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【特集】

衛星インターネットでサクサク

 インターネットユーザーが望む環境の一つに「高速通信」がある。アナログモデムでも、またはISDN接続でも、例えばソフトのダウンロードにかかる時間にはついイライラしてしまう。もちろん専用線接続がよいのはわかっているが、費用が高くてなかなか踏み出せない。そこで、高速な通信で比較的ローコストのサービスをウリにしているのが「衛星インターネット接続サービス」だ。ここでは、主に個人ユーザーのインターネット接続手段の一つとしての「衛星インターネット」を取り上げてみたい。

衛星インターネットとは?


 衛星インターネットは、文字通り「衛星」を経由してインターネットを利用すること。個人向け衛星インターネットのおおよその接続モデルは、「家庭用CS(通信衛星)アンテナと専用ボードをパソコンに増設し、上りを通常のダイアルアップ回線などで接続、下りに高速な衛星回線を利用する」というもの。利用するには、上り回線用に事前にプロバイダーと契約している必要がある。

 ユーザーから送信されたリクエストは、ダイアルアップ回線を通じてデータが収められたコンテンツサーバーへ到着。ここまでは通常のインターネット接続と同じだ。その後に、コンテンツサーバーからインターネットを通じて基地局(NOC:Network Operation Center)にデータが送られ、NOCから通信衛星に向けデータを発信、そしてユーザーの元には衛星からダイレクトにデータが「降ってくる」というしかけだ。下りの速度は最大30Mbps程度が可能とされている。

 なお、通信衛星の特性により、多地点への一斉配信が可能なことから、全国に営業拠点を持つ企業などを対象とした法人向けサービスがすでに提供されている。

サービスにはどんなものが?

 では、現時点でいったいどのような個人向けサービスが提供されているのか。予定中のものも含め主なものを紹介したい。なお、料金等の情報は個人向けサービスのもの。

DirecPC
システムhttp://www.direcpc.com/ (DirecPC)
http://www.directint.net/(ダイレクトインターネット)
 DirecPCは、米Hughes Network Systems社が開発したデジタル衛星データ通信システム。米国内では'95年5月からサービスを開始している。日本では、ダイレクトインターネット株式会社がフランチャイズのライセンスを受けサービスを提供している。当初、企業向けのデータ通信サービスを提供していたが、同社が'97年12月から法人/個人ユーザーを対象に開始したサービスが「サッとネット」だ。(左画像システム構成図)

 なお、宇宙通信株式会社も「DirecPC」によるインターネット接続サービスを提供しているがこちらは企業向け。

サービス名
「サッとネット」(DirecPCターボインターネット・エコノミーサービス)
料金体系
・月額基本料金 5,500円(月間受信データ量5,000MB以下)
・超過分に適用される利用料金 5,001MB以上の受信については60円/MB
必要機器
アンテナ(60cm×70cm)、PCアダプターカード
必要機器価格
49,800円
下りの速度
~400kbps
利用衛星
PAS-2号機
利用条件
・ISPと契約していること
・アンテナを設置できる環境にあること
その他
 NOCは米国カリフォルニア州に所在。同社では、「3Web」、「宮崎インターネット」などのプロバイダーと協力し、ユーザーの取り込みを図っている。また、「IIJ4U」のユーザーを対象に「DirecPC」のモニターを募集し、現在100人が試験的に利用している。モニターには、パラボラアンテナやPCIボード、ソフトウェアなど必要機器を無償貸与するなど普及に躍起だ。


Mega Wave (NTTサテライトコミュニケーションズ) 12月開始
http://www.nttsc.co.jp/
システム図 NTTサテライトコミュニケーションズ株式会社は、衛星を利用したインターネット接続サービスおよびイントラネットサービスを業務とする企業。日本電信電話株式会社(NTT)と株式会社日本サテライトシステムズ(JSAT)による合弁会社として'98年4月に設立された。9月には企業向けのMPEG映像伝送サービス「Mega Wave Pro-V」、10月には同じくIP伝送サービス「Mega Wave Pro-IP」を10月に開始。個人向けのインターネット接続サービス「Mega Wave」は12月1日に開始する予定だ。(左画像システム構成図)
 このサービスの特徴は、受信アンテナとチューナーを「SKY PerfecTV!」と共用できる点だ。すでにSKY PerfecTV!に加入しているユーザーはアンテナなどを新たに購入する必要がない。なお、料金は当初月額固定式だが、'99年には定額制と従量制の併用型へ移行する予定だ。

サービス名
「Mega Wave」
料金体系
サービス開始の12月1日~12月末までは利用無料。'99年1月~6月まで月定額4,000円。
7月以降は定額+従量料金に移行する予定
必要機器
アンテナ(40cm×45cm)、受信ボード
必要機器価格
6万円程度(TV受信機能付き)
下りの速度
500kbps~約1Mbps
利用衛星
JCSAT4
利用条件
・ISPと契約していること
・アンテナを設置できる環境にあること
その他
 NOCを東京都品川区に設置。NOCでは、既存の人気コンテンツのミラーサーバー設置を予定している。今後はプロバイダーと連携したサポート活動なども行なうとのこと。会員に対して無料のサーバースペースを提供するなど個人ユーザーに向けたサービスも予定されている。'99年度の目標会員数は8万人。9月27日にはサービスガイドなどを掲載した専用ホームページを開設する。


SPACE-B
 プロバイダーのベッコアメがNTTと共同で開発したシステムが「SPACE-B」。これは、衛星通信をインターネットの基幹接続やバックボーンとして利用しようというもので、従来のユーザーの端末に直接データを配信する「端末接続型」に対して、ベッコアメではSPACE-Bはネットワークとネットワークを接続するという「ネットワーク接続型国際衛星接続サービス」であるとしている。プロバイダーが採用した場合、各アクセスポイント間で安定した通信品質を期待できる。現在、具体的に採用しているプロバイダーはないが、今後期待できそうなサービスだ。「個人ユーザーがアンテナを設置して衛星からデータを受け取る」といったものではないが、プロバイダー側が衛星を利用することで結果的にユーザーが恩恵を受けられるというサービスだ。

本当に速いのか?

 衛星インターネットのメリットはずばり「高速通信」。上記各社のサービスも高速通信をアピールしている。しかし、問題はある。衛星から降ってくるデータが高速なことは間違いないのだが、実際に欲しいコンテンツが収められているサーバーと衛星にデータを発信するNOCの間の通信は地上線を利用するため、その間の回線が細い場合はやはりユーザーまでの返りが遅くなってしまう。そのため「Mega Wave」サービスでは、NOC内に人気サイトのミラーを設置する計画もある。しかし、ユーザーすべてが満足できる情報量を収めるのは不可能で、それ意外のサイトはやはり遅くなってしまう。

 また、通信には、衛星に搭載されているトランスポンダ(地球から受信した電波を増幅し、異なった周波数で再伝送する電波中継器)を利用するが、トランスポンダでの情報伝送速度にも限りがある。「サッとネット」ではトランスポンダ当たり約12Mbps、「Mega Wave」は約30Mbpsとなっている。このトランスポンダを日本中のユーザーが共有するわけで、当然、同時に多くのユーザーが利用した場合、一人当たりの使用できる「帯域幅」が狭くなるのだ。そのため、現状では、多人数で利用した場合に高速の通信は期待できない。

料金的には?

 料金的には、高速であるということは、接続時間が短い、つまり電話料金とプロバイダー接続料金が節約できるということだ。例えば従量課金のプロバイダーで昼間に使うユーザーには魅力的であろう。しかし、逆に言えば、月額固定料金のプロバイダーに加入しており、利用するのはテレホーダイタイムのみといったユーザーにとっては料金的なメリットは少ない。

衛星インターネットは「買い」か?

 個人においては、ホームページを快適に閲覧するため、また、大量のデータを素早くダウンロードするための手段と割り切ってしまったほうがよいであろう。ソフトウェアや画像などのダウンロード用だ。また、料金的な面でのメリットが欲しいなら、上記のように自分の接続環境を考慮する必要がありそう。ただ、いずれにしても、ホームページをサクサク表示するので快適、ファイルのダウンロードが速くて気持ちいい、といった心理的なメリットはありそうだ。
 また、データをダウンロードするだけなら「Sky PerfecPC!」といった「パソコン向け衛星データ放送サービス」を使うのも手だ。これは、衛星インターネット同様、衛星を使ってパソコンに向かってデータを配信するサービスだが、あらかじめ「番組」として用意されたコンテンツを受け取る点が衛星インターネットと異なっている。現在「窓の杜」のオンラインソフトTOP20がダウンロードできるチャンネルなどが利用できるが、まだコンテンツの充実を待つ段階だ。

今後の動き

 個人向けのサービスを紹介してきたが、衛星を使ったインターネット利用はもちろんこれが全てではない。衛星通信の特性から、例えば企業が全国の営業所に一斉にデータを配信するといった、むしろ、企業向けのサービスが充実しているのが現状だ。上記の2社も、それぞれ法人向けサービスを展開しており、DirecPCでは、ロータス社のドミノと連携したイントラネット用サービス「サッと・Notesサービス」、Mega Waveでは、データ(映像、音声、テキスト等)を同報配信する「IPデータ伝送サービス」といった企業向けのサービスを用意している。

 また、今後、衛星インターネットで期待できる一面は「コンテンツ」。高帯域のため音楽や動画の高品質なストリーム配信が可能だ。それに伴い、有料のストリーミング配信といったサービスも本格的なものになりそうだ。
 中でも、Mega Waveサービスでは、NOC内に既存人気サイトのミラーを設置する計画がある。コンテンツを集めることによって衛星インターネットの高速性を活かすとともに、ユーザーを集める戦略で、いかに人気のコンテンツを集めるかがユーザー獲得のためのポイントになりそうだ。サービスを提供するNTTサテライトコミュニケーションズでは、既存サイトのほかに、高速性が必要、または、高速性を活かせるコンテンツを募集しており、今後、衛星インターネットならではのコンテンツが登場しそうだ。

触れてみよう

 その速さを知るには実際に触れてみるのが一番だ。9月30日から幕張メッセで開催される「World PC Expo 98」では、「Mega Wave」の展示/デモが行なわれるので、実際に触れてみるチャンスだ。また、「DirecPC」については、東京にあるデジタル関連のサービスを扱うコンビニ「DigiPit神保町」で利用することができる(有料)。ここは、グループでの利用を基本としているが個人でも利用可能とのこと。ただし、衛星インターネットについて詳しい店員は現在いない。

■「World PC Expo 98
http://wpc98.nikkeibp.co.jp/
■「DigiPit神保町
http://www.fujitsu.co.jp/hypertext/news/1997/Dec/1-2.html

衛星インターネット関連リンク

Hughes Network Systems社
http://www.hns.com/
 「DirecPC」の開発会社、米Hughes Network Systems社のサイト。

PanAmSat社
http://www.panamsat.com/
 「DirecPC」、「SPACE-B」で利用される通信衛星「PAS-2号機」を所有する米PanAmSat社 のサイト。

宮崎インターネット
http://www.mnet.ne.jp/directint/
 「DirecPC」の案内を掲載。9月よりサービスの取扱いを開始した。

3Web
http://home.threeweb.ad.jp/threeweb/directint/
 「DirecPC」の案内を掲載。モニターの募集は終了したが、資料請求は受付ている。

IIJ4U
http://www.iij4u.or.jp/New/info-19980820.html
 「DirecPC」のモニター募集ページ(現在募集終了)。

「Sky PerfecPC!」
http://spc.perfectv.co.jp/
 パソコン向け衛星データ放送サービス「Sky PerfecPC!」のページ。

('98/9/21)

[Reported by okiyama@impress.co.jp / Watchers]

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ウォッチ編集部INTERNET Watch担当internet-watch-info@impress.co.jp