【連載】
アクロスtheインターネット ロゴ
 ニュースや雑誌に頻繁に登場する国でも、その生活事情やIT事情は案外知られていないものです。あまりなじみのない国だったら、なおさらです。この連載では、世界各地にお住まいの方から、生活者の視点で見たインターネット事情や暮らしについてレポートします。

第19回 長期滞在希望者は必見!タイのビザ事情

●3ヶ月に1度のビザ更新旅行

イラスト・Nobuko Ide
 タイに居住する外国人にとって、ビザの更新は一番の重要課題である。ビザの種類は多様で、まず大きく非移民ビザと移民ビザに分かれる。移民ビザは永住ビザとも呼ばれており、年間400人程度の枠しかなく、かなりの狭き門である。女性の場合、配偶者がタイ国籍を有し、2人の間に子供があれば、比較的容易に取得できるようである。しかし男性の場合は、タイへの貢献度、特に会社設立などでどのくらいの投資したか、またはどのくらいの金額をタイに寄付したかなどが大きなポイントになるようだ。
 非移民ビザの最大許可期限は1年である。ただしビジネスビザの場合はWP(ワークパーミット)、すなわち労働許可証があれば、タイ国内において1年ごとに更新が可能である。家族ビザも同様で、WPを取得しているか、25万バーツ(1バーツ=2.8円)以上の銀行預金残高証明書があれば、1年ごとに更新ができる。また相応の理由があれば、ビザ切れの直前に出入国管理事務所で期間延長の手続きも可能だが、たいてい1週間から1ヶ月程度の延長しか認められない。手数料は1回につき500バーツである。ビザの詳細に関しては出入国管理事務所が英語のサイトを出しているので参考にして欲しい。私のビザも当初の観光ビザから、学生ビザ、ビジネスビザ、家族ビザと4回ほど種別が変わってきている。
 ビザの種別を切り替える場合や、滞在許可期間が切れる場合、いったん外国に出る必要がある。私の場合も、3ヶ月に1度外国に出なければならない。幸い、タイの周りにはミャンマー、ラオス、カンボジア、マレーシアと4つの国があり、出先には困らない。特にマレーシアのペナン島は入国ビザがいらないので、タイのビザ取得の地として一番多く利用されている。しかし、つい先日イスラム系の分離独立派による3箇所の国境同時襲撃事件があったばかりだ。万が一の事を考慮して、今回はミャンマーに出国する事にした。

 ミャンマーはタイの北側に位置し、国境の町メーサイまで、私の家より約200kmの距離である。ボロ車を駆って日帰りの外国旅行だ。まず国境の手前、約2kmのところにあるタイ側の出入国管理事務所で出国手続きをする。手続きは簡単で、パスポートを提出するだけである。オーバーステイさえしていなければ、全く問題がない。国境となる川は幅が約10m程度しかなく、子供がのどかに水遊びをしていた。しかしここでも半年ほど前には国境紛争で銃弾が飛び交っていたのである。
 橋を渡りミャンマー側の出入国管理事務所に入る。手数料の250バーツを係官に渡すと、日帰りビザを発行してくれる。係官は片言の日本語で「日本人有難う」と言っていた。どの国でもそうだがここでも日本人はウェルカムのようである。そのままパスポートを預け、預り証を受取ってミャンマーへ入国する。ミャンマー側の町タチレクは市場になっており、民芸品、中国製の安雑貨、えたいの知れないガラクタ、プラスチック製の偽宝石などが古色蒼然となって売られている。
 国境が閉まる前にタイに戻らなければならない。先ほどの、ミャンマーの出入国管理事務所で、預かり証を渡してパスポートを返してもらう。タイへの入国手続きは、出国の時とは違い、国境の橋のたもとに事務所があり、ここで入国カードを記入する。私のビザはマルチプルの家族ビザで、滞在許可は通常3ヶ月である。私はとぼけて滞在要求期間を6ヶ月で提出してみた。係官が間違って6ヶ月の許可を出してくれれば儲けものである。女性係官は私の顔を一瞥しただけで、3ヶ月の滞在許可のスタンプを押した。世の中、やっぱり甘くはないようである。

 タイの日系企業の場合、日本の親会社の社員が業務などの応援によく来ている。彼らの多くはビジネスビザで入国している。ここで誤解している人が多いのだが、ビジネスビザだけではたとえ短期間と云えども働く事は出来ない。働くためにはWPが必要である。ビジネスビザは働く為の必要条件であって、十分条件ではないのだ。
 4年ほど前も、プラント建設に来ていた日本人が10数人逮捕された事があった。現地の設備業者が取引を解約されたのを逆恨みし、密告したのである。この業者は納期を守らない上に、納品された設備も品質不良で使い物にならなかったのである、取引の解約は当然であった。しかし、外国人労働者規制法違反で、社長以下日本人全員が逮捕されてしまった。たとえビジネス上のトラブルが無くても、通報報奨金制度により第三者による通報が頻繁にある。WPなしで働く事はかなり危険だ。

国境を越えるとミャンマーのゲートが出迎える ミャンマーの出入国管理所はゲートよりもずっと質素 こちらはタイの入国管理所

●オーバーステイで逮捕、強制送還!?

 タイにおいては、オーバーステイの正規の罰金は1日につき200バーツ、上限は2万バーツである。それで多忙な外国人自営業者等の中には、故意にオーバーステイを罰金で済ませてしまう人も多い。出入国管理事務所に自己申告すれば罰金だけで済み、逮捕される事は皆無である。
 しかし私の知り合いに、不幸にも強制送還になってしまった人がいる。彼の知人の事務所が家宅捜索を受け、そのとき現場にたまたま居合わせた彼がオーバーステイで逮捕されてしまった。参考人として警察に格好の理由を与えてしまったようである。
 事情聴取でルンピニー警察署の留置所で一泊し、翌日スアンプル通りにある出入国管理事務所の留置所に移送された。ここには数百人の同胞が、裁判を待って留置されているか、または罰金が払えなくて長期的に拘置されている。入所時には、携帯電話やベルトなど、金銭以外の一切の私物が保管されてしまう。その為、外部との連絡は1回300バーツという高額の貸し電話を利用する羽目になる。貸し電話屋の他に、罰金や保釈金を高利で貸す金貸し連中等も出入りしているそうである。留置所に泊まる際は、黒人の牢名主に100バーツ支払わなければならないという。言わずとも知れた万国共通のしきたり(?)である。そうしないと毛布や寝場所を確保できない上、身の安全も保障されないのだ。小部屋には200人ほどいるので、牢名主の収入は相当なものだろう。2日目にやっと裁判になり、クラップ(「はい」の意味)、クラップと3~4回言っている内に、罰金5、000バーツで強制送還のウルトラスピード判決が下りたそうだ。因みに、オーバーステイで逮捕された場合、罰金の上限は9,000バーツ。3ヶ月のオーバーステイにしてはかなり安いと思ったのもつかの間、結局は拘置料や移送料の名目で、13,000バーツ払うことになってしまったという。差額の8,000バーツはアンダーグランドマネーなのであろうか。
 航空券が自弁で用意できると、いよいよ強制送還になる。これより先、飛行機に搭乗するまでの間は手錠と腰縄が掛けられ、犯罪者としての悲哀が十分味わえる。彼は後にそのときのことを「ワッパは以外と暖かかった」と語っていたが……。空港では空港出入国管理事務所の警察官が搭乗口まで引率するのだが、この警察官が引率中に、コンピュータのデータ消去代として1,000バーツのお小遣いを要求してきた。彼はウソである事はわかっていたが、念の為に警察官の電話番号を聞いた上で、安心料のつもりで1,000バーツ払ったそうだ。飛行機では最後尾に特等席が用意され、強制送還の事を知っているのはスチュワーデスのみという。結局、彼は関西空港に着くや否や、即トンボ帰りをしてタイに戻ってきた。そこで例の警察官に電話するが通じない、安心料がかえって不安の種になってしまった。かなりの緊張を強いられたが、それでもどうにか無事に再入国できたという。タイの法律によれば、一旦罰金を支払えば、たとえ強制送還されたとしても、再入国を妨げられる事はないそうだ。

出入国管理事務所のサイト ワークパーミットについてはこちら、労働局のサイトで 次項に登場するタイ投資委員会のサイト

●タイで暮らしてみたい人へ

 現在、タイでは邦人の年金生活者を100万人規模で誘致しようという計画がある。また日本のデフレ・スパイラルに嫌気をさして、ビジネス・チャンスをねらって渡来する方も多い。タイでのビジネスについては投資奨励委員会事務局が日本語で紹介しているので、興味のある人は参考にして頂きたい。
 外国で生活する以上、その国の言葉は必修科目である。英語は世界共通語のように考えている人もいるが、生活の場面ではあまり役にたたない。タイ語は文字がユニークな為敬遠されるが、表音文字なので覚えるのにそれほど難しくはない。2週間もあれば基本は理解できる。語学が不得手だと、どうしても身近なの邦人からの情報にたよる事になるが、これが異文化障壁のせいかかなり曲解されている上に、時々とんでもないデマが流れるのである。それに加えて、実は身近な長期滞在事情通邦人の中には怪しい人がかなりいる。犯罪者(多くは詐欺師と業務上横領)、ヤクザ、過激派テロリスト、薬物中毒者(大体10人前後の邦人が常時服役中で、中には死刑判決を受けている者もいる)などである。同じ日本人だと思いつい頼りにしてしまうが、場合によっては非常に危険でもある。重要な情報は一次情報、すなわちタイ語でチェックできるようにしておきたい。

 さらに、身近なタイ人との関係は特に重要である。最近、山田長政の記念碑がタイ南部のナコンシータンマラートに建てられたが、その時住民の猛反対にあっている。山田長政は日本の教科書によれば、彼は17世紀にタイに渡り商才と武勇により出世し、1629年にリゴール(現在のナコンシータンマラート)の太守に任命され、同地の反乱を収めた事になっている。一方、タイの歴史書では、長政は裏切り者としてナコンシータンマラートに島流しにあい、そこで略奪の限りをつくしたので、激怒した王が使いを送って毒殺したとなっている。多くのタイ人にとっての山田長政像は決して良いとはいえないのである。
 観光であれば、日本人はどの国でも無条件でウェルカムである。しかし、その国で働いて生活するとなるといささか事情が変わってくる。身近なタイ人から「あなたは何故タイにいるのか?」と聞かれる事が時々ある。そんな時、「タイは大変素晴らしい国だ、私はタイが好きだ、それでもっとタイの事を知りたくてここにいるのだ」と答える事にしている。愛国心が強くプライドの高い彼等は私の言葉を本気で喜んでくれる。私としては半分お世辞のつもりである。確かに素晴らしい面も多い、一方、救い様の無い暗黒面も多々ある。やりきれなさで逃げ出したくなる事も何度かあった。しかし家族のある私はじっと我慢するしかない。たとえ日本に戻ったところで、今の私は日本では食ってはいけないだろう。なにはともあれ日々食わせてもらっているタイには感謝している。せめてコンピュータ技術屋の端くれとして、私の技術がいささかなりともタイのお役に立てればと思っている。

◎執筆者紹介◎
gensan 穿孔カードや紙テープ時代のオールドプログラマー。今でも入国カードなどの職業欄にはコンピュータ・プログラマーと書いている。年齢は中国共産党と同い年で、在タイ9年。最近はMicrochip社のPIC(1チップマイコン)に興味を持ち、PIC応用製品を開発してタイのマーケットで一儲けしようと企らんでいる。メールはmarugen@curio-city.comまで
※タイ編はgensanと森田さんが交代でお送りしています。

 ◎次回は南アフリカ在住の金子さんが登場します。お楽しみに!
◎「アクロスtheインターネット」その他の回はこちらから

(2002/02/08)

[Reported by gensan]


INTERNET Watchホームページ

INTERNET Watchグループinternet-watch-info@impress.co.jp