【インタビュー】

ブロードバンドコンテンツビジネス成功の鍵とは?~AII株式会社に聞く

■URL
http://www.aii.co.jp/

 ADSLなどの普及もあり、今年に入ってブロードバンドビジネスが急速に注目を集め始めている。日本が本格的なブロードバンド社会になる為には、インフラの整備は当然だが、情報過多な現代において、あえてネットを使いたいと思わせるキラーコンテンツをいかにして揃えるかが重要となるだろう。今後、日本のブロードバンドコンテンツの核となっていくものは何か。今回、CATV網を利用して映画試写会を実施するなど、2000年7月よりいち早くブロードバンドコンテンツ配信の実証実験を開始し、今春に本格サービスを稼動させているAII株式会社のコンテンツ・プランニンググループプロジェクトマネージャー 田井野 賢氏とカスタマー・リレーションシップ・マーケティンググループプロジェクトマネージャー 込山一弥氏にブロードバンドコンテンツに対する取り組みや今後の展開についてお話を伺った。


 AII株式会社は全国各地のCATVと提携し、各ケーブル局のインターネット網内にサーバーを置くことで大容量の回線だけを利用してブロードバンドコンテンツをユーザーへ届ける配信事業を行なうほか、それに付随する課金認証といったASP事業を展開する会社である。現在は映画配信、音楽ダウンロードサービス、野球やサッカーの試合中継などさまざまなコンテンツ提供を行なっている。

IW編集部:商用サービスを本格稼動してから、コンテンツの数も豊富になってきていますが、コンテンツを選ぶ基準はどこにおいていますか?

AII:田井野氏(以下田井野): 選ぶ基準は特に設けていません。今は幅広くどんなものでもやっていこうと思っています。我々の仕事には2つの側面があります。1つはブロードバンドコンテンツのポータルサイト的な役割。サイトを持ち、ブロードバンドの番組を紹介していくことですね。もう1つは課金システムや動画系のサーバーといった黒子的な側面です。前者の面ではブロードバンドポータルとしていろんな方々と仕事をしていきたいと考えています。


AII株式会社 カスタマー・リレーションシップ・マーケティンググループ プロジェクトマネージャー 込山一弥氏

IW編集部:現在のコンテンツ数と会員数を教えていただけますか?

AII:込山氏(以下込山)ユーザー数はそのコンテンツによって違うのではっきりと言えませんが、20万世帯くらいが加入しています。コンテンツ数は40弱で、現在月5個くらいのペースで増えています。年末までに100万世帯に増やし、コンテンツも100にしたいと考えています。

IW編集部:ブロードバンド配信サービスは今後急激に増えてくると思われます。ネットのサービスは、得てしてワンソースマルチユースになりがちなところもありますが、他社との差別化はどう考えていますか? 

田井野: AIIではブロードバンドコンテンツを積極的にビジネスにしていこうという姿勢で取り組んでいます。コンテンツそのものでビジネスをやっていこうと考えているISPやASPはおそらくほとんどないと思っているんです。ひょっとすると我々くらいしかいないのかもしれない。確かにワンソースマルチユースのようなコンテンツはたくさんありますが、それを避けて、これまでネットのコンテンツに出ていないような広い意味でのコンテンツを共同で立ち上げていきたい。ゼロから作りあげていきたいと思っています。今後もその方向性は変わらないと思います。

●ダウンロードなど「待ち」の時間を有効に使う広告ビジネスを展開


IW編集部:ということは、広告収入といった形ではなく、あくまでコンテンツの料金で収益を上げるというビジネスモデルなのでしょうか?

田井野: そうですね。ただ、ユーザーがスーパーマーケットで物を買うような感覚でネットのコンテンツを買うといった文化が日本にはまだ根付いていないので、広告収入に頼らざるを得ない時もあるかと思います。日本にコンテンツを買う感覚を促進させるために、さまざまな形で独自性のあるサービスを提供していきたいと考えています。といっても、AIIでは独自コンテンツを作ってはいませんので、共同作業やコンサルティングのような形になりますが。

IW編集部:ブロードバンド時代の広告ビジネスはどのように捉えていますか?


これが音楽ダウンロードの際に流れるライオン提供の川柳。川柳が流れた後、商品の紹介となる

込山: バナー広告をやってもしょうがないと思いますから、ブロードバンドを活かした形でと考えると簡単にはTVと同じ様にCMを流すということが考えられますが、それもつまらない(笑)。1つのアイデアとしてあるのが、ダウンロードの間やバッファの時間といった「待ち」の時間を有効に使うようなものです。CMというのは自然に無理なく宣伝を見せるものですから、映画をダウンロードする間に予告編を見せておくとか、映画自体を見せておくとかいろいろと方法はあると思うんですよ。今「Musiccafe」(AIIの無料音楽ダウンロードサービス)で、音楽のダウンロードの間にライオン提供の川柳が流れるんです。絵柄としてはブロードバンドっぽくないですが、手法としては今までにないものだと思います。後は双方向のものですね。その場でアンケート調査ができたり、リアクションができるもの。それからTVのCMをWebに寄ったものにする方法もあります。TVCMをそのままネットに載せることはできますが、最後にフリーダイヤルを載せるところをURLにして、押せば飛ぶようにするといった一工夫を加えることで、ぐんとアクセスがよくなる。本当はCMの制作会社にはWeb用のCMを制作して欲しいところですが、そこまではまだWebに関する理解が浸透していないと思いますので、そういったところを組み込みつつ、模索していきたいなと考えています。

●現実世界との組みあわせでネットコンテンツの価値を根付かせていく


IW編集部:日本に有料コンテンツが根付くにはどうしたらいいと考えていますか?

AII株式会社 コンテンツ・プランニンググループ プロジェクトマネージャー 田井野 賢氏

田井野: ブロードバンドのコンテンツというと、映像を出してどうのという物が多いですが、帯域的な問題もあってTVにはかなわないし、ビジネスになりにくい。そこには何か「演出」が必要だと思います。例えば雑誌などの既存のコンテンツとの組みあわせであるとか、チャットやメールなどのアプリケーションとの連動だとか、いろんなやり方があるのではないかと考えています。日本では手に取れないものにお金を払う文化が根付いていないので、リアルな世界との組み合わせで1つのコンテンツを作り上げて、コンテンツは価値あるものなんだということを根付かせていく。後はいかに価値ある情報を出していけるかということですね。「必然性」があれば当然もっと根付いてくる。例えば映画で言うと、サイトに映画の情報が載っていてもあまり必然的ではない。けれど、ネットでそのままチケットが買えたりとか、現実世界と近づいてくることによって、ネットが生活に必要不可欠なものになれば、生活の一部としてネットにある程度の料金を払うということが根付くと思います。

IW編集部:AIIではそこまでのトータルサービスまで今後の視野に入れていくと?

田井野: 今の段階ではまだまだですけど、やがてはそこまでやりたいですね。基本的には日本人のライフスタイルを変えていきたい。そのために、その時々に適応したサービスを開発して提供していきたいなと思っています。ご存知の通り、ブロードバンドビジネスは先行投資的なところも多い。けれど、底上げの意味も含めて誰かがやらなければと思っています。いまは悪いスパイラルに入っていますよね。「コンテンツがない・ないから観ない・観ないからお金も払わない」。そうではなく、「いいコンテンツがある・あるから観る・観るからお金も払うし広告も入る」といういいスパイラルにするために、平均的な底上げをしなくてはいけない。全体的に底上げすれば、そこに参入してくる人が増えて自然と競争が始まる。そうすればライフスタイルもぐっと変わるのではないかと思いますね。

(2001/5/8)

[Reported by tanimoto@impress.co.jp]


INTERNET Watchホームページ

INTERNET Watchグループinternet-watch-info@impress.co.jp