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【連載】

 アウトバーン通信 ~独国的電網生活 

【編集部から】
 インターネットといえば、かつてはアメリカ独走の感がありましたが、最近ではヨーロッパやアジアなど、世界各国でインターネットが盛んに利用されています。この連載では、ドイツで暮らしているkajoさん・taogaさんのお二人が、現地の最新インターネット生活をレポートします。

第15回 シャイなドイツ人の出会いの方法 (by kajo)

イラスト・Nobuko Ide

■ドイツでのバレンタイン・デー


 先週はバレンタイン・デーでしたね! この日にあまり凝ったことをした覚えがない私だが、日本にいる限り、「あげるかあげないか」の選択権は女性にあり、神経症になりがちな(?)男性陣より優位な気分に浸れる日だったような気がする。昔は「女性のほうから思いを告白する唯一(?)の機会」という意味も含まれていたのだろうが、最近の女性はそんなこと、気にしてないのでは?

 さて、ここドイツにもバレンタイン・デーは存在する。でも、この日に国中が翻弄される日本とは違い、あくまで人によりけりのイベント的な扱いなのがここでの印象。熱愛中のカップルはもちろん、長年連れ添った夫婦間でも、男性から女性への愛の証として主にバラの花などを贈るケースが多いようだ。ただ、あくまでその人次第。付き合いが長いカップルでも、これまで一度もバレンタインに彼氏から贈り物などもらったことはないという友人もいるし、日本のように「この機会に告白を」と意気込むようなノリとも違うようだ。まあ、メディアや周囲に左右されず、愛情を示すひとつの機会として、人それぞれの捉え方があるということだろう。
 よって、近所の店を見回しても、“バレンタイン・シフト”がひかれているのは花屋とチョコレート屋、それから化粧品・香水売場くらい。男性から女性へ贈られることが多いのも、香水売場の様子から窺うことが出来る。

■ドイツ人も、出会いを求めて苦労する


 前にもちらりと触れたことがあるが、ドイツ人は結構、シャイな人たちだ。なかでも北ドイツ、そしてここハンブルクは、例えば友達になるのは簡単ではないが、一度友達としての信頼関係が構築されれば、それは末永い付き合いになると言われることが多い。でもまあ、これって日本でも同じようなところがあると思うのだが。私はこの北ドイツ気質は、決して嫌いではない。

バレンタイン戦線のお菓子コーナー
 その気質は、男女の出会いにも言えることらしい。若い男女の主な出会いの場がディスコであると聞いた時、ドイツ人も結構出会いには苦労しているんだなと思ったものだ。ハンブルクに来て間もない頃、独りで頑張っていた私に、心配した友人が「ドイツ人の彼氏を見付けると、ドイツ語も覚えるしいろんな意味でも良いと思う」と言い、真面目な顔で「新聞などの個人広告欄を利用しては?」とまで言い出して、仰天した覚えがある。日本的な感覚では、雑誌に掲載されている「恋人募集」なんてちょっと胡散臭いと思ってしまうから、ドイツでも同じようなものだと思っていた。しかし、例えば知識レベルが高い人が読む新聞の個人広告欄に出ているのは、それなりのレベルを持った人たちなのだそうだ。自己PRもセンスが良く、クオリティ-の高い出会いが期待できるという。ディスコなんて…と思うなら、新聞広告がかなり有効な手段だと言うのだ。
 結局、私は未だ新聞広告を利用したことはないが、今回この記事を書くにあたって、その知識人が読む新聞のひとつ「Die Zeit」を買ってきた。「政治、経済、文学、文芸、チャンス、旅行、生活」等々、テーマ別に小分けされた分厚い新聞の束だ。その「生活」の中に、パートナーを求める広告が載っていた。ふむふむ、思ったほど件数は多くないけど、中身の文章は確かに知的な雰囲気。医者とか芸術家とか……。でも、さすがに年齢層がちょっと高すぎやしないか? 「もう一度、恋愛を……」などと書いているのは50代の紳士。うーむ、3年前ならともかく、きっと最近では、若い層は別の手段を活用しているのではないだろうか。例えば日本でもお馴染みになっている、出会い系のサイトである。

■出会い系サイト、ドイツの場合


 早速、いろいろな出会い系サイトをチェックしていくと、いかにもなネーミングの「DeutscheSingles」(ドイッチェ・シングルス)を発見。ここは米国の大手出会い系サイト「AmericanSingles.com」の姉妹サイトだそう。検索の際には「男女の別」と「年齢層」しか指定できないため、たいてい500件ほどのデータが出てきて、それを順番にじっくり見極める必要がある。しかし、個人情報がかなり詳細にわたって掲載されており(身体的特徴から学歴、信条、国籍など、ほぼあらゆる個人データ)、さらに自己PR文、相手に望むことなど、自分で書き込むメッセージ欄には最低文字数が決められていて、結構な量の文章を必要とされるので、ここで相手の知的センスも図り知ることが可能だ。試しに私も登録してみるかとやってみたら、文章が短いとハネられてしまい、面倒くさくなって止めたのだった。
 よって、お気軽な人には不向きで、そのぶん、信頼できそうな印象がある。気に入った相手へ送ったメッセージは、本人が登録したメールアドレスに転送される。相手にはメールアドレスを知られずに済むが、自分がメッセージを送った場合、こちらのアドレスが明かされる仕組みだ。会員が5万人に達するまでは、総ての機能を無料で利用できるそうだ。
バレンタインに香水をプレゼントしよう! と誘っているようなディスプレイ
 さらに、主な検索サイトからもピックアップしてみた。「エキサイト・ドイッチェランド」の出会いコーナーだ。ここではかなり細かい条件を設定して、検索できるのが便利。さらに、自分のPRの登録作業は割と簡単で、PR文の最少文字制限はないし、細かな選択肢を選んでいくだけで、自分の特徴や相手への要望を書き込める。ちなみに“このレポートのために”と私も登録してみたが、自己紹介の選択肢のページにうまく行き着くことができず、性別、年齢、身長、そして望む関係(なんでもOK・知り合い・友達・エロティックな関係・写真交換・eメールアドレスの交換、の中から選択)しか記入できなかった。しかし、探している相手への細かな要望はしっかり登録されてしまい、なんとも傲慢な状態での参加となった。しかも、たとえ「この記事のため」であっても、自分が日本人であることも正直に明かしてしまっている。だから平均的なドイツ人女性が、ここに登録したら毎日どれくらいのメールが来るのかといった実験データを提供することはできなくなってしまった。あしからず。
 ちなみに希望する関係を「友達」としたせいか、思った以上に心のこもった興味深いメッセージが入ってきた。なおこのサービスでは、メッセージはエキサイトのメールアドレスに送信される決まりだ。「エロティックな関係」を望む人には専用のコーナーがあるので、怪しい人たちとは区別できているのかも(?)しれない。恐れていたような「日本女性マニア」からの怪しいメールも、今のところ入ってきていない(要望を高く設定したこともあるし!)。ただし、メッセージを送ってくれた人の登録データをIDで検索して簡単に見る方法がないのは、手落ちじゃないかと思えるのだが。
 ちなみに、地方の文化情報紙には必ずと言ってよいほど「個人広告」(パートナー募集など)が掲載されているので、そのオンライン・バージョンも存在する。地元の新聞「Hamburger Morgenpost」の「Make a date!」コーナーには、現在250件の募集データが掲載されている。

 最後に、毎号ショッキングな表紙で私をぎょっとさせてくれる(そのせいで決して買う気を起こさせてくれない)トレンド情報満載の雑誌「AMICA」のサイトはどうだろう。「Single-Guide」ではサイバーデート、Eメールでロマンティック回帰、シングルパーティといったコーナーがあり、リンクも豊富。ガイドとしては最適だ。オマケとしてここには顔文字集もある。ちなみに日本で馴染みの顔文字は、ドイツ人には通じないものが多い。

■ロマンティックな時代に回帰!?


新聞「DIE ZEIT」。こんなお堅い新聞でも個人広告はどっさり
 今回は実際に誰かと出会うまでにはいたらなかったし、実際のところネットで知り合った男女の成功例が身近にないので、具体的な報告はできないのだが……。
 去年あたりは、人気のテレビ番組「トークショウ」(昼前から夕方までの時間帯に、テレビ局各局が凌ぎを削る人気番組。テーマごとに集められた一般参加者の赤裸々な告白と、司会者・会場との活発なやりとりがメイン。ドイツ人の意外な実態が明かされるわけだが、アメリカのそれよりは現実味があると思う)のテーマとして、「ネットで知り合ったあの人と初めて対面」という企画が何度か取り上げられていた。でも、ただでさえ確率的には決して高くはないと思われる成功率、いきなりの対面がテレビ・カメラの前では、緊張感もかなりのもの。幾パターンか見た限りでは、あまり先が思わしくなさそうなカップルばかり(もしくは双方の思いが釣り合わなそう)に思われたものだ。最近そういう企画にお目にかからないのも、それが理由なのでは…。

 先に紹介した「AMICA」のコーナーで、「Eメールでロマンティック回帰」というタイトルがあった。手紙からEメールへと伝達手段は変化したものの、ラブレターというものの存在価値が再び浮上したのが、ネットを通じての出会いなのかもしれない。時折、ネットでの出会いを平安時代までオーバーラップさせてしまう私だが、何もそれは日本古来の伝統に限ったことではなかったのだ。不倫や犯罪にも結びつくとも言われるネットの出会いだが、心のこもったラブレターは、例えそれがEメールであっても真心が伝わるものだと信じていたい。私は楽観的すぎるのだろうか……?
 そして、ドイツの出会い系サイトに今さらながらアクセスしてみたが、日本よりストレートに情報が提供される環境であっても、こちらもきっぱりした要望を出せば、そんなに危険なでもないようだ。まぁ、私が20代だったなら、もっといろいろな危険と誘惑が降りかかってきたのかもしれないけれど(笑)。

◎著者自己紹介
  ドイツに住んでもうすぐ4年(ええっ)。未だドイツ語上級レベルへ達する努力を怠ったまま、日々をドイツ流(?)にのんびり過ごしている。最近になってオペラやバレエ鑑賞と、今更ながら「別のドイツらしさ」を再認識している、ドイツ・ロック畑で働いていたフリーライター。でも心はすでに、4月に新作がリリースされるRAMMSTEIN(ラムシュタイン)。炎満載の熱いステージを体験できるのは、まだ先のことだけど…。

(2001/02/23)

[Reported by kajo]

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