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【業界動向】

間もなく1カ月を迎える
“インターネット自動車”のフィールド実験

■URL
http://www.ipcar.org/

 自動車走行電子技術協会(自走協)が横浜市内で2月5日より実施している“インターネット自動車”のフィールド実験が、1カ月間の実験期間を終え、間もなく終了する予定だ。これを前に28日、慶應義塾大学の藤沢キャンパスで報道関係者などに実験車両やサーバーシステムが公開された。

 自走協によると、現代の自動車の中には多数のコンピュータが搭載されており、走行するために100以上のデータを収集・処理しているという。そこで自走協では、データを自動車の内部で利用するだけでなく、複数の車両からデータを収集・加工することで、道路情報や天候情報などとして活用しようというプロジェクト「プローブ情報システム(愛称:IPCarシステム)」を推進している。今回の実験は、数年前よりインターネット自動車の構想を提唱している村井純・慶應義塾大学教授のもと、NECや三菱総研が開発メンバーとして参加、自治体などの協力もあって開始されたものだ。

 実験では、120種類もあるという車載センサーの信号の中から、情報提供サービスに有用と思われる項目を抽出。市内を実際に走行している各車両から、GPSによる位置情報、各種センサーによる走行速度や温度、ワイパーの動き、ABSの稼働状況などのデータを収集することにした。実験用に開発した専用車載システムを、横浜市内を走るバスやタクシー、塵芥車、民間企業の営業車両やトラックなど約280台に搭載。データをリアルタイムに収集し、それをもとに割り出された渋滞状況や降雨量などの情報をウェブ上で公開している。

 車両との通信手段には、携帯電話のパケット通信サービスを採用。車両にはNTTドコモのボックス型端末とアンテナが装備されており、車両の各種データが1分間隔で「車両情報センター」に吸い上げられるようになっている。車両情報センターでいったんとりまとめられたデータは、さらに「情報集約センター」に送られ、ここで天候や渋滞といった情報に加工、ウェブやiモードに向けて配信される。今回の実験では、これらセンターサーバーは藤沢キャンパス内に集約して設置されているが、地域ごとに分割したり、車両の所属会社ごとに独立して設置することも考えられるという。なお、IPCarシステムでは通信手段まで限定しているわけではないため、車両と車両情報センター間、車両情報センターと情報集約センター間、情報集約センターと情報閲覧者間で別々のプロトコルを使用することも可能だ。逆に、情報閲覧者と車両間の通信プロトコルまで標準化してしまえば、情報閲覧者が直接、個々の車両のデータを参照することも可能になるという。

 車載機器は、各種データを車両情報センターに送るだけでなく、情報を受け取ることも可能だ。これにより、ドライバーや同乗者自身が情報サービスを受けられるようになっている。今回の実験では、組み込み型OSとブラウザーを搭載し、タッチパネル式で情報を閲覧できる専用端末を開発した。ただし、現在の自動車ではカーナビなどさまざまな情報表示機器が充実しているため、無駄に機能が重複してしまうおそれがある。そこで、実験では市販のPDAで情報を閲覧できるタイプも用意した。機能としてはどちらも同じだが、実験用に開発された機器のため、専用端末はかなり大振りなものとなっていた。なお、車載端末での閲覧は、9,600bpsでの通信ということもあり、あまり快適とは言えなかった。実際、実験車両のドライバーに対するヒアリング調査でも「画面表示が遅い」というった意見が寄せられているという。

 現時点では数種類のデータ収集に限られているIPCarシステムだが、データの項目を増やしていけば、道路交通情報に限らない情報サービスの展開が期待できる。例えば、カーオーディオのデータを含めれば、どういうところを走っている時にどのラジオ局がよく聞かれているかといったことも把握できるため、マーケティングサービスへの活用も考えられる。また、IPCarシステムを搭載している車両に対して、保険料を割り引く仕組みを検討したいという損害保険会社からの問い合わせも、すでにあったとしている。ドライバーがあらかじめIPCarシステムで情報を閲覧し、危険なエリアを迂回できるということで、事故のリスクが減少するという考え方だ。

 IPCarシステムはこのように、実用化されれば非常に有用なシステムだ。しかし、今のところそれはまだまだ先の話。間もなく終了する今回の実験は、あくまでも社会的な有効性を検証するためのもので、具体的なサービス体系についてもまだ検討段階には入っていない。自走協では、実用化に漕ぎ着けるには、あと2年はかかるのではないかとしている。道路交通情報システムとしてはすでに「VICS」などの定点観測系の情報が提供されており、IPCarシステム単独というよりは、他のサービスと補完し合いながら複合サービスの一部として利用される可能性もある。

 データの精度やプライバシー対策も今後の検討課題として残されている。例えば今回の実験では、バスや営業車両など走行が密な車種を採用したが、やはりエリアによってよく走るところとそうでないところに分かれてしまった。その結果、駅の周辺などでは複数の車両から大量のデータが集まるが、そうでないエリアでは、情報として利用できるだけの十分なデータが得られなかった。精度を出すためには、対象とする車両が全車両の5%程度は必要だと見ているという。

専用のタッチパネル式7インチディスプレイが付属した車載機器 PDA併用タイプの車載機器。本体(左)とDoPaのボックス型端末 車両後部の屋根にDoPaのアンテナが取り付けられている

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(2001/2/28)

[Reported by nagasawa@impress.co.jp]


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