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【連載】

 アウトバーン通信 ~独国的電網生活 

【編集部から】
 インターネットといえば、かつてはアメリカ独走の感がありましたが、最近ではヨーロッパやアジアなど、世界各国でインターネットが盛んに利用されています。この連載では、ドイツで暮らしているkajoさん・taogaさんのお二人が、現地の最新インターネット生活をレポートします。乞うご期待!

第14回 食べるものがなくなる!? ~狂牛病の恐怖 (by taoga)

■日本とはまったく違う、ドイツの食生活


イラスト・Nobuko Ide
 今回はインターネットの中とはちょっと離れるが、今ドイツでさかんに騒がれている問題を取り上げてみよう。生活とは切っても切り離せない、食べ物についての話題だ。
 ドイツの食生活を見ていると、日本のそれとは根本的に違うことがわかる。もともとヨーロッパ大陸の中央にあり、北側の一部を除けば海に面している部分が少ない。新鮮な海の幸を入手するのが困難なのは当然だ。北海で取れる魚の代表はヒラメをはじめとした白身魚の類とウナギくらいで、料理方法も乾燥させるか、衣をつけて揚げて、塩をかけて食べる程度。日本のようにいろいろな調理法方で味付けされた魚が食卓に並ぶことは、ほとんどない。街で見つけられる魚貝類を売る店は、唯一「Nordsee」と呼ばれるチェーン店だけだ。ただカトリックの習慣で魚を食べる人が多い金曜日は、他の曜日に比べれば多少店頭に多めに魚が並ぶが、それでも日本と比べること自体が無謀と思われる程度の種類しかない。

 だが、近年のヨーロッパ市場統合の恩恵を受け、デパートに並べられる魚の種類も、以前に比べれば豊富になってきた。以前はなかなか手に入らなかった鮭は養殖が進んだ(むしろ過剰になった)結果、いつでも店頭に安く並んでいるし、南からのルートで、地中海産のマグロなどの魚も比較的よく見られるようになってきた。
 さらに日本食の大ブームで、寿司、刺身などの生魚まで食べさせる店も増え始め、どこも繁盛している。理由には、油を使って調理する食べ物ばかりのドイツ料理、いや西洋料理一般と比較して、脂肪分が少ない和食料理は、太りやすい体質の大半のドイツ人にはうってつけのダイエット食品になるからのようだ。ただ、和食そのものをダイエット商品と間違って捉えている人も多く、驚かされる。

■肉とジャガイモが代表選手


 では、ドイツ食の代表はというと、まずじゃがいも、そしてやはりソーセージをはじめとする肉類になる。老若男女を問わず、太ることをとても気にしているドイツ人たちだが、それでも、このカロリーの高い食べ物をやめられない。
 では、なぜ芋を食べると太るのか。でんぷん質だから? 正解。でも待て、これではまだ十分な答えではない。じゃがいも自体より、問題はその調理法にある。まずはフライドポテト。ハンバーガーなど、ファーストフードには付き物のあれだ。油でギトギトしている。次は、小さく切ったジャガイモをフライパンで炒める「ブラート・カルトッフェル」。多量の油でこんがり焼かれ、ところどころチリチリと焦げた芋じゃ、ダイエットの味方になれるはずがない。ただ塩で茹でるだけの「ザルツ・カルトッフェル」という料理もある。これならいいだろうと思うが、コレが曲者。塩だけならいいが、茹でているのがコンソメだったりする。とすると、カロリーは湯で茹でるよりもかなり多くなるはず。そしてその上にタルタルソースをかけて食べるのが普通なのだから、もう言うことなし。想像しただけでも、お腹の周りの肉がちょっと厚くなった気がしてくる。ついでにドレッシングをまんべんなくかけたサラダも添えれば完璧だ。

数少ない鮮魚店、「Nordsee」
 肉類の代表としては、「ブルスト」と呼ばれるソーセージ類がまず上がる。さすがに種類も豊富で、しかも美味しい。ドイツに旅行に来た人が、まず街角で食べる代表的な食べ物ともいえる。茹でて食べる「ボックブルスト」などは、寒い日に街角で冷えた身体をお腹から暖めてくれる軽食だ。焼いて食べる種類はもっと豊富で、例えば「リンツブルスト」。これは「牛ソーセージ」と訳せるが、実は牛肉とは限らないそう。多少硬めに締まった、歯ごたえのよいソーセージだ。スパイスなどで味付けされた強い味付けの「ニュルンベルガー」、バイエルン地方の代表で、ミュンヘンの恒例「10月祭」には欠かせない存在の「ヴァイスブルスト」。これは甘い辛子をつけて食べる。その他、辛いものやニンニク味の変形型まで、とても数え切れない。  ソーセージ以外にも、「シュニッツェル」と呼ばれる衣を付けて揚げた肉料理もある。特に子牛の肉で作るウィーン風の「ヴィーナーシュニッツェル」が有名だ。また子牛の脛を輪切りにして茹でる「カルプスハクセ」や、ブファルツ地方の名物で、コール前首相の好物である「ザウマーゲン」、これはコール前首相の奥様ハンネローレ婦人によるレシピもある。他にもまだまだある。つまりドイツの代表料理といえば、肉料理なのだ。  なお、ブルストを使ったレシピはこのサイトにたくさんあるので、興味のある方はどうぞ。

■肉料理がヤバイ! 


ソーセージ屋さんの店頭もにぎわっている。やっぱり食べたい気持ちが勝つ?
 だが、今この肉料理が大問題になっている。「BSE」(ベー・エス・エー)と呼ばれる「狂牛病」が理由なのだが。正確には「Bovine Spongiform Encephalopathy」、日本語に訳すと「牛海綿状脳症」と呼ばれる牛の病気だ。1985年に英国で初めて発見された後、現在では17万頭以上が感染しているという。牛の脳がスポンジ状になり、運動神経の障害を起こす病気で、テレビのニュースなどで見ると、この症状の出た牛はたいてい後ろ足がもつれ、腰が砕けてジタバタしているように見える。もともと牛の病気として英国内で軽視されすぎたようで、人間に感染する事実がなかなか明らかにされなかったため、幾人もの犠牲者を出すことになった。
 ドイツ政府も騒ぎになったときは英国製牛肉の輸入を阻止し、商店やスーパーでは「ドイツ産牛肉」を掲げ、市民の間でも一時的に食べることを控えていたようだが、それ以上の騒ぎには至らなかった。恐らく、輸入禁止措置も出たことだし、ドイツの肉を食べればいいという安易な気持ちもあったのだろう。

 それが今になって急速に問題視され、市民をパニック状態寸前まで陥れた発端は、昨年11月に、感染牛肉がフランス市場に出回る騒ぎが起きたことだ。一時は輸入禁止令が出ていたはずが、その後に禁止令が緩和され、挙句に他国を経由して、いつのまにか英国製牛肉が再び出回っていたらしい。結果として感染牛肉が発見された。
 さらに今年に入って、牛肉に限らず、動物性飼料自体が問題だという事実が明らかになってきた。要するに、内臓や骨粉を元とした動物性飼料を食べている全ての動物が対象ということなのだ。ドイツ産の牛肉はもちろん、その内蔵や骨を使用した製品すべてといったら、ゼラチンを使った子供用のお菓子から化粧品にいたるまで、かなりの領域をカバーする。こうなるとスープのブイヨンまでダメ。ドイツでは、もう食べる物はほとんどないような気分になってくる。

 この害をもろにかぶっているのがステーキハウスだろう。店頭にはアルゼンチン産の牛肉使用云々の大きなポスターが張ってあり、涙ぐましい努力も感じさせる。中を覗いてみると……、意外に食べている人が結構いる。一昔前のいつでも満員な状況と比べると見劣りはするものの、肉なしでは耐えられない人たちも多いようだ。席についてる人たちはみんな平気な顔をして、いや、平気を装ってか、血のしたたる厚いステーキを食べている。一方、100%牛肉を宣伝しているハンバーグのチェーン店も、相変わらず盛況だ。でもどことなく、チキンや豚肉の種類がメニューに増えているようだが……。

■何を食べるのも恐ろしい? 


 ほら見ろと言っているのは、ベジタリアンたちだ。ドイツにも肉類を一切口にしない人たちはたくさんいる。でも、チェルノブイリ原子力発電所の事故後、その放射能汚染は向こう何十年から一千年も被害があると言っていた記憶がある。ベジタリアンたちの食べている野菜類も、その汚れた土壌から作られるとなると、必ずしも安心とは言えないだろう。そういえばミネラルウォーターの地下水からも、放射能汚染の影響が見つかったそうだし。となると、水も飲めなくなるのか?
 あぁ、何を口に入れたらいいのだろう。空気はどうなんだ。目に見えないだけに恐ろしい。あぁ、呼吸も苦しくなってきた。

 ……いやいや、狂牛病が何だというのだ。「食べること」は毎日の大きな楽しみの一つ。これを諦めたら生きていく甲斐がない。私はベジタリアンではないが、もともとあまり肉類を食べない。だから、それを避けても特別ストレスがたまるわけではないし。それに今の段階では、鶏肉や子羊肉からはBSEの反応は出ていない。じゃあ今日はチキンカレーかラムカレーにしよう。レシピは? ……よしよし、見つかった。こんなサイトを見ているだけで、すでにもりもりと食欲が出てくる。私の単純構造な頭が、こういう時に役に立つことを、今さらながら再認識した。

◎著者自己紹介
 「古い物」が好きな人間である私。古本屋を見つければ気が付くと中に入っている。博物館、美術館はもちろん、ヨーロッパの古い建築物を見て歩くのが大好き。その私が、コンピュータにインターネットという時代の先端を進むものと、どうやって一緒に走っているのか未だにわからない。脳が二つに分かれていて上手に連絡をとっているようだ。だから脳が小さい……のかもしれない。
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(2001/02/16)

[Reported by taoga]

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