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【レポート / 事件】

Yahoo!オークションで詐欺を働いた男が、被害者達と警察に出頭するまで

 Yahoo!オークションを悪用し落札者から代金をだまし取った、札幌市在住の中西正彦容疑者(27)が詐欺容疑で逮捕された。インターネット詐欺は最近では珍しいものではなくなってしまったが、今回の事件は被害者が住所を調べ、協力した別の被害者が中西正彦容疑者の自宅に行き、話し合いの上に警察に連行したという点が注目された。その舞台裏を、被害者の証言をもとに探ってみる。

●AさんとBさんへの犯罪はどのように行なわれたか

 Yahoo!オークションは、個人などがオークションに出品/入札できるサービス。料金は無料で、ユーザー登録時に本人確認は行なわれない。誰もが入札/落札できるだけでなく、誰もが出品できるので、非常に人気があるサービスだ。ただ、Yahoo!オークションはサービスを提供するだけで、出品者と落札者の間の取引に関わることがない。そのため油断をすると今回のような詐欺につながる恐れもある。

・Aさんに起きた事件

 Aさんは、Yahoo!オークションに参加し過去に数点の商品を落札し、無事に取引を行なっている経験がある。ただ、ほとんどの取引は、入金後に商品が発送されるため、入金後に落札者が逃げることは恐れていた。

 Aさんは、Yahoo!オークションで11月にノートPC「NEC PCLW36H Office2000モデル」を見つけた。当時20万円を超えるだろうこの商品が10万円で出品されていた。誰もが「これは安い」と思うのが普通である。その商品にAさんは13万5000円で入札に参加した。もちろん「入札しても20万円くらいに上がるであろう」とも考えた。

 ところがこの競売は同日に予定より早く終了し、Aさんが落札者となった。Aさんは「20万ほどするノートパソコンが14万円ほどで購入できた」と考えた。出品者からは「代金が3日以内に振り込まれたら、発送します」とのメールが来た。通常ならば入金前に出品者の本人確認をするはずのAさんも、「3日以内に振り込まないと、取引が無効になる」という考えが先行し、とにかく香川県にある口座に入金を急いでしまった。

 しかし、商品は届かなかった。Aさんがメールで出品者に「商品が届かないのですが?」と訪ねると「今日送る」というばかりだった。その後、メールを出しても返事がこなくなり、エラーメールが返るようになってしまった。メールアドレスはフリーの転送メールだった。

・Bさんに起きた事件

 Bさんは、インターネットでの現金の取引では詐欺にあう可能性があることを知っていた。過去に起きた詐欺についてもいろいろとニュースを読んでいた。しかし、実際にYahoo!オークションに参加し、数点の商品を落札して確実に取引し、出品者は良い人ばかりだと思っていたころに事件に遭った。

 Bさんは、Yahoo!オークションで昨年11月に「インテル純正ペンティアムIII 600」を見つけた。当時5万円以上したCPUが2万円で出品されていた。やはり、「これは安い」と思うのが普通である。Bさんは入札に参加した。

 Bさんは2万数千円で入札したが、他の参加者は3万数千円で入札した。Bさんがどうしてもその商品が欲しいと感じ40,500円で入札したところで、競売は終了した。ここで本来、Bさんは出品者を確認しなければならなかったが、出品者の「35,000円でいいので3日以内に入金してください」という言葉に、安くしてくれる人だから良い人だろうと本人確認もせず、Aさんの場合と同じく香川県にある口座に入金をしてしまった。

 しかし、商品は届かなかった。Bさんはメールで出品者に問い合わせたりしていたものの、そのうち返事がこなくなり、エラーメールが返るようになってしまった。メールアドレスはフリーの転送メールだった。

●AさんとBさんはどうしたのか?

 AさんもBさんも最初はただ単に商品の発送が遅れているだけ、出品者が忙しくてメールが読めないだけと思っていた。しかし、Yahoo!JAPANに相談をしたところ、Yahoo!の返事は「出品者がメールを読めない状態にあるだけですので、数日待ってみましょう」とのことだった。数日後に同じく問い合わせると「Yahoo!オークションは競売の場を提供するのみです。詐欺が事実なら警察へ連絡をしてください」との返事であった。

 Aさんは13万円もの代金を払ったまま商品が届かない、そして出品者と連絡ができないという状況を解決するため、同じIDの出品者から落札をしたBさんなど数名の被害者に連絡し、どう解決するかを相談した。そして、出品者が使ったと思われるプロバイダーすべてに被害の状況を伝えたところ、1つのプロバイダーが協力をしてくれ、出品者の住所、電話番号、名前がわかった。その名前と口座の名前である「中西正彦」が一緒のためその情報は有力と判断された。

 Aさん、Bさんは、出品者である中西正彦に電話をしたところ、中西正彦は名前を利用されただけだと言った。だが、「名前を利用されたことが会社にわかるのはまずいので料金は立て替える」という話になり、返金を口約束した。Bさんは、メールのやりとりで、出品者と中西正彦が同一人物だと見破っていたので、強気に返金を要求したという。

●Cさんへの犯罪はどのように行なわれたか

 Cさんも、インターネットでの現金の取引では詐欺にあう可能性があることを知っていた。そして、先払いである場合には必ず本人確認をする必要はあることはわかっていた。

 Cさんは、Yahoo!オークションで今年1月末にノートPC「SONY PCG-Z505JX」を見つけた。20万円以上の商品であるが、Cさんは出品者に「15万円で譲渡していただけるか?」を確認し了解を得た。出品者はCさんに「入金後発送する」と連絡をした。AさんやBさんのときには住所を送付しなかった出品者中西容疑者は、この時点で香川県某市の住所に住んでいると送るようになっていた。

 Cさんはメールアドレスがフリーメールであり、電話番号が携帯電話であったため、まずは本人確認をしようと考えた。しかし、そこへ出品者からCさんに電話があり、「今すぐ発送したいので、今すぐ入金できないか?」と連絡があった。Cさんは、本人からの電話だということで、香川県にある口座に入金をしてしまった。入金したことを出品者に電話連絡すると「今商品を梱包して宅配便で送ろうとしているが、差額73,000円でSONY PCG-XR7Gに交換できる」と相談されたため、1日考えたのち再び入金をしてしまった。これ以降、出品者の携帯電話はオフになり連絡ができなくなった。

●Cさんはどうしたのか?

 とりあえず、商品が届くのかを待ってみたが、届かないことがわかり、メールで催促した。しかし連絡はなかった。そこで、香川県の銀行に事情を説明したが、銀行はプライバシーの問題から警察からの協力要請でなければ応じることはできないとのことで住所確認はできなかった。

 そこでCさんは、Yahoo!オークションにある、落札者が出品者を評価できる「Yahoo!オークション評価」という掲示板に「連絡がなければ警察に届ける」と書き込みをした。そこに他の参加者も同様の書き込みをしていた。ここで中西容疑者が詐欺常習者であることを確信し、警察へ相談をすることとなった。

●警察は解決してくれるのか?

 Cさんは警察に直接出向き、被害届出を出すので捜査をしてほしいと相談をしたが、「捜査はできないので被害届出を受理しない」と言われたという。Cさんは地元や口座のある香川の警察、警察庁などに相談したが、いずれも警察が動くことはなかった。

 ほぼそのころCさんは、Aさん・Bさんと連絡をとることに成功し、Aさんより出品者中西容疑者の住所や電話番号を知ることができた。また、自分の知る住所は偽住所であることも確認された。

 そのような連絡を取りあったことで、去年11月からYahoo!オークション上の詐欺行為が3ヶ月以上も続いていることがわかった。Cさんはこれ以上詐欺を野放しにしておくことはできないと思い、中西容疑者の自宅を訪れてみることを考えた。Cさんがそのことに関して警察庁に相談したところ、「3月いっぱいには解決をするので自宅を訪れるのはやめてほしい」と返答が返ってきた。

 Cさんは、Aさん・Bさんなど連絡が取れる詐欺被害者にこのことを伝えたが、黙って見ているわけにはいかず、また、返金されないまま逃げられてしまうことも避けたいため、その他の被害者とともに札幌へ向かった。その場面を撮影したいという日本テレビ系列の報道クルーも同行した。

 Cさんは現地の協力者とともに、中西容疑者が家に帰るのを待ち、遭遇に成功した。ちなみに、Cさんが中西容疑者の自宅を訪問したときには、中西容疑者は別の詐欺を働いていたという。Cさんらは中西容疑者と話し合いを2時間ほど行なったが、話し合いが平行線のままであったため、中西容疑者を札幌中央署に引き渡し、緊急逮捕に至った。

●どうして詐欺に遭うのか?

 ここに登場したAさん、Bさん、Cさんに以外にも中西容疑者の被害に遭った人は20人以上いるという。では、たまたまこの20人以上の人が詐欺に遭いやすかったか?というと、そうでもあり、そうでもないといえる。実は多くのYahoo!オークション参加者は「インターネット上で詐欺が起きており、自分も被害者になる恐れがある」ということはわかっているのだ。

 では、「自分も被害者になる恐れがある」と思っているのにどうして詐欺にあってしまうのか? ひとつには、ある程度オークションに参加している、ある程度安全であることがわかり、「自分がオークションで詐欺に遭うことはないのではないか?」と錯覚してしまう、“慣れ”が引き起こす事故があるのだ。例えば、免許を取って車をある程度運転したときに、“慣れ”により車が安全な乗り物だと錯覚して起こす事故がある。あれと同じだ。

 もうひとつ、Yahoo!オークション評価のような、出品者や落札者を評価するバロメーターを信じて良いのかを、よく考えて利用することだ。Yahoo!オークションは誰でも無料で参加できるサービスだと冒頭で説明したが、1人の人間が複数登録をすることも可能なので、自作自演で自分の評価をすることが可能なのだ。逆にマイナス評価になったときその登録を抹消し再び登録することも可能となる。

●どうすれば安全にオークションができるか?詐欺に遭わないのか?

 このような詐欺に遭いたくない場合は、オークションに参加をしないことも1つの対策となる。しかし、オークション自体のメリットや楽しみを考え、その上でオークションに参加したいので、これはいい解決策ではない。

 まず、「Yahoo!オークション」や「eBay」という名前を聞いて「有名なサイトだから安全」という考えをもってはいけない。ここで登場したAさん、Bさん、Cさんの事例でわかるように、サイトは場所を提供しているだけで、代金や商品をやりとりするのは本人同士の責任だと言っている。

 「先払いを避ける」という方法も言われるが、出品者が商品を送ったのに落札者が入金をしないという逆のトラブルも発生しているので、難しい。

 大切なのはオークションプロバイダーを頼らずに、相手が安全な人なのかを自分自身で確認することだ。相手の名前、住所、電話番号を聞いてその電話番号が存在するかを調べたり、実際に電話をして話し合うなどだ。どこまで確認するべきかに関しては自分がどこで納得するかによるが、高額商品ともなれば直接会って取引をするとか、郵便によって契約書を交わすという方法まである。住所、名前、電話番号を聞くのは失礼だ、プライバシー問題になる、と思ってしまう人もいるかもしれないが、安全なオークションを実現するためには、出品者も落札者も互いに本人確認は欠かさないほうがいい。

 入金の際に、こちらに問題がないのに“入金を急げ”と言われたら要注意。そのようにせかす出品者は危険と判断してもよい。そこで焦らず自分のペースで相手の確認や入金をすることが大事だ。

 そして、繰り返すが、オークションには良い人が多いが、それに“慣れ”てしまわないようにし、常に被害に遭う可能性があることを考えていよう。

(2000/2/24)

[Reported by ymasa@wizvax.net]


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