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■URL
http://www2.crl.go.jp/kk/e414/2001ippan/index.html
独立行政法人通信総合研究所(CRL)が27日と28日の2日間、東京都小金井市にある施設を一般に公開するイベントを開催している。光ファイバーやインターネット、デジタル放送といった情報通信技術、人工衛星やレーダーによる地球や宇宙の観測技術など、CRLが取り組んでいる先端技術が展示・紹介されている。
研究所は、敷地の端から端まで500メートル以上もある広さで、その中に点在する施設で40テーマにも及ぶ展示が設けられている。いくつかタイトルを例を挙げると、「世界で一番はやいトランジスタ」「伊豆諸島火山活動による大地の歪みを宇宙測地技術がとらえた」「空飛ぶデジカメ」「コンピュータで磁気嵐をつくる」など。直径1.5メートルの光学望遠鏡や日本標準時の基準となるセシウム原子時計の施設なども見学できる。いずれも興味深いものばかりだが、本記事ではその中から、CRL情報通信部門の次世代インターネットグループと超高速ネットワークが出展した「ちょっと変わったインターネット」というコーナーを紹介しよう。
今年完成したという本館。日本標準時を担っているということで、エントランスの上には大きなデジタル時計が | 「ちょっと変わったインターネット」の展示風景。ちょっと見ただけでは単なるラジコンカーのようだが、コントロールに使われているのはラジコンプロポ用の周波数ではなく、無線LANの2.4GHz |
両グループでは、離れた場所にある装置をインターネットを通じてコントロールする技術を開発しており、今回の展示では、その技術を“ちょっと未来のおもちゃ”に適用している。無線LANシステムを利用し、パソコンからインターネット経由で模型自動車を“運転”しようというものだ。ラジオコントロールカー(RCカー)にならって、“インターネットコントロールカー(ICカー?)”とでも呼べばいいのだろうか。
インターネットコントロールカーでは、田宮模型から発売されている10分の1スケールの車体をそのまま利用。モーターやバッテリー、ステアリングを切るためのサーボなども普通のRCカーと特に違いはないようだ。ただし、プロポの受信機の代わりに、「uClinux」が組み込まれたマイクロコントローラーモジュール基盤を積んでいる点が異なっている。さらに、前方の風景を映し出すウェブカメラとIEEE802.11b準拠の無線システムが搭載されている。
展示では、2台のインターネットコントロールカーと、これをそれぞれ操縦できる2組のパソコンを用意。パソコンのモニター上には車載カメラでとらえたリアルタイム映像が映し出されており、ハンドルとペダル型コントローラーを操ってカーレースゲーム感覚で楽しめるようになっている。
本来、ラジコンカーのスピードは時速30km以上にも達するが、展示ではそれほどスピードは出ないように設定されている。10分の1スケールだから、そのままではドライバー視点で時速300kmに相当し、コントロールできないためだ | それでもドライバー視点でのスピード感は相当なもので、フルスロットルで走行するのは難しいらしい。体験者からは「アクセル加減が微妙」との声が聞かれた |
訪れる小学生たちの関心も高く、体験時間になると整理券も配られるほどの盛況ぶりだ。室内に設置された簡単なサーキットを周回するだけなのだが、難易度はかなり高そうだ。コースのフェンスや相手のクルマに激突してひっくり返ってしまう場面もしばしば見られ、1周するのもままならない。どうやら、クルマのスピード感や方向感覚がうまくつかめないらしい。
スタッフによると、実際にこのシステムを製作したことで、いくつか不十分な点に気付いたという。まず1つ目は、音が出ないということ。カーレースゲームではエンジンなどの音から加速感がわかるが、今回のシステムでは視覚情報だけを頼りにスロットルをコントロールしなければならない。パソコンソフト側でエンジン音などをシミュレーションする方法は簡単だろうが、やはりここはマシンにマイクを追加し、現実の音を拾って聞こえるようにして欲しいところだ。
2つ目は、カメラが固定されているため、クルマの横や後ろが見えないことだ。体験走行では、一度クラッシュして変な方向を向いてしまうと、なかなか方向を戻せない人が多いことに気付く。前方を見る分には問題ないが、バックする場合に後ろが見えないので戸惑ってしまうのだろう。これを解決するには、カメラの向きを可動化してコントロールできるようにする方法や、複数のカメラを搭載して視点を切り替える方法などが考えられるという。
そのほか、使われている機材自体のスペックも、まだ十分とは言えないようだ。モニター上に映し出される車載カメラの映像は、ゆっくり走っている時には気にならないが、ある程度スピードを出してカーブを曲がる際にはスムーズさに欠けてしまう。映像の転送レートは、ウェブカメラの性能により160kbps程度だという。仮にもっと転送レートの高いカメラを採用したとしても、今度は無線LANシステムの通信速度がネックとなってくるなど問題は多い。タイミングがシビアなカーレースゲームだけに、かなり気になってしまった。
このようにインターネットコントロールカーは、本当に楽しめるようになるまでには改良すべき余地は多い。また、こんなめんどくさいものを開発しなくても、今では家庭用ゲーム機で十分にリアルで面白いカーレースゲームを楽しむことができるだろう。しかし、操縦するのが現実に存在するマシンという要素だけで、コンピュータゲームがいくら進化したとしても実現不可能な、大きな魅力を感じるのは事実だ。
また、今回はたまたま模型自動車という形をしているが、これが飛行機や潜水艦だったらどうだろう? 無線LAN技術次第では、そのようなより魅力あるシステムが実現するかもしれない。さらに趣味や玩具の分野だけでなく、例えば掃除ロボットや観測機器といった実用分野などへの応用も考えられるだろう。コンピュータ以外の装置でインターネットを活用する技術として、今後の発展が期待できる研究だった。
展示室には、数百km離れた場所にいるスタッフの様子を中継するモニターも用意されている。うまく動かないのか、しきりに画面を確認していた | 1台は、車載機器が見えるようにクリヤーボディのまで走行。本来は空きスペースの部分にuClinuxの基盤などが詰め込まれている。フロントガラス上方の穴からウェブカメラが覗いている |
ところで、インターネットコントロールカーに搭載されているマイクロコントローラーモジュールは、OSにLinuxを採用した超小型のパソコンだ。したがって、クルマ1台ごとにIPアドレスが割り振られている。しかも展示では、LAN内だけのプライベートアドレスではなく、グローバルアドレスを用意。インターネット経由で操縦できるようになっており、兵庫県にいるスタッフとレースを行なうというデモも行なわれた。今回はIPv4のIPアドレスを使用したというが、将来は、おもちゃ屋さんで売っているラジコンカーにIPv6のIPアドレスがあらかじめ割り振られている時代が来るのかもしれない。
なお、インターネットコントロールカーで使っている機器は、すべて市販されている製品だというから、気になる人は製作してみてはいかがだろうか。
「独立行政法人~」というと何やら堅苦しそうな展示をイメージするかもしれないが、このイベントは一般を広く対象としたものだ。くだもの電池や光ファイバーの工作教室などの子供向けコーナーも設けられており、近隣の小学生や家族連れなどが多く訪れていた。
とは言え、紹介されている技術そものものは最先端のものだ。「超高速フォトニックパケットルーティング」「高密度波長多重技術」といった、本誌読者でも関心がありそうな展示も用意されており、スタッフによる詳しい説明を受けることもできる。開場時間は、午前10時から午後4時までとなっている。
(2001/7/28)
[Reported by nagasawa@impress.co.jp]