INTERNET Watch Title
Click

【レポート】

父島の“日本一早い初日の出ライブ”計画のその後<その3>


ナローバンドもままならない離島のネット事情


 東京から1,000キロメートル以上も離れた父島からウェブカメラによる初日の出中継を行なうにあたって、最大の障害となっているのはインターネットまでのアクセス回線だ。

 今回の取り組みでは、ウェブカメラでキャプチャーされた画像をいったん東京のサーバーに送信し、そこでインターネットに広く公開する方法をとった。カメラ内蔵のウェブサーバー(もしくは別途、島内に設置したウェブサーバー)をそのままインターネット上で、しかもアクセスが集中するであろうイベントで公開するのに必要十分なバックボーン回線が、父島とインターネットの間には存在しないためである。

 しかも、東京に公開サーバーを置く方法にしてもネックとなる部分があるのだが、それにはまず父島の通信事情に触れておかなければならないだろう。


 父島でインターネットに接続するために一般的に使える手段は、NTTの電話回線によるダイヤルアップ接続だけだ(かつては衛星インターネットに加入している人もあったらしいが)。もちろん、島内にアクセスポイントなどないため、はるばる東京のアクセスポイントまでの通話料金を払って接続しなければならない。

 まあ、ここまでは我慢するとして、いざダイヤルアップしようとすると、本土ではめったにお目にかかれないような試練が待ち受けているとういう。例えばアナログモデムでは、「衛星回線の遅延と出力の低下により、通常のモデム設定のままでは接続が難しい」(ランドサービスの三澤さん)。このため、普通は使わないようなATコマンドを設定してモデムの出力を上げて対処しているそうだが、それでも「設定変更をして少しだけ接続率が上がる程度。結局、東京のISPまで平均10数回電話をかけなおすことになります……」。

 NTT東日本にうかがったところ、衛星回線を経由しているため確かに遅延はあるとしながらも、ケーブルによる障害についてはすべて基準をクリアしているという。ただし、その基準というのは音声通話サービスを想定したものであり、モデムによるデータ通信については帯域保証は設けられていないのだそうだ。したがって、通話するのに問題ない回線品質だとしても、必ずしもデータ通信が行なえるわけではないのだ。もちろん、これは父島に限ったことではないが、本土ではそこまで状況が悪い例は少ないため、ほとんどの人がごく当然のことのように56kbpsモデムを使えているに過ぎない。

 これに対して父島と言えば、三澤さん曰く、「最新のV.90仕様モデムだと厳しいので、古いバージョンのものを使っている」「パソコン内蔵のモデムが使えず、わざわざ外付けモデムを用意した」等々、“低速回線”への対応が不可欠(?)だという。

三澤さんの切り盛りするインターネットカフェ「ガーデン」は、2000年12月末にオープン。スーパー小祝などが並ぶ、父島のメインストリートに面して立地している。村営コミュニティバスの停留所「青灯台入口」のすぐ前だ もとは民家だったという家屋の居間らしきスペースに、デスクトップパソコンが4台設置されている。利用料金は、30分間500円/以降10分100円(飲み物を注文すると無料で30分間延長)。本土の相場からすると高い印象を受けるが、流通経路が限られる父島ではそもそも物価が高いのだ(ワンルームの賃貸アパートも都心並みだとか)

 そこで、父島でインターネットを使おうという人が利用することになるのがISDNなのだが、この場合はISP選びがポイントになる。父島では、KDDIの「DION」に加入するのが“通”らしい。

 これは、アナログならば、たとえ1,000キロメートル以上離れた東京23区内にかける場合でも「離島に関する通話料金の特例」が適用。隣接エリアと同じ扱いの90秒10円(3分20円)で済むのに対して、ISDNのデジタル通信モードは特例の適用外(音声通話についてはアナログと同じ)となっているためである。すなわち、ISDNでダイヤルアップ接続しようとすると、なんと1,000キロメートルの電話料金が適用されてしまうわけだ。

 NTT地域会社の料金設定では、同一県内の市外通話については「60キロメートルを超える」という項目が最高で、60キロメートルでも1,000キロメートルでも料金は変わらない。しかし、それでも昼間はアナログの2倍にあたる45秒10円(3分40円)の通話料金が設定されている。「父島では特にDIONの加入率が非常に高い」(三澤さん)のは、ISDNユーザーが少しでも通話料金を抑えるため、通話料込みのダイヤルアップコースに加入するのが常套手段となっているからなのであった。

ノートパソコン持参者用にLANカードも用意しており、晴れた日には外でも楽しめる。最大8台まで接続できるとはいえ、バックボーンはISDNのダイヤルアップ回線。いささか心許ない通信環境だが、本文でも説明しているように父島ではナローバンドさえままならない状況だ。特に観光客にとっては、メール確認などに使える数少ない場所となっている。これまでは、島内に3か所あるISDN公衆電話からダイヤルアップするなどして対処していたという 観光シーズンでかき入れ時にもかかわらず、年末年始は休業! 初日の出ライブ中継に賭ける意気込みが伝わってくる。しかし、取材でカフェにお邪魔していた1時間足らずの間にも、常連客らしき人が数名利用していたほか、急ぎでインターネットを使う必要があったのだろうか、観光客がかけ込んでくるシーンも見られた。普段は、仕事で来島する人や「おがさわら丸」の船員、寮住まいの人などがよく訪れるとのこと

 なお、携帯電話についてだが、NTTドコモが島内の主な地域をカバーするようになった(本レポートその2で、山中で通話するシーンを紹介した通り)とはいえ、インターネット接続となると、まるで使えないのが現状だ。

 同社のウェブサイトでサービスエリアマップを確認するとわかるが、父島では音声通話サービスこそ提供されているものの、iモードやDoPaなどのパケット通信は提供されていない。「衛星回線のコアネットワークが通話サービス時代に設計されたものであるため、パケット通信に対応できない」(NTTドコモ広報室)のだそうである。

 ならば、モデムをつないで9,600bpsのデータ通信ができないかというと、これまたエリアマップに、東京都小笠原村エリアは「音声通話のみのご利用となり、データ通信サービスはご利用いただけません」と明記されている。やはり衛星回線のスペックにより、父島では2,400bpsまでしか帯域を確保できないのだとしている。

父島の信じがたい通信事情を聞いた後に訪れたせいもあって、想像していたより(失礼)立派だったNTT東日本の小笠原父島ビル。屋上にそびえるのは、衛星アンテナだろうか? 現在使用している通信衛星は2004年ごろには寿命を迎えることになっているため、三澤さんは、新衛星への切り替えによる通信サービスの充実化を期待している 東京支店の営業窓口の統廃合により、昨年末には父島ビルの「お客様窓口」も閉鎖された。今後は116やフリーダイヤルを通じて対応していくという。経営合理化の中、いたしかたないことなのだろうが、やはり島民にはサービスの低下を心配する声もある

 NTT東日本によると、2001年10月末現在の父島局の収容回線数は、アナログ電話が1,197件、ISDNの「INS64」が559件となっている。加入回線のうち31.8%がISDNということになり、東日本の平均値である19.1%(2001年9月末現在)を上回っている。もちろん、これらがすべてインターネット利用を目的とした加入者というわけではないだろうが、ここ父島では、インターネット接続のための最善の選択がISDNであり、同時にインターネットユーザーはISDNに頼らざるを得ない状況であることを反映していると言えそうだ。

 今回の初日の出ライブ中継でも、インターネットへの接続はISDNによるダイヤルアップ回線が使われている。ウェブカメラは1秒間に最大30コマの映像をキャプチャーできる製品だ。無線LAN区間でも最大1Mbps程度のスループットを確保できる。本来であればかなりスムーズな映像を中継できるはずだが、いかんせん東京までのダイヤルアップ区間が64kbpsなのだ。容量が1コマ8KBの画像データは、回線状態が良好だとしても、約1秒に1コマ送信するのが限界なのである。(以下、その4へ)

◎関連記事
2002年の初日の出、日本一早いライブ中継サイトはどこになる?
父島の“日本一早い初日の出ライブ”計画のその後<その1>
父島の“日本一早い初日の出ライブ”計画のその後<その2>
父島の“日本一早い初日の出ライブ”計画のその後<その4>

(2002/2/1)

[Reported by nagasawa@impress.co.jp]


INTERNET Watchホームページ

ウォッチ編集部INTERNET Watch担当internet-watch-info@impress.co.jp