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ニュースや雑誌に頻繁に登場する国でも、その生活事情やIT事情は案外知られていないものです。あまりなじみのない国だったら、なおさらです。この連載では、世界各地にお住まいの方から、生活者の視点で見たインターネット事情や暮らしについてレポートします。
イラスト・Nobuko Ide
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アパルトヘイト、ネルソン・マンデラ、ダイヤモンドに金--。これらが、日本人が南アフリカに抱く代表的なイメージでしょう。ヨハネスブルグに関して言うと、世界で最も危険な都市として知られています。
ヨハネスブルグではカージャック、強盗、レイプなどは、日常茶飯事です。残念ながら警察はあてにならないので、犯罪から身を守るために、人々は自衛手段をとっています。セキュリティ会社と契約を結び、家の周囲に高圧電流の流れるエレクトリックフェンスを取り付け、家屋内に赤外線監視システムを導入したり、“バーグラーバー”という鉄製の檻をあらゆる窓に取り付けたり。
最近では一軒家は防犯上、不安があるからと、周囲を塀で囲んだ区画に、数十軒の家が立ち並ぶ“クラスターハウス”という物件に人気があります。周囲を囲む塀には、エレクトリックフェンスを設置し、区画内に入る共用ゲートはガードマンが警備にあたり、人の出入りをチェックするのです。
日常生活においても、危険を遠ざけるために守るべきルールはたくさんあります。外出は必ず車で。暗くなってから一人での外出は避ける。夜間は赤信号でも止まらない--。
ヨハネスブルグのダウンタウン付近。危険すぎて白人もまず近寄らない | 高圧電流で外部からの進入を防ぐエレクトリックフェンスが普通に使われている |
●「アフリカのヨーロッパ」が持つアフリカ的なるもの
不安に押しつぶされそうになりながら、2000年4月に始めた南アフリカでの生活。でも実際に暮らしてみると、それなりに快適なのです。湿度が低いから夏でも過ごしやすいし、基本的インフラも整っていて、日常生活になんら支障はありません。ある程度の経済的裏づけがないと便利な生活は送れませんが、「南アフリカでは先進国並の生活が送れる。アフリカというよりヨーロッパ」と言われるのも納得です。
とはいえ、いろいろなところで“アフリカっぽさ”に出くわします。たとえば、家具などの配達。「○日の朝一番に」と念押ししても、予定の時間にはやってきません。昼近くになって確認の電話を入れると「今日は行けない」。何度もドタキャンされて、1週間、身動きがとれなかったこともあります。
ネット生活に欠かせない電話の開設もスムーズには行きません。手順としては、(1)南アテレコムに電話で申し込む、(2)後日技術者が自宅に来て電話を開設。日本と同じですが、南アフリカの場合、申し込み時点で工事日程は決まらず、2、3ヶ月待ちは当たり前です。
我が家の場合、少々の労力と、多くの精神的苦痛を払い、1週間で電話が使えるようになりました。「電話(口頭)より、紙(書類)」が確実だろうと電話局に足を運んで申し込み、「いつ技術者は来るんだ」と電話攻撃をかけたのです。でも、各部署をたらい回しにされた上、担当部署は通話中。やっと電話が通じても、「ここじゃ、日程は分からない。技術者からの電話を待って」と不機嫌な声しか返ってきません。
そんなことを繰り返すうち、応対の丁寧な人にあたりました。それ以降、同じ人に確認の電話を入れ続けたところ、申し込み5日目に「来週、技術者が電話するから」と答えが具体的に。電話がつく日も近いと喜んでいたら、翌日、「近くにいるから、これから行く」と技術者から連絡がありました。実際の作業時間は約10分。あっけない幕切れです。
そんな事情もあってか、申し込み後数時間で使える携帯電話の普及率は世界十指に入ります。都市部では2人に1人が携帯電話を持っていると言うと意外かもしれませんが、それには理由があります。
南アフリカは公共交通機関が未発達で、移動手段を自家用車に頼っています。携帯電話網はテレコムが未普及の地域もカバーしており、車が故障した場合の連絡手段として有効。また、いつ事件、事故に巻き込まれるか分からない状況下、常に家族と連絡できる体制でいるために携帯電話は必需品なのです。
もう一つ、携帯電話が設置電話に長じている理由があります。携帯電話は、料金滞納をしない限り不通になりませんが、設置電話の場合、突然、不通になることがあるのです。なぜか……。電話線が盗まれるのです。何のために? それは謎です。
近代的生活の中に、ときどき顔を覗かせるアフリカっぽさ。不思議な魅力のある南アフリカのインターネット事情を、わたくし金子理がご紹介していきます。
窓や玄関に設置されている“バーグラーバー” | 携帯電話は種類も多彩。利用しているのはNokia製 |
◎執筆者紹介◎ カネコ アヤ 夫の転勤に伴い、ヨハネスブルグに転居して一年半。日本では新聞社の記者を経て、ライターをしていましたが、いまはボビンレース、ステンドグラス、デコパージュなどの趣味に生きてます。目下の楽しみは、ブラックのラブラドールレトリーバ・ンニャマ(ズールー語で黒・生後八ヵ月)の成長。悩みは、運動不足からの体重増加と、上達しない英会話。 |
(2001/10/12)
[Reported by 金子 理]