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基調講演を行なった東京大学法学部 中山信弘教授 |
財団法人デジタルコンテンツ協会は29日、P2Pファイル交換およびブロードバンド化がデジタルコンテンツに及ぼす影響をテーマとしたシンポジウムを開催した。デジタルコンテンツを起点にしてみると、P2Pファイル交換は流通の仕組みの革新、ブロードバンド化はコンテンツ配信の高速大容量化と言い換えることができる。しかし、新たな技術の発展の反面、法的問題も顕在化しつつある。シンポジウムでは、こうしたデジタルコンテンツをめぐる法的環境の現状と将来について講演やパネルディスカッションが行なわれた。
まず、東京大学法学部の中山信弘教授が「デジタルコンテンツをめぐる法的環境―現状と将来」と題し、講演した。中山教授は、21世紀を情報化時代と定義、産業という観点から見ると情報が重要な“財”となる時代であり、特に「デジタルコンテンツが重要となる時代」と述べた。このような時代において、「情報の創作・流通・利用を奨励するようなシステムを充実させる必要がある」と指摘、さらに、「情報としての“財”を守る保護法が必要」と述べ、模倣に対して極めて弱いという性質を持つデジタルコンテンツに適合した法的環境も整備も不可欠であるとの考えを示した。また、NapsterやGnutellaといったP2Pファイル交換システムにも触れ、「デジタル技術の進歩はあまりに速く、先端的な法を作っても、寿命は短い」と語り、技術が法を凌駕する点を指摘。デジタル技術に対応するためには、法だけに頼るのではなく「法と技術が均衡をとってともに発達していかねば情報における権利は守れない」と述べた。
「デジタルコンテンツの流通促進基盤整備」について提言を行なった株式会社ミュージック・シーオー・ジェーピーの佐々木隆一取締役会長 |
続いて、パネリストらが、「技術の進展とデジタルコンテンツの法的環境」をテーマにP2Pファイル交換の技術説明やデジタルコンテンツの流通促進基盤整備などについてプレゼンテーションを行なった。その中で、国際大学グローバル・コミュニケーションセンターの上村圭介氏は、P2Pファイル交換システムについて、「P2P自体は匿名によるコンテンツの交換からメールやチャットといったメッセージ交換のためのプラットフォームへと進化しつつある」と述べた。さらに、禁止できないものを禁止しようとしている、いわゆるネットワーク時代の「禁酒法」であるのではとの見解を示した。そのうえで、「完全なコピーを作成できるデジタル技術そのものが問われている」とし、P2P云々よりも幅広い視点での議論の必要性を指摘した。
また、株式会社ミュージック・シーオー・ジェーピーの佐々木隆一取締役会長は、Napsterなどの新しいコンテンツ流通技術を、健全に発展させるためにも「著作権関連法律などのコンテンツ流通促進基盤の整備が不可欠」とし、3施策を提案した。具体的には、民間の第3セクターのような形で、権利者と使用者間の権利紛争の調停を行なう「著作権紛争仲裁センター」、コンテンツビジネスに必要な複合的な権利処理を一元的に行なう「著作権管理支援センター」、放送と通信のコンテンツの融合と流通の促進を図る「放送免許の規制緩和」だ。そして、基盤整備を行なわなければ、「ブロードバンド向けデジタルコンテンツ配信サービスの海外進出により、国内サービス事業の空洞化が進行する」と警鐘を鳴らした。
ブロードバンドの発展とともに、通信と放送の融合も進み、デジタルコンテンツを核とするビジネスが胎動しつつある。コンテンツビジネスが成功するには、著作権などの法的問題への対処などコンテンツの流通基盤整備が鍵となりそうだ。
(2001/5/29)
[Reported by moriyama@impress.co.jp]