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【連載】

 アウトバーン通信 ~独国的電網生活 

【編集部から】
 インターネットといえば、かつてはアメリカ独走の感がありましたが、最近ではヨーロッパやアジアなど、世界各国でインターネットが盛んに利用されています。この連載では、ドイツで暮らしているkajoさん・taogaさんのお二人が、現地の最新インターネット生活をレポートします。

第21回 当世流「ドイツっぽい音楽」とは? (by kajo)

イラスト・Nobuko Ide

■クラシック、テクノ、そしてフォーク・ミュージックの国!?


 皆さんは、「ドイツの音楽」と聞いて何を連想されるのだろうか。ベートーベンやバッハを始めとした偉大なる音楽家たちを輩出した国? それとも、クラフトワークに代表されるようなテクノ王国? 通なところで、南部ドイツの鮮やかな民族衣装で着飾って、のどかに楽しげに歌い上げるフォーク・ミュージック? いずれも、ドイツを代表する音楽のひとつであることは間違いない。
 最初の2つはなじみがある方も多いだろうが、フォーク・ミュージックは、今もある人々の生活を楽しませ、豊かなものにしている音楽であることを、私はドイツに来てから知った。テレビのチャンネルを適当に回してみると、時折、このフォーク・ミュージックの饗宴ともいうべき集まりのシーンにぶつかる。ドイツ南部では結構多いのだ。会場に集まった人々が民族衣装を身につけていたりして、ビール片手に会場全体が楽しんでいる雰囲気に満ち満ちている。おばあさんやおじいさん、おばさんやおじさん、さらには彼らに連れてこられたような子供たちの姿もある。これもドイツで愛好されている音楽のひとつである、ということを実感させられる光景だ。
 ご参考までに、そういった番組のひとつ、ZDF局の「Lustige Musikanten」をご紹介。残念ながら饗宴の模様は見られないが、司会者の衣裳と背景からも、なんとなく想像を膨らませることができるのでは!?

 さて、私は前述の3つとはちょっと違う方面の音楽のために、かれこれ8年ほど前、初めてドイツの地を踏んだ。かつては、と言わなければいけないところが悲しすぎるが、日本でも愛好する層がそれなりに存在していた、「ジャーマン・メタル」と呼ばれるドイツ産のハードロックやヘヴィメタルに関する取材のためだ。その何が日本のファンの心を揺さぶったのかというと、「ドイツ=哀愁」ともいわれるもの悲しいメロディーが、心の琴線に触れたのだ。メロディーの美しさと、音楽それ自体が持つ力強さ、パワーの融合が、日本のファンを「ドイツ産のロック」に惹き付けたのだと思う。古くは、いまだに現役のスコーピオンズ、私の時代にはハロウィンガンマ・レイがその代表格だった。今や有望な大型新人は皆無に等しいが……。
 しかし、時代は変わる。かつては「枠から外れたことをすればファンが去る」と言われていたこのジャンルも、それが仇となって若いファン獲得に苦戦し、従来のファン層の高年齢化もあり、日本では次第に時代の隅に追いやられてしまったような寂しい様相だ。しかし、ここドイツでは近年、再びヘヴィメタルやハードロックの人気が盛り返しており、日本とは異なる状況を呈している。

■ドイツにも演歌がある?


 再びドイツの音楽シーン全体の話に戻ってみると、「Schlager」(=ヒット曲、流行歌)と呼ばれる音楽もポピュラーだ。要するに、日本の演歌に近いノリの歌謡曲。「歌い手さん」と呼びたくなる歌手たちは、髪のセットも衣裳もバッチリ歌謡曲ノリでキメている。歌メロはほぼメジャー・キーというのが、日本の演歌とは全く逆なのが興味深い。私はドイツ=哀愁だと思っていたのだが。「Schlagerinfo」「VOLKSMUSIK」といったサイトから、雰囲気がわかるのではと思う。
人気のフォークソング番組、「Lustige Musikanten」
 「なぜメジャーキーで、歌のテーマも底抜けに明るいものが多いのか?」という疑問を専門家にぶつけたことはないが、Schlagerは、ドイツ人がパーティで騒ぐ際に、みんなで歌って騒ぐ曲として愛唱されることも多いのに気付いた。好き嫌いの程度の違いはあっても、流行っているから何となくは知っている曲がある。ということは、みんなで楽しく歌って騒ぎたい時には便利なのだろう。そんな時、マイナー・キーの歌は採用してもらえないに違いない。それに寒い国に住んでいれば、「今日も太陽が輝いて~♪」なんて歌っている方が、気が晴れるのかもしれない。さらにいえば、音楽そのものに特別なこだわりを持たない人たちが愛好する音楽、それがSchlagerだとも思っている。以上、誠に勝手な解釈である。
 だから、時代の先端を気取る若者は、Schlagerがかっこいいなどとは決して言わないのだ。

■チャートは国内外のアーティストが大混戦


 そういった若者たちが聴く音楽は、それぞれに好みが分かれるところ。ヒップホップ系、アメリカン・ポップス系、ブラック・ソウル系、ロック系……、さらに各ジャンルの中で細分化している。もちろん、これらのジャンルで活躍しているドイツ人アーティストもいるが、尖った若者たちは国内にはこだわらず、世界中からクールな音楽を求めている。そのため、ドイツのヒットチャートは、ドイツ(Schlager含む)、アメリカ、イギリスなどの曲が混じりあっているのが普通だし、ボン・ジョヴィやリッキー・マーティンらを抑えて、「BIG BROTHER」でにわかスターになったシロウト歌手が1位に君臨するような奇妙な状況も生じるのだ(連載第9回を参照)。国内ものと国外ものの差があまりないというのは、日本とは大きく異なる点だろう。日本では、洋楽に関しては余程のビッグスターにならなければ、国内アーティストと同等の売上げを獲得することは難しい。参考までに、ドイツのレコード・チェーン店WOMのシングル・チャート「WOM-CHARTS single top 50」をご覧いただきたい。この原稿を書いている時点では、第17回の記事で取り上げたテレビ企画「POPSTARS」から飛び出した女性グループ“NO ANGELS”が、見事1位の座をキープしている。ちなみに彼女たちはオーディションを勝ち抜いた精鋭、つまり実力派の新人で、選りすぐりのスタッフがバックについているのだから、売れて当然といえば当然。また4位には、これから紹介するつもりのRAMMSTEIN(ラムシュタイン)が陣取っている。彼らこそ、人々が描く「ドイツらしさ」のネガティヴな一面を膨張させ、ドイツ語で歌って世界を闊歩せんとする勢いを持つ、気鋭のロックバンドである。

■国内外から「いかにもドイツ的」と認識されるバンド、RAMMSTEIN


 RAMMSTEINを知ったのは、ドイツに移住した後のことだった。ちょうど、ドイツでの人気がじわじわと上昇してきた頃だ。私はそれまで全く存在を知らなかったのだが、2ndアルバム「Sehnsucht」(渇望)がリリースされた時期で、昔の医療器具らしきものを拷問のように使用して痛めつけられたメンバーの顔写真をフィーチュアしたポスターが街のあちこちで見られ、私の神経を刺激した(最初は不快な方に)。それで最初のころは警戒していたが、一度まっとうに彼らの音楽に対峙してみて以降の私は、彼らを「ドイツらしいロックバンド」と評価するようになったし、そのオリジナリティーに圧倒された。
公式サイトもカッコいい、RAMMSTEIN
 大雑把に言えば、ヴォーカルがドイツ語の力強さを最大限に活かした歌詞を「語る・時には吐き捨てる」ように歌う、テクノのフレイヴァーが加味されたヘヴィメタルである。デジタルに管理された上でのヘヴィメタルは、時にそのリズムはあまりに正確無比で非人間的、例え歪んだギター・サウンドが覆い被さっていようと、曲によっては軍隊の行進のような無情さも持つ。それ故に、またドイツ語の響きと彼らのヴィジュアルイメージもあいまって、人々から「ドイツ的」、飛躍して「右寄りである」と捉えられ、誤解を招くこともある。だが個性的なアーティストが少ない昨今、そのオリジナリティーは、彼らのアメリカ進出をも可能にしている。全米ツアーを実現させてアルバムはミリオン・セラーとなり、1999年にはグラミー賞の“Best Metal Performance”部門にノミネートされるにまで至った。

 そして現在、「ドイツ的だ」と内外から捉えられているロックバンドの代表格は、RAMMSTEINだと言って差し支えないだろう。ドイツ国内でもカルトな人気ではなく、シングルチャートのトップに食い込むポピュラリティーを持つ。彼らのステージは炎が満載で、ヴォーカリスト自身が専用のメタル・ジャケットを着用して燃え出すのである。そのパフォーマンスの大胆さもあって、人気は未だ衰えていない。ちなみに彼らの曲のテーマはイメージほど暴力的ではなく、精神的な世界や性的倒錯であったりを歌っていたり、ホラーであったりと、いわばひと癖あるファンタジーもの(!?)とも言えるのだが。アメリカでは疑似セックス・パフォーマンスをステージで行なったとして、逮捕された経験も持つ。まあ、アメリカはそういうところには非常に厳しくて、この手で捕まるアーティストの話はあまり珍しいとは思えないが(苦笑)。
 ドイツでは4月2日(日本では先行して3月から)に3作目の「Mutter」(母)をリリースするが、昨年あたりからようやく日本でのプロモーションにも気合いが入り、すでにこの2月には、新作リリースに先駆けて日本とオーストラリアでツアーも行なった。ドイツでは5月だというのに!
 あまり詳しく書き続けるわけにもいかないので、興味のある方はオフィシャルサイトこちらで、少々マニアックな記事はいかが?

■吟遊詩人を現代に蘇らせた「中世ロック」


 ポピュラリティーという意味ではぐっと規模は小さくなるが、ここ数年、私が気になっているロックの動きがもうひとつある。無理矢理ひっくるめて言えば「中世ロック」。中世の古楽器やテキストを用いて、それを現代のヘヴィロックで表現するというバンドがここ数年いくつか登場し、欧州のヘヴィロック・ファンから支持を得ているのだ。
 なかでも、本格的に取り組んでいるのがIN EXTREMO。ヴィジュアル的にもインパクトがある彼らは、中世吟遊詩人の装束を纏い、バグパイプとシャルマイを担当するメンバー3人を含めた7人編成のバンドだ。中世の吟遊詩人は、音楽を演奏するだけでなく、歌によって情報伝達の役割も果たしていたのだという。当時話されていたスペイン語、ラテン語、プロヴァンス語、ノルウェー語、スウェーデン語、そしてドイツ語といった言語で歌っているところもハンパじゃない。古き良き時代の欧州の歴史を踏襲しつつ、それを現代のロックで蘇らせた不思議な魅力を持つ音楽だ。
現代の吟遊詩人、IN EXTREMOの公式サイト
 間もなく新作のニュースが入るころだが、とりあえずのお勧めアルバムは前作の「Verehrt und Angespien」。日本盤は出ていないが、輸入盤を扱うオンラインのショッピング・サイトで購入可能だ。

■自国の良さを世界に見せつけるカッコよさ


 と、最後はややマニアックな内容になってしまったが、私的偏見も交えて紹介させていただいた「ドイツっぽい音楽」。例えカルトなものであっても、少しでもドイツを知っていただくきっかけにしていただければ……との思いを込めて。
 ドイツの音楽市場では、これまでもこれからも、世界市場を目指すアーティストは英語で、国内をターゲットにするアーティストはドイツ語で、という図式が一般的であり続けるだろう。ボーイグループ等のポップ・グループ、そして私が関わってきたロックの世界も、ドイツ以外に市場を持つ(持とうとする)アーティストは、皆英語で歌っている。冒頭に挙げたスコーピオンズ、ハロウィン、ガンマ・レイも当然英語だ。また、去年日本でもアルバムがリリースされた女性ヴォーカルを擁するヘヴィロックバンド・GUANO APES(グアノ・エイプス)もドイツ国外でもヒットを飛ばしているが、彼女たちも英語で歌っている。
 そんな状況で、世界を見据えつつ敢えて「ドイツ語」にこだわって成功したRAMMSTEINは、まさに頼もしい存在に思える。ちなみに、RAMMSTEINもIN EXTREMOも、旧東ドイツ出身のバンドだが、「壁」の存在が彼らの音楽を商業主義の汚染から遠ざけたのでは、と思えるのは、気のせいではないだろう……。

◎著者自己紹介
  ドイツに住んでもうすぐ4年(ええっ)。未だドイツ語上級レベルへ達する努力を怠ったまま、日々をドイツ流(?)にのんびり過ごしている。最近になってオペラやバレエ鑑賞と、今さらながら「別のドイツらしさ」を再認識している、ドイツ・ロック畑で働いていたフリーライター。でも心はすでに、4月に新作がリリースされるRAMMSTEIN(ラムシュタイン)。炎満載の熱いステージを体験できるのは、まだ先のことだけど…。

(2001/04/06)

[Reported by kajo]

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