【連載】
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 ニュースや雑誌に頻繁に登場する国でも、その生活事情やIT事情は案外知られていないものです。あまりなじみのない国だったら、なおさらです。この連載では、世界各地にお住まいの方から、生活者の視点で見たインターネット事情や暮らしについてレポートします。

第20回 南アフリカ版「Big Brother」で大騒ぎ

イラスト・Nobuko Ide
 夏をイメージする虫というと、日本ではセミでしょう。ヨハネスブルグの場合は、なんとハエ!昆虫全般に言えることですが、こちらで見かけるものは日本のものに比べてサイズが大きいので、羽音もうるさく、耳障りです。
 雨の多い今年は特に、ハエが大発生しています。甘い匂いでハエを誘い込む、ハエ取りバケツが一晩でいっぱいになった…という話も聞きます。もちろん、我が家も例外ではありません。一晩で…というほどではありませんが、気がつくとハエが家の中を飛び回っています。
 ちなみに愛犬、ンニャマはアレルギー持ち。食べ物だけでも、豚肉、大豆、牛乳、魚、カモ、オートミールとズラズラ、草や土壌に含まれる物質など合計26種類。その中には、ハエも含まれます。ときどき、ハエを口でキャッチして飲み込んでいる彼。カイカイの原因は、もしやハエ?

 暑い、暑いといっても、少しずつ過ごしやすくなってきました。虫たちの姿が消えるまで、あともうしばらくの辛抱です。

●プロバイダーの回線がパンクした原因は…

 昨年の8月末、南アフリカの大手プロバイダー・Mnetの回線がつながりにくい状態に陥りました。つながったとしても、メールの受信中に回線がブチッ…。こんな、ちょっとしたパニック状態を引き起こしたのは、世界中で話題を集めてきた「Big Brother」の南アフリカバージョンが始まったせいでした。
 「Big Brother」は、オランダで始まり、ドイツ、スペイン、イギリス、ポルトガル、スイス、イタリア、スウェーデン、アメリカ、ベルギー、デンマーク、ノルウェー、ポーランド、オーストラリア、アルゼンチンと世界各国に広がっています。10~13人の男女が一軒の家で3~4ヶ月の間、共同生活を送り、その様子を24時間、カメラが追い、テレビやウェブ上で放映する番組です。
 2週間に1回、参加者、視聴者が参加した「いけすかない一人」を選ぶ投票を行ない、最後に残った一人が高額賞金を手にするというのは各国共通です。
 ちなみに南アフリカの賞金は100万ランド(約1,300万円)。舞台はヨハネスブルグの近郊ランドバーグ地区にある一軒家でした。男性6人、女性6人の計12人が約3ヶ月、共同生活を送り、その様子はMnetの持つ衛星テレビやウェブ上で24時間放送。シャワールームやベッドルームといった超プライベート空間にもカメラが備え付けられ、女性のシャワー姿も映し出されるなどの「お楽しみ?」もありました。
 無料登録制の公式サイトを訪れれば、自分が見たい部屋の映像を見ることができます。このため、アクセスが殺到したのです。最終的に同サイトに登録したのは、6万3,000人でした(※南アフリカのインターネット人口は約150万人)。

●くだらない? 中毒になる? それとも人生勉強?

 見られる側は同意しているとはいえ、この行為は「覗き見」以外の何物でもありません。でも、日本でも市原悦子の「家政婦は見た」シリーズは大人気。よそ様の生活を覗いてみたい!というのは人間のサガなのかもしれません。
 放送が始まって以来、FM放送の人気トーク番組のトピックに何度も登場し、聴視者の電話が殺到しました。「人間観察になる」「ベッドシーンまで映すのはどうか」「くだらない番組を流すのはやめるべきだ」「○○(出場者)の昨夜の行動は許せない」――。
 どうしてそこまで熱くなれるの? と不思議なほど、番組の是非についての議論は盛り上がりました。
 また、参加者のなかにアフリカ人が2人しかいないことに、「人口比率でいうとアフリカ人が約80%を占める南アフリカの状況が反映されていない人選だ」と不満が出たのは、この国の抱える特殊な事情の現れでしょう。
 とにかく、雑誌はもちろん、新聞さえ、毎日のように「Big Brohter」情報を掲載。世の中はBB一色に染まりました。
 第1日目にコンドームをベッドサイドに置いた人がいたのは、ちょっと笑ってしまいました。もちろん、その夜は何も起きませんでしたが、参加者の中にカップルも誕生し、あやしい映像も流れたそうです。

 等身大の南ア人の若者の姿が見られる番組ですが、わたしはそれほど楽しめませんでした。参加者も最初はカメラを意識していたのでしょうが、やはり本性が出てきます。いわゆる犬食いをする姿などを見せつけられ、お行儀の悪さも気になったりして…。わたしは残念ながら、BB中毒にはなれずじまいでした。
 このころ、ほかの邦人の方から「未来日記」が録画されたビデオが回ってきました。あらかじめ決められた日記(台本のようなもの)をもとに、素人の若者がデートしたり、スポーツに打ち込む番組です。「未来日記」も「Big Brother」と似たような企画ですが、映像に出てくるのは、生活の一部。台本が決まっていることもあり、「フィクションの中のリアリティ」がその面白さです。リアリティOnlyの「Big Brother」は好きになれなかったわたしですが、「未来日記」は徹夜して一気に最終回まで見てしまいました。
 「Big Brother」について二度ほど南ア人と話す機会があり、「未来日記」の話をすると、「そちらのほうがよっぽどマシね。Big Brotherは賞金をかけて、全私生活をさらけ出しているから」と、二人の反応は同じ。「未来日記」に軍配があがりました。

 ちなみに、年に一回行われる「料理の鉄人」を真似たイベントは、南ア人の注目の的です。日本のバラエティ番組も、捨てたものではありませんね。

Big Brother騒動は新聞でも大きく取り上げられました 公式サイト。前回のハイライトシーンなどが見られます

●ワインとHIV

 さて、最終日の12月20日、優勝したのは103万票あまりを得たFrdinand Rabieさん。ケープタウンで旅行会社を運営する26歳でした。
 気になるのが賞金100万ランドの使い道です。10万ランドはHIVポジティブの孤児が暮らす教会へ寄付し、残りは自分が生まれ育ったワイン農場を買い戻す資金にあてるそう。ワインにHIVとは、なんて南アらしいのでしょう。国民の10人に1人にあたる420万人がHIVに感染していると言われ社会問題となっていますし、ワインの隠れた名産地でもあるのです。
 こちらでは100ランド(約1,300円)も出せば、味わい深い上質のワインが手に入ります。日本で店頭に並ぶのはKWVやネダーバーグなど大手のみで、数ある小さなワイナリーはほとんど知られていません。
 南アフリカ独特の品種、ピノタージュ(ピノノワールとサンソーの交配品種)など、ぜひ南アワインのおいしさをぜひ味わっていただきたいものです。興味を持たれたら、南アフリカワイン協会や、南アのワイン雑誌「WINE」のウェブをぜひ訪れてみてください。


 近々、「Big Brother2」が始まるとか。次回はどんな騒動が起こるのでしょう。

左が南アフリカ特産・ピノタージュ種のワイン 南アフリカワイン協会は日本語サイトを開設 ワイン雑誌「WINE」はオンライン販売も充実しています

◎執筆者紹介◎
カネコ アヤ 夫の転勤に伴い、ヨハネスブルグに転居して一年半。日本では新聞社の記者を経て、ライターをしていましたが、いまはボビンレース、ステンドグラス、デコパージュなどの趣味に生きてます。目下の楽しみは、ブラックのラブラドールレトリーバ・ンニャマ(ズールー語で黒・生後八ヵ月)の成長。悩みは、運動不足からの体重増加と、上達しない英会話。

 ◎次回は韓国在住の松本さんが担当します。お楽しみに!

◎「アクロスtheインターネット」その他の回はこちらから

(2002/02/15)

[Reported by 金子 理]


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