【イベントレポート】

「NTT R&Dフォーラム2001 in 厚木」レポート
ごく近い将来のIT技術を紹介

■URL
http://www.nttforum.jp/2001/atsugi2001/top/

 2001年10月5日、NTT先端技術総合研究所主催による、IT関連の先端技術の紹介イベント「NTT R&Dフォーラム2001 in 厚木」が、NTT厚木研究開発センタで開催された。会場では、“新世代ネットワーク”、“環境・エネルギー”、“未来型コミュニケーション”、および“サイエンス”の4ジャンルに分かれて、現在進行中の最新研究成果が発表された。今回は、多くの展示の中から興味深かったものをピックアップしたい。

●ベストエフォートなIPトラフィックを平等に管理する次世代Edge System


 NTT未来ねっと研究所メディアネットワーキング研究部では、従来ベストエフォート型で提供されているIP網内で、ユーザーが希望する通信品質を保つIP網トラフィック制御技術を研究している。今後、ADSLやFTTHといったブロードバンドインフラを実現するために、回線が増強される方向にあることは間違いないが、その結果、現在目に見えにくい問題が浮かび上がってくる。それは、利用目的や使用しているアプリケーションによって、一部のヘビーユーザーが帯域のほとんどを獲得してしまい、その一方でWebブラウズのみを行なっているユーザーが排除されてしまう可能性だ。

 そこで、現在研究中の「次世代Edge System」では、独自開発プロトコルによるトラフィックコントロールが可能な、光ファイバーによるブロードバンド公衆IP網の構築を目指す。まず、ベーシックサービスとして、公衆IP網では、同一の料金を支払ったユーザーには、同じ帯域が保証されるシステムを構築する。Edge Systemでは、ユーザーが発信しているパケットに付加されたレート情報と、ネットワーク全体のレート情報を比較し、高レートのパケットを選択的に破棄する。この結果、同時に利用しているユーザーが公平なるような帯域幅が与えられる。この「公平性制御(MXQ)」は、ユーザーの増減にリアルタイムに反応して、適宜設定される。

 この帯域保証を基本サービスとして、一定の料金を追加で支払うユーザーに対してパケットを優先的に転送するプレミアサービスも検討されている。これは、パケットを送信する前に、ユーザーが支払い可能な追加金額を入力することで、それに応じた優先処理を行ない、本来廃棄される高レートなパケットを受信することができるものだ。従来提供されていた専用線接続を“高速道路”に例えれば、安価に“バス専用道路”を一時的に借りることができるということだ。さらに、送達希望時刻指定処理(Destination Arrival Time based queuing System;DESART)を組み合わせれば、パケット毎に宛先に到着して欲しい時間を設定することができる。ネットワークは、パケットにつけられた到着予定時刻を比較しながら、パケットの並べ替えを行なう。有効な使い方として、データを指定した時間までに届けるやり方と、ストリームデータのように一定の間隔で到着することを保証するやり方の2種類が想定される。

 これらの仕組みを実現するために、ネットワーク上でユーザーに一番近い場所に「Edge Device」が設置される。これは、ユーザーが要求を入力するインターフェイス、ネットワークそのものや、そこを流れるパケットを監視し、ユーザーの要求に対して何ができるのかを調査する機能、課金機能などを提供する。試作機には、ユーザーポートとして、10/100base-Tポートを8~24ポート、アップリンク用ポートとしてギガビットイーサポートが1~2ポート準備されていた。市場への投入は、公衆IP網がブロードバンドになる2~3年後を目指す。

●スイッチ一つで携帯電話にも無線LAN端末にも切り替わる無線機


 NTT未来ねっと研究所ワイヤレスシステムイノベーション研究部では、従来、専用のハードウェアが必要だった無線機の発想を転換して、交換可能なソフトウェアによる無線機の開発を行なっている。同研究部では、中間周波数帯域までをプログラムすることができるフレキシブルレート・プリポストプロセッサ(FR-PPP)を開発した。モニター画面をクリックすることで、PHS方式と無線LAN方式の切り替えができるデモ機が展示されていた。

 この技術が実用化されれば、一つの端末を状況に応じてPHSにしたり、携帯電話にしたり、無線LAN端末にしたりが可能になる。また、ソフトウェア部分をダウンロードしてアップグレードや機能の追加ができるように設計されている。この機能で、個人の認証を厳密に行なうため、SSLに、NTT情報流通プラットフォーム研究所と三菱電機株式会社が共同開発した共通鍵暗号方式「Camellia」を組み合わせて高いセキュリティを確保するとしている。なお、製品化には2~3年程度かかりそうだ。

●楽曲のサビの一部から、インターネット上のムービーを検索する技術


 NTTコミュニケーション科学基礎研究所では、学習アクティブ探索法(Learning-based Active Search Method:LAS)を使ったインターネット上の音声や映像を高速で検索するシステムが展示されている。

 デモでは、インターネット上から自動巡回プログラムで映像ファイル1万点、音楽ファイル1万点を蓄積したLASサーバーと、Webベースの検索フォームを持ったクライアントPCが準備されていた。8秒程度の“サビ”部分の入ったミュージッククリップを手がかりに検索すると、その特徴とLASサーバー内に蓄積されている特徴データを比較し、目当てのムービーファイル(フルコーラス)のURLを表示した。

 従来、約60時間分の音声や映像の中から特定の音声・映像ファイルを検索するには10分程度の時間がかかっていたが、この方法を使えば1秒程度で検出することができるという。また、学習機能によって、ビットレートが低いものやノイズが乗ったものでも検索が可能だ。

 主な利用方法として、Web上のファイルだけでなく、PCとTVチューナーを接続することで、テレビでオンエアされている音や映像を検索することが可能だ。具体的な使い方としては、TVCMを出稿している広告主が、1日分のTV映像をキャプチャーしたものの中から、決められた時間に、契約した本数のCMが流されているかチェックしたり、オンデマンド放送のインデックス替わりに使うことができる。なお、この技術は、NTTコミュニケーションズやソニーなど5社による音楽ブックマークサービス「eMarker」にも使われているという。

●興味のあるもの同士をつなぐP2Pネットワーク「SIONet」


 NTT未来ねっと研究所ネットワークインテリジェンス研究部では、不特定多数のネットワークの中から、興味のあるもの同士をつなぐP2Pマッチングネットワーク「SIONet」を紹介していた。

 「SIONet」は、「イベント」(IPパケットのようなもの)のアドレスの部分に意味情報(キーワード)を付加し、同じ興味によるカテゴリー「イベントプレース」を構築するP2Pネットワークだ。「SIONet」内で情報を発信する時点では、誰に送るかは決まっておらず、どんな人に届くかだけが決められている。意味情報は、この任意の「イベントプレース」内でのみ一意性を保つことになり、関連のないネットワークのユーザーに対してセキュアな環境を構築することができる。ネットワーク構成は、集中管理サーバーを介在しないGnutellaタイプで、エンティティ(ユーザー)の増減にスムーズに対応する。

 デモでは、流しのタクシーとタクシーを捜しているユーザーをマッチングするサービスや、仲間同士のインスタントメッセージネットワークやファイル交換、さらに個人TV局といった使い方を提案していた。個人放送局サービスの場合、あるサイトを見ているユーザーに対して、そのWebブラウザーから閲覧者の嗜好を分析し、最も関連のある情報を配信している放送局の動画を流す。個人放送局なので、突然オフラインになる可能性があるが、その場合は次に関連性の高いものに切り替える。また、新たに立ち上がった放送局が、より最適なものを提供すれば、チャンネルを変更する。つまり、その時点で最も関連性が高いものだけをユーザーに届けるのだ。

 デモの担当者によると、「将来的は100万~1,000万の個人放送局がネットワークにつながるようになるので、ユーザーが選択的に動画を見ることは不可能に近くなる。そこで、SIONetソフトウェアのエージェント機能によって、自動的に一番関連性の高いものを選択、提案する」という。任意の番組を選択できないことに対して抵抗感が残るのだが、これについては「繰り返し重要度を学習することで、あらたな意味情報が追加され、徐々に個人に最もマッチする動画提供が洗練されていくだろう」とのことだった。

●未来を先取りしたものは、現時点では奇抜に見える


 イベントでは、ほかにも1ボルトの電池で動作する超小型2.4GHz帯無線トランシーバーや、最大500メートルまで接続可能な光ファイバーを使ったLAN接続装置、光ギガビットイーサネットの無線伝送が可能な120GHzミリ波無線技術(伝送速度2.5Gbps以上)などが展示されていた。現時点では奇抜に見えるものもあるが、いずれも2~5年のうちに実用化を目指しているもので、実現したら大きな構造改革、技術革新をもたらすものばかりのはずだ。

(2001/10/15)

[Reported by okada-d@impress.co.jp]


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