【NetWorld+Interop 2002 TOKYOレポート】

立法は国会まかせじゃいけない~藤原 宏高弁護士

ネットの秩序はみんなが作るべきもの
~討論会「ネット経済における秩序と自由」

■URL
http://www.interop.jp/jp/conference/conf_idx.html
http://ms.key3media.co.jp/ni2002/conf/SesInfo.asp?Bno=147067&Conf_c=C15

 N+Iでは4日、「ネット経済における秩序と自由」と題した討論会が行なわれた。出演者は、ひかり総合法律事務所の藤原 宏高弁護士、2ちゃんねる管理者の西村 博之氏、総務省 情報通信政策局 情報通信政策課の吉崎 正弘氏の3名。掲示板管理者、行政、法律家というそれぞれの視点から、プロバイダー責任法などについて、慶應義塾大学大学院の國領 二郎教授を司会に討論が進められた。

 まず、藤原 宏高弁護士が「インターネット上の仲介者責任」について語った。この中で、5月に施行されたプロバイダー責任法やこれを受けたテレコムサービス協会(テレサ協)のガイドラインによって、プロバイダーや掲示板管理人、オークション運営者などが行なうべき削除基準は相当程度明確になったとした。これによって、かかるガイドラインを尊守しない場合は、今後被害者から損害賠償請求を受けた場合でも、免責を受けられない可能性が高いという。ここでいう「削除しなかった場合の免責」とは、3条第1項の定める免責の事由がある場合を差す。
 しかし、先日敗訴した2ちゃんねる管理者の西村氏の例を挙げ、藤原弁護士は「あの判決には、乱暴な論拠などがあり不満があるものの、裁判所は『3条第1項の定める免責の事由が無い場合のプロバイダーが責任を負う可能性』を広く取り扱ったのではないか」と語った。これは、2ちゃんねるの事例は、グレーゾーンである「プロバイダーが責任を負う可能性がある」という部分に属していたのだが、これに対して「責任有り」と判断したというのだ。これは、今後も判例として、参考にされる可能性があるという。

國領 二郎教授
藤原 宏高弁護士
 

続いて、西村 博之氏は「現実を直視させるために」として講演を行なった。西村氏は、「“ヴァーチャル”という言葉が流行ったときに、ネットも広まったので、インターネットはヴァーチャル=仮想空間であると考えてしまう人は多い」という。これは、携帯電話という、基地局と電話交換機を通して相手とコミュニケーションする場合に、ヴァーチャルだと認識する人間はほとんどいないが、ネットで文字などをルーターやサーバーを介して相手とコミュニケーションすることを、ヴァーチャルであるという人がいる、というものだ。「ネットを介して反対側に生身の人間がいるのが分からないからなんでもやっちゃう人がいる」(西村氏)だともいう。また、西村氏はネットをヴァーチャルだと考える人達に共通する点は「ネットってよくわからない」ということだという。しかし、テレビや携帯電話の仕組みをきちんと理解していない人がほとんどなのに、それらをヴァーチャルだと認識している人はほとんどいない。このことから、ヴァーチャルだと誤解するのは、仕組みが分からないからではないとしている。
 では、何が原因なのだろうか?原因として、西村氏は「現実との接点の薄さ」を挙げた。携帯電話の場合、赤の他人から誹謗中傷などをされた時に、電話会社に問い合わせれば誰なのか突き止めることができる。テレビの場合は、テレビ局や事務所に問い合わせることが可能だ。ネットでも、ISPに問い合わせれば、突き止めることはできるのである。しかし、現状ではISPが会員との連絡手段を防ぎすぎているという。これによって、「現実との接点の薄さ」が作り出されている。しかし、ISPは通信事業者なので、ある程度はこれも当然の行為だ。結局、「照会紹介手続きがガイドライン化されていない点が、最大の要因だ。ガイドラインを制度化することで、現実との接点が濃密となり、ヴァーチャルだから許されると誤解した行為が減るはずだ」(西村氏)と結論した。

西村 博之氏
吉崎 正弘氏

 総務省 情報通信政策局 情報通信政策課の吉崎 正弘氏は、「本日は、総務省の人間としてではなく、個人として来た」と前振りした後、「基本的に、これらの各論は行政ではなく、個人がするべきだ」と語った。吉崎氏は、道路を例に挙げ、物理的な道路をネットワークインフラなどとし、これらは技術的で仕様などを明確にしやすいという。その道路の上を走る自動車がISPなどで、自動車に運ばれる人間や物などがコンテンツだと位置付けた。つまり、自動車に乗せるものは、現実世界でも原則自由であり、銃器類でも載せていない限り不法とはならない、これと同様にコンテンツも原則自由であり、また、行政が拘束すべきではないという。しかし、コンテンツを運ぶISPの役割は大きく、匿名性を持たせてしまうと被害も大きくなる。これらの問題に対しては、現在はまだ登場して日が浅く「各論に対して分からない点が多いから国民は不満を持ってしまう」(吉崎氏)だという。しかし、これらは国民が議論や事例を自分達で積み上げていくもので、行政ががんじがらめに縛らない方が良いとしている。だが、吉崎氏は「原則として匿名はしない」ということは重要であるとした。

 これら意見発表の後、3者による討論会へと移行した。そこでは、西村氏が「プロバイダー法で、掲示板管理者などにログの保全や、IPアドレスの取得などを義務付けるとすると、かなりの負担となってしまう。また、削除規定にしても、どこまでの発言は良くて、どこからが駄目なのかを自己判断することは難しい。そのような基準は、行政などが作るべきだ」と意見した。これに対して吉崎氏は「それは基本的に行政が決めるべきことではない。国民の側で決めるべき」と応えた。結局、結論はでなかったが、判例を待つことや、テレサ協などのガイドラインなどが自主規制をすることによって、少しずつ相場を作っていくことが重要だという意見が多く出た。

 最後に藤原弁護士は、今の法律では、総務省は「ログを必要以上に持つな」とし、「警察はログは完全に取って置け」といっている。これらの意見がどこで落ち着くかは重要だ。また、「プロバイダー責任法が難産の上で生まれたことは喜ぶべきだろう。ただし、自覚して欲しいことは『ネット上の秩序は自分達で作るものだ』だということで、『立法は国会任せじゃない』ということだ。今、行政は良く意見募集をしており、その結果を報告・反映している。もっと、意見するべきだ」と結んだ。

(2002/7/4)

[Reported by otsu-j@impress.co.jp]

ほかの記事はこちらから

INTERNET Watch編集部internet-watch-info@impress.co.jp
Copyright (c) 2002 Impress Corporation All rights reserved.