【業界動向】

オープンソース開発を担うコミュニティーの提供など、業界再編に向けた野心的な試み

米RealNetworks、オープンソース戦略を採用~ソースコードを一部公開

■URL
http://www.realnetworks.com/R/HLrnhp_072202R/www.realnetworks.com/company/press/releases/2002/helix_community.html
http://www.realnetworks.com/R/HLrnhp_072202R/www.realnetworks.com/company/press/releases/2002/helix_products.html

 米RealNetworksは22日、RealAudioやRealVideoだけでなく「Windows Media」や「QuickTime」をもサポートするオープンなデジタルメディアプラットフォームとコミュニティーを提供する戦略「Helix」を発表した。これは、エンコーダー、サーバー、クライアントの一部をオープンソースにしてReal以外のフォーマットも一つのプラットフォームでサポートするという意欲的な計画だ。

 今回の発表ではオープンソース開発を担うコミュニティー「Helix Community」と複数のメディアをストリーミング配信できる「Helix Universal Server」が発表された。

 

●29の企業・組織が支持~「Helix Community」

http://www.helixcommunity.org/
http://www.realnetworks.com/info/helix/index.html


Helix Community

 この「Helix Community」に対してRealNetworksは、Helixプラットフォームのソースコードを提供し、コミュニティーの参加者がHelixのエンコーダー、サーバー、クライアント製品の開発に関与できるようにする。

 これらソースコードの中には、これまでRealNetworksが7年間にわたって開発を続けてきたクライアント部分(HelixDNA)のソースコードが含まれているほか、オープンなデジタルメディア配信プラットフォームを構築するための1,000以上のAPIを含んでいる。これによりオープンソースのもとでストリーミング放送、オンデマンドストリーミング、デジタルメディアのローカルファイルの再生、新しいメディアフォーマットやデータタイプへの対応などが可能なサーバー、エンコーダー、クライアントが開発されることになる。

 このHelix Communityに対しては、すでに29の企業や組織が支持を表明しており、その中には、Cisco、Intel、Nokia、Opera、Oracle、PalmSource、Sun Microsystems、Xiph.org Foundation、ソニーなどが含まれている。

 RealNetworksでは、当然ながらシェアで激しく争っているMicrosoftのWindows Mediaフォーマットをライセンスしていない。RealNetworksの創設者でありCEOのRob Glaser氏の発言によると、ここでは“クリーンルーム”バージョンによりWindows Mediaに対応するという。Microsoftは自社製品のリバースエンジニアリングを許可していないため、互換製品を合法的に開発するためにはネットワークを流れるパケットを観測して新たにソフトウェアを組み上げるしかない。こうした事柄は、今後Microsoftが保有するストリーミング配信の特許侵害、または著作権侵害などの法廷紛争に発展する可能性も否定できない。

 このHelix Communityのもとで提供されるソースコードは、RealNetworksが提案する新しいオープンソースライセンスである「RealNetworks Community Source License(RCSL)」と「RealNetworks Public Source License(RPSL)」の二つにより提供される。現在このライセンスのドラフトがHelix CommunityのWebサイトで公開されている。

 RCSLは、新しく開発される製品がHelixのインターフェイスとの互換性が確実に保たれるよう義務づけるもので、Helixエンコーダー、サーバー、クライアントなどほとんどのソースコードはこのライセンスのもとで配布される。一方のRPSLは、それに基づいて開発された製品が、再びオープンソースとして公開されるよう義務づけるもので、HelixDNAクライアントに対して適用される。RealNetworksは、このRPSLを「OpenSource Initiative」に送付し、オープンソースライセンスの一形態として認可してもらうことにしている。

 RealNetworksの予定では、クライアントソフトで最も重要なHelixDNAクライアントをHelix Communityに対して90日以内に公開する予定で、サーバーとエンコーダーのソースコードは2002年終わりまでに提供されるとしている。さらにソースコードの公開だけでなく、RealNetworksがストリーミング配信に関して保有しているいくつかの特許や出願中の特許を利用する権利を与えることも明らかにした。RPSLの適用者はロイヤリティーを支払わずに特許のライセンスを取得でき、RCSL適用者は定められたロイヤリティースケジュールのもとで特許の利用権を取得できる。

 

●55のメディアフォーマットに対応~「Helix Universal Server」


「Helix」発表会のストリーミングでは、実際に「Helix Universal Server」を使ったWindows Media向けの配信が行なわれた。

http://www.realnetworks.com/products/server/index.html

 RealNetworksはこのオープンなHelixプラットフォームの発表と同時に、サーバー製品「Helix Universal Server」を発表、出荷を開始した。このサーバーはRealAudio、RealVideo、QuickTime、MPEG-2、MPEG-4、Windows Mediaなど55のメディアフォーマットをサポートしている。これまでストリーミング配信をする場合、その企業が提供する一つのフォーマットに限定されており、複数のフォーマットをサポートする場合にコストの増加は避けられなかったが、一つのサーバーで複数のフォーマットをサポートできることにより大幅なコスト削減につながるとしている。

 また、RealNetworksの要請で調査会社の米KeyLabsがHelix Universal Serverのパフォーマンステストを行なった結果、RealSystem Server8と比べて100%の性能向上が確認され、同時に1万1,000のストリーミングを配信できたという。さらに同じハードウェアの上でWindows Media Serverを利用する場合よりも400%の性能向上が認められたとのこと。このHelix Universal ServerはLinux、UNIX、WindowsサーバーOS上で動作する。

 さらにライブやオーディオビデオコンテンツをRealAudioやRealVideoフォーマットに変換し、配信するためのツール「Helix Producer」も発表された。これにはRealVideo8に比べて30%の性能向上を提供するRealVideo9、マルチチャンネルオーディオを利用できる「RealAudio Surround」、GUIベースでバッチプロセスができる機能などが含まれている。

 なお、このHelix Universal Serverについては、Boeing、Deutsche Telekom、HP、IBM、NASAのほか、日本のJストリームなどがサポートを表明している。

 

●オープンソース界の支持は得られるか?

http://perens.com/Articles/Real.txt (Bruce Perens氏の見解)


CEO・Rob Glaser氏

 RealNetworksがをオープンソース戦略を採用したことは今後のストリーミング業界に大きな影響を与えるだろう。

 このRealNetworksの決定を陰から見守ってきたフリーソフトウェアエバンジェリストのBruce Perens氏は、早速自らの見解をインターネットで公開した。そのなかで同氏は「RealNetworksがRealAudioとRealVideoのコーデックをオープンソースにせず、コミュニティーに対してオブジェクトとして提供し、他の製品とリンクできるようにしている」ことを指摘している。フリーソフトウェアを支持する同氏の立場からすると、このことは「Microsoftの独占的なオーディオフォーマットからRealNetworksの同じく独占的なオーディオフォーマットに乗り換えることにしかならない」と指摘していることになる。

 しかし、RealNetworksはまさに顧客にそうしてもらいたいのである。今回の決定がRealNetworksのシェア拡大につながるか、また企業として利益を上げられるのかが注目される。

 なお、米国では、今回の発表に関しては2日ほど前から報道関係者に対して招待状が送られており、発表内容についてさまざまな憶測が流れていた。この招待状の中では、報道向け記者会見において、Eric Raymond氏、Bruce Perens氏、Brian Bellendorf氏などオープンソース界の著名人が参加する旨を通達されていたのだが、結局Bruce Perens氏は賛同しなかった。Bruce Perens氏によると、彼は何度もRealNetworksを支持するつもりはないことを事前にRealNetworks側に通知していたという。それにもかかわらず自らの名前を使われたことに対して怒りを感じているようだ。RealNetworksの今後の成功のためにはオープンソース界の支持を得ることが不可欠であり、同社が今後オープンソースの人材とどのような「付き合い方」をするのかもまた注目されるところだ。

(2002/7/23)

[Reported by taiga@scientist.com]

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