Click Here


【レポート】

「年内に楽曲を配信する!」8/30佐野元春有料ライブレポート


http://www.sme.co.jp/Live/UGL/

 8月30日、都内にて、佐野元春の有料インターネット中継が行なわれた。タイトルは「~有料オンラインライブ“地下室からの接続”」。今回の有料インターネット中継には特徴的な点が2点ある。インターネットの中継だけのためにライブが行なわれること、決済に「WebMoney」など3種類の決済手段が採用されたことだ。また、アーティスト佐野元春本人がかなり積極的に有料インターネット中継に関わっていることもポイントだ。

motowebmoney 今回の中継は、ソニーミュージックエンターテイメント(SME)にとって初の有料ストリーム中継。中継は今後の展開を探る意味で「実験」という位置付けで実施、同社では、事前から広報活動を積極的に展開していた。ユーザーの選択肢を拡げる目的もあり、決済手段として「WebMoney」「QQQシステム」「サイバーキャッシュ」の3種類を採用、特にWebMoneyは、オリジナルデザイン(写真)のカードも作成された。



いよいよライブ開始


moto 定刻18:00、佐野元春 and The Hobo King Bandのライブが開始された。実は今回のライブはインターネットでの中継のほか、同時にCSの「スカイパーフェクTV!」の音楽チャンネル「Viewsic」でも生中継されている。8月8日に開催された中山美穂の有料ライブの場合、パッケージのビデオとして販売されること、つまり、コンテンツの二次使用を想定して映像コンテンツが編集されていたが、今回は、インターネット中継が決まったあとにCS側から話があり撮影協力に至ったという。

 佐野元春の第一声は「インターネットで見ている、また、Viewsicで見ているみなさん、こんばんは」。最新アルバム「The Barn」から「ヤング・フォーエバー」で始まった。

 今回のライブは、完全にアコースティックセットで行なわれた。
佐野氏は言う「コンサートそのままの中継ではおもしろくない。まるで、誰かの家の居間でやっているような感じを出したいと思った。パソコンの前にいる個人に、何らかの『親密さ』を出すためにはアンプラグドがよいのではという感じがしたんだ

moto2 ライブ中盤、ViewsicでのCM時間中(インターネット中継は継続)には、ステージにノートパソコンが上げられた。残念ながら接続の状況が悪く、ステージからメッセージを発するといったことはできなかった。

 後半は、佐野のキャリアから初期の作品が演奏された。ファーストアルバムから「Please Don't Tell Me A Lie」、アルバム「カフェ・ボヘミア」から「インディビジュアリスト」がアコースティックバージョンで演奏された。ここでは、Viewsicでの放送は終了。最後の一曲はインターネットユーザーのみが楽しめることになる。


 最後の一曲は、かの名曲「Someday」。「とても昔の曲。この曲が、こんな形でできるとは、その当時は思ってもいなかった」と語ったあと演奏はスタートした。

有料ライブ参加「670人」は妥当な数字

 ライブ終了後、SMEによる質疑応答が開始された。今回のライブ中継は、事前にストリーム中継用の定員を3,000人としていたが、参加者は約670人。内ISDNでの接続は約1割とのこと。670という数字に関しては、「(有料中継の)スタートとしてはよい数字である」として、年内か来年3月までにはもう2~3件有料のライブを行なう予定であることを明らかにした。

 また、利用した決済手段はWebMoneyが350人、QQQとCyberCashはほぼ同数であった。WebMoneyは、コンビニでの販売や手続きが比較的容易なことがまずプラスに働いたと思われる。登録まで日数がかかるQQQ、また、専用のクライアントソフトが必要なCyberCashは敬遠されたようだ。なお、WebMoneyと同様の決済システムに「Bitcash」があるが、今回採用しなかったことについて、SME側では「企画を立てている時点で、Bitcashは販売網が限られていた。そこで、既にコンビニでも販売しているWebMoneyを採用した」としている。

「今年中にインターネットで音楽配信する」元春氏

 SMEによる質疑応答の後、佐野元春氏本人による会見が行なわれた。以下質疑の様子。

Q: ライブ中インターネット通じて向こう側にいるリスナーの気持ちを感じることはできたか?

佐野元春氏(以下M): 残念ながら演奏中はそんなに余裕はなかった。まだ、ビューアー(リスナー)がどんな気持ちで見たかわからない。自宅に帰ったら(ホームページ上に用意していた)フォーラムを見てみたい。インターネットでのやりとりは、ともすれば冷たいものと思われがちだが、自分でサイトを運営する中でユーザーとのやりとりは、現実社会と同じように情を感じられるメディアだと思っている。

Q: 今後インターネットを使ってやってみたいことは?

M: よりユーザーの側に立った、よいコンテンツを出していきたい。次はライブという形ではなく、楽曲の配信を有料でやってみたい。インターネットの環境に親和性の高い曲、ネットに特化した曲を配信する実験を年内にもやりたい。今すぐにも用意はできている、あとは著作権問題のクリアなどソニー側と調整して実現できるか検討したい。

Q: インターネットを使うことで、ファンにどんな恩恵が落ちていくのか?

M: 現在、僕のファンの中心は30代にさしかかっている。(その年代は)仕事で忙しかったりして、いつもリリースした音楽を聞いてもらえる訳ではない。そんな彼らに、僕からのサービスやエンターテイメントに触れる機会が増えるのは意味があるのではないか。

Q: 音楽業界とインターネットについて

M: 音楽業界では、まだ「儲からない」と見ているので警戒心があるのだろう。ただ、アーティストとしてインターネットというキャンバスがあったら使ってみたいというのが自然。だから使っていきたい。


「画面がとぎれとぎれ、でも姿勢は評価したい」パソコンの前にいるユーザーの声

 実際、パソコンではどんな中継が見られたのか。ページに設置されたフォーラム「Online Forum for UGL'98」に寄せられた声を見てみると、「1分間以上は連続でつながらず、停止、再接続、エラー、再接続、エラー、やっとつながるの繰り返し」といった、特に映像が切れるトラブルに対する書き込みが多い。ライブ後の会見でもISDN側の接続で一部不具合が出たことが明らかにされている。しかし、概ねの意見は、接続状況は悪かったが「楽しめた」「チャレンジする姿勢を評価する」といったものであった。

まとめに

 今回のライブ中継は、肝心の画像/音声に問題が出た。しかし、ユーザーからは「楽しめた」の声。これは何を意味しているのか。

 ライブで演奏された楽曲のアコースティックバージョンは、CD化されていないバージョンであることなど、ファンにとっては「プレミア感」の高いものである。
 また、フォーラムでは事前に佐野氏本人から問いかけがあり、それにリスナーが意見を寄せていくという、インターネット中継を通して一つの「場」が形成されていった。佐野氏は、ライブ中継用のページに「場を共有することへの対価として」と題して有料オンラインライブという試みに対する姿勢を語っている。その中で「リスナーにとって、インターネットが本当にどんな役に立つのか? 果たして、こうした試みは、音楽ファンに最終的に恩恵が落ちてゆくのかどうか?」を課題とし、ライブ中継を「自分の実践を通じて、リスナーの皆んながネットを通じて音楽を体験することについて、どう考えるのか、どう行動するのか? こうしたことを探っていきたい」としている。フォーラムでは、有料のライブ中継の意義について議論された。

 そうした、「プレミア感」とアーティストと共に実験に参加しているという「場の共有」が今回の中継のリスナーにとって「楽しめる」ものになった。

 今回の有料ライブの「実験」は、技術的にクリアすべき問題は多かった。しかし、今後の有料配信の進む方向を考えさせるに十分な試みであった。佐野氏本人も語っている通り、「儲かる、儲からない」の話では、レコード会社は積極的に有料のインターネット中継をするには、まだ躊躇する段階であるといえる。しかし、ミュージシャン本人がこうした積極的な姿勢を見せてくれるのは頼もしい。年内に予定されているという、楽曲の有料配信もどのようなものになるのか楽しみだ。

('98/8/31)

[Reported by okiyama@impress.co.jp]

INTERNET Watchホームページ

ウォッチ編集部INTERNET Watch担当internet-watch-info@impress.co.jp