■URL
http://www.iajapan.org/bukai/idc/event/2002/20020626.html
白石康雄氏 |
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26日、東京・千駄ヶ谷の津田ホールにおいて、財団法人インターネット協会iDC研究部会主催による第3回データセンター・セミナー「“ブロードバンド時代のコンテンツ動向”~これからのiDCの役割と課題~」が開催された。
セミナーの開始にあたり、研究部会長の白石康雄氏が「データセンターは公共性の高い施設であったが、景気の後退とともに、ビジネス的な価値が低下したのではないか」と発言、「ブロードバンドインフラの増加によって、B2B2C環境が整った現在、データセンターの役割はどう変わるのか?」と問題提起をした。
●資本市場から神風は吹かない~基調講演
後藤英紀氏 |
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基調講演には、ドイツ証券東京支店ヴァイスプレジデントアナリストの後藤英紀氏が登壇し、証券アナリストの視点から「ブロードバンドでネット市場は再び活性化するのか」と題した講演を行なった。同氏はまず、「近年、株式市場はインターネット業界に対してネガティブな姿勢をとっているものの、ブロードバンド環境への見通しは強気だ」と概説した。例えば、資本市場からのインターネット企業への評価の例として、ソフトバンク、ヤフー、楽天といった代表的な企業の時価総額に注目し、2000年2月のピーク時に比べると今日では23兆円の減額になっているという。
この背景には、インターネット市場への期待の膨らみと剥離があったという。インターネットが登場した時には、「新たなメディアとしてテレビ以上の市場が形成される」「情報流通の合理化で“中抜き”が急速に進み、産業構造が変革する」と期待された。ところが、現状では「インターネット広告には思った程の効果が確認できない」「新たなコンテンツも期待薄」「従来の慣行の壁は厚く、現状では柔軟性のある既存の構造のほうが合理的」という結果になっている。しかし、「ヤフーの株価は下がっているが、一時期の株価収益率4,100倍という異常事態に対して、60倍程度に落ち着いている。だが、この数値は宅配便サービス業者が今後を期待されていた頃と同等で、市場から正当な評価を得ている」と分析する。
一方で、ブロードバンド環境への強気な見通しに関して、NSPIXP-2のトラフィックに生じ始めた変化を指摘。2001年4月時点と2002年3月時点のトラフィック量を見比べた場合、2ヶ所に顕著な変化を見て取ることができる。まず、2001年4月時点では、午後12時30分頃にトラフィックが突出する。ところが、2002年3月時点では、これがない。次に、2001年のトラフィックでは深夜23時に急激な伸びを確認できる。いわゆる「テレホーダイ」時間だ。ところが2002年のグラフでは、午後21時頃からなだらかな曲線を描いて増加していく。後藤氏は、「トラフィック量のスケールが倍近く違うので直接比較にはならないが、昨年までの昼休み、深夜のアクセス集中から、21時~24時のプライムタイムへと利用形態が変化していることを読み取れるのではないか」と分析。しかし同時に、「ユーザーは常時接続のメリットを享受しているに過ぎず、ブロードバンドとして利用はまだまだ」と指摘した。
インターネット企業の時価総額の変化 | NSPIXP-2のトラフィック変化 |
また、ブロードバンド利用のケースとしてEC市場に注目する。後藤氏によれば、「最近のクレジットカード決済の推移を見ると、利用件数が増加しているのに対して、利用単価は減少している。これは、オンラインで購入する商品が、PC関連から一般商品に推移していることが原因」という。さらに、楽天市場の出店料金体系の変更、ヤフーのオークション課金など収益構造の変化を例にあげ、「両者の収益構造の多様化とも、決して場当たり的なものではない。インターネット市場は、参入障壁がないかわりに、顧客の囲い込みが難しい。ユーザーのメリットを明確に打ち出しながら収益構造の改革を行なう必要がある」と語る。それゆえ、「今後、ブロードバンド環境をどのようにユーザーに提供していくのか考えるべき」と提案する。
最後に後藤氏は結論として、「資本市場からの神風は吹かない」、つまり現状のままでは株式市場からインターネット業界に資金が注入されることはありえないと述べた。そこで、期待されるのはインターネット広告の回復と広告収入を原資としたコンテンツの多様化だが、同氏は「既存のコンテンツでは、ブロードバンドコンテンツにならない」と指摘し、「必要なのは、シチュエーションとフレームワークだ」とコメント。例えば、「映画というコンテンツでは、テレビ放映があっても、映画館というシチュエーションがなくなることはない。メディアとしてインターネットを使う確固たるシチュエーションが必要だが、現在は流動的だ」という。また、「テレビ番組には、15秒CMが挿入されるというフレームワークが存在する。インターネットをメディアとしてどのような形にするのかを決めなくてはならない」と語った。
●新旧二つのオンラインRPG~「FINAL FANTASY XI」と「Ultima Online」
セミナーの第2部には、この5月に「FINAL FANTASY XI(FF11)」を発売した株式会社スクウェアと、1998年から日本で「Ultima Online(UO)」を提供しているエレクトリック・アーツ・スクウェア株式会社が登場し、MMOPRG(Massively Multi-player Online Role Playing Game:サーバーに1,000人単位のユーザーが同時に接続し、ゲーム世界を共有するオンラインRPG)に関するビジネス事例を紹介した。
まず、スクウェアネットワーク技術部の伊勢幸一氏が、「SQUARE的オンラインエンタテインメント」と題する講演を行ない、Playstation 2用オンラインサービス「PlayOnline」と「FF11」を紹介した。サービス開始は5月16日で、現在の会員数は約9万人。同時接続数はピーク時で約5万5,000人だといい、「当初、全体の20%程度を予想しており、異常な状態」という。
伊勢氏によると、「FF11」でのトラフィックモデルは、クライアント→サーバーが毎秒100~500byte程度、サーバー→クライアントが500~4,500byte程度。ゲーム中は、クライアントからサーバーに送られたデータが、データベースと1秒間に3回くらいやり取りされている。「PlayOnline」全体のトラフィック量は、毎晩午前0時頃をピークに450Mbpsにも達しているほか、無料でFF11の様子を配信しているライブストリームも400Mbps程度になっているという。
FF11のトラフィックモデル | FF11のトラフィックデータ |
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スクウェアがデータセンターを選択する鍵としたのは、ロケーションだった。「離島や地方といった都心に比べて土地のコストがかからない所にデータセンターを建設し、その分コストを引き下げるというのは、オンラインゲームサーバーを設置するにはメリットにならない」と伊勢氏はコメントする。オンラインゲームの場合、たびたび行なわれるメンテナンスやゲームのアップデートなどは、社員がデータセンター内で作業しなくてはならず、「できるだけ会社から近いところがいい」という。
さらに、セキュリティが厳密過ぎるのも困るという。「オンラインゲームでは、事前に告知したメンテナンスでダウンするならばともかく、突発的な障害で2時間もシステムがダウンしたままではユーザーから怒られる。早急に復旧作業を行ないたいにもかかわらず、入館手続きの書類の準備で数時間費やすのは困る」ためだ。
最後に同氏は、「インターネットデータセンターは、これまで場所や電源、空調などを提供するスペースプロバイダーだった。今後は、技術面や運用面などビジネス上何が問題なのかを一緒に考えられるようなビジネスパートナーになることを期待する」と語った。
一方、エレクトリック・アーツ・スクウェアのドットコム事業部長である正田純二氏は、「インターネットゲーム・ビジネス事例:ウルティマオンライン」と題する講演を行なった。UOは、世界初の大規模・商用MMORPGとして1997年に米国でサービスが開始された。英語版のゲームにも関わらず、日本から参加するユーザーが増加し、1998年秋に日本語版の提供を開始した。現在、世界中に25のゲームサーバーが存在し、そのうち7つが日本国内に設置されている。2002年6月時点でのアクティブユーザー数は世界で24万人、日本で9万人で、正田氏は「1ユーザーあたり平均して1週間に17時間遊んでいる」と語る。
「UOなどに代表されるMMORPGの本質は、持続型サービスだ」と同氏は分析する。これに対して従来のゲームソフトは、発売週の週末が勝負で、マーケティングなどに全力をかける瞬発型ビジネスだという。実際に、UOの売上は2002年3月期で15億円、そのうち85%がユーザー課金とのことだ。
しかし正田氏は、「どんなに良質なMMORPGでも、毎月退会するユーザーが必ずいる。そこで、キーとなるコンセプトは『GET MORE』と『KEEP MORE』の二つ」と語る。「GET MORE」とは、より多くのユーザーを獲得することで、例えば、こまめなゲームバランスの調整を実施したり、四半期に一度は体験版のバンドル配布などの販促活動を必ず行なっているという。一方、「KEEP MORE」とは、より多くのユーザーにプレイし続けてもらうことだ。そのため、毎年ゲームそのものを大幅にアップデートしたり、プレイヤーへのサポート体制の充実を行なっている。正田氏は、「通常のゲームでは、発売後には開発チームは解散し、それぞれ次のプロジェクトに移っていくが、UOは依然として専門の開発チームが制作を続けている」と語る。また、「オンラインゲームのWebサイトは、障害情報などの単なる情報提供だけでは不十分」として、「ゲーム内で起こった出来事をニュース風の動画にして伝えるコンテンツや、オンライン上にできたファンコミュニティと対話を行なう専門チームも設置している」という。
最後に正田氏は、「オンラインゲーム提供者として、データセンターに求めるものは安全性や信頼性、接続性といったもの。空気のような存在でいて欲しい」とコメントした。
UO上にサッカー日本代表サポーターが突然発生 | サーバーの負荷を避けるため、急遽「パブリックビュー」を設置 | 対トルコ戦試合終了後、フーリガンが暴走? |
●ブロードバンドの課題とiDCに求められているもの
大和田廣樹氏 |
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セミナーの最後に、株式会社ブロードバンドタワー(BBTower)の大和田廣樹代表取締役社長が、「ブロードバンドビジネスの未来を担うデータセンター」と題した講演を行なった。
BBTowerは、2002年4月1日にグローバルセンター・ジャパン株式会社から社名変更を行なったインターネットデータセンター企業。現在、ヤフーなどが同社のデータセンターを利用している。旧グローバルセンター・ジャパンは、米Global Crossingのアジア地域を担当するAsia Global Crossing社とインターネット総合研究所(IRI)が共同で設立した会社で、2002年1月に米Global Crossingが米連邦破産法11条の適用申請をしたことを受け、IRIの連結対象の子会社として再出発した。
まず大和田氏は、ブロードバンドの課題として、3つの課題が存在すると語った。一つ目は、ビジネスの課題で、なぜブロードバンドが儲からないのかという点だ。その一因として、小額決済などの課金回収の仕組みがほとんどないことを挙げる。さらに、ビジネスとして成立させるためには、ブロードバンドユーザーの増加が必要である反面、既存のISPはナローバンドのダイヤルアップ環境も保持する必要があり、ブロードバンド設備との二重投資も負担になっていると分析する。
二つ目の課題としては、権利保護がある。コンテンツがデジタル化されているため、不正コピーが簡単にできる。そのため、DRM(Digital Right Management)の仕組みを早急に作らなくてはならないが、「さまざまなデジタル化技術が乱立するため、DRM提供企業もビジネスになりにくのが現状」という。
三つ目は、インフラの問題だ。ブロードバンドインフラといってもDSLやCATVインターネット、FTTHなどさまざまで、「企業によってはどのインフラを選択すればいいのか悩んでいる」という。また、「ブロードバンド事業者はユーザー数が少ないのに、コンテンツを取り合っている」と語る。
これらの課題を踏まえ大和田氏は、データセンターに求められていることが多様化していると述べた。従来のデータセンターは既存の専用線やフレームリレーだけで構成されていた。ところが、インフラの普及により、企業はDSLやFTTHを組み合わせてコストパフォーマンスに優れたネットワークの構築を希望しており、「ネットワークのハブとしてのデータセンターになる必要がある」という。また、ブロードバンド環境により、大容量のデータのやり取りが可能になったため、ストレージやバックアップの拠点としての側面も求められているという。そして、これからのデータセンターには、「DRMや配信、課金や決済、セキュリティの確保といったブロードバンドビジネスの相談窓口という役割も期待されているのではないか」と語った。
(2002/6/26)
[Reported by okada-d@impress.co.jp]