【連載】
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 ニュースや雑誌に頻繁に登場する国でも、その生活事情やIT事情は案外知られていないものです。あまりなじみのない国だったら、なおさらです。この連載では、世界各地にお住まいの方から、生活者の視点で見たインターネット事情や暮らしについてレポートします。

第10回 意味を知らないうちが花 ~コスタリカ~

●なぜこの字が!? コスタリカの漢字ブーム

イラスト・Nobuko Ide
 今、コスタリカでは漢字ブームです。
 きっかけはわかりませんが、アメリカの流行がそのまま流れてきたようです。たとえば、米NBA(プロバスケットボール)のNYニックスというチームに、マーカス・キャンビーという選手がいます。彼は肩に「勉族」という入墨をしています。
 コスタリカでは入墨をしている人は少数派で、多くの人は前面に漢字一文字がプリントされたTシャツを着ています。漢字は限られていて、「神、福、愛」などがほとんどどです。
 その中で私の笑いを誘ったのが「茶」でした。私は、
「なんで“茶”なんだろう?」
「彼はもしかしたら、“茶”という漢字を、何か神聖な意味だと思っているのだろうか?」
「あるいは、伊藤園の“おーいお茶Tシャツプレゼント”に応募して当選したのかもしれない」
「いや、ドリフターズの“加藤茶”のファンなのかもしれない」
などと考えましたが、別に聞かれたわけではないので、あえて放っておきました。

 あと、自動車に漢字のステッカーを貼っているのもよく見かけます。これはなかなか笑えます。 たとえば、「快速」。「おまえは電車かぁ!」と突っ込みたくなる衝動を押さえるのが大変です。ほかには「大田原自動車教習所」。これも爆笑しました。これは日本の中古車をそのまま改造したものと思われます。専門家の話によると、教習所の自動車というのは、助手席にもブレーキなどが付いているので、改造が通常の自動車と比べて簡単なんだそうです。
 他にも「爆走」「夜露死苦」など、今日の日本では絶滅しかかっている、珍走族の皆様が愛用していたと思われる自動車も走っています。そして、そういう自動車を運転してるのは優しそうなお父さん。助手席には綺麗なお母さん、後部座席には可愛らしいお子様というアンバランスが笑えます。
 さらに私の笑いを誘った……というか、もう一歩で笑い死にしてしまうかと思った漢字ステッカーが、「暑中御見舞申」。これを見たとき、一瞬私は凍り付いてしまいました。その後の運転が大変だったらありゃしない。東洋人が1人で大笑いしながら自動車を運転する姿は、コスタリカ人の目には、それは不気味に映ったことでしょう。
 きっと多くの人が、「本当かぁ?加瀬は嘘をついているんでしょう?」と思ったかも知れません。が、本当です。嘘だと思うのであれば、アラフェリータ教会の隣にある靴屋さんの前にたまーに駐車してあるので、ご覧くださいませ。運がよければ見られます。貴方も笑いすぎてお腹の筋肉がつりそうになることをお約束します。

2人の子供をつれた人の良いお父さん ……の、作品。雑誌に掲載されていた漢字を彼が自分で書いたんだそう(!)

●勘違いの生んだ喜劇

 ある日、いつものように仕事をしていると、どう見ても「おいらは不良だい!」という感じの男の子が私の前に来ました。その不良君は私に、
「おいらはワルなんだ!だから漢字でサタンという意味の入墨をしているんだ!」
と、誇らしげに言いました。私は安易に「悪、あるいは悪魔、もしかしたら地獄かな?」などと想像しましたが、予想は大きく裏切られることに。
 彼に彫られていた一文字の漢字は…………、「実」、でした。
 私は「んんん?なんでじゃぁ?」と思うと同時に、彼に「実」の本当の意味を教えるのが、漢字を使用する国の人間としての義務だと考えました。そこで「実」という漢字の意味を、あえて「真実」という意味で伝えました。
 彼は「本当か?本当は悪魔って意味なんだろう?本当のことを言ってくれよ!」と驚き、嘆き、怒り、そして落ち込んだのです。
 私の予想して期待していた反応そのものでした(笑)。
 それにしても、どうして「実」だったのでしょうね?これは私の生涯の疑問になりそうです(絶対ならないですね)。

 他によくあるのが、「俺の名前を日本の文字で書いてくれ!」という依頼です。
 ある日やってきた彼は、名前を「ALEN VARGAS SALAZAR」といいました。私は「アレン・バルガス・サラザール」と書き、それを渡しましたが、彼はなんだか不満そうです。
「俺が求めているのは、こんな文字じゃないんだ!本当の文字で書いてくれ!」
 ……本当の文字というのが漢字だと言うことに気がつくのに、数秒かかりました。そして「亜連・羽瑠雅棲・沙羅座瑠」と書くと、彼は満足そうにそれを眺め、嬉しそうに財布に入れるのでした。ね?コスタリカ人って面白いでしょう?(笑)

 ということで、コスタリカの最先端流行をお送りいたしました。また次回も楽しみに待っていてくださいね!

意味は知らないけどカッコよかったから買った、という彼

ということで(?)、コスタリカの最新事情がわかるWebサイトを2つご紹介。左はコスタリカで一番販売数が多い新聞「Nacion」のサイト。右は中米地域で発行されている英字新聞「TicoTimes」
◎執筆者紹介◎
カセ・カズキ  1973年生まれのO型、牡羊座。初めてのコスタリカ訪問は1995年、某電気会社の海外出張でした。その時からこの国に魅入られ、その後何度も旅行した後、1997年に退職してコスタリカに住みついてしまいました。大学生や某機関の事務員などを経て、現在は寿司を売りながら農場を経営している変わり者。妻と超可愛い男の子2人の4人家族です。
◎加瀬さんのホームページはこちら

 ◎次回はタイ在住の松元さんが登場します。お楽しみに!

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(2001/11/23)

[Reported by 加瀬和城]


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