴な疑問


 昨年後半から、本誌記事でもよく目につくようになった“ADSL”のサービス。12月には、東京めたりっく通信やNTT、大分のISPであるニューコアラなど、相次いでADSLによる試験サービスを発表した。個人ユーザーでも利用できる低価格の常時接続サービスが実現するということで、業界の期待も高まっている。

 しかしながら、国内ではまだ試験段階ということもあり、エンドユーザーに十分認知されるにまでは至っていないようだ。そこで今回は、ADSLとはどんなものなのか、いったいどんなメリットがあるのか、基礎的な情報をまとめてみた。

●ADSLとは

 電話用のメタル回線を使って高速データ通信を行なう技術の総称を「DSL(Digital Subscriber Line)」(または「xDSL」)というが、このうち、上りと下りの通信速度の異なるタイプが「ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)」と呼ばれている。下りの通信速度のほうが上りより速くなっているため、ユーザーがWebサイトを見たり、ソフトをダウンロードするなどの利用に向いているわけだ。すでに米国では、CATVとともに、インターネット接続用の高速アクセス回線として普及しているという。

 また、1本の電話回線上で、電話サービスに影響を及ぼすことなく、データ通信を同時に利用することができるのも特徴だ。ADSLは、電話サービスに使われない周波数を利用して通信するためだ。

 これを国内で、NTTの市内電話回線を通じて提供しようというのが、昨年設立された東京めたりっく通信などのサービスである(有線放送電話や工場の構内など、限られたエリアでの導入例は以前からあった)。従来のダイヤルアップ接続では、アクセスポイントまでの通話料がネックとなり、長時間のインターネット利用が妨げられていたが、ADSLには通話料が課されないため、低価格で常時接続環境を提供できるようになるわけだ。

●回線の品質は?

 このように、インターネットユーザーにとっては非常に魅力のあるADSLだが、実は、サービスの品質について不安があるのは事実だ。

 ADSLでは、回線の状態が一定でないメタルの電話線を利用するということで、まず問題となるのが、ノイズや信号漏洩、回線の抵抗などによる品質の劣化だ。したがって、一般に電話局とユーザー宅との距離が2.5kmを超えるとADSLサービスは受けられないと言われている。また、日本で普及しているISDNサービスもADSLに干渉するという。このため、ISDNサービスを利用している回線が隣接している場合も、品質の劣化が起きてしまう。

 しかし、東京めたりっく通信の説明によると、日本の電話局は設置密度が高いため、大部分のユーザーは2.5kmの範囲内にあり、距離的な問題はないという。したがって、ISDNの干渉がなく、回線の途中にブリッジタップと呼ばれる分岐がない場合は、十分にADSLの表示性能を発揮できるとしている。

 ただし、やはり品質を達成できないエリアもあり得るため、NTTでは、品質が低い場合にはブリッジタップを外したり、回線の収容を変更する「回線調整」というサービスも用意している。一方、東京めたりっく通信では、品質を維持できなきないエリアおよびユーザーについては、サービスを提供しない考えだ。

 それともう一つ、品質の問題ではないが、都市部などすでに光ファイバー化されている地域では、ADSLサービスを提供できないということも付け加えておく。これは、ADSLはメタル回線でないと導入できないためだ。電話局からユーザー宅までの途中に光ファイバーが入っていると、品質以前に、初めから使えないということになる。

 このように、ADSLサービスは、加入者電話のように、どこでも同じように利用できる“ユニバーサルサービス”ではないということは注意されたい。

●本当に安いのか?

 それでは次に、ADSLが本当に低価格なのか見てみよう。

 個人での利用を前提に、定額制常時ネット接続サービスの主なものをピックアップした。ADSLでは東京めたりっく通信の個人用標準接続コース、CATVではタイタス ALL NETの個人向けベーシックコースを選んだ。これに、NTT東日本および西日本で試験提供中のIP接続サービスと、NTTコミュニケーションズのOCNエコノミーも加え、それぞれコストを計算してみた(なお、ADSLとIP接続サービスについては、それぞれ加入者電話、INSネット64にすでに加入しているものとする)。

サービス初期費用月額費用最大通信速度64kbpsあたりの
月額費用
東京めたりっく50,500円 (*1) 8,050円 (*2)640kbps(下り) 805円
タイタス22,000円 (*3)6,000円512kbps(下り) 750円
IP接続サービス3,980円 (*4)12,810円 (*5)64kbps12,810円
OCNエコノミー17,800円 (*6)34,010円 (*7)128kbps17,005円
*1 加入料35,000円+開通接続料15,500円(NTT局内工事費含む)
*2 加入者電話基本料1,750円+回線使用料800円+ADSL月額料金5,500円
*3 ケーブル引き込み工事費15,000円(戸建ての場合)+宅内工事費7,000円
*4 IP接続サービス加入料2,000円+ISP加入料(ここでは1,980円として計算)
*5 INSネット64基本料2,830円+IP接続サービス月額料金8,000円+ISP月額料金(ここでは1,980円として計算)
*6 基本工事費4,500円、メールアドレス登録料1,000円など
*7 OCNエコノミー定額利用料32,000円、DSUレンタル料1,700円など

 少し補足しておくと、ADSLの月額費用の内訳は、注釈(*2)にもあるように3つに分けられる。このうち東京めたりっく通信に支払う5,500円とNTTに支払う800円の2つが、ADSLの利用で新たに発生する料金だ。一方、加入者電話基本料の1,750円は、電話サービスを契約していれば、ADSLを利用しなくても毎月発生する料金である(ユーザーによっては、これに屋内配線使用料やプッシュ回線など付加機能使用料が加わる場合がある)。同様にIP接続サービスの月額費用(*5)についても、IP接続サービスの利用で新たに発生するのは、NTTに支払う8,000円とISPに支払う月額料金の2つだ。

 月額費用を見ると、やはりOCNエコノミーは個人利用には高すぎるとして、IP接続サービスも1万円以上かかる。CATVとADSLも、それほど安いという感じはない。まあ、ADSLとIP接続サービスについては、それぞれ加入者電話とINSネット64の基本料金も含めて計算したので、純粋にネット接続だけにかかるコストというわけではないが、いずれにせよ、個人ユーザーが気軽に払えるような金額ではないだろう。

 しかし、これに通信速度の要素もあわせて検討すると、コストパフォーマンスの差がはっきりしてくる。CATVとADSLがずば抜けて安いことがわかるだろう。パフォーマンスを考慮すれば、CATVとADSLが絶対的に勝るというわけだ。

 一方、初期費用では、払うのに抵抗のないのはIP接続サービスだけだろう。OCNエコノミーとCATVはまだいいとしても、ADSLはかなり抵抗のある金額となっている。東京めたりっく通信によると、加入料の3万5,000円というのは、ユーザー側の設備(スプリッター、ADSLモデム)に割り当てられるという。国内でも普及しつつあるCATVの機材と、まだ出はじめたばかりのADSLで大きく差が開いたわけだ。

 もう一つ、CATVとの違いで付け加えておけば、逆にADSLは、マンションなどの場合でも導入できるというメリットがある。集合住宅ではCATVインターネットを導入できない場合も多いが、加入者電話を利用している世帯なら、世帯内だけの工事でADSLを利用できるようになるという。

 なお、上で紹介した金額は、あくまで標準的なものだ。初期費用などは工事の内容などによりかなり上下することがある。また、ここではコストパフォーマンス面だけを見たが、IPアドレスの配布方法など、その他の仕様についてもそれぞれ優劣があるるので、詳しくは各サービスの紹介ページを参照して欲しい。

東京めたりっく通信
http://www.metallic.co.jp/

タイタス ALL NET
http://www.ALLNET.ne.jp/

IP接続サービス
http://www.ntt-east.co.jp/teigaku/ (NTT東日本)
http://www.ntt-west.co.jp/ipnet/ip/index.html (NTT西日本)

OCNエコノミー
http://www.ocn.ne.jp/ocnweb/service/eco/index-e.html

●ISDNユーザーは利用できない?

 現在、インターネット接続にISDNを利用している方で、もっと高速な環境が欲しいということで、ADSLの導入を検討している方もいるかと思う。しかし残念ながら、ISDNサービスを利用している電話回線で、ADSLを併用することはできない。ISDNとADSLでは、使用する周波数が重なってしまうためだ。あくまでも、ADSLと同時利用できるのは、アナログの加入者電話サービスなのである。

 とはいえ、ISDNユーザーでもADSLの恩恵に授かる方法はある。

 まず一つ目は、ISDNを解約して、アナログの加入者電話に戻すという方法である。これは、契約料と局内工事費合わせて2,800円で行なえる。ただし、ISDNで2回線使っていたのが、(たとえインターネットの常時接続が可能になるとはいえ)1回線になってしまうのは不便だ。あまり、現実的な方法とは言えないかもしれない。

 一方、今使っているISDN回線に加えて、さらにもう1本電話回線を引いて、これをADSLサービス用に使うという方法がある。これなら、ISDNサービスはそのまま継続して使用し、インターネットの常時接続環境が追加できるわけだ。ただし、この場合注意しなければならないのは、新たに加入者電話に契約するということではないということだ(施設設置負担金が7万2,000円もとられる)。もうこれ以上電話サービスは必要ないので、回線だけを追加すればいいわけだ。NTTのサービスには、こういった利用のために、ADSL用のみに電話回線を提供するメニューが用意されている。電話サービスを利用するわけではないので、施設設置負担金も必要ない。ADSL分の料金として初期費用1万7,600円、月額料金6,700円で利用できるため、ADSLをとりあえず試してみたいという場合にもいいかもしれない。

 なお、上でも述べたように、ISDNはADSLに干渉する。同じユーザーが両方のサービスを利用してしまうと、問題があるのではないかという心配もあるだろう。NTT東日本によると、このあたりはまだはっきりとした調査結果は出ていないとしており、試験サービスを通じて検証していくとしている。

ADSL接続サービスの試験提供開始について
http://www.ntt-east.co.jp/release/9912/991209.html (NTT東日本)
http://www.ntt-west.co.jp/news/9912/991209.html (NTT西日本)

●全国規模での提供は?

 インターネット接続用として、ADSLはうってつけのサービスと言えることがおわかりいただけただろうか。しかし最大の問題は、まだ試験段階であり、提供されているのがほんの一部の地域だけだということだ。

 ADSLサービスが実現するには、NTTが市内電話回線(の中の使われていない周波数帯)をADSLサービス用に解放しなくてはならない。また、ISP側でも電話局内に機材を設置したり、電話局からインターネットに繋ぐ回線を調達しなければならない。したがって、今すぐにどこの地域でも提供できるというものではなく、対応工事が行なわれた電話局のエリアだけでのサービスとなるわけだ。今回の試験サービスでは、東京、大阪、大分の一部のエリアに止まっている。

 そこで、他の地域でもADSLサービスを実現しようという動きが起きている。地域系ISPのページで見かけることがあるのだが、加入希望者を募って、ADSLサービスが提供できるようNTT地域会社に呼びかけていこうというものだ。

 例えば、千葉県柏市の日本交信網では「DSLiner」というDSLサービスを立ち上げ、予約申込者の受付を開始した。申込者が一定数に達したエリアから、DSLサービスの準備に入るという。同社によると、すでに地元の柏市で2月にもサービス開始にこぎつけられそうだとしている。

 このような動きが活発化すれば、現在限られた地域でしか提供されていないADSLサービスも、全国規模で広がっていく可能性があるだろう。一度、地元のISPのWebサイトをチェックしてみてはいかがだろうか。

DSLiner
http://DSLiner.com/

(2000/1/24)

[Reported by nagasawa@impress.co.jp / Watchers]


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