インターネットの里、富山県婦負郡山田村で、8月1日~9日まで「電脳村ふれあい祭'98」が開催された。村民と県内外の学生が交流し、山田村の情報化を推進するイベントで、今年で2回目となる。期間中、県内外の学生約70人で「パソコンお助け隊」を結成。1日2回、約一週間の間、「パソコンお助け隊」が希望する家庭を訪問し、村の情報化の支援活動を行なった。ほかにも、とうもろこしの収穫やパラバンドなどを楽しんだりと、村民と学生が交流を深める手作りのイベントも数多く行なわれた。そこで、「パソコンお助け隊」を通して見た山田村の現状をレポートする。
富山市内より車で南西に40分くらい走ると山田村に到着する。山に囲まれ、田園が広がっており、夏はパラパント、冬はスキーを楽しめる村だ。
山田村は、'96年に過疎化対策事業として、希望する全世帯(全体の7割)にパソコンを配布し、インターネットへの接続環境を整えた。この情報化事業が「インターネットの里」と話題を呼び、山田村の名が全国的に知れ渡ったのはご存じの通り。
山田村の通信環境は、山田村情報センターに10Mbpsの専用線が引かれている。そこにダイヤルアップサーバーが24回線が用意されており、村民は、ISDN回線でセンターへダイヤルアップ接続する。
村民の各戸のパソコンのうち、7割がMacintosh、3割がDOS/Vであるという。各家庭には、必ずISDN回線と、電子メールのアカウントが配布されている。また1アカウントに5MBまでのホームページスペースがある。
独自のメーリングリスト「MLやまだ」を開設し、回覧板のお知らせも電子メールで流れてくる。小・中学生では、学校内でのお知らせもプリントではなくメールだ。
しかし、そのような明るい情報化事業の反面、山田村は少子化や高齢化に悩む「過疎の村」だ。マスコミの注目を集めた'96年は約2,200人だった人口も、現在は2000人弱に減少。あと数年で廃墟となってしまう地区もあるという。少しでも過疎をくい止めようと、村も必死だ。
パソコンお助け隊は、ふれあい祭に参加している学生約70人が主体となって作られたボランティア団体だ。その名の通り、パソコンのトラブルで困っている人のお宅に訪問して、トラブルを解決する。
お助け隊を希望する家には、「何に困っているのか」「何をしたいのか」などの事前アンケートが取ってあり、そのアンケートを元に、お助け隊のメンバーが決まる。
お助け隊は基本的に2人一組。初対面のお宅でもうまくコミュニケーションがとれるように、山田村の村民の中で決めたパソコンリーダーも同行する。
今年参加した私は、まず「スキャナを買ったが、使えない」というトラブルのお宅にお邪魔した。一体どういう状況で「使えない」なのか?
行ってみないとわからないが、想像できるのはケーブルの問題だろうということで、何本かケーブルを持参することにした。が、行ってみると箱から出されていないスキャナを発見!
…ということで、接続とソフトのインストールをし、スキャニングのプレビューまでは大成功した。しかし、取り込みの段階になるとエラーメッセージが出る。どうもメモリ不足らしい。そのお宅のMacintoshは、標準メモリの16MBのままだった。仮想メモリと割り当てメモリを増やすことでなんとかトラブルは回避できたが、またもやトラブル発生。インターネットをするとWWWブラウザーがフリーズしてしまうのだ。この不安定さを解消するには、とりあえずメモリ増設しかなさそうだ。報告書(おたすけ隊本部と情報センターで保存される)にもそう書いたが、「メモリを増設したほうがいい」という提言はできても、この声が行政に届くわけではない。今にしてみると、村民から訴えないとならないのだ。きちんと説明して、メモリ増設を提言してくればよかったと後悔している。
次に「Shockwaveをインストールしてほしい」という小学6年生の男の子を訪ねた。インターネットゲームをしたいので「Shockwave」「RealAudio」を入れたいという要望だった。また、「Netscape
Communicater」にアップグレードしたいともいう。
小学校の授業でかなりパソコンを利用しているので、デスクトップの再構築の仕方を知っていたり、Windowsユーザーのお助け隊よりも詳しい部分もある。将来が楽しみだ。学校で友達同士、パソコン操作の裏技を情報交換するらしい。
「RealAudio」はダウンロード、他のものはインターネット雑誌の付録CD-ROMからインストールすることで解決。しかし、山田小学校のホームページから音楽が聞こえてくるはずなのだが、音がしないという。原因はプラグイン。YAMAHAのページからMIDPLUGをダウンロードすることで解決した。
最後に同行した学生の趣味(?)で「SPEED」のぺージを見ようということになった。実は「SPEED」のページは、「ShockWave」「RealAudio」「MIDPLUG」がないと見られないので、きちんと動作確認できるという有効なサイトなのだ。
ほかにもいくつかの家庭を見てきたが、ハード面、とりわけメモリが多様化した要望に応えられなくなっている家庭も少なくない。課外学習など、授業の様子をRealVideoで実験公開している関係上、小・中学生のいる家庭には32MBのメモリがある。しかし、それ以外の家庭は標準メモリ16MBのままだ。今のところ、MacOSの機能である仮想メモリで一時的な対応するしかない。
パソコンが配布されてからようやく2年が経ち、お助け隊に対する要望は、「表計算ができるようになりたい」「ホームページの作り方をマスターしたい」「Netscapeのバージョンをあげて欲しい」など、昨年よりも要望が多様化している。更に一歩前進し、パソコンをきちんと使えるようになりたいという村民が増えているようだ。
このふれあい祭には、村として何を期待しているのだろうか。山田村役場の小西源清助役にお話を伺ったところ、「ふれあい祭を通じて、若い方々からいろいろな刺激をもらいたい。そして若い人たちがまた山田村に戻ってくることを期待している」とのことだった。
実際に、昨年の「ふれあい祭」に参加したほとんどの学生がリピーターとなって再び村を訪れており、思いは叶っているといえる。昨年は初めての試みだったため、村民も「お助け隊」も双方が試行錯誤の状態であった。昨年はさまざまな「きっかけ作り」だったが、今年は村民とお助け隊の「絆作り」ができたようだ。また、「お助け隊」の活動で、村民が一人一人、情報化の意識を向上できる環境が整えられつつあるようにも感じた。
山田村には、パソコン雑誌や書籍が買える書店もない。しかし、パソコンを使ってあらゆる情報を手に入れることができるようになりつつある。コミュニケーションのツールとして、パソコンを利用する喜びにも触れられた。「情報化の先にあるふれあい作り」という部分で、山田村の「電脳村ふれあい祭」は大成功だ。次の段階へステップアップするために、今、村がしたいこと、すべきことは何か?
山田村のターニングポイントはもうすぐそこまできているのかもしれない。
・電脳村 ふれあい祭 '98
http://www.yamadamura.net/
・山田村公式ホームページ
http://www.vill.yamada.toyama.jp/
('98/8/10)
[Reported by takizawa@nsknet.or.jp]