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■URL
http://www.ntt-east.co.jp/release/0110/011010.html
NTT東日本とNTTは10日、3月から約半年間にわたってフィールド試験を行なった高速無線アクセスサービス「Biportable」についての成果をまとめた。光ファイバー網と高速無線システムを組み合わせたネットワークだけあり、回線品質などに対するユーザーからの評価は上々だが、キャリアとしてどのような商用サービスに結びつけるかという点についてはまだまだ模索が続きそうな気配だ。
●回線品質とシームレス性をアピールする「Biportable」Biportableは、NTT東日本の光IPネットワークと、NTTアクセスサービスシステム研究所が開発した高速無線技術「AWA(Advanced Wireless Access)」によるネットワーク。家庭やオフィス、大学、ホテルやカフェなどのホットスポットに光アクセス回線を引き込むとともに、各スポット内にはAWAの無線基地局を設置し、端末まで無線接続する。今回の試験では、渋谷を中心にホットスポット15カ所、企業4社、大学1校、一般家庭11世帯にBiportableのネットワークを整備。接続端末がPCのモニター120名、PDAのモニター96名が参加し、インターネット接続、オンデマンドによるストリーム映像配信などのサービスのほか、グループウェアやテレビ会議などのアプリケーションが提供された。
Biportableを支えるカギとなっているAWAは、5.2GHz帯を利用する独自の無線技術で、スペック上の通信速度は最大36Mbps。実測値でも、現在普及している2.4GHz帯を利用したIEEE 802.11bの無線LANシステム(最大11Mbps)の4倍強の帯域を確保しているという。既存の無線LANではウィークポイントとされていたセキュリティ面やQoS(サービス品質保証)の機能を備えており、不特定多数が1つの基地局を利用する公衆サービスでの利用や、高品質の映像配信にも対応する。
さらに、光回線を収容するNTT東日本のビル内にストリームサーバーやアプリケーションサーバーを設置することで、Biportableのネットワーク内でエンドツーエンドで帯域を保証した通信が行なえるようになっている。例えば、1つの基地局のもとで同時に8人のユーザーが、2Mbpsでエンコードされた別々のストリーム映像を帯域保証付きで視聴することが可能だという。
このほか、Biportableでは、回線が敷設された各スポットではどこでも接続できる“シームレス”性も特徴だ。同一の端末を持ち歩くことで、家庭でもオフィスでもホットスポットでも同じように接続が可能となるわけだ(ただし国内では5.2GHz帯が屋内でしか開放されていないため、屋外移動時における接続は今のところ不可能)。
●ユーザーアンケートから浮かび上がる商用化への課題さて、モニターユーザーの評価結果だが、ストリーム配信の映像や音声の品質については、2Mbpsということもあり、PCモニターで6割以上、PDAモニターでは6割弱から高い評価を得たとしている。試験に参加したコンテンツプロバイダーからの評価でも、「QoS機能がつき、このレベルであれば充分にお金を取れる」「ビデオと比べても遜色がない」など、すべてのプロバイダーから課金可能な品質であるとの評価をもらったという。
なお、ストリーム配信コンテンツに対する支払い可能額についてのアンケートでは、レンタルなど他の入手手段があるビデオや音楽については、それよりも安い価格(ビデオ281円、音楽1曲228円、映画のロードショウ772円など)を希望していることが明らかになった。これに対し、教育やビジネス分野では支払い可能額が高くなっている。
次に、Biportableのシームレス性については、PCモニターの78%が持ち歩いて利用したいと回答(「いつも利用したい」が39%、「たまに利用したい」が39%)しており、報告書では「外出先での高速無線アクセスに対する需要が高いことがわかる」としている。さらにPDAモニターでは、87%が利用意向を示すという結果になった(「とても利用したい」が38%、「まあ利用したい」が49%)。
上記の結果からもわかるように、Biportableのシステムそのものに対する評価は高いと言っていいだろう。しかしアンケートからはそれと同時に、商用化を実現するにあたっての大きな課題も浮かび上がっている。
例えばシームレス性について利用意向が高い反面、PCモニターの22%が「あまりノートPCを持ち歩きたくない」と回答している。すなわち、「ノートPC本体がまだ重いから使いたくない」「PCが重くかさばるため、今は使いたくない」という意見だ。
一方、持ち運びがラクなPDAについては、利用したくないというモニターは0%だったものの、「画面が小さいし、利用内容が限定されそう」「PCのほうが速いし、拡張性もある」といった、機能面の不足が指摘された。この点については、ストリーム映像についてのアンケートで画面サイズについての不満が強かったことに反映されているほか、コンテンツプロバイダーからも「PCでは有料化は可能だと思うが、PDAではお金を払ってまで見る人はいないのではないか」という意見も寄せられている。
このように、PCとPDAではどちらも一長一短があり、報告書でも、需要については「PCの軽量化」や「(PDA)端末の小型化や機能向上」が前提となることを認めている。
さらに、有料コンテンツ/サービスのプラットフォームとしてどの程度の利用が見込めるかという点についても未知な部分が大きい。ログデータをもとにサービス項目ごとの利用割合を抽出したデータでは、「ストリーミング映像配信」が26%、「ちょこっとMovie」(“動画版プリクラ”と呼べるサービス)が23.1%、「グループウェア」が1.6%、「TV会議」が0.3%、「ASP」が0.3%となっており、もっとも利用が多いのは48.8%を占める「高速インターネット接続」だった。
帯域保証によりインターネット上よりも品質の高い映像やサービスが提供できるとは言え、結局はインターネット接続が利用目的の半分近くを占めるのであれば、ビジネスモデルとしてもここに比重を置かざるを得なくなるだろう。その意味では、なかなか有料コンテンツ/サービス市場が本格化しないブロードバンド市場と同じ悩みを抱えていることになる。
●とりあえず、無線LANソリューションは商品化へ2社では、今回の検証結果をふまえて家庭やオフィス、ホットスポット向けの本格展開を検討するとしているが、キャリアとしてどのようなビジネスモデルで展開するのかについては、現時点では「見えていない」(NTT東日本の小林忠男企画部担当部長)。NTT東日本からホットスポットに対してサービスを提供し、エンドユーザーに対しては各ホットスポットからサービスを提供する形となるのか、それとも携帯電話やPHSなどのように基地局をNTT東日本自身が各地に設置し、エンドユーザーと直接回線契約を結ぶ方式をとることになるのかも未定だという。いずれにせよ、速度面/機能面でのアドバンテージがあるのは事実だが、NTTの独自方式であるAWAが、標準規格としてすでに広く普及しているIEEE 802.11b方式による市場に今からどこまで食い込めるのかがポイントとなる。
その一方で、無線LANソリューションとしての提供は順調に進められる見込みだ。家庭、オフィスともにモニターからの高い評価を得たとしており、今後はAWAの無線基地局と無線子機カードについて商品版を開発し、2002年春にも発売する。
商品版では機器の小型化が進められ、巨大だった基地局についてはA4サイズで厚さが数cmのローカルルーター並みのサイズになる。子機カードについても、試験用の機器では消費電力の関係から電源が別に供給されていたが、商用版ではパソコンから供給できるレベルとなり、サイズもIEEE 802.11b製品と同程度になる。価格については、「実効スピードや機能で勝っているとはいえ、IEEE 802.11bの2倍以上では売れない」(小林担当部長)と見ており、それ以下の価格設定とする考えだ。無線ソリューション機器の販売については、「将来性のある市場」ととらえているという。
ところで、AWAと同じ5.2GHz帯を利用する無線LAN規格としては標準のIEEE 802.11aがあり、ソニーなどがすでに準拠製品を発表している。IEEE 802.11aでは規格上の最大速度が54MbpsとAWAよりも高速だが、この点については、「IEEE 802.11aで54Mbpsまで対応する64QAMという変調方式では実効距離が短い。実効速度ではAWAとそれほど変わらない」という。
なお、AWAの無線LANソリューションはあくまでも製品を販売するというビジネスモデルだ。これを購入したユーザーは、家庭内/企業内の無線LAN環境を自分で構築する形となり、アクセス回線についてもBフレッツや専用線など任意の別サービスと組み合わせて使うことになる。これに関連して小林担当部長は、Biportableとしてすべて統合したサービスとして提供するのではなく、アクセス回線としての光IPネットワーク、無線ソリューション、インターネット接続についてそれぞれ分けてメニュー化し、ユーザーが組み合わせて使えるような料金設定も考えられるとしている。
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(2001/10/10)
[Reported by nagasawa@impress.co.jp]