【イベントレポート】

Web技術セミナー「W3C Day」が慶應義塾大学で開催
Webの潜在的な可能性を引き出すことがW3Cの使命~Tim Berners-Lee氏

■URL
http://www.w3.org/Consortium/Hosts/Keio/w3cday-2001/

 11月29日、Web技術の標準化団体「World Wide Web Consotium」(W3C)が主催する技術カンファレンス「W3C Day」が東京・慶應義塾大学三田キャンパスで開催された。今回のW3C Dayは、現在推進している「Semantic Web」や「Annotation」、PC以外の端末からのWebアクセスなどの講演が行なわれた。

 開会に際して、SMIL(同期マルチメディア統合言語)で書かれた動画を使い、Webの生みの親であるTim Berners-Lee氏が挨拶を行なった。同氏は、“1つのWeb”、つまり誰でもどこからでも同じWebを閲覧できる普遍性の重要性を説いた。

 続いて、W3C European Communications OfficerであるMarie-Claire Forgue女史がW3Cの紹介を行なった。女史によると、W3Cは米MITに1994年に設立され、その後、1995年に欧州ホストが仏INRIAに、1996年に日本ホストが慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスに設立された。現在、この3ホストに68人の技術者が集って、Webに関する技術の標準化を行なっている。これらホストのほかに、英国やドイツ、ギリシア、イスラエル、香港、オーストラリアなど10ヶ国にオフィスを作り、W3Cの活動を現地の言語で紹介している。

 W3Cの活動は、勧告(Recommendations)という形で、Web技術の標準化を行なうことであり、これまでに45の勧告を提案してきた。2001年は、「XHTML1.1」や「SMIL2.0」、「SVG1.0」、「XML Schemas」など14の勧告を策定した。これらの活動は、「Architecture(主にXMLなど)」「Document Formats(主にHTMLなど)」といった5つの大きなグループに分かれて行なわれている。

Tim Berners-Lee氏 Marie-Claire
Forgue女史
W3Cの活動ドメイン

●次世代Web概念「Semantic Web」


 2つ目の講演には、慶應義塾大学の萩野達也氏が登場し、1999年にTim Berners-Lee氏が提案した「Semantic Web」への取り組みを紹介した。Semantic Webは、Webサイト上にメタデータとしてセマンティクス(意味情報)を付与し、人の手を使わずにデータを機械的に処理できる空間を創出するものだ。

 萩野氏は、「HTML、XMLに次ぐWebの概念」と紹介したが、同時に「Semantic WebとHTMLは共存するものだ」とも説明した。なぜならば、Webには2つの目的があり、一つは人と人とのコミュニケーションを担うものとしてHTMLが存在し、もう一つは人と機械のコミュニケーションを担うものとしてSemantic Webが存在するからだ。

 講演では、Semantic Webの使用例として、旅行代理店を探すケースを紹介した。札幌にある旅行代理店を探す場合、現在のページの中の文字列を抽出する検索エンジンでは、「札幌」と「旅行代理店」の二つのキーワードで検索をかけた場合に、札幌ツアーを企画している代理店もヒットしてしまう。結局、検索結果から検索者が情報を見て確認する手間が生じる。Semantic Webを利用して、Webページに「店の住所」をメタデータとして付与しておけば、機械が自動的に札幌にある旅行代理店を検出してくれる。メタデータの付与の仕方次第では、「木曜日に営業している旅行代理店」を検索することも可能だし、UNIXのpipe処理のように検索して得られた結果から、「安い札幌ツアー」を検索するスクリプトに連携させることも可能だ。

 これまでに、メタデータの構造については「RDF(Resource Description Framework)」が、メタデータの与え方については「RDF Schema」が、ほぼ完成しているという。現在、メタデータで使う言葉を定義する「Ontology」について策定作業が進められており、今後、メタデータ上の検索・推論・処理の記述方法を策定する方針だ。Semantic Webは、先に挙げた“賢い”検索だけでなく、家電ネットワークのプロトコルとして利用したり、WebデータとPDAなどとの連携、P2P的な情報発信などに利用できるという。

萩野達也氏 Semantic Web
アーキテクチャー

●誰でも簡単にWeb上に注釈をつけられる「Annotea」


José Kahan氏

 午前中最後の講演に、W3C Annotea Project Chief ArchitectのJosé Kahan氏が登壇し、Webに注釈付け(Annotations)を行なう「Annotea」について紹介を行なった。Annoteaは、Webページに対して複数人で注釈を付け加えられる技術だ。例えば、Web上の写真に対して、撮影者や撮影日、撮影場所やコメントを付け加えたり、文中の特定の単語に注釈をつけることができる。SVGで書かれた画像であれば、パーツだけに注釈をつけることも可能だ。

 注釈は、別のリンクページを生成し、誰が、いつ、どのページに対してどんなタイプの注釈をつけたのかという情報などとともに、表示される。注釈のタイプとして、コメント、アドバイス、参照、疑問、変更などが選択可能で、注釈に対する注釈や、アドバイスに対する返答など“子”となる注釈を付加していくことができる。このように、Webページに対してメタデータを共同作業で付与していくことがAnnoteaの狙いの一つだ。

 注釈は、同一ブラウザー上に表示されるが、データそのものはAnnotationサーバーに格納される。そのため、注釈元が削除されたり、移動してしまった場合、正しく注釈を読み込むことができないという問題も残されている。また、基本的にリンクなので、誰でも注釈をつけることができるが、著者がアクセス制限を行なうこともできるという。

 現時点でAnnoteaが使える環境だが、サーバーに関してはW3C RDF Generic Serverを利用して2000年11月より公開テストが行なわれている。また、クライアントには、W3Cが提供しているブラウザー兼エディタ「Amaya」や、JavaScriptベースの「Bookmarklet」、Mozillaベースの「Annozilla」、IEベースの「Snufkin」などが存在している。

注釈は別ウインドウにリンクで開く テキストに注釈をつけると、鉛筆のアイコンが表示される SVG画像に注釈をつける。ここではわざと目のパーツを指定

●PCに依存しないWeb環境作りの現状


北川和裕氏

昼食後、最初の講演では、W3C Device Independence Activity Leadの北川和裕氏が“Device Independence(DI)”、つまり端末に依存しないノンPCによるWebアクセス技術の現状を紹介した。この分野は、携帯電話や情報家電、カーナビゲーションシステムなど日本が得意とする技術分野に密接な関係があり、議長を含め多くの日本人スタッフが活動している。

 DIが目指しているのは、携帯電話やデジタルTV、家電などから“同じWeb”を閲覧できる「ユニバーサルアクセス」と、Webの作り手が簡単に多くの端末に対応したWebを作成できる「シングルオーサリング」だ。このワーキンググループはまだ設立されたばかりで、現在「DIをなすのに、何が足りないのか」を調査し、Device Independence Principlesを公開したところだ。

 携帯電話用Webや、情報家電用Webの基本コンポーネントにはXHTML Basicを採用する。しかし、XHTML Basicは、データ構造を記述しているだけなので、表示方法は別途考えなければならない。また、PC用のWebとは、当然多くの差異が生じる。例えば、携帯電話の場合、表示画面が小さいという問題があり、インタラクションはテンキーベースだ。また、車載システムの場合、インタラクションに音声を使う必要がある。入力デバイスが異なれば、新たなナビゲーション方法が必要になる。

 そこで、XHTMLをそのまま使うと守備範囲が広すぎるので、Mobile SVG、Mobile CSSなどのような機器に特化した仕様を作成し、コアな部分を複合する方向を目指すようだ。DIのための要素技術として、すでにW3Cが持っているSMILやCC/PP(ユーザの嗜好や端末の性能を記述するフレームワーク)、RDFやXSLT(XMLドキュメントを別のXMLドキュメントに変換する言語)など活用する方針だが、今後、どのように組み合わせていくべきか、また、足りない部分にどんな新しい仕様を作っていくべきかを模索していくという。

 例えば、XHTMLを理解する電子レンジに、Semantic Web(コンテンツに対するメタ情報と機器に対するメタ情報)を利用して料理レシピを読み込ませ、自動的に調理させるという使い方や、普段は携帯電話としてテンキーでWebを閲覧するが、車に乗ると音声のみで同様の機能を果たすようなマルチモードなインターフェイスが考えられる。

 このように、VoiceXMLやXForms(HTMLのフォームを分離、拡張したもの)を利用したインターフェイスや、機器の特性を生かして位置情報や環境を反映したコンテンツ変換を利用したサービスが現れてくると予想している。ただし、メタデータの変換プロトコルが存在していないという実装に関わる問題点など片付けていく項目がたくさん残されているようだ。

●Webに強力な表現力を提供する「SVG1.0」と今後の発展


Chris Lilley氏

5つ目のセミナーとして、W3C Graphics Activity LeadであるChris Lilley氏がSVG(Scalable Vector Graphics)の紹介と今後の展望を解説した。SVGは、XMLの記述法にしたがって書かれたベクター画像で、ベクター画像の利点(縮小や拡大、印刷してもきれいに表示される、画像の大きさに関わらず同じデータ量など)に加えて、既存のXMLツールなどを利用できるのが特徴だ。「SVG1.0」は、2001年9月5日に勧告されたばかりだが、すでにSVGワーキンググループでは、「SVG1.1」や「SVG2.0」、「SVG Mobile」などの策定を進行中だ。

 SVGでは、画像の拡大・縮小や、クライアントによる動的な変形が可能なほか、パスに沿ってテキストを配置することや、テキストそのものに属性を付けてフォント、サイズ、文字色、縦書き、横書きを自在にコントロールすることができる。フォントに関しては、独自フォントを規定することもできるので、会社のロゴなどを正確に表示することが可能だ。さらに、画像のマスキング、色のグラデーション、ラスタ画像処理(ビットマップ画像)、「SVG2.0」のサブセットである「SVG Animation」を使ったモーションパス(パスに沿ってオブジェクトを動かす)、色のアニメーション、スライドショウ(アニメーションのチェイン化)なども可能。

拡大・縮小・変形 パスに沿って
テキストを配置
ラスタ画像処理 画像のマスキング

 マウスイベントと組み合わせることにより、同じ地図上に等高線や道路、高速道路、史跡、観光地の紹介などを配置し、ユーザーが動的に地図を生成することができる。史跡や観光地紹介などにはテキストで説明文を入れることも可能で、検索エンジンで検出することもできる。

道路だけを表示 高速道路も表示 観光地案内にズーム
テキストを選択反転

 現在、米Adobe社がSVGを表示するためのプラグインを配布しており、Windows、MacintoshともにメジャーなWebブラウザーで表示できるほか、MozillaにSVGを実装する動きもあるという。

 Lilley氏は、SVGのロードマップを示しながら、「モバイル端末をすでに無視することはできない」として、モバイル対応を施したマイナーチェンジ版「SVG 1.1」のファーストパブリックドラフトを2001年10月30日に発表した。「SVG1.1」では、表示エリアの小さいモバイル端末を意識して、テキストラッピングや垂直・水平方向の行揃えのほか、画像を拡大・縮小しても説明文が常に同じように表示される「Viewport coodinates」、奥行きをあらわす「z-ordering」などを実装する予定だ。

SVGロードマップ

さらに「SVG1.1」は、「SVG Basic」と「SVG Tiny」に分化する。主にPDAを意識した「SVG Basic」では、JPEGやPNGといったラスタ画像への対応や、CSSの部分的なサポートを追加する一方で、必要性のない機能の削除やサブセットの取捨を行なっている。一方、携帯電話などを意識した「SVG Tiny」では、さらに機能を絞り込んで貧弱なCPUパワーでもSVGが快適に扱えるようにしている。両者とも、2001年10月30日にファーストパブリックドラフトが発表されている。

 「SVG1.1」の後継となる「SVG2.0」は、パスの種類の増加や、ユーザーインターフェイスとなる部品、複数のアニメーションのタイムラインを同時に処理できる機能などを拡張する。Lilley氏は、「構造と表現を切り離すことで、デザイナーはさまざまなインターフェイスを作る自由度が上がる」とコメントした。

●今後のW3Cの行方


 最後に、慶應義塾大学W3C副議長の斎藤信男氏が「W3Cの最近の話題から」というスピーチをした。W3C全体の流れとして、統一的な表現としてXMLに基づくアーキテクチャーを利用することが決まっているほか、今後は、Semantic Web(メタデータの付与)が重要になってくるという。一方で、「HTMLが普及した理由には、簡単だからという要素がある。XHTML、XMLと記述が複雑になり、さらにメタデータを記述せよと言うのであれば、シンプルに記述できる方法の提供が重要だ」とコメントした。

 今後の方針として、意思決定方法がディレクターであるTim Berners-Lee氏一人の“独裁”であったものから、アドバイザリーボード(AB)やテクニカルアーキテクチャグループ(TAG)などに複数化してきていることに言及した。また、従来W3Cがすべきではないといわれていた研究活動についても、必要性が高まっているのではないかとコメントした。

 カンファレンスの一番最後に、タウンホールミーティングとしてW3CスタッフとのQ&Aが開催された。ここでは、出席者とスタッフの間で、パテントポリシーやテストスイートなどに関する熱い議論が交わされた。

斎藤信男氏 ずらっと並んだ
Leadスタッフ達

(2001/11/30)

[Reported by okada-d@impress.co.jp]


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