|
神戸の事件があらわにしたこと(その1) (97/08/15)
神戸小学生殺人事件に関して当面報道しないという立場を表明して一ヶ月がたった。一時の興奮状態はさめ、ワイドショーなどの報道を見ても、現在では話題の中心はその後続けて起こった殺人事件に取って代わられている。しかし、あの事件をきっかけにして起こったインターネットに関わる議論は、いくつかの本質的な問題を露呈させたのではないかと考えている。
そこで、「今さら」というご意見もあるとは思うが、あの事件が提起した問題に対して、このコラムで数回に分けてコメントしたいと思う。もちろん、これはあくまでも私の見解であり「絶対的に正しい」ことではない。おそらく、あの件を通じて提起された問題は最終的に各インターネットユーザー自身が考えて結論を出すべきことだと考える。各人の考えをまとめる手助けになれば幸いである。
結局、あの事件と容疑者逮捕の直後にインターネットで何が起こったのか?これをまず検証する必要がある。私が確認したインターネットに掲示された問題となるような情報は次のようなものである。
これらは、1)、2)に関しては匿名記入が可能な掲示板を通じて交換されたようである。私はこれらの「ミラー」と称する掲示板を見たが、それがオリジナルのままであるかどうかは分からない。3)に関してはいくつかのサイトで目にしたが、一件だけカラーの画像を除くとどれも白黒の「フォーカス」誌の写真をそのまま掲載したもののようであった。
そしてこれらの情報がインターネット上に存在することをマスコミが扱うにつれて、いくつかのプロバイダーでホームページ閉鎖もしくは内容の変更をユーザーに強制もしくはお願いしたということも問題となった。
私が調査を開始した時点では既にいくつかのサイトでホームページが閉じられた後であった。しかし、その後もホームページの閉鎖は続き、私が調査している段階でも日米のいくつかのページが閉鎖された。米国で無料でホームページを貸しているサイトでのホームページもあったが、それらも順次閉鎖された。
しかし、データのコピーは容易なので閉鎖されたページも、次々とミラーされていった。上記の米国のサイトでも、一つのページが閉鎖されると次は別のディレクトリにミラーが開設されるという状態で、まさにいたちごっこであった。
また、これらのページでの主張の鉾先は、途中からプロバイダーの自主規制にも向けられた。さらに、その自主規制のきっかけとなった新聞社の取材活動も問題とされた。
こう書いてしまえば、実は「よくある話」と思う人もいるだろう。ホームページや掲示板を隈なく探せば、他人のプライバシーを公開している人やソフトウェアのシリアル番号を公開しているページ(これを入手すれば不法にソフトウェアを利用できる)を発見できる。今回問題になった情報は、たまたま全国的に注目されている事件の情報だったから大きく問題になっただけで、特殊なケースではない。また、プロバイダーの横暴を批判するページやマスコミ批判のページもよく見かける。
しかし、だからと言って「よくある話」でこの事件へのコメントをすますつもりはない。よくある話だからこそ、実は神戸の事件に依存しない本質的な問題点があると言える。この本質的な問題点と神戸の事件の話がいっしょになって議論されるため、この議論は発散することが多い。そこで、このコラムでは、神戸の事件固有の話(少年法の問題等)については扱わないことにして、基本的に次の3つのポイントに関して来週からコメントしたい。
なお、3週で終わる予定だが、場合によっては間に別の話題が入ることもあるので、ご了承頂きたい。
[編集長 山下:ken@impress.co.jp]