|
プッシュ型は情報発信の切り札か? (97/08/01)
次世代のパブリッシング技術として期待されているプッシュメディアがいよいよ日本でも使えることになりそうだ。Netscape社のNetcaster、Microsoft社のActive Channelの双方とも秋には日本語化されたものが正式に登場する予定だ。また、PointCastやBackWebなども日本語化を着々と進めているらしい。
インターネット上で情報提供を仕事にしている人なら、少なからずプッシュ型の登場により、Webより一歩進んだビジネスができると期待しているのではないだろうか? かくいう私もその一人であった。
しかし、Active ChannelやNetcasterが現実のものとして見え始めた今、逆に期待は不安となっている。確かに、初めてPointCastを見たときは興奮したものだ。情報発信の決定版のように見えた。が、残念ながらActive ChannelやNetcasterには興奮を覚えない。
それは、単純にチャンネルの数が多いからだ。プレスリリースを見るとMicrosoftは250ものチャンネルを最初から用意するようだ。もちろんNetscapeだって負けてはいまい。確かに選択肢が多いことはいいことだ。しかし、本当にそうだろうか?250のチャンネルから同時に見れるのはたった一つである。もちろん、切り替えることは可能だが、そのためには「切り替える」という作業が必要になる。チャンネルをカチカチと切り替えながら見るのと、ブックマークから好きなWebサーバーを選ぶのとどれくらい差があるのだろうか?
また、チャンネルは何もMicrosoftやNetscapeに申請しなければ作れないというわけではない。そもそもプッシュ型のサーバーさえいらないのだ(必要なシステムもある)。実は、Active Channel用のPC Watchのチャンネルを作ってみた。IE 4.0をお持ちの方なら、以下のURLへジャンプしてもらいたい。すぐにチャンネル登録ができる。
ダウンロードしてもらえばわかるのだが、たかだか数行のスクリプトを書いただけである。もちろん、DynamicHTMLなどは使っていないのでとても「アクティブ」ではないし、単なるWebでしかないのだが、構造的には立派なチャンネルだ。つまり、URLの数だけチャンネルを作ることができるのだ。ちなみに、時間がなかったので作れなかったが、Netcasterのチャンネルももう少し複雑だが、やはりスクリプトを書くことで作ることができるとわかっている。
こうなってくると、もはやチャンネルはURLの別名でしかない。そして、プッシュ型システムは、ブックマークとWebの自動巡回ソフトとの組み合わせと大差なくなってしまう。
ではプッシュ型は、Webに過ぎないのだろうか?そうではないと思っている。TVでいうところの「チャンネル」には、いろんな番組が組み合わさってできている。ニュースもあれば、ドラマもあり、教養番組もあり、ワイドショーもある。しかし、今提示されているインターネットのチャンネルの多くは、「チャンネル」ではなく「番組」なのだ。つまり、単独の興味の範囲しか扱っていない。一日中PC Watchだけを見続けていたら飽きてしまうだろう。だからといって、星の数ほどあるURLの中から適切なコンテンツを組み合わせならが見るには多大な努力が必要だし、突然飛び込んでくるニュースをタイミングよく見てまわるのも至難のわざだ。
つまり、適切な情報のミックス具合と、即時性を生かした情報提供。これが一つのチャンネルでできればプッシュ型の意味があると思う。PointCastを見たときの興奮はそこに理由があったのだ。もちろん、チャンネルは1つになるわけではない。サラリーマン用のチャンネルと主婦用のチャンネルは違うだろうし、年齢によっても変わってくるだろう。スポーツよりも歌番組という人もいれば、プロ野球の結果が流れなければ意味がないという人もいるだろう。
基本的にプッシュ技術とは、情報はほしいが「ネットサーフ」という努力をしたくないという怠け者のための技術である。その怠け者が数百のチャンネルから自分に必要なチャンネルを選ぶ努力をするとは思えない。たとえしたとしても、それを適切に切り替えながら運用することはさらに難しいはずだ。ぜひ怠け者のためのチャンネルが増えて欲しいと思う。もちろん私たちも、ぜひそうしたチャンネルを作りたいと思う。なにしろ、私自身がほとんどネットサーフしない怠け者なのだから。
[編集長 山下:ken@impress.co.jp]