■URL
http://www.p2pconf.com/ (P2P Conference in JAPAN 2002)
4月11日に開催されたP2P関連技術カンファレンス「P2P Conference in JAPAN 2002」の併催イベント「Jnutella Workshop」で、創価大学大学院工学研究科情報システム学専攻博士後期過程の小出俊夫氏が、「ワイヤレスP2Pと地域情報の配信システム」と題した発表を行なった。
●なぜワイヤレスP2Pが必要なのか
小出俊夫氏 |
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携帯電話の普及によって、人々はどこからでも必要な情報を得られるようになった。しかし、携帯電話による情報ネットワークは、通信速度が遅く、利用料金がかかる。小出氏は、「なぜ近くの情報が欲しいのに、わざわざ遠回りをして課金がかかるネットワークを経由してWebサーバーにアクセスしなくてはならないのか」という疑問を呈した。
続けて小出氏は、ワイヤレスP2Pの特徴を「みんながボランティアになることで、街中に簡単にネットワークを構築可能」という。データのリレーを行なうP2P端末を持ったユーザーが集まることで、ワイヤレスP2Pのネットワークは拡大していく。マルチホップを利用することで、簡単に半径1km程度のエリアに情報を伝播していくことが可能だ。
一方、この概念には、「ノードが自由に移動するため、リンクを確立することが難しい」という弱点も持っている。質疑応答でも、「人が集まることが前提にされているが、電波の届く範囲に他のユーザーがいなければどうするのか」といった指摘があった。これに対して小出氏は、「電柱や店頭などにP2P端末を設置すればいい。ただし、そうしたくなるようなサービス、アプリケーションが必要になる」と回答した。
小出氏は、ワイヤレスP2Pで実現できそうな利用案をいくつか紹介した。まず、店舗に設置したP2P端末から利用者に向けて情報提供をする場合、商店のタイムサービス情報の配信、周辺ホテルの空室情報検索や予約、屋台や焼芋屋など移動販売店舗の客寄せなどが挙げられた。「飲食店の日替わりメニューの告知などは、店舗の近くのユーザーがリアルタイムで受け取れると便利ではないか」という。
また、道路の渋滞情報や緊急車輌の接近情報など公共情報の配信にも利用できそうだ。例えば、経路検索サービスなどで得られた情報は時刻表情報に基づいているため、実際の運行状況によっては役に立たないことがある。小出氏は、「ワイヤレスP2Pネットワークを利用することで、運行状況データを配信することでユーザーはリアルタイムに正確な情報が得られるし、近隣を走る空車タクシーとの通信も可能になる」という。このほか、カンファレンスなどでの資料配布や、友人・恋人探し、分散コンピューティングやSOS情報発信などの個人間通信の可能性も紹介された。
以上のように、ワイヤレスP2Pを利用したサービスには新たな可能性が秘められている。小出氏は、これを実現するために、地域情報配信ネットワーク「MID-Net」の研究を行なっている。発表では、「MID-Net」で利用されるアルゴリズム「MCMS」が提案された。
このMCMSでは、各端末が受け取った情報を即座に他の端末にリレーするのではなく、一定の待ち時間を設定することでできるだけ遠くの端末に情報を効率よく伝播させる仕組みが考えられている。簡単に説明すると、情報発信地より遠くにある端末の方が、近くにある端末よりもすばやく情報を転送する仕組みと、同じ情報を受け取った端末は、その情報を転送しないようにする仕組みを組み合わせているらしい。また、端末の電池残量が少ない端末は情報を転送しないように公平に配信する仕組みなども研究しているという。
(2002/4/12)
[Reported by okada-d@impress.co.jp]