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【インタビュー】

気持ちは「はっぴいえんど」時代に戻ってる

公式ホームページ「風待茶房」開設記念! 松本隆インタビュー

松本隆さん

■URL
/music/kazemachi/

 有名人、著名人のホームページは数多いが、その中で本人の「ホームページを開きたい」という欲求から生まれたページはどのくらいあるだろうか。

 作詞家/作家の松本隆さんは、11月に 風待茶房 という自身のホームページを「MUSIC Watch」サーバーの中に開設した。もちろん本人の意志によるもの。コラムや詩集、またゲストを招いたコーナーなど盛りだくさんの内容で読み応えのあるサイトになっている。

 本人はどんな心意気でホームページを開設したのか? 直接松本隆さんにお会いしてインターネットとの関わりやホームページ運営について訊ねてみた。

IW編集部(以下 IW編)>> いつ頃からパソコンを使い始めたのでしょうか?

松本隆さん(以下 松本): パソコンを使い始めてからは長い方かもしれない。機種で言うと「PC8801」の頃。その前はワープロの「書院」を使ってました。
IW編>> インターネットを始められたのはいつ頃ですか?どんなことに使ってましたか?

松本: いつ頃かなあ。気が付いたらやってた(笑)。Netscapeが出だしのころです。ちょうどそのころはMac使ってましたけど。使い道はほとんどが検索。Yahoo!で始めて、出ないとInfoseekとか。あとはNTT Directoryとか。調べるのは人名が多いですね。ワーグナーとか。キューバのバレリーナのバイオグラフィーとか。
 他によく見るのはサッカーのページとかね。今って、DirecTVがあったりWOWOWがあったりでなんだかわからないじゃないですか。試合の放送予定とかも、へたにテレビ雑誌読むより(インターネットのほうが)情報速いからね。
IW編>> ホームページ「風待茶房」を開設したきっかけは?

松本: 前からやんなくちゃと思ってた。詩のデータベース作ったり。2,000曲あるんで。将来的には詩の検索もできるようにもしたいと。
「風待茶房」トップページ
IW編>> 「風待茶房」はどのように運営されているのでしょう?

松本: 最初は更新日を決めて全部やろうと言ってたんですが、(スタッフは)みんなボランティアなもんで原稿の集まりが悪くて。だったらもう出来た順にやろうと。HTMLは書こうと思えば書けるんですけどね。時間がないから(書けない)。だいたい大ざっぱな構成とか、『週刊マツモト』っていうミニコラムやメールに返事書いたりとか。

 読み物は、できるだけ他の雑誌で使ってるものよりは、書き下ろしたいなっていうのが基本的な姿勢としてはある。掲示板とかもやったらいいんじゃないかと言ったんだけど。やっぱりねえ、掲示板やると匿名で無責任に荒らす人が出てくるんで。そういうのは大抵つぶれますよね。サッカー系もいいのがあったんだけど次々につぶれて。
IW編>>メールはどれくらい来るんでしょう?

松本:だいたい週20通くらいです。もちろん全部目を通してます。昨日も夜9時か10時ころ帰ってきて朝まで返事書いてた。まだ最初だから「ホメ殺し」みたい。こんなに人に褒められたの僕の人生でもあったんだろうかという感じ。
IW編>> 今までに出版した小説は掲載しないんですか?

松本: 小説は載せない。買ってほしい(笑)。詩も本当は買って欲しいんだけど。もし詩を見て『これを聞いてみたい』とか、そういうことがあってほしい。昔、アナログ盤で持っていたけど無くしてしまった。そこで、詩をページを見てまた欲しくなってCDを買い直したという人も実際にいるようです。
IW編>> 歌詞を掲載していますが。

松本: 歌詞については、一応、著作権に関して顧問をお願いしている方に相談して掲載しています。「はっぴいえんど」時代の歌詞をスキャナーで取り込んだ画像で掲載しているのは、旧字が多いからです。
 音声データを載せるつもりはありません。詩だけ載せる。詩を見ながらみんなが何かを感じ取ってくれればいい。知ってる曲もあれば知らない曲もあるだろうけども。
IW編>> 実際にホームページを運営していてどんな面白味がありますか?

松本: 例えばなんかのお芝居を見て、すごい感動するでしょ。このこと書きたいなと思っても、誰もそのことを知らないし誰も質問しなければ終わってしまう。でも今は(ホームページに)書けますからね。人間ってボーっと考えていてもボーっとしたまま消えてしまうけど一回言葉にしてみると自分の中でも整理がつくし、蓄積されて消えないで残る。そういう意味ではものすごく面白い。
 読み手は何人でもいいと思うんですよ。2、3人でも3,000人でも。自分がそれを書きたいと思って、それを書くというのが僕にとってすごく大事なこと。「はっぴいえんど」でやってる時は、そうやって動いてた。分かる人だけ分かればいいって感じの発表の仕方っていうのが本当は理想なんですよ。
 歌謡曲の世界だと分からない人にも分からせてあげなければならなかった(笑)。「はっぴいえんど」時代はゼロから始めて、サービスもゼロ。理解できる人は理解できるだろうって感じ。だから30年たってもまだ生き残っている。そういうところにもう一回戻ろうと。ずーっと“横丁のおばさん”にまでわかるように書いていてるからね(笑)。それも大事なことなんだけどね。
IW編>> では、ホームページ運営を始められるようになってからは「はっぴいえんど」時代に詩を書いていた時の気持ちに戻った感じですか?

松本: 結構戻ってますね。今、僕の書いてるコラムも説明しないからね。いきなりオペラの話始めたり。例えば聖子の詩が見たくてホームページにきて、何だか分からないベルリンフィルのことが書いてあっても、松本さんが言うんだったら聞いてみようとCD1枚買ってみたり。そういうのでもいいと思う。例えば歌舞伎の話にしても歌舞伎のABCから始めなくてもいいと思ってる。
IW編>> 今後の「風待茶房」の予定は?

松本:
コーナーはこれ以上増やすと手に負えなくなるかもしれない。今でもね、週刊誌くらい“読みで”があると思う。個人でやってるにしては、まあイイほうかな。あとは、コラムや歌詞、メールのコーナーも累積で増えていくからどんどん大きくなるしね。
 ゲストのコーナーでは、だいたい3カ月に1人づつくらいアーティストを呼びます。今はまだ太田裕美さんだけなんですが、次の号は細野晴臣さんでその次はまだ決まってません。
IW編>> ありがとうございました。
●念のために松本隆さんの紹介
 松本さんは「赤いスイートピー」など一連の松田聖子のヒット曲や、最近ではKinKi Kids山下達郎の最新曲を作詞しており、ほかにも膨大な数のヒット曲を手がけた作詞家だ。また、作詞のほかにも、後に映画化された小説「微熱少年」の執筆や詩画集の出版、雑誌でのエッセイなどでその才能を発揮している。
 インタビュー中に出てくる「はっぴいえんど」は、'73年まで松本さんが在籍していたバンド。他のメンバーは大滝詠一氏、細野晴臣氏、鈴木茂氏という豪華なラインナップだ。松本さんは、作詞とドラムを担当していた。
 「はっぴいえんど」は、まだ「ロックは英語でやるもの」と言われていた時代に、はっきりと日本語によるロックを演奏したバンド。その詩が後の日本のミュージックシーンに与えた影響は図りきれない。今また、その時と同じ気持ちでホームページの運営に取り組んでいるというのだから、それはもう楽しみとしか言いようがない。

参照ホームページ「”松本隆”作品鑑賞事典」
http://home.interlink.or.jp/~t-ishii/

('98/11/24)

[Reported by okiyama@impress.co.jp]


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