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地域ドメインと個人ドメイン (97/08/22)
JPNICから、CO.JPに該当しない法人への新しい第二レベルドメイン(LE.JPやAS.JPが候補に上がっている)の新設が提案され、DOMAIN-TALKメーリングリストなどでは活発な議論が行なわれている。この新設ドメインには、従来AC.JPやOR.JPに収容されていた組織のうち、法人格を持つものが収容される予定である。
私は、ドメインを新設すること自身には賛成であるが、その新設ドメインの性格は広くだれでも理解できるものでなければならないと考えている。残念ながら、今回の提案された第二レベルドメインは、現在の説明文では特にAC.JPと新ドメインの使い分けがわかりにくいし、OR.JPの中でも区別がつきにくい。是非とも今回集まった意見を反映させ、より明確な定義付けがされることを望みたい。
さて、今回のコラムで直接取り上げるのは、この新ドメインのことではない。こうしたドメイン議論が起こると必ず出てくる、地域ドメインの話である。地域ドメインというのは、ある意味、知る人ぞ知るというドメインだ。JPの下にある第二レベルドメインはというと、GO/AD/AC/OR/NE/COだけだと思ったら大間違い。実際にはKANAGAWA.JPとかTOKYO.JPとかの<都道府県名>.JPが存在するのだ。ドメインと住所を一致させ、個人や地方行政団体、県立、私立の学校などを収容しているドメインが「地域ドメイン」である。
もっと身近な話をすると、もしあなたがOCNで自宅に専用線を引き、独自にドメインを取得するとする。この場合、通常日本ではこの地域ドメインが割り当てられることになる。つまり、KEN@XXX.CHIYODA.TOKYO.JPというようなドメイン名になるのだ。しかし、残念ながらこの地域ドメインの認知度は他のドメインルールに比べて低いと言わざるを得ない。
JPNICの現在の方針は、個人のドメインはこの地域ドメインに収容する方針である。しかし、地域ドメインをネガティブにとらえる人も多い。こういう人たちは、3つの方法を取ることになる。1つは、独自ドメインをあきらめ、どこかのサブドメインになる。もう一つは、米国のInterNICに申請して、COMやORGドメインを取得する。そして、最後は先日問題となった方法で、団体を起こしてOR.JPドメインを取得するという方法である。ちなみに最近は米国以外(たとえばトンガなど)の管理団体に申請してそちらで独自ドメインを取るという荒業をやる人もいるらしい。
私も、この地域ドメインには構造的な無理があると考える一人である。
もちろん、地域ドメインは現実社会のネーミングルールに近い、分かりやすいルールであり、その努力に関しては敬意を払いたい。しかし、だからこそ現実社会の問題点をそのまま引きずってしまった面がある。
まず、この地域ドメインは住所はたびたび変化しないという前提でなりたっている。しかし現実には、引越しを頻繁に行なう人は多い。この引越しに伴う住所変更は、いつも悩みの種である。銀行、クレジットカード、保険からちょっとしたお店のメンバーズカードまで、もし以前の住所と同じ状態を維持しようと思うと、莫大な個所の変更を求められることになる。
これは恐らく地域ドメインでも同様のことが起きるだろう。もちろん技術的には、一時的に両方のドメインを使えるようにしたり、メールアドレスを同一にすることは可能だろうが、新しいドメイン名を連絡して回らなければいけないことは同じだ。そして、新しいドメイン名が定着したころにはまた引越し、ということになりかねない。
一方、10年とか20年ぶりとかに引っ越す人も問題だ。冗談ではなく、システムのメンテナンス方法を忘れてしまうことだってあるだろう。しかも、エンジニアを呼ぼうにも、システムの会社がつぶれていたり、だれもノウハウを保存している人がいなかったりすることも考えられる。先ほどのメールアドレスの問題もさらに重大で、10年も同じメールアドレスなら、だれもが恒久的なアドレスと思うはずで、変更を告知するのもより難しくなるだろう。
結局上記のような問題を嫌って、引っ越したにも関わらず古い地域ドメインを使い続ける人が出るようになるだろう。また、他にも問題がある。都道府県やその下のレベルの住所が分かることで、プライバシーの公開を余儀なくされるという点である。昨今はネットストーカーなるものまで存在しているらしい。電子メールを送るだけで住所まで公開してしまうようなシステムが適切かという問題もある。
結局、こうした問題は、ドメイン名を住所と思うか名前と思うかということに集約できると思う。CO.JPやOR.JPのドメイン名は明らかに「名前」と言える。商標として有効かどうかは別として、ユーザーには、そのドメイン組織に対するシンボル名として扱われる。その組織がどこに引っ越そうと、何人になろうと、有限会社か株式会社かを問わず、そのシンボル名は存在しうる。一方、地域ドメインは明らかに住所である。そのアドレスは土地と密着しており、土地の上にいる人間のシンボルではない。しかし、実際にはその人間がドメイン名を利用しているのであり、そのためこのような問題が起きるのだ。
そう、ドメイン名は明らかにその組織や人をシンボライズしたもので土地をシンボライズしたものではない。確かに、地方自治体など地域に密着した組織は存在する。それらは、引っ越すこともないし、そもそも地域の再編が行なわれればその組織自体も再編されるだろう。しかし、そうした例外を除けばやはり、ドメイン名は住所ではない。ここに、地域ドメインに個人を収容するという方針の無理が及んでいるような気がする。
OCNやその他の安価な専用線サービスの提供とともにこうした矛盾はより大きくなると予想される。だからといって、こうした問題を回避するために、擬似的に組織を設立し、OR.JPを取得するというのもイレギュラーな方法だ。個人をシンボライズし、地域に依存しないドメイン名の確立。いろいろな物をすっきりさせるために、こうしたドメインが近い将来新設されることを期待したい。
[編集長 山下:ken@impress.co.jp]