埼玉県草加市にあるOA機器のリサイクル業者の倉庫を訪れると、5,000台もの中古パソコンが山積みになっていた。リース期間を終えて引き取られてきたものがほとんどで、ひと昔前の機種が多い。スペックで言えばMMX Pentiumの200MHzぐらいまで。倉庫の外には、PowerPC 603eを搭載した数世代前のMacintoshやCRTディスプレイも積み上げられている。
この倉庫には、ひと月に4,000~5,000台が搬入されてくるという。さすがに国内で引き取り手がないということで、リサイクル先は主に東ヨーロッパやアジアの国々。ワープロなどの専用機としてロースペック機の需要がまだまだあるらしく、毎月コンテナで8~9本、数にして3,000セットほどが輸出されていくという。CPUの種類でグレード分けされ、Pentium 133MHzで輸出価格は1台あたり2,000~3,000円となる。
「日本はパソコンの使用法に大きな間違いを犯している。まだまだ使用できるパソコンが捨てられていく」と指摘するのは、「ユニバーサルコミュニティセンター(U.C.C)」の企画部長・菅野正敏さん。U.C.Cは、埼玉県のNPO「教育情報化支援センター」の中に事務局を置くプロジェクトで、中古パソコンのリユースに取り組んでいる。
これまで菅野さんらは、リサイクル業者の倉庫に足を運んではパーツを見繕い、十分に使えるパソコンに再生。要望のある学校などへ提供する活動を行なってきた。しかし、いわばボランティアで個人的に対応しているような状況であり、実績は20台ほどに過ぎなかった。
ところが今年2月、この活動が新聞で紹介されたことで大きな反響を呼ぶ。各地からリユースパソコンを求める声が寄せられ、2,000台以上の“バックオーダー”を抱えるまでになった。とてもU.C.Cだけでは対応できないということで、今回、全国的なパソコンのリユースネットワークを構築するための準備会を設立した。
U.C.Cが目指すのは、「パソコンの相談窓口を各地域に開くこと」である。リユースというイメージから外れていると思われるかもしれないが、ここで扱うのは現役クラスのパソコンではない。倉庫に積まれているような、今までは廃棄されるか海外に送られていたパソコンである。それを再生するにはまず、パソコンの構造やパーツに詳しい協力者と、そのノウハウを広く共有する場が必要になるのだ。
「各地でIT講習が開かれているが、教えるのはアプリケーションから。OSやハードウェアをやらないため、トラブルが発生すると生徒はすぐにお手上げになる。メーカー製のパソコンは、パーツを追加しようにも互換性がなかったり、そもそもハードウェアについての説明書がない。何も知らない初心者は、すぐに新しいパソコンに買い替えらせられることになる」(菅野さん)。
各地の“窓口”は、こういった問題を解決しようというものだ。中古パソコンのリユースという活動を通じて、「自分の覚えたノウハウを、今度は別の人に伝えていくネットワークを構築する」わけだ。それぞれの地域で住民のITリテラシーが向上すれば、さらに中古パソコンのリユースも進み、無駄な消費も抑えられる。
ノウハウを共有するために、中古パーツを扱うためのノウハウを、マニュアルとしてとりまとめる計画もある。小学生向けのパソコン組み立て教室も開催しているパーツ販売会社・イーエムディー(http://www.easy-buy.co.jp/)が、これに協力していくという。
菅野さんによると、ある学校で100台のパソコンを処分することになり、業者に相談したところ、40万円かかると言われたという。それをU.C.Cでは無料で引き取ることにしたが、それでも運送代が15万円かかった。
このように、中古パソコンは廃棄したり運ぶだけでもコストがかさむ。これをU.C.Cでは最終的に、引き取ったパソコンを再生して希望者に届けるまでのコストを1セットあたり5,000円程度に収まるような仕組みを構築するのが目標である。
「MMX Pentiumでも用途によってはまだまだ使える」という菅野さんだが、悩みの種はOSだ。ハードウェアが5,000円でそろっても、使用許諾契約書まできちんと付いているOSはなかなかそろわない。新たに購入するにはコストもかかり、そもそもリユースパソコンで最新のOSが動くかどうか? Linuxという選択も考えてはいるものの、「ウェブ閲覧やメール、ワープロぐらいならWindows 98SEで十分。Windows XPを発売したからといって古いOSを店頭から回収してしまうのではなく、格安で販売してくれれば……」というのが菅野さんのたっての願いである。
3月下旬に草加市内で開かれた説明会には、他のNPOや自治体、教育機関の関係者など30名ほどが参加した。はじめに公民館でDOS/Vパソコンの構造やパーツ、組み立て方の説明が行なわれ、その後リサイクル業者の倉庫へ移動。冒頭で紹介した中古パソコンの山が公開された。当日は、空き倉庫を提供できるということで、その場で協力を申し出る参加者も現われた。また、すでに大阪や神戸では協力者がいるという。
このほか、U.C.Cがリユースネットワークへの参加を期待しているのが、地域ISPである。実際、準備会にも地元の地域ISPのスタッフが参加している。
地域ISPネットワーク「C-NET」(http://www.iland.ne.jp/)事務局のマネージャーで、草加市で「彩の国インターネット」を提供するシステムクリエイトの飯島正久さんは、「地域ISPはもっと地域に密着していかなければ生き残れない」として、パソコンの相談窓口として重要な役割を担えることを地域ISPに呼びかけていく考えだ。
(2002/4/4)
[Reported by nagasawa@impress.co.jp]