【連載】
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 ニュースや雑誌に頻繁に登場する国でも、その生活事情やIT事情は案外知られていないものです。あまりなじみのない国だったら、なおさらです。この連載では、世界各地にお住まいの方から、生活者の視点で見たインターネット事情や暮らしについてレポートします。

第11回 タイでコンピュータ・パーツを買う

●てきぱきした店員にはご用心

イラスト・Nobuko Ide
 来タイ以来の友人である某電気設備会社の社長に、Windowsマシンの構築を頼まれた。SLOT1のマザーボード、グラフィックカード、ディスプレイは余剰品があるので、その他の部品を購入することになった。CPUにはコストパフォーマンスの有利なCeleronを採用し、SLOT1にゲタを履かせて使うことにした。

 コンピュータ・パーツの購入は、なんと言っても「パンティップ・プラザ」だ。最近は郊外に大規模なITモールもできているが、新品パーツの品揃えや価格の面では、老舗のパンティップ・プラザにはかなわない。パンティップ・プラザはプラトゥーナムの近くのペッブリ通りにある。タイではフロアの数え方に米式(1F、2F、3F…)と英式(GF、1F、2F…)の2種類があるのでよく混乱するが、ここのフロアの構成は、1F、M2、2F、3F、4F、5Fとなっており、米式である。1Fにある催事場では、常にPCメーカーによるパソコンのミニショーなどが開催されており、いつも人で賑わっている。M2は大型のITショップで占められている。2Fにはクーポン食堂、コピー・ソフト屋、お守り屋などがあり、3F~4Fには小規模パソコン・ショップが群居している。5FにはM2と同じ経営元による大型ITショップのほか、奥の方にはさらに倉庫、修理センター、パソコン教室などがある。1Fから4Fまでが大きな吹き抜けの構造だ。
 パーツの値段は各ショップで若干違いがあるので、必要なパーツの値段をメモして回ることにした。メモを取りながら値段を聞いて回ると、一部の店員は明らかにイヤな顔をする。ひどい時には返事すらしてもらえない。売り手が優勢のタイでは、買ってあげるのではなく、“買わせてもらう”のが基本。マナー違反の我々に対し、店員の態度はごく自然な感情の現れなのである。本当に安いと思われるパーツは、売り切れないうちに、先に買っておくのがコツだ。

 5F奥の駐車場近くのショップで、中古のPentium100MHzが300バーツ(約870円、1タイバーツは日本円で11/29現在約2.9円)で出ていた。中古のCD-ROMドライブも400バーツと書いてあるので、早速中に入ってみた。たずねてみたら、400バーツのCD-ROMは売り切れており、新品で1,300バーツだと言う。下の階ですでに1,090バーツのCD-ROMを見つけているので、それは丁重にお断りすると、700バーツの物があると言う。そこで、CPUとCD-ROMのテストをお願いすることにした。エンジニアは無造作にCPUを素手でつかみ、いかにも慣れた手付きでソケットに挿すが、動かない。彼はちょっと考えて、別のボードを持ってきたところ、今度は無事動いた。ソケット370とソケット7を間違えたのかも知れない。CPUを剥き出しのままビニール袋に入れようとするので、せめて導電マットに挿してもらうようにお願いした。
 私の経験では、テキパキ動いているエンジニアほど注意が必要である。いかにもプロフェッショナルのようにみえるが、ただ単に手が早いだけで、たいてい何かが抜けているか、ミスをしている。後で判明したが、この時に購入したCD-ROMは、やはり不良品であった。現在Linuxサーバーにこの時購入したCPUとCD-ROMを使っているが、CD-ROMはイジェクトする際、頻繁にトレイが半開きになってしまう。先のエンジニアが故意に不良品を売りつけたわけではないだろうが、恐らく修理未完了品を完了品と勘違いして売ってしまったのだろう。新品にはショップの保証シールを貼ってもらえるが、中古品にはそれがないので諦めるしかない。

パンティップ・プラザの吹き抜けは壮観! 同プラザ内の店舗の様子 今回購入したパーツで自作したPC

 翌日、ドンムアン国際飛行場近くの「ジーア・ラングシットITセンター」に行ってみた。中古パーツに関しては、郊外の大型ITモールのほうが有利だ。特にこのITセンターはタイ国内で最大の売り場面積を誇り、中古品が豊富だが、意外と知られていない穴場でもある。この辺りには工業団地が多く、工場からのリプレース品が多いのだろう。ここのフロアの数え方はパンティップと異なり英式(GF、1F、2F)。この日はF社のWindowsマシンが7,000バーツ前後で60~70台ほど山積みになっていたのが目をひいた。14インチディスプレイが2,500バーツ、17インチで6,000バーツぐらいだ。このITセンター、当初は電子パーツセンターも併設する計画であったが、最近アナウンスされていない所をみると、どうやらこの誘致計画は潰れたようだ。電子工作を趣味にしている筆者にとっては非常に残念である。
 パーツの価格について総じて言えるのは、殆どが輸入品でもあり、日本の値段と余り変わりがないことだ。ただし、キーボードやケースの様な現地生産品は若干日本より安いような気がする。中古品に関しては、他の家電品なども同様だが、日本に比べるとかなり割高になる。参考までにその時購入したパーツの価格表を下記の表にまとめてみた。

パンティップ・プラザでの販売価格
(2001年10月26日、価格は11月1日のレート 1バーツ=2.736円で計算)
パーツスペック価格円換算
CPUCeleron 766MHz2,200バーツ6,019円
メモリSD-RAM 128MB420バーツ1,149円
FDDドライブ3.5"350バーツ957円
CD-ROMドライブ52倍速1,090バーツ2,982円
モデム56kbps400バーツ1,094円
LANカード100BASE-TX450バーツ1,231円
キーボードPS2/108キーのタイ語版120バーツ328円
マウスPS2/3ボタン型60バーツ164円
ハブ9ポート、10BASE-T1,500バーツ4,104円
ケースATX 300W750バーツ2,052円
モバイルラックULTRA DMA/66MHz450バーツ1,231円

●だまされるほうが悪い~タイの買い物事情

 タイでパソコンを使う場合は、必ずUPS(無停電電源装置)を使用すべきである。第3回でも説明したが、この国の電源インフラは非常に悪く、瞬断や雷などのパルス性ノイズでパソコンが壊れることが多いのだ。特に日本から持ち込んだノートブックが壊れ易いようである。UPSには、電話回線と電源の両方から入ってくるインパルスを遮断する機能が付いているので安心できる。
 話は少し飛ぶが、ある時ATX電源ユニットが壊れたのでバラしてみた。驚いたことに、コモンモード・ノイズフィルタなどの一部の素子が付いていない。基板にはパターンだけが書かれている。規制のゆるい国内市場向けに、徹底したコスト・リダクションが図られているのである。交換用のATX電源を買いに行ってさらに驚いた。どの店にも、この壊れたノーブランド品と同一型番の物が置いてあるのだ。安いのでマーケット・シェアが拡大し、壊れ易いので良く売れるという仕組みだった。

 パソコンの組み立てもどうにか終わった頃、この友人の会社で、ある日系工場の製造設備の改修工事を請け負うことになった。工場を4日間休止させて、この間に工事を済ませなければならない。改修には特殊な200Aの速断ヒューズが必要で、八方手を尽くし探した結果、会社の近くの代理店に在庫があることがわかった。日本からの応援出張のエンジニアと共に、早速この店に出向いた。商品は整然とショウケースに並べられている。オーナーは如何にも如才の無い華僑の商売人といった風である。値段は多少高かったが、他に当ても無いので購入することにした。しかし、良く見ると金属部分に錆が少しついている。これは中古品だと気づき、テスターを借りて導通をチェックしてみたところ、なんと導通が無い。4個ある在庫のすべてが不良品だったのだ。オーナーはヒューズには導通が必要なのかととぼけているが、電気部品商の彼が知らない筈は無い。きっと後日、現場で不良に気づいて交換を要求する我々に対して、彼は「それはあなた方が壊したのだ」と言い張るつもりだったに違いない。

ジーア・ラングットセンターの外観 同センター内の店舗。倉庫じゃなくて店舗。あまりに広いので店員はローラースケートで移動する これは番外編、豊作祈願の村祭り。衣装などから山岳民族を祖先に持つことがわかる

 今回はコンピュータ・パーツやFAパーツを買った時のエピソードを紹介した。不良品を売るなど、ひどい話だと思われるかもしれない。しかし国や民族が違えば、考え方や常識は当然変わってくる。この国では、安易に人を信じるのは美徳と思われていない。騙した方の悪徳や、ミスを犯した側の責任はそれほど糾弾されず、騙された方の未熟さだけが指摘されるのである。小学校においてでさえ、「臣下」「コブラ」「愛妻」の喩えで安易に人を信じない様に教えている(これらは一番信じられないものの代表だそう)。取引の現場では、信じる代わりに、必ず確認する必要があるのだ。職場においても同じである、労務提供者は全く信用されていないので、仕事の内容、進行、不正行為をチェックするのはマネージャーの重要な仕事である。マネージャーからの指示やチェックがない限り、どんな手抜きでも「マネージャーはそうは言わなかった」との一言で許されてしまう。考えようによっては働く者にとっては優しい社会システムかもしれない。

◎執筆者紹介◎
gensan 穿孔カードや紙テープ時代のオールドプログラマー。今でも入国カードなどの職業欄にはコンピュータ・プログラマーと書いている。年齢は中国共産党と同い年で、在タイ9年。最近はMicrochip社のPIC(1チップマイコン)に興味を持ち、PIC応用製品を開発してタイのマーケットで一儲けしようと企らんでいる。メールはmarugen@curio-city.comまで
※タイ編はgensanと森田さんが交代でお送りしています。

 ◎次回は南アフリカ在住の方が登場します。お楽しみに!

◎「アクロスtheインターネット」その他の回はこちらから

(2001/11/30)

[Reported by gensan]


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