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【実証実験】

首都圏でも「インターネットITS」の実証実験がスタート

“インターネット自動車”で
ドライバーの脈拍データを収集すると……

■URL
http://www.InternetITS.org/

 慶應義塾大学SFC研究所、トヨタ自動車、デンソー、NECからなる「インターネットITS共同研究グループ」は8日、神奈川県の川崎地区で“インターネット自動車”を活用したITSシステムの実証実験を開始した。

 すでに名古屋地区で1,570台のタクシーで実験を開始しているが、首都圏では一般ドライバーが対象となる。70台の車両にIPv6対応の端末を搭載し、ガソリンスタンドにおける案内サービスや駐車場での電子決済、スポット情報配信などを行なう。また、ワンボックスタイプの「高機能実験車」も開発し、インターネット自動車のさらに高度なアプリケーションの可能性を探る。

実験に協力している日石三菱のサービスステーション「Dr.Drive 小杉」。8つある給油レーンのうち、奥の2つにDSRCのアンテナがある(左)。給油口が左右どちら側についているかによって、車載端末の案内画面で誘導されるレーンが異なる(右)。さらに画面では、給油する油種のノズルの色も教えてくれる
アンテナは2カ所に設置されている(左)。手前の柱にあるアンテナはサービスステーションの入口付近に向けられており、自動車がエリアに入ると同時にウェルカム画面が車載端末に表示される。停車時に案内サービスなどを表示するために使われるのが奥の柱に設置されたアンテナだ(右)。DSRCの帯域は最大1Mbps程度、実験レベルでは4Mbps程度のものまで開発されているという

 一般ドライバー実験では、川崎市内にある日石三菱のガソリンスタンドと時間貸し駐車場「パーク24」のそれぞれ1カ所にDSRC(Dedicated Short Range Communications:狭域無線通信)のアンテナを設置している。自動車がガソリンスタンドに入ろうとすると、DSRCを通じて車内のタッチパネル画面に、どのレーンに進めばよいか、給油すべき油種、洗車などのサービスメニュー、車両のメンテナンス履歴などが表示される。

 駐車場では、入場ゲートの前に停車すると確認ダイアログを表示。OKボタンを押すとゲートが上がる仕組みだ。退場の際は、電子マネー「Edy」のICカードを車内の読みとり機にかざすことで決済が完了してゲートが上がる。入場から退場まで、自動車の窓を開けることなく操作できる。

 通信手段にDSRCを利用する場所は上記2カ所のみで、走行中はNTTドコモのパケット通信網「DoPa」を使う。GPSで検出した自動車の位置データが自動的に情報センターに送信され、実際に走行しているエリア付近のレストラン情報や観光情報などが表示される。

 同様の機能は名古屋のタクシー実験でも一部の車両で提供されているが、タクシーでは通過地点の情報があまり有用ではない印象が強かったのに対し、自家用車などでは十分に役立ちそうな機能だ。ただし、現時点では各スポットまでの経路の検索や表示などが行なえないため、実用化段階ではカーナビとの連携などが必要になりそうだ。

 なお、DSRCという方式は、すでに高速道路の料金所でETC(ノンストップ自動料金支払いシステム)にも利用されているが、慶應義塾大学SFC研究所の村井純所長は、このシステムでインターネットを使う「IP over DSRC」は今回の実験が初めてではないかとしている。

実験に参加する車両に搭載された、一般ドライバー用のタッチパネル端末(左)。ダッシュボードの上にはDSRCの受信機、右下にはEdyのICカード読みとり機が見える。車両メンテナンス情報の画面では、経過日数などから判断して交換時期を知らせてくれる(右)。自動車には120種類以上のセンサーが搭載されていると言われており、将来的にはエンジンオイルなどの残量センサーと連動していく
高機能実験車に搭載されたタッチパネル端末やカメラ。白く見えるのが、IDカードの読みとり機だ。運転席/助手席用の画面(左)には、運転状態の評価結果を示したレーダーチャートが表示されている。停車状態なのですべての項目で満点状態となっている。後部座席用の画面(右)には、脈拍の履歴データが表示されている。赤いラインを超えると「危険」な状態と判断される

 高機能実験車は、5~10年後の姿を想定した車両だ。ドライバーだけでなく、乗車人員それぞれにLinuxサーバーが用意されており、IDカードにより人物を認識。安全運転支援や健康管理などの機能を提供する。具体的には、車両の加速度などのデータを情報サーバー側で吸い上げて運転状態を解析したり、同様に脈拍データから健康状態も判断するという。

 高機能実験車はまた、「ウェアラブルコンピュータとしての自動車」(村井所長)を模索するものでもある。運転席側だけでなく後部座席用にも5.6インチのタッチパネルを搭載しているほか、4名分の小型カメラも付属。インターネットを通じてテレビ会議に参加できるようになっている。また、通常のウェブ閲覧はもちろん、音声ポータルサービスも利用できる。

 現時点でのネックは、ワイヤレスネットワーク区間だ。一般ドライバーやタクシーの実験車両で採用されているDoPaは、エリアが広い代わりに帯域が狭い。テレビ会議などのアプリケーションでは、ほとんど静止画になってしまうという。そこで高機能実験車では、DoPaとDSRCのほかにPHS、無線LANなど計7種類のキャリア/通信方式の端末を搭載。場所に応じて接続を切り替えるシステムを導入している。慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパス内などには無線LAN基地局が設置されているため、最大11Mbpsで接続できることになる。さらに今後は、車載のCSアンテナも取り付ける予定だ。

 これまで“インターネット自動車”の活用法といえば、「実際に各地を走行している自動車のワイパーの動きのデータを集めて、リアルタイムに降雨情報として加工する」という話が有名だが、さらに高機能実験車のようなシステムが普及すれば、道路ごとに運転状態や脈拍データの統計を出すことで、安全な道路の設計にも役立てられるとしている。

高機能実験車には大量の通信機器が搭載されている(左)。ラックの中がサーバー類で、右側に見えるのが電源。左上の窓には、DoPaのアンテナも見える。この車両1台に搭載されている機器それぞれに、計10数個のIPv6アドレスが割り振られているという。一方、一般ドライバー車両の機器はシンプルだ(右)。右端から電源、Linuxサーバー、DoPaの端末、GPS端末
高機能実験車の屋根に取り付けられた360度撮影可能なビデオカメラ(左)と、その映像(右)。プライバシーを保護する仕組みが実現されることが前提だが、IPv6アドレスを指定して、特定の車両の特定の機器にアクセスすることも可能になる。例えば、あるエリアを走っている車両を検索し、車載カメラに接続。周囲の風景を見ることも可能だ。また、この映像をもとに、沿線の3D地図を作成する技術も研究されているという

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(2002/2/8)

[Reported by nagasawa@impress.co.jp]


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