【イベントレポート】

DIGITAL CONTENT JAPAN 2002

ブロードバンドコンテンツはライフスタイルを変えられるのか?
~DCJシンポジウム

■URL
http://www.dcaj.or.jp/business/index.html
http://www.qb.com/
http://www.hitpops.jp/
http://www.so-net.ne.jp/
http://www.tv-tokyo.co.jp/

 3月11日に東京・青山で開催されているイベント「DIGITAL CONTENT JAPAN 2002」のシンポジウムの一つとして、「ブロードバンド市場の攻略法~注目企業が語るビジネスモデル」が行なわれた。ここでは、コンシューマー向けにコンテンツを流通させる仕掛けや、課金システムのあり方について討論が交わされた。

 コーディネーターに株式会社日本総合研究所調査部メディア研究センター主任研究員の野村敦子氏、パネリストには、株式会社キュービーの佐野壮代表取締役社長、ソニーコミュニケーションネットワーク株式会社(So-net)メディア編成室長の藤乗康雄氏、株式会社ヒットポップス執行役員・技術本部長の福田築氏、およびテレビ東京ブロードバンド株式会社(TXBB)企画業務部ジェネラルマネージャの渡辺豪氏が参加した。

 まず、ブロードバンド環境のコンテンツのあり方として、キュービーの佐野氏が、今春よりサービスインする「レンタルビデオ・オンライン」を紹介した。これは、セットトップボックスを月額800円でレンタルし、ADSLやFTTH回線などを通じて自宅のTVで映画コンテンツなどを再生するサービスだ。まさにレンタルビデオ感覚でコンテンツを1泊2日、または7泊8日視聴する権利を購入する。視聴期間が過ぎると自動的に権利が失効するので、ビデオを返し忘れて延滞料がかかることもない。

 佐野氏は、このサービスを「既存のサービスの方向が変化しただけのもの。レンタルビデオにしても、通信カラオケにしても、ナローバンドでも提供できるサービスだが、回線が速ければユーザーの利便性が向上する」と分析した。また、宅配ピザ会社と提携して、同サービス上でピザの注文をできるようにする(ピザ代金はサービス利用料に上乗せして決済)など、「今、ユーザーがお金を払ってくれるサービス」をそのままブロードバンド環境に持ってきた形だ。

 次に、衛星を使ったIPマルチキャスト網を使ったCDNを構築しているヒットポップスの福田氏が、「ブロードバンドは動画の時代というが、ネットワークはそんなに良くなっていない」と語った。重要なのは品質だとして、直接エンドユーザーのPCにコンテンツを配信する「CDN to Home」を紹介した。このサービスは現在、ケーブルテレビ品川で、ストリーム配信を行なう「Hitpops TV On Air」(MPEG4で同時に25チャンネルを配信)と、ビデオオンデマンド配信を行なう「Hitpops TV On Demand」(6~7番組の配信が可能)が試験提供されている。

 さらに福田氏は、「2002年は、“ディズニーランド・コンプレックス型サービス”を目指す」と語った。ディズニーランドが集客を担当するアトラクションと、物を売る“お土産屋”で構成されているように、人を集める「Hitpops TV」部分は安価に提供し、集まった人を対象に広告やマーケティングビジネスで収益をあげるというビジネスモデルだ。「全てのコンテンツを200~300円程度で安売りしている風潮は改めるべきだ」という。「マクドナルドと高級フランス料理店が両立できるように、特定のコンテンツを買いたい人は、それなりの価格でも購入する」と分析する。

佐野壮氏 福田築氏

 次に発言したSo-netの藤乗氏は、「ブロードバンド時代のキーワードは、コミュニティではないか。動画だけでは、ユーザーからお金を頂く水準に達していない」と語った。So-netが狙っているコミュニティとは、いわゆるマスなコミュニティではなく、数万人単位のコアなファングループだ。例えば、総合格闘技「PRIDE」のファン層向けには、360度の視点切り替えやズームイン/アウトが任意にできる動画コンテンツの配信などを行なう。

 一方、マス向けのコンテンツを配信しているTXBBの渡辺氏は、「ブロードバンド環境のコンテンツとは、作品を視聴させるメディアなのか、それとも情報を取得するメディアなのか見極めなくてはならない」と思いを語った。例えば、マウスを片手に小さな画面の動画を見る場合には、300kbpsの画質でも気にならなかったが、マウスから手を離しフルスクリーンで動画を再生し、「椅子に反り返って、鑑賞モード」になると、途端に品質に満足ができなくなったという。

 また、「コンテンツを完成品にするか、素材のままにするか」という判断も必要だという。テレビ東京の強みに経済ニュースがあり、TXBBでも経済ニュースのオンライン配信を行なっている。複数の証券会社からコンテンツ提供の要請があるが、会社ごとに市場動向や海外為替などを組み合わせた見せ方を希望されるという。

藤乗康雄氏 渡辺豪氏

 シンポジウム二つ目のテーマである、課金システムに対する取組みについては、渡辺氏は、「どこからお金を貰うかという見極めは、情報が役に立つとわかったところから取ればいい」と語った。例えば、同じ「株価情報」でも一般ユーザーからは課金できなくても、証券会社や投資家からはお金を得ることができる。

 So-netの藤乗氏は、先のコアグループ戦略と絡めた事例を紹介した。まず、松任谷由実の苗場ライブの様子や楽屋の様子などをセットにしたコンテンツを1,000円/2日で提供したところ、総売上は1,000万円を突破したという。同氏は「ある程度、ファンが欲しているものが予測できれば、一定額の課金をすることは可能」という。

 また、「すでにバナー広告は頭打ちの状態になっている。今後は、マーケティングビジネスへシフトすべきだ」といい別の事例として「ソネットタウン」の紹介を行なった。これは、So-net会員に対してEC、コンテンツ、コミュニティが一体となったサービスを無料で提供しているものだ。クレジットカード情報など身元がはっきりとしたユーザーを囲い込むことで、情報提供に対してユーザーがどのような反応を示したかというマーケティングデータを販売することができる。

 さらに、So-netの藤乗氏もTXBBの渡辺氏と同様に、“30度理論(ユーザーはPCを使う時には30度前かがみになり、TVを見るときには30度後ろに体を倒す)”に言及した。「PCでお金がもらえなかったものも、コンテンツの出口をTVにしたら、お金を払ってくれるかもしれない」として、PlayStation2のブロードバンド戦略を想定したコメントを残した。

 シンポジウムの最後に、キュービーの佐野氏が興味深いコンテンツアグリゲーター論を提案した。「アグリゲーターの語源に詳しいわけではないが、アグリカルチャー(農業)などから連想されるように、たわわに実った果実を収穫するというイメージがある。ところが今の風潮には『誰も知らないニッチで面白いコンテンツを一本釣り=ハンティング』というイメージだ」と語った。そして、「コンテンツアグリゲーターは、群雄割拠しない」とも語る。面白いコンテンツを集めるだけ集めて、囲い込むのはナンセンスではないか、という提言だった。

松任谷由実の
苗場ライブ
ヒットポップスの
CDN to Home

(2002/3/11)

[Reported by okada-d@impress.co.jp]


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