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ニュースや雑誌に頻繁に登場する国でも、その生活事情やIT事情は案外知られていないものです。あまりなじみのない国だったら、なおさらです。この連載では、世界各地にお住まいの方から、生活者の視点で見たインターネット事情や暮らしについてレポートします。
イラスト・Nobuko Ide
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答えはずばり、郵便事情。
日本に住むおじいちゃんから、遠い異国に住む孫へのクリスマスプレゼントが入った小包がどこかに消えてしまったり、同じ日に日本に向けて投函した手紙が一通は1一週間で、もう1通は3ヵ月後に届いた-。こんな話は、南アフリカでは珍しいことではありません。消えてしまった小包の追跡調査をしてみたら、「確かに南アには入っています。でも南ア入りしたあとは、日本では調査できません」という答えが日本の郵便局から来た、という人がいます。
近代化されてはいるのですが、実際はうまく機能しないのが南アフリカの郵便局。南アフリカに移住した人に新しく生活を始める上で必要な情報をまとめた「Living & Working in South Africa」という本には、「職員のモラルの低下のせいで、最近郵便局は評判を下げている。それでも、南アフリカの基本的郵便サービスは、アフリカン・スタンダードから見るとすばらしいといえる」と書いてあります。
確かに、小包を追跡調査するシステムは存在するし、基本的に郵便物はあて先に届きます。でも、郵便が届かなかったり、数カ月後、紛失したのだろうとあきらめたころに郵便が届くといった不手際が目立つのです。写真入りの封書のようにちょっと厚みのあるものは、中に何かおいしいものが入っていると思われるのか、必ず封が切られています。
公的な郵便局が信用できないというのは周知の事実で、料金は割高ですが、確実に届くといわれている「POST NET」という民間郵便が人気を集めています。
電子メールなら、早く、確実に届きます。南アフリカの場合、必要に迫られて、通信の手段が手紙から電子メールへと移行しているのです。新しいものに拒否反応を示しそうなお年寄りも、すんなりとネット生活に入っていく秘密は、そこにあるようです。
南アフリカポストオフィスのサイト。ちょっと重めです | 次項に登場するジーンさんのサイト「Colour Why Not?」 |
●海外在住者とのコミュニケーションに
話は変わりますが、わたしが南アフリカに来て始めた趣味の一つに、「ボビンレース」があります。治安上の問題から行動範囲が規制されているうえ、滞在ビザの関係で働くわけにもいかない。そんな南アフリカでの生活は、日中の時間を持て余し気味です。何か習い事を、それもちょっと変わったものを、と考えて始めたもの。クッサン(ピロー)と呼ばれる台の上に型紙をはり、図案にあわせてボビン(糸巻棒)の糸を交差させ、ピンで止めながら織り上げていく"レース織り"です。編むのではなく、織りながら繊細なレースを作りあげていきます。ヨーロッパの文化であるボビンレースは、イギリスから移り住んだ人が多い南アフリカでも、比較的盛んです。
ボビンレースを南アフリカに広げたジーン・ホーンさんは、月に一度、気の合う仲間たちとおしゃべりしながらボビンレースを楽しんでいます。毎月の最終月曜日のその会合に、超初心者のわたしも加えてもらっているのですが、とりとめのないおしゃべりの中に、インターネットだの、電子メールだのといった言葉が普通に飛び交うことに、最初は驚きました。その顔ぶれは、平均年齢が70歳を超えるおばあちゃんばかりなのです。
ジーンさんは今年71歳。ほとんど毎日、メールチェックをしています。メールの相手は主に、ニュージーランドに住む息子夫婦。
「以前は手紙と電話だったけど、電話だと料金がかさむし、手紙だと届くのに時間がかかったり、行方不明になったりするでしょう。メールなら早く、確実に届くから。最近は写真のやりとりもメールよ」とジーンさん。
治安の悪化、経済の落ち込みなど国の将来に希望を持てない状況が続いているため、海外へ移住する若者が多くなっています。高度な教育を受けた人でさえ就職が難しいのです。そのため、親戚や家族が、数カ国に散らばっていることも珍しくありません。
ネットサーフィンをしたり、ネットショッピングをするなど娯楽のためというよりも、離れて住む家族とコミュニケーションをとるための手段として、電子メールは浸透しているようです。
ジーンさんのパソコン暦は十年。「これからはパソコンを使わないと時代に取り残される」とご主人がパソコンを購入したのがきっかけですが、一昨年にはボビンレースのホームページも開設しました。レース作品は、白やベージュなどモノトーンが主ですが、ジーンさんは色を多様したカラフルなレースを、世界中のボビンレース愛好者に発信しています。
「HPを見た人からメールがきたり、海外からパターン集の注文も入るんですよ。世界中に趣味を介した知り合いができました」
ボビンレースのほかにも、刺繍、陶芸、デコパージュなど、南アでは手芸にいそしむ女性は多く、インターネットを利用して、世界中から情報を得ている人もいます。それも英語が堪能だからこそ。南アフリカにはオランダ語系のアフリカーンス、アフリカ人の部族語であるズールー語やツワナ語など11の公用語がありますが、ほとんどの人が英語を話せます。なかなか上達しない英語に日々、悩まされている身としては、語学の壁がないのはうらやましい限りです。
ところで、5年ぶりの国勢調査が、今年10月に行なわれました。調査項目には、インターネット環境を問うものがあり、その調査結果を一日も早く知りたいところですが、国勢白書が出るのは2年後の2003年だとか。コンピューター集計をするはずなのに、どうしてそんなに時間がかかるのか、ちょっと不思議です。
ジーンさんと、彼女の手によるレース作品 | パソコンに向かうジーンさん | サイトに掲載のデザインをもとに作品を制作、メールで画像を送ってくる人も |
◎執筆者紹介◎ カネコ アヤ 夫の転勤に伴い、ヨハネスブルグに転居して一年半。日本では新聞社の記者を経て、ライターをしていましたが、いまはボビンレース、ステンドグラス、デコパージュなどの趣味に生きてます。目下の楽しみは、ブラックのラブラドールレトリーバ・ンニャマ(ズールー語で黒・生後八ヵ月)の成長。悩みは、運動不足からの体重増加と、上達しない英会話。 |
(2001/12/07)
[Reported by 金子 理]