【イベントレポート】

FTTH補助金を開始した荒川区はやはり先走り過ぎ?
IT普及に向けた区民のニーズと大きなギャップも

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http://www.city.arakawa.tokyo.jp/

藤澤志光・荒川区長(写真中央奥)は「目指しているのはユビキタス社会。パソコンの存在なしにITの恩恵が受けられる世界だ」と言うが、非パソコンのブロードバンド端末がまだあまり実用的ではない現在の状況を考えると‥‥
 東京都荒川区は、本誌でも何度かお伝えしたように、住民のFTTHサービス加入に対して補助金を出すことで工事費を事実上無料にするという、インターネットユーザーにとっては画期的な制度を開始した自治体である。さらに今後は区内にホットスポットを展開してユビキタス環境を整備する案も検討されているようだが、FTTH補助金と同様、これらの取り組みは現状ではやや“先進的”であるようだ。28日に同区内で開かれた「荒川区IT先進都市推進委員会」の公開会議の場で、IT普及に向けて期待される施策について区民との間に大きなギャップが浮かび上がった。


 同委員会は、「荒川区を日本最初の全住民参加型IT先進都市とする」ことを目的に設置された諮問組織で、ブロードバンド事業者のIT専門家や学識経験者、区の課長クラスの職員で構成。今後、ブロードバンドインフラを区民の生活環境の向上にどのように活用すべきかについて検討している。全世帯を10~100Mbpsのブロードバンドで結ぶというインフラ面にはじまり、地域データセンターやベンチャー企業向けのITオフィスの充実化といった産業面、地域コンテンツや無料IP電話の実現といったコミュニティ面の取り組みが構想として掲げられている。

 具体的な検討は7つに分かれた専門部会で行なわれており、例えば「敷設ソリューション部会」では、電線の地下埋設化エリアや集合住宅などにおける回線の敷設問題が担当だ。ブロードバンド導入のネックとなっているこのようなシチュエーションでも、将来的には全区民がブロードバンドに加入できる環境を義務づける何らかの指針も示していく方向だという。

 また、FTTHに限らず同軸や無線などどのインフラを含め、荒川区民が同様なサービスを受けられるような街全体のネットワーク計画を「システムインテグレーション部会」では検討している。このほか、企業サービスや行政サービス、コンテンツを担当する部会がある。


 委員会は4月に発足し、毎月1回のペースで全体会議が開かれていた。4回目となる今回、はじめて区民へ公開されるかたちで開催。商店街組合や青年会議所、町内会の会長らが招かれ、行政と区民がIT普及に向けた取り組みについて意見交換を行なう場となった。

 会議ではまず、委員会の目的やこれまで検討してきた内容について中間報告が行なわれ、その後、すぐにでも実行に移すことが可能ないくつかの施策が提案された。その一つが、公共施設や民間のスポットに無線アクセスサービスを展開しようと計画である。

 システムインテグレーション部会の説明によれば、荒川区におけるインターネットの利用率は30%だという。FTTH補助金制度を開始しても自宅や職場でインターネットを利用できない人が存在するとして、そのような人にもインターネットを利用できるようにするのが狙いだ。夏休み中の8月下旬にも図書館での先行実施に漕ぎ着けたいとしており、図書館でパソコンと接続用のIDを貸し出す方式を想定している。


フリーディスカッションの時間には、テーブルについた区民代表のほかに、傍聴席からのコメントも随時受け付けられた
 ところが、このホットスポット構想をはじめ、委員会の掲げるIT化構想に対する区民の反応は厳しい。

 会議の後半に設けられたディスカッションでは、「ホットスポットを利用しようという人は、家でもブロードバンドに加入している先進的なユーザー。ホットスポットに注力するくらいなら、(インターネットをまだ利用していない)残り70%の人にも触れてもらうほうが先決。高齢者が見たくなるコンテンツが必要だ」「FTTHはまだまだ高い。ナローバンドでもこと足りているユーザーもいる。行政が推進する以上は、映画を見るだけではない、ブロードバンドのメリットを具体的にアピールしなければ理解されない」といった意見が述べられた。

 さらに印象的だったのは、ブロードバンド以前の問題として、パソコンを操作すること自体、まだまだハードルが高いという点が繰り返し指摘されたことだ。「高齢者や障害者に普及させるにはどうすればいいのか、まずは考えて欲しい」として、IT教室の充実化や使いやすいインターフェイスの必要性が強く訴えられた。

 しかしその一方で、委員会の提案について「専門家の言うことは、あまり一般受けはしないものだ」と一蹴したある町内会長も、ITの活用自体には期待を寄せている。「現在、インターネット魔法瓶を利用した“見守りネットワーク”を検討している。ぜひ、区も支援して欲しい」と逆に提案する場面も見られた。

 また、行政だけに頼っていては機会が限られてしまうIT講習会や、コストや迅速性で問題を抱えるパソコンのメンテナンスサービスについても、町内会単位でサポートしていこうという試みが始まっている。青年会議所のメンバーからは、地域の小学生を講師に迎えた高齢者向けのパソコン教室の事例も報告された。

 このように、ITリテラシーの実状を考えると、荒川区の推進しようとしているIT化構想が先走りし過ぎているように見えるのは確かだ。しかし、これをきっかけに区民のITリテラシーが向上しようとしているのは間違いない。すべてを行政任せにすることなく、同時に区民自らもIT普及に向けて自主的な取り組みを活発化していくことが期待される。

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(2002/7/29)

[Reported by nagasawa@impress.co.jp]

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