【イベントレポート】

IPv6 Summitレポート

「ワイパーの稼働状況も集めればビジネスになる」 村井純氏

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●ワイパーの稼働状況も集めればビジネスになる


 横浜にて開催中のIPv6国際会議「Global IPv6 Summit in Japan」2日目の最初のプログラムでは、WIDEプロジェクトの村井純氏による基調講演が行なわれた。村井氏は「最近IPv6についていろいろと質問されるが、その答えをみなさんと共有したい」と今回の基調講演の意味を述べた。

 非常に多い質問としていくつか挙げ、「IPv6への移行は本当に必要なの」に対して「今と同じようにパソコンを中心に考えたインターネットを続けるのなら必要ではないだろう。しかし、今後はパソコン以外のデバイスをインターネットにつなげるためにはどうしても必要となる」として「パソコン以外のインターネットにも、もっと目を向けてほしい」と呼びかけた。デジタルデバイドに関しては「IPv6によりパソコン以外のデバイスがインターネットに繋がり、より簡単になるのでその格差は縮まるだろう」とすべての人が恩恵を受けるためにはIPv6の導入は必要だと強調した。

 村井氏は「たくさんのデバイスが繋がると、それらを探す技術が必要になる」とデバイスの検索システムの重要性を述べ「DNSやそれに変わるような技術を用いて『どこにある何とつなげたる』と簡単に指定できるようにしなければならない」とした。

 また今後、移動するデバイスが増えることにより「移動するオブジェクト(デバイス)の権利」と言う概念を打ち出した。移動するデバイスの場所を調べる技術として「GPS」が挙げられるが、特に都市部においてビルに遮られてGPS衛星の電波が届かない場所があるという。「建物が建つと衛星からの電波がとぎれる。日照権のようにGPSの電波も権利だ」と場所を知るための手段が重要であることを強調し「GPSを補完するデバイスを作らなければならない」と新たな技術の開発を呼びかけた。

 2001年の2月に横浜で実施されたITSのフィード実験についても触れ、ここではバスやタクシーにさまざまなセンサーをつけてそれぞれの情報を収集したという。例えば、「それぞれの車につけたワイパーの動作状況と、その場所を収集すれば雨の降っている場所が詳細に知ることができる」と新たな使い方を提案し「この情報をタクシー会社に提供することにより、『雨による客待ちが多い地域』として活用することができる」とビジネスチャンスの1つであると期待した。

 最後に「コーヒーカップに温度センサーを付けて、その情報を収集することも考えられる」が、それを否定する人もいることに対して異論を唱えた。「カフェなどで、温度の下がったコーヒーを交換するといったビジネスにも利用ができる」と新たな使い方を提案し「IPv6の新しい使い方に対して、理解が広く得られるように努めてほしい」と呼びかけた。

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●情報家電の普及には「自動設定」と「コスト」が重要


 午後のプログラムでは、パネルディスカッション「コンシューマへのIPv6導入の課題を探る」が開催された。ここでは、家電メーカーとISPの代表である6人のパネリストが、IPv6を用いてすべての情報家電や移動端末をどのように連携してコンシューマーへ浸透させるのかを議論した。

 はじめにパネルコーディネーターである株式会社インターネット総合研究所の荻野司氏が「IPv6を用いてパソコンが中心だったインターネットを情報家電にまで広げて何を提供するのか」などの質問を投げかけた。

 まず、松下電器産業の田中章喜氏がそれに答えた。「エアコンを操作したり、冷蔵庫の中身を確認するといった事はもちろんだが、メーカーがメンテナンスに使うことも考えられている」とし、東芝の永見健一氏も「メーカーはどこが悪いのか調べ、必要であればソフトウェアのアップデートも行なう」と可能性について述べた。

 次は「ISPと機器メーカーのつながり」について議論が交わされた。ソニーの尾上淳氏は「製造する機器は、どんなネットワーク環境で使われるのか想像できない」とネットワークと機器の関係について述べた。NTTコミュニケーションズ山崎俊之氏は、「家庭内では線は1本だが、サービスによって接続ポイントを複数用意することも必要」とし、例えば携帯電話の場合「家庭だとBluetooth、街頭では無線LAN、電車での移動中はIMT2000のようにロケーションによっても接続先を選ぶ必要もある」と今後の課題を提案した。

 キヤノンの伊藤公祐氏は「ネットワークサービスも端末の一部であり、ネットワークに繋がらないことをユーザーの責任にはできない。ISPはコネクティビティを保証して、端末メーカーは完全なサービスを提供する」とそれぞれの「責任」を改めて確認した。その上で「サービスを受ける際に用いられる『端末アドレス』はIPアドレスをそのまま使うのが適切で、Macアドレスのようなものを出荷時に組み込むのがよいのではないか」と提案したが、それに対して富士通の猪俣彰浩氏はISPの立場として「端末に勝手にアドレスが割り当てられると、経路制御が煩雑になる」と指摘「端末アドレスはIPアドレスとは別でなければならない」とした。東芝の永見氏は「IPアドレスは経路制御のみに利用するのが好ましい」とし、ソニーの上尾氏は「IPアドレスは128ビットと長く端末管理に関しては意味のない羅列となり不適当」とそれぞれ「IPアドレスと端末アドレスは別にするべきだ」と意見を述べた。

 最後にACCESSの筬島雅之氏が客席から質問を行ない「自社で開発した組込用TCP/IPスタックをメーカーに売り込んだらコストがかかることを理由にすぐに断られた経験があるが、管理目的だけでネットワーク機能にかかるコストをメーカーが負担する訳にはいかないだろうか」と提案した。それに対し東芝の永見氏は「ユーザーサイドのメリットがなければコストアップはできない。例えば、携帯電話で冷蔵庫の中身を確認するサービスを提供することによって利益を確保して、ネットワーク機能分の差額を回収する方法も考えられる」と答えた。

 最後に荻野氏は結論として「どのような付加機能がユーザーに認めてもらえるのかを考えなければならないが、家電は価格競争が激しいため『コスト』が最重要課題なのではないか」と述べた。

●IPv6移行に対して「税制優遇措置」が必要


 IPv6 Summit最後のプログラムとして、6人のパネリストにより「IPv6のもたらす社会的インパクト」とする議論が交わされた。今回の議論は、IPv6と言うよりもむしろインターネット全体に関して展開された。

 三和総合研究所の高橋明子氏は、ユーザーの立場としてプレゼンテーションを行ない「保育園にいる自分の子供をいつでも見られるような『自分の目や手があらゆるところに届くアプリケーション』が広く人々に受け入れられる」と生活に密着したサービスを広げてほしいと提案した。また、冷蔵庫を例に取り「冷蔵庫にある牛乳がなくなったら自動的に感知して配達するサービスも出てくるだろうが、それには企業に冷蔵庫の中身を伝える必要がありプライバシーが侵害される」と自らの意見を述べたが、「現在でも、クレジットカードの番号をインターネットに流すのに抵抗がある人とそうでない人がいる」として、ユーザーそれぞれの認識の違いもあると語った。

 日本経済新聞社の重森泰平氏はスタンフォード大学のレッシング教授の説を例に取り「インターネットでの規制」について述べた。冷房の省エネを推進する際、設定温度を高めに設定するのだが、人間にその行動を起こさせる要因として「設定温度を低くするのは恥だという認識(社会の規範)」「法律で規制する(法)」「低い温度設定ができる冷房は高価にする(市場)」「低い温度設定の冷房は製造しない(アーキテクチャー)」の4つがあるという。その中の「製造しない」つまり、規制に基づいてサービスや機器を開発するのが一番有効だと述べた。その上で「アーキテクチャーを作るためにはいろいろな人たちが関わることが重要だ」と呼びかけた。

 総務省データ通信課インターネット戦略企画室の伊東香織氏は政府とICANNの動きについてプレゼンテーションを行なった。e-Japan構想では2005年までにIPv6への移行を完了するとしており、そのためには政府として「IPv6移行に関する税制優遇措置が必要だ」と呼びかけた。また、ICANNについては「まだまだIPv6に関わる議論が不足しているので、各国政府とも連携を取り進めてほしい」と述べた。

 日経BPの林哲史氏は同社のIPv6専門サイト「IPv6 start.net」で行なったアンケートの結果を発表した。IPv6のメリットについては「新規事業に参入しやすい」、デメリットに関しては「コストがかかる」といった意見が多かったという。また、IPv6の普及策として「そもそも『普及策』などと言って進めるからだめだ」と言う一方で「強制的なタイムスケジュールを設ける必要もある」といった意見も出てきたという。

●ここでの議論は歴史上の重要な出来事になるだろう


 最後に再び村井氏が登場した。「IPv6とは非常に薄っぺらい技術なので、それにいろいろなデジタルテクノロジーが融合することにより完成する」とIPv6の位置づけを語った。また、今回のIPv6 Summitは「やる気のある、前を見た議論に終始したことは心強かった」と振り返り「ここでのIPv6の活動はインターネットにおける重要な歴史の1つになるだろう。ここに立ち会えたことを誇りに思ってほしい」と参加者にエールを送り幕を閉じた。

 これまでIPv6については「いよいよ本格普及だ」と幾度もアピールされてきた。2002年はコンシューマー向けの実験が大規模に実施され、NTTコミュニケーションズはADSLによる接続を2002年の春をめどに開始すると発表。またKDDIも2002年度の早い時期にダイアルアップによる接続を始めることから、他社も追随するものとみられる。まだ、IPv6専用機器やアプリケーションの予定が見えないのは残念だがいよいよ本当に本格的な普及が見込まれそうだ。

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(2001/12/5)

[Reported by adachi@impress.co.jp]


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