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OSとブラウザーの統合は必要なのか? (97/10/29)
先週はついに時間切れでギブアップ。今週は、月曜に休暇を頂いたので、水曜日ではあるが、「火曜コラム」をお届けする。
さて、先週から今週にかけての最大のニュースは、米国司法省がMicrosoftを訴えた件であろう。米国のみならず、EUや日本でも同様の動きがあり、向かうところ敵なしで一人勝ちであったMicrosoftの状況は一転した。特に、問題とされたのがOSとブラウザーのバンドルという、Microsoftの将来の戦略に直結する部分であり、Windows 98の出荷も遅れるのではないかとの憶測も流れた。
実際のところ、私は「法律的に」どちらの主張が正しいのか判断することはできない。残念ながら私には英文を法律的な解釈も含めて読み取れるほどの能力はないし、具体的にどの条文が関係するのも分からないからだ。ただ、何でもOSに統合していったMicrosoftの戦略が、公正な競争という観点において問題視されているところまで進んでいたのは事実だろう。
OSとブラウザーの統合は、インターネットの爆発的な普及とともに「必然」といった雰囲気で捕らえられていた。古くは、プラグインやJavaがブラウザーに導入されたときにも「ブラウザーがOSとなる」といったキャッチフレーズが使われた。
しかし、実際に製品として出てきたInternet Explorer 4.0を使ってみて、「なんて余計なことをしてくれたのだ」と感じたのは私だけだろうか? ディレクトリ(本当はWindows 95ではフォルダというが)の表示に必要以上の時間が掛かる。さらに、ウィンドウを閉じてデスクトップを表示するのにも時間が掛かる。昨日まで軽快であったWindows 95は、突然重たいOSになってしまった。しかも、Internet Explorerの不安定具合はOSのシェルの部分にも入り込んでくる。にも関わらず、OSとブラウザーが統合されていて便利だったと感じる瞬間が少ない。IE 4.0は、Dynamic HTMLやActive Channelなどブラウザーとして進化している部分もあり、それなりに価値はあるのだが、OSの統合に関してはどうも存在意義が薄い。
また、ブラウザーとOSの操作の統一感をねらった、アイコンのシングルクリックで開く操作方法は、結局標準インストールの設定からは外されてしまい、OSとブラウザーを統合しても操作は統一されない。この部分は、Microsoftでも大いに迷ったらしくβ版の段階ではシングルクリックであったのが結局ダブルクリックがデフォルトになって落ち着いた。Microsoftは従来、「ダブルクリックは難しい。シングルクリックだけで何でも操作できるようにする」と主張していた。だが、私は懐疑的だった。デスクトップのファイルを複数選択してごみ箱に捨てるはずが、シングルクリックになって10も20もウィンドウを開いた経験があるのは、私だけではないはずだ。
結局のところ、私はIE 4.0をアンインストールし、そのままにしている。そろそろ、IE 4.0だけでもインストールすべきだと考えているのだが、IE 3.02やNetscapeNavigatorで特に不自由しないため、忙しさにかまけてまだやっていない。
今回の司法省対Microsoftの結末がどうなるにしろ、OSとブラウザーを統合するという方針は見直した方が良いように思う。Java、Java OS、NCという流れの中で、ブラウザーだけで何でもできるのが「将来の形」のように語られた時期があったが、ブラウザーだけで何でもできなければいけない理由はほとんどない。そもそもHTMLはパフォーマンスよりも記述のしやすさや移植性の良さを優先して作られたものである。システムのプレゼンテーションレイヤーを受け持てるほど記述性が高いわけではない。IE 4.0を組込んだWindows 95にはどこか無理をしている感じを受ける。結局ActiveXやDynamic HTMLなどのIE 4.0に依存する機能を使わなければ満足なデスクトップにできないのであれば、何もブラウザーを仲介させる必要はない。直接プログラムで書けばいいのだ(それを通常はシェルというのだが…)。
司法省が訴えても、Microsoftがパソコン業界最大のOSベンダーであることには変わりはない。OS屋はOS屋としての責務があるのではと思う。シェルに、OSとのインターフェイスという本来の機能とHTMLの解釈という二つの機能を組み合わせて、複雑にするぐらいなら、まずは「強力で安定したOS環境」を提供すべきである。現状のWindows 95のインターフェイスも、残念ながらとても「強力で安定した環境である」とは言えない。未完のシェルに、未完のブラウザーを組み合わせたのがWindows 98というのでは笑うに笑えない。
IE 4.0のデフォルトをシングルクリックからダブルクリックに変更したように、「公約」をすぐに忘れて変更するのは、Microsoftの良いところでもある。是非とも、OSとの統合という方針も変更してもらいたい。そして、安定して使いやすいシェルをもう一度考えてもらいたい。まだまだ、OSは進化の余地を残しているはずだ。そこに是非力を注いでもらいたい。
[編集長 山下:ken@impress.co.jp]