|
インターネットの最新技術について情報交換を行なう会合「Internet Week 2000」が、大阪市北区の大阪国際会議場で18日から開催されている。主催は日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)。主にネットワーク運営者やインターネット技術の研究/開発者を対象に、セミナーや講演会、ディスカッションなどが行なわれる。
各プログラムでとり上げられるテーマは、セキュリティやモバイル、ネット上の法律など、技術的なものから社会的なものまで多岐に渡っているが、タイムリーな話題として“IPv6”と“多言語ドメイン”が高い関心を集めていたようだ。
IPv6については、IPv6 Summit日本実行委員会主催による「Global IPv6 Summit in Japan」が同時開催。18日と19日の2日間にわたって、ISPやベンダーにおけるIPv6への取り組み状況について国内外からのレポートが紹介された。また、慶應義塾大学環境情報学部の村井純教授、ソニーの出井伸之代表取締役会長兼CEOらによるパネルディスカッションも行なわれた。
一方、多言語ドメインについては19日、JPNICが導入を準備している汎用JPドメインをとり上げた3つのプログラムを実施。JPNICより、技術解説や現在の進捗状況について説明が行なわれた。
午前に行なわれた「DNSミーティング─汎用JPドメイン名とDNS─」は、Internet Week 2000の中でもっとも好評なプログラムの一つ。申込が多かったため、当初の予定よりも定員枠を拡大して実施されたという。実際、朝早い時間からの開催にも関わらず、350人定員の会場が9割がた埋まるほどの人気だった。
●DNSミーティング─汎用JPドメイン名とDNS─
DNSミーティングは、大阪国際会議場の最上階にある特別会議場で開催。ドーム型の天井は高さが最大16.8メートル |
そうなると問題となるのは、ウェブブラウザーやOSなどクライアントソフト側での対応だ。米谷氏の説明後には、会場から質問を受け付ける時間が設けられたが、クライアントソフトの対応見込み時期についての質問も当然のように飛び出した。いくら登録サービスが始まっても、実際にいつからユーザーが使えるようになるのかわからなければ、DNS運用者にとっては対応しづらいところだからだ。
これについて米谷氏は「個々のベンダーと話し合いをする機会は設けているが、対応はベンダー側の戦略的な判断となる」とコメント。感触としては「絶対に対応しない」という反応ではないため、ユーザーのニーズがあれば対応していくだろうと見ている。そのために「まず、(日本語ドメインを扱うための)標準となるものを作り、ベンダーに理解してもらう」ことが必要だとしている。
また、JPNICの佐野晋氏も、「ベンダー側は、基本的に標準がないと動き出さない」としながらも、「.COMや.JPで日本語ドメインサービスが実際に開始されれば、状況は変わるのではないか」としている。
このほか同プログラムでは、「BIND 9」の新機能や、IPv6の中でDNSがどのように使われるかといった説明も行なわれた。また、WIDE Projectの加藤朗氏からは、東京に設置されたルートサーバー「M Root DNS」の運用状況が説明された。それによると、アジア太平洋地域におけるネット利用拡大やコネクティビティの充実を受けて、2000年に入って利用が増加しているという。今後、日本語ドメインが導入されればさらにアクセスが増えると見ており、ハードウェアの構成や接続場所を見直す時期に来ているとしている。
●DOMAIN-TALK Meeting
JR東西線・新福島駅より会場へ向かう道。正面奧に見えるのが大阪国際会議場 |
実際に当日に行なわれたのは、多言語ドメインに関するIETFの動向や、“日本語.COM”と“日本語.JP”の相違点の説明など。しかし、もっとも興味深かったのは、JPNIC副理事長の丸山直昌氏による、日本語JPドメインの導入を検討するに至った背景の説明だった。
丸山氏によると、世界で多言語ドメインが話題になり出したのは、1999年の春頃。中国や韓国、台湾でのことだったという。ところが、インターネット自体が“オープンソース”という考えの上で成長してきたのに反して、「多言語ドメインは営利目的で始まった」。すなわち、多言語ドメインがビジネスになると判断したいくつかの企業が技術を開発し、「わが社のシステムを使うと、多言語ドメインに対応できる」とJPNICに売り込んでくるようになったのだそうだ。もし、ccTLDではメジャーなJPドメインで利用されれば、その企業にとっては大きなアドバンテージとなる。丸山氏は、そういった企業から「しばらく追い回された」としており、「今までオープンソースで発達してきたのに、(多言語ドメインで)ネットを運営することにお金を払うということに脅威を感じた」と当時を振り返っている。
ところで、丸山氏によると、ネットで多言語ドメインを扱えるようにするのは、それほど難しいことではないという。例えば、BINDを「8ビット透過にするにのは難しくないし、ウェブブラウザーでも8ビットを透過するものもある」とし、「一見、多言語ドメインがうまく動くように見える」。したがって、「こんな簡単なことでお金を取られたくない」というのも本音だった。ただし、この方法では、自分の管理しているネームサーバーだけ8ビットに対応しても不完全だという問題が残る。
一方、1999年の後半からは、中国や韓国で多言語ドメインを登録するビジネスが始まった。韓国で“ハングル.KR”といったサービスの新聞広告を見かけたこともあったという。しかし、これらのサービスは、ハングル.KRの後に「隠された“ゼロレベルドメイン”を付加する」ことで判別する仕組み。したがって、複数の企業がそれぞれ個別にサービスを提供している状況では、見かけ上は同じに見えるハングル.KRドメインでも、ある会社のサービスで登録したものと別のサービスで登録したものでは互換性がない。実際、「ネットのインターオペラビリティに反する使い方」によるサービスが複数の企業から勝手に提供されており、混乱が起きているという。
これに対し韓国のネットワークインフォメーションセンターでは、「技術的には正しくない」ことは認識しながらも、実際にこういったサービスが拡大してくれば、何らかの対処を考えなければならなくなった。この状況は「日本でも起こり得る」ことであり、丸山氏は「多言語ドメインは危険」とまで捉えるようになったという。その結果、JPNICでは2000年2月に、多言語ドメインに対する方針を公開。8ビット透過やゼロレベルドメインによる対応は「何としても阻止しなければならない」と考えるに至った。
それが、日本語ドメイン導入へ向けて方向転換したのは、ここ3カ月くらいのこと。ACEというエンコード方式を知ったからだという。丸山氏も「これなら許せる」とし、ACEを利用することで「ぎりぎり韓国のような状況にならずに済むのではないか」と判断した。
ACEによる対応は、2001年6月をめどに、IETFのワーキンググループで標準が発表される見込みだとしており、丸山氏は「99.99%そこで決定する」と確信している。ACEには、圧縮アルゴリズムの違いによりいくつかの方式があるが、そのうちのいずれかが採用されるのは間違いないらしい。例えば、すでに試験登録が始まったVeriSignGRSの日本語.COMでは、RACE(Row-based ACE)という方式が使われているが、もしIETFでこれ以外の方式に決定したとしても、ACEである限り「変換には手間はかからない」としている。
あとは、クライアントソフト側の対応だが、丸山氏は「今見えているシナリオでは、それほど混乱はなく、アプリケーションが対応してくれば、徐々に一般ユーザーでも(日本語JPドメイン)が使えるようになる」としている。
Internet Week 2000の会期は21日まで。各プログラムは事前登録制だが、空席のあるものについては当日受付も行なっている。今回の会合では、技術者向けの専門プログラムのほか、「IPv6入門」「3時間でわかるドメイン名とIPアドレス」など比較的初心者向けのセミナーも用意されている。一部のセミナーについては、学生向けに無料参加も受け付けている。
(2000/12/20)
[Reported by nagasawa@impress.co.jp]