【特集】
年をとった時こそインターネット
-シニア世代がネットで交流-
失礼ながら、現在50代、60代、そしてそれ以上の年齢を迎えている“シニア世代”の方々が、パソコンやインターネットに堪能だとは、普通、思わない。しかし、これだけ普及した今日では、それらとうまく付き合いながら、人生に新たな楽しみを見出している人も少なくないようだ。
今回は、そんなインターネット時代のシニア世代を対象に、ネットでの交流を目的としたコミュニティを運営されている方にメールで取材。活動の内容やネットの魅力などについてうかがった。
●定年退職したら友人が増えた!?
自ら挑戦する気構えこそ、明日への活力を養う--。「熟年ネットワーク わいわい、がやがや友の会」を主宰する藤山さんは、熟年世代のインターネット参加が少ないのは、育った時代と環境が違うのである程度仕方のないことだとしながらも、それだけのせいにせず、積極的に参加してほしいとホームページで呼びかけている。確かに、現在“シニア”と呼ばれる年齢にさしかかっている人にとって、パソコンやインターネットは、なかなかなじみにくいものに違いない。しかし、そうして苦手だからといって逃げるだけでは、すぐに気持ちまで年老いてしまう。パソコンに挑戦し、ネットでの交流に参加することで、活力が生まれるというわけだ。
それだけではない。ネットへ参加することで、新しい楽しみも生まれる。例えば、核家族化が進んでいる現在では、会社を定年退職すると付き合いが急に狭くなってしまうこともあるだろう。ところが、メーリングリストに入ると「新しい友人がいっぱいできるので、定年後に友人が少なくなるどころか、逆に増える」と、「Happy Senior Life Net」を運営する柿沼さんは、そのメリットを説明する。さらに「趣味や考え方の異なる大勢の人との意見交換」が行なえるのも楽しいという。どうしても付き合う相手の職業などが限定されてしまう会社や仕事中心の生活では、なかなか体験できないことだろう。
●初心者もベテランも会員同士で支え合い
このように、大きなメリットがあるネットコミュニティだが、シニア世代の人がいざ始めようと思っても、パソコンの操作方法など、ネックとなる問題は多い。
今では「ふれあいネット」のSIGオペを務めている赭衣(しゃい)さんも、最初は「PC-VANに入って、操作方法に非常に戸惑った」という。この経験から、「失敗を恥じたり恐れたりする必要のない、初心者向けのSIG(Special Interest Group)が必要」だと痛感。同時に、ネットでも高齢者を受け入れる場所が必要だと感じたのが、活動を開始したきっかけだそうだ。
実際、こういった問題は、シニア世代を対象としたコミュニティでは、ほぼどこでも抱えている。ニフティサーブの「メロウ・フォーラム」スタッフの杉本さんにうかがってみたところ、会員がパソコンやインターネットを始める時にぶつかる問題は、ソフトの操作から回線の接続方法に至るまで多岐に渡っているという。しかし、こういった困難にぶつかると同時に、それを解決する手助けともなるのが、ネットでのコミュニティだ。メロウ・フォーラムをはじめ、シニアを対象としたコミュニティでは通常、初心者からの質問にベテラン会員が答えてくれる会議室や掲示板が設けられている。「疑問を投げかければ、即座に誰かが応えてくれる」。その結果「会ったこともない全国の人との間に親密な仲間意識が生まれる」。実際に体験した人にしかわからない魅力だと杉本さんは言う。
●ネットだけでなくオフ会も活発~ネットコミュニティの活動内容
最近では、誰でも手軽にメーリングリストや掲示板を設置できるようになったため、このようなシニア世代の交流を目的としたホームページを設置・運営している個人の方も多い。また、インターネットが普及する前から開設されているパソコン通信のフォーラムなども、依然として活動が活発だ。
ここでは、今回お話をうかがったネットコミュニティが、実際どんな活動を行なっているのか見てみよう。
なお、BIGLOBEのSIG、ニフティサーブのフォーラムやパティオ、Peopleのパーティへアクセスするには、各社サービスへの入会が必要だ。
■熟年ネットワーク わいわい、がやがや友の会
http://www2.osk.3web.ne.jp/~harehare/
45歳以上を対象としたメールフレンド登録を受け付けており、現在、会員は40~60代を中心に200名以上。シニア世代の交流の場を形成している。ホームページに用意されている掲示板「私にも言わせてコーナー」では、日頃思っていること、パソコンやインターネットの話題など、気ままな情報交換が行なわれている。最近は、会員の“縄のれん”さんのホームページ「熟年郷愁探偵団」が評判になっているようだ。
今後は「アウトドア活動やオフ会を充実させていきたい」ということで、11月には設立1周年記念のオフ会を東京と大阪で予定している。
■シニア・ライフ
http://www.asahi-net.or.jp/~by7m-kknm/
長生きの秘訣、趣味、生き方や考え方などについて意見交換ができる「シニア・ライフに関する談話室」が設置されているほか、定年後のシニア・ライフを楽しく元気に過ごすためのさまざまな資料が掲載されているホームページ。
メーリングリスト「Happy Senior Life Net」も運営しており、会員は現在150名。参加資格は原則として50歳以上だが、趣旨に賛同する人であれば50歳未満の人でも参加可能だ。テキスト主体のメーリングリストのほか、画像やHTMLメールも利用できるメーリングリストもあり、ホームページには送られた写真が多数掲載されている。
会員同士でインターネット電話の活用を広めていきたいとしており、現在も電話ソフトとICQなどを使って、10人近くのメンバーが毎朝“井戸端会議”をやっているという。
■Silver高知メーリングリスト
http://www2.inforyoma.or.jp/~kadota/silver/opening.htm
高知県ふくし交流財団の協力のもと、“高齢者の高齢者による、高齢者のための”メーリングリストを運営。参加資格は50歳以上だが、高齢者問題に興味のある人なら年齢制限は設けないとしており、現在50代・60代を中心に、下は20代から上は80代まで65名が参加している。
主宰者の門田さんは「グローバルな意見交換がいとも簡単にできること」がインターネットの魅力だと述べている。とはいえ、それほど気負わなくても楽しめるのがこのメーリングリスト。孫の話題、プロ野球の話題といった身近なことから、黒沢明監督の死去といったニュースまで、さまざまな話題で盛り上がっているそうだ。
また、どうやってメールを送るのかわからない方も多いということで、門田さんはホームページで詳しく操作方法を解説。初心者のためのインターネットの勉強会も予定しているほか、この秋にはオフ会も開きたいとしている。
■Senior Net 大宮クラブ
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/omiya6/
京都とその周辺に在住する高齢者のパソコン通信同好会。パソコン通信ニフティサーブ内にパティオを設け、会員同士の交流を行なっている。オフラインでも、毎月1回、勉強会と懇親会を開催している。
インターネットのホームページでは、会員のイラストや写真作品などを展示するほか、オフ会の様子も掲載されている。
■メロウ・ソサエティ
http://sig.biglobe.ne.jp/MELLOW/index.htm
'91年7月、パソコン通信PC-VAN上のSIGとして開設。現在はBIGLOBEのパソコン通信サービス上で運営されている。「メロウ・ソサエティの活動を通して生きがいを発見し、情報化社会を自立して楽しく元気よく過ごそう」という方針のもと、メンバーのパソコン活用の促進と支援を行なっている。参加者は約300名。年齢は50代後半から70代前半まで。60歳以上のメンバーが多いとのことだが、年齢制限などは特に設けておらず、関心のある人は老若男女問わず参加可能だ。SIGオペの河野さんは「ハードやソフトの知識、操作のサポートの観点からも、若い世代の参加を歓迎する」としている。
メロウ・ソサエティでは、画像処理やホームページ制作のための講座を開設しているのが特徴だ。フォーラム「挑戦するヒトあつまれ」では、メンバーの中から選ばれた“自前の”講師による、掲示板を利用した講習が行なわれているほか、実際に会場を借りて実技講習会も開催している。もちろん、これ以外にも、人生についての意見を交換したり、気軽に書き込みができるフォーラムも設置。やはり、パソコンに関する話題が多いが、年金等の社会情勢に関する問題にも関心が高いという。
また、近くに住むメンバーが集まって、パソコンの情報交換や操作説明会を行なったり、高齢者や身体の不自由な人へのパソコン講習など、ネット外での活動を行なっているグループもあるそうだ。
■ふれあいネット
http://sig.biglobe.ne.jp/FUREAI/index.htm
パソコン通信PC-VANのSIGとして'95年4月に開設した“高齢者の若葉マークSIG”。「通信上で困っている初心者に援助の手を惜しみなく差し伸べる心、ともに学び合う心で、参加者が主体となって楽しむこと」を心がけながら活動している。現在は、BIGLOBEのパソコン通信サービス上で運営。「高齢者の初心者に理解のある人」なら、年齢を問わず参加を歓迎するとしており、40~60代を中心に高校生から70代の方まで参加している(最年長者の“白い杖”さんは、なんと、自分でパソコンを組み立て、それでネットを利用しているという)。
わずか3年前に開設したふれあいネットだが、ワープロ通信による参加者もいるということで、現在も活動の中心はパソコン通信上。インターネットのホームページも開設したが、掲示板などの活動はすべてパソコン通信で行なうようになっている。福祉情報の交換や相談ができる「フレンドシップ」、パソコン通信などに関する「Q&Aコーナー」など5つの掲示板が設置されている。中でも最近は「エッセーの窓」に掲載されている、読みごたえのある会員の作品が静かなブームになっているそうだ。また、戦争や震災に関するものは、ライブラリーとして積極的に保存していくとしている。
■メロウ・フォーラム
http://www.nifty.ne.jp/forum/fmellow/
'91年7月にパソコン通信ニフティサーブ内に、通産省の「メロウ・ソサエティ構想」を受けて設置。'97年4月以降は独立した私的フォーラムとして運営している。パソコン通信を通じて高齢者の積極的な社会参加を支援するという方針で活動を行なっており、8月末で会員8,803人を数える。会員は30代から80代までだが、中心は50代から60代で、「大正世代のアクティブメンバー」も多いそうだ。
フォーラムには、生涯学習や地域・社会活動などの情報を交換する「幸齢ガイド」、“第二の人生”について考える「ハロー定年」、パソコン初心者のための相談コーナー「通信Q&A」ほか、現在16の会議室が設置されている。特設の会議室で「健康な体作り」が話題になっているほか、やはり、ホームページの作成、デジタルカメラ、画像処理など「高齢者といえども、若者同様のものに興味を持っている」という。
オフラインの活動も人気があり、10月には会員約100人が参加して、第1回公式全国オフ会を開催する予定。全国規模での交流というとで、期待が寄せられている。
■メロウ・熟年倶楽部
http://www.people.or.jp/menus/mellow/
'95年3月にパソコン通信People上の「メロウ・パーティー」として開設。原則として55歳以上の熟年者を対象に参加を募り、会議室を中心に交流を行なっている。現在、登録者は1,236名いるが、残念ながらアクティブメンバーはそれほど多くないという。
プロデューサーの磯辺タウンさんによると、メロウ・熟年倶楽部は「パソコンの得意な方が多い」とのこと。これは、日本アイ・ビー・エムの社員会員や、シニア向けパソコン教室の出身者が多いため。会員がいちばん興味を持っている話題も、Windows 98、デジタルカメラ、ホームページの作成など、若年のパソコンユーザーとなんら変わるところはないようだ。オフ会も年3~4回開催している。
インターネットのホームページでは、パーティーの簡単な紹介を行なっているのみで、活動の中心となる会議室などは、Peopleのパソコン通信上で提供されている。ただし、「会員同士のホームページへリンクして交流できる」点が、インターネットの魅力だそうだ。
■シニアネット
http://sig.biglobe.ne.jp/SENIORNET/
社団法人長寿社会文化協会が企画・運営する、BIGLOBEのパソコン通信サービス上のコミュニティ。同協会の開設している「熟年者のためのパソコン教室」の出身者を主な対象に、パソコン通信を通してより豊かな熟年世代を送ることができるよう支援している。参加メンバーは50代から80代まで、60代を中心に100名程度が活動しているという。
現在、活動は主にBIGLOBEのパソコン通信サービスで行なっているが、「時代の趨勢で」インターネットのホームページも設けたという。このページは、パソコン教室の出身者が作成したホームページの発表の場として活用されているほか、ミニ掲示板も用意されている。サブオペを務める須賀さんは、今後は「パソコン教室の出身者以外にも、その輪を広げたい」としている。
●シニア世代がもっとネットに参加できるために
ネットのコミュニティでは、参加してしまえば、わからなくても誰かが教えてくれる--。このように、参加しようという意識がある限り、シニア世代にとって、パソコンやインターネットはそれほど恐れるものではない。しかし、そうなると問題は、彼らを取りまく環境のほうだろう。
例えば、ふれあいネットの赭衣さんは、ぜひ期待することとして「年金生活者が購入可能な価格のパソコン」を挙げた。確かに、いくら高性能なパソコンが昔より低価格で買えるようになったとはいえ、依然として高価な買い物には違いない。また、高齢者の初心者にもわかりやすいマニュアルや参考書も必要だとしている。
そして、パソコンユーザーが、普段あたりまえのものとして使っているインターフェイスについても再考する必要がありそうだ。Happy Senior Life Netの柿沼さんは「アルファベットを使用していた国では、これまでもタイプライターを使用していたので、高齢者の方でもあまりパソコンに抵抗を感じないが、日本ではパソコンアレルギーというかキーボードアレルギーというものが、シニアにはある」と述べている。パソコンを始めるなら、ワープロ程度の操作は最低限マスターすべきなのかもしれないが、高齢者が無理なく使えるインターフェイスの開発も急ぐ必要がある。
このように、まだまだ環境は整ったとは言えないが、それを差し引いたとしても、今シニア世代を迎えている人にとって、ネットへの参加は非常にメリットがある。年をとった時こそ、インターネットを始める価値があると言えるのかもしれない。
('98/9/14)
[Reported by nagasawa@impress.co.jp / Watchers]
ウォッチ編集部INTERNET Watch担当internet-watch-info@impress.co.jp