【インタービュー】

国がやらないから我々がやる~インパクを陰から支えるNPO・インパク協会

■URL
http://www.inpaku2001.org/ (インパク協会)
http://www.888.ne.jp/gate21/ (インパク簡単アクセスサイト)
http://www.inpaku.go.jp/ (インパク)

松井美樹広報室長

 「おもしろくない」「何を意図しているのかわからない」といった批判が目に付く、政府が主催するインターネット博覧会“通称「インパク」”。12月31日に開幕し、まもなく折り返し地点に到達しようとしている。そんな「インパク」を陰から民間レベルでサポートしているのが非営利法人(NPO)の「インパク協会」だ。インパク協会は、文化人・研究者・産業界のリーダーなど、多様な分野の人間が集まり設立された。同協会では、「インパク」を盛り上げる一連の活動を通じて、お年寄りから子供までの幅広い層が楽しくインターネットに触れる機会を多く提供していこうと、「インパク」を盛り上げるための広報・交流・支援活動を行なっている。今回は、同協会の松井美樹広報室長に話を伺った。


●暗中模索の開幕~苦戦


編集部(以下編):開幕当初のパビリオン設営者の反応はどうでしたか?

松井美樹広報室長(以下松井氏):通常の博覧会だと建築現場が見られたり、絵コンテが出てきたりと形が見えてくるが、インターネット上の博覧会ということで設営者の方々はなかなかイメージを抱けなかったようです。そのため問い合わせでも「他の企業(設営者)はどういう感じでやっているのか」という声がとても多かったです。協会では、設営者同士が情報交換する場として交流会を何回か設けました。開幕してからでは遅いのですが(笑)、1月に入ってようやく「インパクとはこういうものなのか」ということがみなさんわかってきたようです。

編:開幕当初はアクセスをかなり稼いでいたと思いますが、現状は厳しいですよね。設営者自身の問題だけでなく公式サイト側の問題もあると思うですが。設営者の方からの要望や苦情などの声は届いていますか?

松井氏:「インパク公式サイトからすぐに自分のサイトに来やすい環境にしてほしい」という意見と「インパクそのものをもっと広く知ってもらいたい」という要望が一番多いですね。やはりアクセスをもっと増やしたいという意向が強く、「PR」と「入り口(トップページ)」の問題は大きいようです。特にこれまでの「入り口」はまったく設営者に還元されないものでしたね。民間企業だと自社の公式ホームページにインパクサイトへのリンクを張っている場合もあるのですが、インパクからのアクセスよりも企業の公式サイトからのアクセスが多い、つまり自社の広報の努力でアクセスが増えているという現状があります。まさに皮肉な結果ですね。インパク自体、国がやっているので、皆に公平にやろうというところがあり、特に今回、大企業も小さい企業も個人も「公平にやる」という趣旨からいくと「自分のサイトに来やすい環境を作る」というのは難しい部分があるのかもしれませんけど。

編:国が主催しているからこそ難しい問題というのはありますか?

松井氏:たとえば、インパクを盛り上げるために、国と共同でイベントをやるということも考えられるのですが、国の情報開示ルールのステップが障壁になっています。早くからイベントをやると教えてもらえれば、「一緒に盛り上げましょう」という協力関係が築けますが、今の国のルールだと教えてもらえません。国との連携体制が取れないので、PRの部分では正直やりづらいです。また、国からの情報提供はちょっと高圧的ないわゆる“通達”みたいなトーンになってしまうので、どうしてもコミュニケーション不足になりがちですよね。ただ、国側にも制度上などのしがらみがあるので、国がやらないこと、できないことを協会がかわりにやっていくというフォーメーションを保って今後も活動をしていきたいと思います。

編:国(政府)側へ協会として設営者からの要望などのアプローチは行なっているのですか?

松井氏:国(政府)に対して要望だったり、アプローチはしています。協会と国も「みんながインターネット使って楽しくできる世界になり、それが文化として新しいIT社会が構築できれば」という点では目的が同じですので、お互い情報は交換しています。

●夏が山場~現状維持か発展かの分岐点


編:まもなく半分が経過しようとしているのですが、今後のインパクの展開についてどう考えていますか?

松井氏:今、設営者が一番力を入れているのは、「夏休み」です。国がやっている行事ということで、いわゆる「教科書的な」コンテンツがたくさんあります。まさに「夏休み」向けにはぴったりだと思っています。「インパク」は名前だけは知られていますが、中身は全然伝わっていないので、夏に向けて「父子で楽しむコンテンツがたくさんある」というような働きかけをしていきたいです。協会もそうですが、設営者も現状のままだとダメだという危機感は持っていて、各社夏にはなんとかしたいという意向があります。夏に向けて1社だけでなく複数の設営者が組んでイベントをやりたいと考えています。まさにこの夏が、インパクが現状維持で終わるか、それとも名前だけでなくコンテンツも見てもらえるようになるかの分岐点だと考えています。

編:今後「インパク」はどうあってほしいと考えていますか?

松井氏:「インパク」は、Webサイトや「インパク」そのものというよりもいろいろなジャンルの個人・企業のネットワークができています。「インパク」を通じてリンクの輪ができ、ビジネス面でも、従来の縦割り文化ではなく横のつながりを感じています。サイトがどう盛り上がり、アーカイブができたかというのは「インパク」の1つの軸としてありますが、それよりもビジネスの調達の文化、ネットワークコミュニティが次のインターネットビジネスを新しく作っていくうえで、1つのブレイクスルーになるようにコミットを作りたいという気持ちが強いです。「インパク」というキーワードでコミュニティができ、「インパク」が終了した後も繋がり、次のインターネット社会の基盤になったらいいですね。


 「インパク」について、堺屋太一氏は「パビリオン数を現在の400から700パビリオンまで拡大し、そのうち半分はアーカイブスとなり日本に残るものとなって欲しい」と語っているが、実際サイトを見ても、結局目新しいものはなく、これが「アーカイブになるのか」と思ってしまう。しかし、それぞれのサイト自体はおもしろくないが、これらのサイトを作っている人々は1つの“財産”になるのではと感じている。「インパク通じて横のつながりができている」と松井氏が語るように、この人材が1つになり、新しいものを創造していくことが、日本のインターネット社会に貢献することになるのではないだろうか。

(2001/6/8)

[Reported by moriyama@impress.co.jp]


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